見つけた








起きたら、車の中だった。





「!?」
がばっと起き上がると、あたしは後部座席に居て、運転席には親友が鼻歌を歌って車を走らせていた。
「・・・・・・ぇ?」
状態がまるで飲み込めずぼそりと声を出すと、彼女が振り返る。
「あ、やっと起きた。」
「なにこれ・・・なんで車の中・・」
少し頭を動かすだけでズキズキする。
「あーアンタ、昨日酔いすぎよ。全然覚えてないでしょ?」



どうやらあたしは。
昨日友達の家に遊びに行って酒を呑み始め、かなりの量を呑んでいきなり爆睡したらしい。
起きそうにないからそのままあたしを自分の家に泊めたらしい。



そこまでは理解できる。でも何で車の中?



「それすら覚えてないの?今日付き合って欲しい所があるって昨日言ったじゃない!!」
そういいながらカーステレオをオンにする彼女。
「それは覚えてるけど、どこ行くわけ??」
だってここは高速道路の上。それもかなりあたし達の地元とは離れている。
「あたしの好きなバンドのライブ!!」



そう親友が言った途端、車内にギターの音が鳴り始める。あたしはやっと状況が理解できた。



彼女が数年前からあるバンドにハマっていることは知っている。
・・・というか耳にタコが出来るくらい聞かされた。
曲、そして曲の成り立ち、メンバーからメンバーの性格、生い立ち、バンドの成り立ち。
どれも聞き流してあんまり覚えてないけど、彼女の熱く語る興奮気味な顔がきっと「すごいバンドなんだろう」いうことは分かった。
ライブに一緒に行こうと何度も言われ続けたけど、興味の無いあたしは適当な理由をつけて断ってきた。



でも、だからって、これは強行突破すぎないか・・・・?





「ねぇ、機嫌直してよ、ねっ?飲み物買ってくるから!!」
不機嫌なあたしの顔を見て焦ったのか、最寄のパーキングに止めて親友は車を出て行った。
エンジンをかけた車内からは相変わらずそのバンドの曲が流れている。
逃げ出したい気持ちになって、あたしも車を出た。



車のボンネットに寄りかかって、煙草に火をつけた。
まだ午前中のパーキングエリアは人もまばらで、近くには親友の車と黒いワゴンしか停まってなかった。



「まぁ、気分転換にはいいかもね・・・」



日差しはうららか、風も温かく緩い。あたしは気持ちのいい空気を煙草の煙と一緒に吸い込んで、吐いた。
その時だ。



ドンッ、と肩にぶつかる腕。
そしてかかったジュース。



・・・・・・は?
あたしは再度状況が上手く飲み込めなくて目の前にいる相手を見た。
帽子を深く被ってグラフィックのTシャツの上にグレーのパーカー、少年みたいな瞳。
その男の人の手にはカップ入りのジュース。
その手があたしの肩に見事にぶつかって、あたしのシャツはびしょ濡れだった。
「あっ・・・・。」
男の人はそう言ったまま押し黙ってしまった。
そしてあたしが寄りかかっていた親友の車から流れているBGMにハッとすると、急いで駈けて行こうとした。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉぃ。





その男の肩を掴むとびくっとして振り返った。ぽとりとジュースのコップを落として。



「ジュースを人にぶっかけておいて謝りもせずに逃げるとは何事だコラ!!」



あたしがメンチを切るとその男は心底ビックリした顔でかけていたサングラスをずらして瞳を覗かせた。



「あのさ・・・・俺のこと、知らないの?」



「知るかボケ!自惚れてるんじゃないわよ!!」



何この人!?失礼にも程があるんだけど!!
あたしは胸ぐらを掴んで相手を睨んだ。でもその彼は面白そうな顔。
「だって、その曲・・・・。」



そこで、「何!?どうしたの!?」と2人分のジュースの缶を持って親友がやってきた。



「だってコイツ、ジュースぶっかけといて謝りもしないで・・・」
あたしが胸ぐらを掴んでいる相手を親友が見ると、「きゃあああ!」と缶ジュースを落とした。
訳がわからずあたしが男の手を離すと、



「ホントごめん!!この侘びは後で必ず!!!」



と急いで黒いワゴンの方に駆けていってしまった。
「ちょっ・・・待ちなさいよ!」というあたしの叫び声もむなしく、ワゴン車は走り去った。



「・・・・」
あたしが振り返ると、まだ親友はしゃがんで口に手を当てている。顔が真っ赤だ。
「あの・・・どうしたの?」
あたしが遠慮がちに尋ねると、親友はか細い声で「チャマ・・・」と答えた。
「は?ちゃま?」
「チャマよ!!バンプオブチキンの直井由文!あんた、あたしが雑誌何度も見せてるのにわからなかったの?」



そういえば・・・と思い出してみるけれど、やっぱり顔は思い出せなかった。
だって、興味ないことなんて、そんなもんじゃない?





車に乗って、再び高速を走り出しても、親友は興奮から覚めやらぬみたいだった。
「あぁ〜〜本物よ、すっごいライブより近い!」だの、「やっぱり間近で見ると超可愛い!」だの。
あたしといえば、親友から借りたTシャツに着替えて、ぬるくなったジュースを一口飲んだ。
そのTシャツもその最悪ヤローがいるバンドのツアーTシャツときたもんだ。
はぁ、なんて久々の連休でこんな目に・・・・。



地方の会場に着いても、あたしはテンション上がらず、車の中でぶすっとしていた。
親友はグッツとやらを買って来ると言ってどこかに行ってしまった。



さっきの話を整理すると。



彼は親友が追っかけをしてるバンドのベースの直井由文って奴で。
あたしにジュースをぶっけかけて悪いと思ったものの、車から流れる自分達の曲に気付いて、
そのまま捕まる、と思ってあたしに謝りもせず逃げた、と。



「・・・・考えれば考えるほどムカつく話だわ。」



ついそう声に出して、煙草に火をつける。





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