この本は、十二国記シリーズの一部を成す短編集です。
十二国記シリーズは、中国風ファンタジーというべきものですが、その広大な 世界観とその精密な世界設計には圧倒されました。これだけ広く複雑な世界観 をファンタジーの分野で持つ話は、他にはしりません。今話題のロードオブザ リングの設定を中国に置き換えて、多様な優れたストーリをつけ加えたような 世界です。壮大な構成のみごとさは私がフィクションという意味で仮想世界を 構築した小説の中の最高と思っていた銀河英雄伝説を抜くかもしれません。( まだ終わっていないようなのでわかりませんが。)
実は以前、本シリーズの本を読みかけたことがあるのですが、そのときは入り 口の話で読むのをやめてしまいました。妖魔がでてきた段階でまた妖魔物かと 思ってしまったのです。(昔好んで読んでいたSFやRPGのファンタジーや 伝奇物の多くが妖魔物でさすがに飽きてしまっているのです。)ところが、最 近教育テレビでやっていた同名のアニメをみて思わず引き込まれました。この 小説には、壮大な設定の中にSF物、仙人物、冒険物、軍記物、政治物、人物 物といった多様な側面を持ったストーリが詰めこまれているのです。ですから 、妖魔物の部分はあくまでも一部でしかありません。(もちろん重要な要素に はなっていますが。)そのうえそれらの話しの運びかたがみごとです。
ただ本シリーズは分量が多いので読書が苦手な方には大変かもしれません。特 に、今回の本を読むには、その前に出版された「月の影 影の海」、「風の海 迷宮の岸」「風の万里 黎明の空」の各巻を読んでからの方がいいと思いま すので、読むべき本の分量は相当なものになります。
でも、全体像を知れば知るほどおもしろくなりますので、とりあえず出版順に 完読してみてください。読むのがたいへんな方はDVDのアニメをみてもいい かもしれません。(ちなみに、このアニメはよくできています。普通は、原作 が映像化された作品は、どちらかがよくて、両方良いということは少ないので すが、このアニメはこの小説の雰囲気そのまま映像化してますので、まったく 違和感なく楽しめます。)
今回の本の中では、華胥の幽夢の話しが特に気に入りました。王はどうあるべ きか、政治家の資質とはといったことを考えさせてくれます。ぜひ、この本を 読んで、政治や制度に関心のある人が増えてほしいものです。
歴史に詳しい人には割合知られていることですが、組織は簡単に朽ちます。た とえば、家康は過去の政権の原因を相当研究して、幕府が長続きするようにあ らゆる手を打ちましたが、300年もたった幕末期には親衛隊であるべき旗本 は役にたたなくなっています。今年の大河ドラマで話題になっている新撰組は 、ドラマの通り武士というより百姓の出で、そういった人の方が必死に幕府を 守ろうとしているのです。
ですから、現代の組織には、そのような組織の劣化を防ぐために、数々の制度 が発明されて取り入れられています。
しかしこのことは、一般にはあまり知られていないように思われます。特に組 織の中にいる人は、本能的に猿のころの記憶があるのか、猿の群にないような 制度を排除しようとしてしまうようです。しかし、それらの制度はいずれも少 しでも組織を長続きさせるために取り入れられていますから、排除することに よって、組織による問題がより頻発することになります。たとえば、企業監査 を上辺だけ行っていたために、戦後わずか5、60年で多数の企業で不祥事が 発覚したのは記憶に新しいところです。
企業であれば、失敗すれば倒産して、他の企業と入れ替わるだけですみますが 、国が倒れたら、国民全体が路頭に迷う大惨事になります。
そのため、国の制度には企業以上に数々の発明が取り入れられています。
その中の最高の発明が民主主義です。民主主義国においては、統制を受けるピ ラミッドの底辺の国民が、上部の統制者をチェックするという、環の構造を持 っています。この制度は互いにチェックすることよにより組織の機能を長期間 維持することを意図しています。その点、社会主義国や独裁主義国では、その ような組織維持制度がありませんから、100年のスパンで体制を維持するに は、何か制度上に工夫が必要です。ですが、そのような工夫をしている国は見 あたりませんので、世界平和を考えたときにとても心配です。もっとも、米国 や日本でも政治への関心が薄れていて、民主主義という体制維持の歯止めがは ずれつつありますので、人の心配をしている暇はないようですが。
ですから、普通の人がこのような本を通して政治により関心をもつことにより 民主主義の能力を高めて、少しでも時代を良い時代を維持して欲しいものです 。
あまり気づいている人は少ないようですが、上記のような構造を持っている民 主主義国では私たちは王様の役割を担わされています。ですから、このような シリーズで王様の役割というものを疑似体験して経験を積むことは、民主主義 を守る上で非常に重要です。(もちろん歴史書でもいいのですが、このような 小説の方が読みやすく入りやすいものと考えます。興味を持ったら歴史上の王 様皇帝探険をされることをお勧めします。)
一見贅沢で楽しい生活をしていばることが王様の役割のように思われますが、 そんな生活をすればあっと言う間に国が傾きます。たとえば中小企業の社長が そのようなことでは、企業が成り立ちません。そのような王様(皇帝)は後の 歴史書に、政治を省みず遊び惚けたというような意味のことを書かれてしまい ます。例えば、人気のある三国志演義は時の霊帝が側近(宦官)にいっさいの 権限をまかせて、国が傾くことから物語が始まります。しかし、はたしてがそ れらの王様を私たちはばかにできるでしょうか。政治を省みずとは、重要な決 定をする朝議にでてこないという意味です。
はたして、何人の方が議会に参加したり、傍聴したり、中継放送を聞かれてい るでしょうか。多くの方は選挙のときに行くだけで、あとは政治家の方にまか せたということで、あとは自分の生活に集中しているわけです。これでは、数 年に一回、討議の場にでてくる王様となんら変わりません。へたすると、選挙 も棄権して、いっさいを専門家にまかせっきりという方も多いと思います。王 様と違って自分の生活があるんだと考えておられる方も多いと思いますが、王 様も贅沢な生活をするという欲求に逆らって政務に望むわけですから、政務に 向かうための難しさはどちらも同程度です。(それに最近は古代の王様には考 えられない贅沢を私たちはしています。)
こう考えてみると、政治を省みなかったという王様を非難するのはなかなかむ ずかしいことがわかります。ふつうの人が王様になれば、そうなってしまうの が普通なのです。実際、生涯を通して優れた王様という評価を歴史上得られて いる人は十人もいないのではないでしょうか。
でも、我々は民主主義の国にいるわけですから、すこしでも賢い王様になるよ うに努力しなければなりません。そうしないと国が傾きます。
この本は、王様の役割というのがいかに難しいかを楽しく学ぶことができる本 です。
ぜひ、この本を、実世界にいる王様の一人としてよんで、少しでも政治に関わ る機会を多くして頂ければ幸いです。議員に立候補しなくても、議事録や法案 をホームページで読んだり、PTAや自治会、マンション管理組合や生徒会な どに、積極的に参加するだけでもいいのです。
ちなみに苦役と思って無理に参加することをお勧めします。楽しいことを期待 して参加すると途中で失敗します。歴史的にも、何人もの名君が政治に飽きて 失敗しています。今は多くの人は、面倒だからとそういう活動に参加しません が、政治に関わるということは本来面倒なことなのです。ですから、むしろ生 活するうえでの苦役と考えて無理に参加するぐらいが長続きしていいと思いま す。
では、また来月に。
では、また来月に。
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