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Heaven? 伊賀×黒須(3)  by 伊賀フェチさん



      言い終わると同時に彼は更に唇を押しつけ、
      そして片腕で強く胸を掴んだ。
      
      「ん・・・っ」
      胸元に走る鋭い痛みに一瞬ひるみながらも
      口付けの熱に心は既に溶かされていた。
      
      いつの間にかワンピースのファスナーは腰の位置まで下げられ、
      上腕まで落ちた肩紐があたしの意志に変わってか、
      懸命に体を隠そうとその存在を固持していた。
      
      けれどそれは彼の指先によってあっけなく解かれた。
      ブラのフォックを外され、肩から下げられる。
      今まで隠されてきた双丘が、突然露わにされ、
      急に恥かしさが込み上げる。
      「ぁ・・・や・・・」
      その膨らみを隠そうと、掴まれた腕を振り払おうとした。
      意外にもすんなりと腕を解放してくれたのかと思ったが
      彼はその腕をあたしの腕よりも早く双丘に滑り込ませた。
      「ぁ・・・っ」
      直接胸に感じる彼の指先は熱く、滑らかだった。
      羞恥で赤面したあたしを、まるであざ笑うかのように
      既に固くしこった先端をくすぐるようになぞられる。
      その指先が触れるたびにあたしの背筋が反射的にぴくんと跳ねた。
      「ぁん・・・っ」
      そのまま手のひらで柔らかく揉みしだかれると
      波紋のように感覚が全身へ広がっていく・・・


      「は・・・・ぁ・・・やぁ・・・」
      膝が・・・爪先が小刻みに震えている。
      脚の感覚は麻痺し、思考は掻き乱される。
      
      体勢を保つ意志も力も失いかけ、あたしは折れるように膝を落とした。
      「ぁっ・・・」
      崩れると同時に彼に組み敷かれた。
      
      彼があたしを見つめた。
      彼の細い髪があたしの顔に掛かる。
      彼の瞳にあたしが映る。
      
      被さるように彼がアタシの胸元へ顔を埋めた。
      
      そっと指先と舌先で甘く捏ねる。
      唇で甘く包み、指先で優しくなぞる。
      
      「ふ・・・っあぁ」
      突起をきつく吸い上げられると同時に吐息が漏れ、小さく体が弾む。
      彼の刺激に反応してしまう事への屈辱・・・
      覚悟したつもりでも、恐怖が拭いきれない。
      あたしは下唇をきつく噛んだ。
      
      彼はふくらみを荒々しく掴み、芽を唇で強く摘んだ。
      「ぁっ・・・っく・・・いやぁっ・・・」
      痛みと快楽の入り交じった感情が躰を弾ませる。
      

      そして彼は再び唇を塞ぎ、
      きつく吸い、舌を絡め取り離さない。
      
      口腔内は溶けるほど熱く、
      ねっとりとした感覚はあたしの脳を麻痺させられ、
      幾度も痛みと甘さを伴った刺激をぶつけられる。
      「ぁ・・・むぅっ・・・んんっ」
      塞がれた唇から酸素を求めるようにこぼす吐息を
      彼は楽しむかのように、あたしの躰を愛撫し、
      幾つもの痕をつけていくていく。
      
      彼の大胆さに驚きながらも、あたしの本能は焚き付いていた。
      吐息は徐々に荒ぶり、
      感情は次第に高まっていく・・・
      「ふ・・・ぁっんんっ」
      
      ・・・彼はあたしの躰を丁寧に抱いていた。
      犯すだけなら、凌辱するだけなら
      無理矢理服を引き裂いているだろう。
      唇なんて、肌なんて求めず、ただ本能を叩きつけるだけだろう。
      
      なのに彼はあたしの躰を丁寧に、柔らかく愛撫している。
      そこに愛があるのかどうか、確信は持てなくても、
      その柔らかさに、ほんの少し暖かさを感じ、
      恐怖心を拭われてる事は事実だった。
      
      あたしは、今・・・彼を受け容れてもいいと感じてる・・・


      貪欲で粗暴・・・そして柔らかな愛撫
      こんな彼の姿を初めて感じる。
      
      理性の背面を走る、本能
      
      それを剥き出しにした彼を・・・
      あたしは意外に思いながらも
      実はどこかで興じているのかもしれない。
      
      何かに突き動かさせるように、あたしの肌を迷走する彼を
      愛おしいとすら思えるのだから・・・
      
      無数に散らかした赤い痕跡を拾うように、
      彼は幾度も幾度もあたしの肌に唇を這わせた。
      「ん・・・はぁっ」
      
      熱っぽい刺激は徐々に下腹部へと降りてくる。
      躰の芯が疼くような、微細な愛撫によって、
      肢体を保つ糸がピンと張りつめ、指先や爪先をも硬直させていた。


      「んっ・・・ぁっ」
      
      唇は腿から膝、そして爪先へと移動する。
      ミュールを脱がされ、爪先に熱を感じた。
      彼の唇があたしの指を舐めとり、足の甲を激しく愛撫する。
      「んぁっ・・・・」
      膝が震え、爪先に神経が集中する。
      ぞわぞわと背筋を刺激と熱が、もどかしいほどの速度で走る。
      「ふ・・・ぁぁ・・・」
      脚をばたつかせ、彼の刺激から逃れようとしたが、
      両足首を掴んまれ、間に割って入いられてしまった。
      
      その瞬間、一気に羞恥心が込み上げる。
      「や・・・だめぇ・・・っ」
      脚を固く閉じようと必死に力を込めた。
      
      だが瞬時に足を掴まれ、抵抗も虚しく、
      彼はそのまま脚の間に割り込み、腿に唇を這わせた。
      「んっ・・・ぁあ・・・やっ」
      羞恥心とくすぐったさからか躰をよじらせ必死に逃げようとするものの
      彼はあたしを解放してはくれなかった。


      腿の付け根に舌先を滑らせ、
      何度も往復し、そのまま布越しに秘部の周囲を唇で激しく甘噛みした。
      「っふ・・・ぁっ」
      薄布の内にある本能・・・制御の出来ない躰
      恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆い、脚に再度力を込める。
      
      彼は腕にグッと力を込めてあたしの脚を押さえ続けた。
      
      羞恥・・・
      そして期待・・・
      
      いつからあたしはこんな淫乱な女になってしまったのだろう・・・
      理性とは逆に、躰は欲してる・・・
      
      彼は触れるか触れないかの距離を取りながら唇を這わせ続ける
      彼の吐息から温もりを感じる。
      吐息が触れるだけで、そこは十分に潤っていた・・・
      
      彼にわからなければいい・・・!
      あたしの本能を、感情を、欲望を・・・知られたくない。
      そう願いながら、唇を噛みしめ、待ち望んでいる矛盾。
      それは・・・たまらない屈辱・・・

      
      そして彼はそっと薄布の上から芽を探し当て、唇を這わせた。
      押し出されるようにじわりと蜜が薄布を湿らせる。
      きっと彼も布越しにそれを感じてしまっただろう・・・
      
      唇が再度薄布に触れると鈍く水音が響いた。
      「んぁっ・・・いやぁ・・・」
      それが合図だった。
      彼は弾けるように、貪るように、そこを甘噛みする。
      淫靡な水音と、喘ぎ声が他人の声のように耳に届く・・・
      
      「んん・・・っはぁっ・・・いやぁぁんっ」
      嫌と言ってもやめてくれるはずがないことをあたしは知ってる。
      
      ぐっしょりと濡れた感触が意識を白濁させる。
      
      舌先で輪郭を丁寧になぞる・・・粘着質に舐め上げる・・・
      「ふぁ・・・っくぅ・・・んっ」
      ガクガクと膝が震える・・・
      
      もどかしくて、じれったくて・・・
      濡れて肌にまとわりついた服を脱ぐような・・・
      そんな歯がゆい感覚
      いっそ乱暴に引きちぎって欲しいのに・・・


      「はぁっ・・・はぁっ・・・伊賀く・・・ん」
      せがむような甘い声・・・
      それでも彼はそれを止めない。
      先程よりも距離を縮め、激しく薄布の上から吸い上げられる。
      
      潤んだ芽を、その弾力のある唇と舌先で弄ぶ
      「ぅんっ・・・はぁんっ・・・んぁあっ・・・」
      快楽に身悶えながら、彼の髪を必死に掴んだ。
      
      すがる物が欲しかった・・・そうでもしなければ意識を保てない・・・
      
      「ひぁんっ・・・はあぁんっ・・・ぁ・・・おねがぁい・・・」
      無意識にそんな言葉が飛び出た事に驚きつつも
      それでもこのもどかしい感覚の中から、
      早く連れ出してもらいたい一心で言葉を投げつけた。
      
      その言葉を受け取ったのか・・・
      彼はあたしの躰から顔を上げ、
      眼鏡を外し、シャツを乱雑に脱ぎ捨てた。


      引き締まったしなやかな体躯
      白く滑らかな肌
      汗で濡れた細い髪が、頬に張り付いた艶やかな顔
      
      直視することを恥じてしまう彼の躰・・・
      
      この躰に抱かれるのかと思うと、躰の奧が熱くなった・・・
      
      不意に彼があたしの瞳を覗き込んだ。
      目を反らす間もなかった。
      視線がぶつかる。
      
      許しを請うように、赦しを得るように。
      そんな瞳が彼の中に在った。
      
      言葉はなかった。
      あたしの潤んだ瞳の意味を、彼は察しただろうか・・・
      スローモーションの速度で瞳を閉じる。
      
      彼はそっと唇を合わせてきた。
      そして耳元まで昇ると、
      「・・・止まりませんよ・・・」
      小さくそう囁いた。
      あたしは彼に気づかれないように頷く・・・


      彼は再び、あたしの脚を割って入ってきた。
      そしてぐっしょりと濡れたショーツを一気に剥ぎ取ろうと、手をかけた。
      
      分かってはいても、覚悟が出来ていても
      全てをさらけ出すことへの抵抗・・・
      
      キュッと目を閉じ、唇を噛みしめた。
      
      ショーツを脱がされても、あたしは恥辱を拭い
      毅然とした態度で彼に身をゆだねた。
      そして一糸纏わぬ姿にされたあたしを、
      彼はそっと抱きしめた。
      
      彼はあたしを放すと、そのまま下り膝を押さえ、
      包み隠す物を失った秘所へ向かって、彼は顔を埋めた。
      
      「やっ・・・んっ・・・」
      じわりと溢れる蜜が彼の眼前にある羞恥
      耳がじんと熱くなる・・・
      
      ビクンと反射的に膝に力がこもる。
      「ぁ・・・だめぇ・・・や・・・やっぱり・・・ぁ」
      込み上げる羞恥心をあたしは思わず吐き出してしまった。
      
      「止まらないと言ったはずです・・・」
      彼は冷静にそう呟くと、舌先をほんの少し差し出し、花弁に押し開き
      蜜を絡め取る。
      「ふぁぁっ・・・んんぁっ」
      小さな刺激にさえも繊細に反応し、躰を震わせてしまう。


      まるで蜂蜜を舐め取る子熊のように、
      丹念に、舌を溝に這わせ、溢れる蜜をすくい取られる。
      
      「あっっんっくぅ・・・はぁっん・・・んっ」
      胸の拍動と自身の吐息、そして淫靡な水音が
      煩わしいほど耳にまとわりつく。
      
      羞恥心が徐々に掻き消され、その代わりに
      快楽への欲望が、精神を侵食していく・・・
      
      「ふ・・・ぁあっ・・・」
      微細な舌先からの愛撫と、焦らすような唇の動き・・・
      「は・・・ぁ・・・もぉ・・・」
      もどかしいほどの彼の愛撫に、本能的に腰がしなる。
      あたしは彼の髪をギュッと掴んだ。
      震える躰と、その躰を伝う蜜の感触が脳を麻痺させてる・・・
      そして途切れ途切れに放った言葉。
      
      「ぁ・・・も・・・もぉ・・・じらさ・・・ないでぇっ・・・」
      
      彼はそれでも舌先でそとそっと蜜壷を探り、芽を擽る。
      「ひぁんっんぁっ・・・んっ」
      
      蜜壷はとめどなく溢れ、不規則に痙攣している・・・
      「ぁ・・・お・・・おねがぁぃっ・・・んっ」
      哀願するように甘く強く、彼の背中を引っ掻く。


      それでも彼は蜜壷に舌先を押し入れる。
      あくまでも焦らすように・・・
      
      そっと器用に芽の輪郭を柔らかな舌先がなぞるたびに
      彼の口元、そして鼻先は濡れる。
      「っく・・・ふぅ・・っん」
      唾液なのか・・・蜜なのか・・・混ざり合った生暖かい水溶液が
      腿に触れるたびにまるで躰の繊維の束が解きほぐされ、
      意識がバラバラにほどけていくよう・・・
      「ぁ・・・はぁんっ・・・はぁっ」
      とめどなく溢れる互いの体液を混ぜ合い、一つの海を作る・・・
      
      お願い・・・
      お願いだから・・・
      
      「はぁっ・・・やっ・・・おね・・・がぁい・・・もぉっ・・・」
      あたしは再度、うわずった声で哀願した。
      
      彼は顔をあげ、意地悪そうに小さく微笑んだ。
      「・・・何をです?」
      
      ずるい・・・
      かろうじて残されていた理性とプライドが反応する。
      
      言えない・・・
      けれど・・・
      どうしても、どうしても・・・


      あたしの葛藤を見抜き、
      再び彼はのその水面に鼻先を埋め、唇で小刻みに甘噛みした。
      淫猥な波音をわざと立てる・・・
      「ふぁぁんっ・・・やぁ・・・あっはぁん」
      
      彼はそっと顔を外し、わざと肩をすくませ、あたしの瞳を見つめた。
      
      脚を小刻みに震わせ、途切れ途切れの息づかいの中に
      涙目で訴える。
      彼はそのままあたしの耳元まで登り、囁いた。
      「どうして欲しいのか・・・口で言ってください。」
      
      言葉を・・・?
      
      欲しいモノを『欲しい』と言うことは容易い・・・
      なのに・・・
      
      あたしの覚悟なんてその程度だったの・・・?
      けれど・・・
      
      手のひらで顔を覆い、あたしはかぶりを振った。
      「そんな・・・」
      震えた声でそれを拒んだ。
      女としてのプライドなのか、あたしとしてのプライドなのか、
      必死に「本能」と戦う。


      彼はそんなあたしに荒々しく唇を押しつけ、舌を激しく押し込めた。
      そして指先で胸元から下腹部まで激しく這わせ、そして海まで辿り着かせた。
      ぐっしょりと濡れた水際からそっと中へ潜り込み、
      じらすように輪郭をなぞり、芽の周囲を指先で
      あくまでも優しく凶悪に嬲る。
      「っんっく・・・はあぁっっ・・・んぁっふっっ・・・」
      唇からこぼれる嬌声
      
      「どうして欲しいのか教えてください・・・」
      指先は甘く優しく芽を探しだし、そっとついばんだ。
      「はぁあんっっ・・・ん・・・ぁ・・・も・・・っと」
      濡れた唇が本能的に動く・・・
      
      「何ですか?」耳元で甘く尋ねる。
      焦れったくなるような微細な振動を指先から与え、
      あたしの本能を誘発する。
      
      あたしは誘われるように、乱れた呼吸の中で言葉を放った。
      「んぁあっ・・・も・・・もっと・・・あ・・・あい・・・してぇっ」


      『−もっと愛して』
                                   
      彼はあたしの真っ赤になった耳元へ登り、
      「わかりました・・・」と耳朶を噛むように唇を動かした。
      
      下腹部まで下り、そのまま舌先を潜り込ませ、
      強引に舌先で芽を探る。
      「っ!あぁっはぁあんっ!」
      吸い付くように、舐め取るように、噛むように、味わうように・・・
      痛いくらいに貪られる。
      先程とは違う激しく、電撃のような刺激・・・
      「っふぁっ・・・ぁあっ」
      意識が放散される・・・
      自分が自分でなくなる感覚・・・
      
      「っあぁっっ・・・ぅんっあっくぅ・・・はぁんっいやぁぁん・・・」
      感電したかのように、躰が躍動する。
      
      「ひぁぁんっんんっっく・・・いやぁ・・・いやぁぁんっ」
      
      一つの刺激を幾度も繰り返す。
      ただそれだけなのに・・・
      快楽という名のパルスは
      波紋のように全身に広がっていく。


      腿に触れる髪の柔らかさ
      粘液が混ざり合う音
      舌先から伝わる熱
      混ざり合った体臭
      揺れる影
      
      肉体の浮遊・・・
      思考の停止・・・
      なのに感覚だけが異常に研ぎ澄まされている・・・
      
      いや・・・っ・・・何も考えられないっ・・・
      
      「はぁっ・・・あぁんっ・・・いやぁぁっ」
      抜けるような甲高い嬌声が上がる
      
      「そんなにイヤですか?」
      不意に彼の愛撫が止んだ。
      上り詰めるその手前で、急に躰を宙に投げ出された・・・
      「ぁ・・・やっ・・・」
      突然、現実に引き戻されたような寒さと、空虚・・・
      
      濡れた躰がじんじんする。
      胸は早鐘を打ったまま・・・


     「ち・・・ちが・・・」
      
      お願い・・・放さないで・・・
      欲しい・・・欲しいの・・・
      伊賀君が・・・欲しい・・・
      意識を送り込むように、あたしは潤んだ瞳で彼を甘く睨めた。
      言葉にできない言葉を・・・どうか分かって・・・
      
      あたしの瞳の意味を知りながら、
      敢えて汲み取ろうともせずに彼は言う。
      「違う?・・・何が違うんですか?」
      口元に小さな笑みを湛えてる。
      憎いほどの笑み・・・
      「ぃ・・・や・・・」
      お願い・・・これ以上意地悪しないで・・・
      
      「あなたの口から聞きたい・・・」
      耳元で低く囁く声。
      そしてそっと指先で潤った泉をそっと触れた。
      疼いていた芽に、急に刺激を与えられ、
      あたしは快楽の海に突然突き落とされた。
      「ひぁっ・・・っん」
      蜜を掻き出すように荒々しく指先で捏ねる・・・
      淫靡な水音が脳を、理性を・・・全てを溶かす・・・。
      「ひぁんっ・・・!はあっあっ・・・っんぁっあっっくぅ」


      思考の停止した頭では、やり過ごす言葉など考えられなかった。
      本能を代弁する単語しか、あたしは知らない。
      「ほ・・しぃ・・・伊賀くぅ・・っんっ・・・お・・ねがぁ・・・ぃっぁあっ」
      
      そして彼の愛撫が止んだと感じた瞬間
      白濁した意識の中で、彼の声が微かに届いた。
      
      「僕も・・・あなたが欲しい・・・」
      
      彼が本当にその言葉を放ったのか、
      それともただの幻聴だったのか・・・
      
      そう、彼の口から聞きたかっただけなのかもしれない・・・
      
      けれど、たった一つはっきりとした感覚はあった。
      
      あたしの中に取り込まれる
      あたし以外の熱
      
      あたしの中にあるもうひとつの肉体の存在
      その確かな熱と輪郭・・・
      
      「っふっくぅぅ・・・はぁぁあんっ」
      下腹部が熱い・・・


      躰を押し広げられ、
      彼自身の熱をあたしの中に送り込まれる瞬間
      それは深くあたしの中へ潜り込み
      全身を貫き、そしてあたしの細胞を覚醒させる・・・
      「あぁっ・・・ぁ・・ぁはぁんっ!」
      
      突き落とされた快楽の海は、
      深く、熱く、柔らかかった−
      溺れないようにと必死で彼の背中に爪を立てる。
      
      「声を・・・もっと・・・聞かせて・・・くださ・・いっ」
      耳元で彼が囁く・・・
      あたしの中で最後の理性の箍が外れた・・・
      「・・・ぅぅんっ・・・っはぁぁああんっ」
      嬌声はもう、暗闇へ吸い込まれることなく、
      互いの神経を刺激させるために、互いの肉体へと溶け込む。
      
      もう・・・止めないで・・・
      あたしも・・・止まらない・・・
      
      互いの躰が発熱しあって・・・
      肉体も精神も、高熱に冒されて溶け合い、混じり合う・・・

      深海へ沈む度に、
      躰に更なる電流が駆け抜ける。
      思考回路は真っ白に塗り潰され、
      神経回路は全身を駆けめぐる
      
      「っくぅっんっ・・・はぁっあんっ・・・あぁっ!」
      
      下腹部から脳へ、爪先へ、指先へ
      あなたの温度、匂い、吐息、そして悦楽が伝播する。
      
      「あぁっんっくぅ・・・はぁんっあっああんっっ」
      瞳を力無く開くと、艶やかな彼の姿があった。
      あたしの躰を掴む腕も、
      上下する肩も、
      快楽に歪む表情も、
      全てが、あたしを抱くためだけにある・・・
      それが心地よくて・・・何故か切なくて・・・
      
      「んぁんっ・・ひぁっ・・伊賀く・・・ん・・・伊賀くぅんっ・・・」
      気づけばしきりに名前を呼んでいた
      名前を繰り返すたびに、彼はそれに呼応するかのように深く沈む。
      「ぃ・・・がくぅ・・・んっ・・・ぁあっ・・・
      んぁっおね・・・がい・・・もっとぉ・・・はぁんっ!」


      溢れるように、感情が形となってこぼれていく・・・
      2人の速度は激しく加速し、深く強く繋がった。
      
      あたしの躰が、彼自身に絡みついている感覚。
      もつれるように・・・しがみつくように・・・
      巻き付くように・・・包み込むように・・・
      そして海中へ引きずり込むように・・・
      
      羊水のようにどろりとした、快楽の海へ沈む
      溺れながら、海面を仰ぐと光が射し込んでる・・・
      
      彼の躰が光に溶けて−
      
      「んっんっ・・・あぁぁっはぁっ・・・ひぁんっ!!」
      互いの躰の密着は、意識の開放を呼ぶ。
      
      「あぁんっ・・・いっ・・・すご・・・ぃっ・・んぁあっ!」
      記憶の全てが剥離していく。
      
      意識も躰も・・・このまま消えてしまいそう
      だから・・・
      掴まえていて・・・
      繋がっていて・・・
      ずっと・・・
      もっと・・・
      
      二度と戻れなくていいから・・・
      この海で・・・溺れ死んでもいいから・・・
      
      「あぅんんっ・・・んっく・・・はぁあんっっ!!あぁぁんっ」


      彼は最後にしがみつくようにあたしの中へ深く潜った。
      貫かれるような鋭利な刺激に互いの躰が大きく撓る。
      「はぁんっ・・・あっもぉっ・・・だめぇ・・
      いっ・・・ちゃうっ・・・ああっ」
      同時に彼の唇が合わさった。
      『っっ!っ!!』
      口付けと同時に、声にならない嬌声を互いにこぼしあう・・・
      
      細胞が飛散する−
      欲望が解放される−
      
      白い−
      真っ白い世界−
      
      そして彼は放心したあたしの首元へ腕をまわした。
      彼の居る現実に引き戻される。
      抱きしめられるのかと思って
      あたしは穏やかな瞳で彼を見つめた。


      彼の指先が首筋を撫でる・・・
      ふいに喉元にかかる圧力・・・
      苦しい!呼吸が・・・!?
      殺意!?
      「ぐ・・・やっぱ・・・り・・・犯人は・・・伊賀く・・・」
      **************************
      原稿はそこで終わっていた。
      いや・・・つまづいていた・・・
      
      僕は原稿用紙から目を上げた。
      「なんですか・・・これ・・・」
      冷やかな視線を黒須に送った。
      
      「ミステリーも最近下火だし、『ミステリー+官能小説』で新ジャンルを
      開拓しようかと思ったのよね。で、とりあえず官能的に
      書いてみたんだけど?どう?」
      黒須は自信ありげに僕に感想を求める。
      
      「なんで川合君と僕の名前が出てるんですか・・・」
      声が微かに怒りを秘めていることを黒須は気づいているだろうか。
      
      「何言ってるのよ!?伊賀君、犯人役なのよ!
      大抜擢よ!ありがたく思いなさいよ!」
      黒須は悪びれる様子一つなく、新たな挑戦に目を輝かせている。
      「何を考えてるんですか、あなたは・・・」
      伊賀は言いかけて言葉を押し込んだ。
      何を言っても無駄だと言うことを知っているから。
      
      ま・・・いいか。
      彼女が僕を想像してこの小説を書いたのなら・・・





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