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Heaven? 伊賀×黒須(3)  by 伊賀フェチさん




      「・・・さい!」
      
      意識を呼び戻される不快感・・・
      誰かが呼んでる・・・?
      
      「・・・ください!」
      誰?今・・・すごく・・・気持ちいとこなのに・・・
      邪魔しないで・・・
      
      「・・・起きて・・・起きてください!」
      肩を揺らされ、夢から意識を引き剥がされる。
      
      「・・・んっ・・・なによぉ〜・・・うぅん」
      ぼやけた意識を必死で現実にたぐりよせ、
      眼前の物体に焦点を合わせる・・・
      散らばった画像が徐々に重なる
      そして眼前には・・・
      
      「きゃっ!?」
      伊賀の顔が間近にこちらを覗き込んでいた。
      あまりの接近に、一瞬たじろいでしまう。
      「わっ・・・な・・・伊賀君!?」
      初めて間近で見る・・・
      透き通るようなその白い肌と、色素の抜けたような細い髪。
      ほんの少し胸が高鳴る・・・
      ほんと、これでも九州男児なのかしら?


      あぁそうか・・・ワイン飲んで気持ちよくなって・・・
      そのまま寝ちゃったんだわ・・・
      
      「こんなところで寝られては困ります。」
      伊賀の冷静な態度に、一瞬胸を高鳴らせた自分が悔しくなる。
      「・・・も、もうっ!せっかく気持ちよく寝てたのよ!
      なんで邪魔するのよ!?」
      照れ隠しのように理不尽な台詞を吐き、動悸を怒りにすり替えた。
      「すみません・・・でもご自宅へ帰られたらいかがですか?」
      
      めんどうくさい・・・
      昨日は締め切りだったし、丸めた原稿が山のように散らかったあの部屋に
      戻るかと思うと気が重い。
      乱れた髪を掻き上げながら嘆息をつく。
      
      「・・・みんなは?」
      「もう帰りましたよ。僕ももう帰ります。」
      既に帰り支度を済ませた伊賀は、どうやら私を起こす役目を
      押しつけられたようだった。
      
      「そう・・・あたしここで寝て帰るわ。おやすみ〜。」
      テーブルに突っ伏し、片手をぷらぷらと振る。
      「こんなところで寝たら風邪引きますよ?」
      それでも諦めず説得を続ける伊賀。
      「マンションに帰るの嫌なのよ!散らかってるんだもの!」
      「だからといってこんなところで寝る理由にはなりません・・・」
      まったく融通の利かない男ね!
      
      「・・・伊賀君、掃除得意でしょ?あたしの部屋も掃除してくれない?」
      こう言えばあっさり引き下がると思った。


      「な・・・?何言ってるんですか!?そんな事・・・!?」
      冗談のつもりで言った台詞に、思いのほか本気で捉えたのか、
      冷静さを欠いた伊賀がちらりと見せる、動揺・・・。
                   
      あれ?・・・おもしろ〜い・・・伊賀君ってこういうの弱いのね・・・
      
       「だって今部屋すごい散らかってるんだもん!原稿の山なの!
      あんな部屋で寝られないのよ!」
      いつものように勢いでまくし立てる。
      「何を言ってるんですか!?・・・じ・・・自分の部屋の掃除くらい
      自分でしてください!」
      
      女性の部屋にはいるなんてとんでもないって感じね・・・?
      へぇ意外。
      伊賀君てばこんな事で動揺しちゃって・・・女慣れしてないのかしら?
      暇つぶしに遊んじゃおうかな・・・
      
      体に残ったアルコールが悪知恵を働かせていた。


      「ね?お願い!!じゃなきゃあたしここで寝るわよ!!
      ここで寝て、この間みたいに泥棒と鉢合わせして殺されたらどうするのよ!?
      伊賀君、きっと一生後悔するわよ!
      『あの時彼女を放っておかなかったら、死なずに済んだのに!僕が全て
      いけないんだ!!』って!
      あたし一生伊賀君を恨み続けるわよ〜!?それでもいいの?」
      
      伊賀は慣れたモノだとでも言うように
      「泥棒を退治した人が何を言っているんです。大丈夫です。」
      とにかくここから去りたいのがよくわかる。
      
      「何言ってるのよ!?ミステリ作家が泥棒に殺されたらイイ笑いモンよ!
      スポーツ新聞におもしろ可笑しく書きたてられるのよ!?一生の恥よ!」
      一気に言葉を並べ、畳み込もうとした。
      
      「何よりです・・・だいたい掃除と泥棒に関連性はありません。」
      ちっ・・・可愛げないわね。
      「それともあたしの部屋なんて恥ずかしくて行けない?
      下心がなければ来れるわよね?川合君だったら素直に来るでしょうねぇ?」
      「それとも下心があるわけ?」
      意地悪く言ってみる。
      
      「なっ・・・なんでそんな話になるんですか?
      ありませんよ!そんなモノ!!」
      日頃下世話な話をうまくかわして通るような伊賀は
      ストレートな質問に焦った。
      
      耳まで真っ赤にしちゃって・・・か〜わいい〜
      意外にウブねぇ・・・


      一歩踏みだし伊賀に近づく。
      顔を覗き込む・・・
      「な・・・なんですか?」
      思わず後ずさりする彼。
      
      白熱灯の下でオレンジ色に照らされた滑らかな肌。
      真っ直ぐ伸びた鼻先。
      眼鏡の奧で存在を主張する切れ長の瞳。
      
      ・・・伊賀君ってば意外に・・・綺麗な顔してるじゃない・・・
      
       「伊賀君って彼女とかいるの?」
      そんな言葉が口をついて出た。
      やだ・・・これじゃまるで口説いてるみたいじゃない。
      酔ってる証拠だわ・・・
      
      「・・・!?そんなこと関係ありません・・・」
      ふいと顔を背ける。
      あら、素っ気ない・・・
      「ふ〜ん。いないんでしょ?
      いないならいいじゃない?あたしの部屋に来たって・・・ね!」
      そんな誘いに乗るはずがないことをあたしは承知の上で誘っていた。
      
      「な・・・!?なんでそうなるんですか!?行きませんよっ」
      伊賀君が焦るなんて・・・滅多にお目にかかれる物じゃない物ね。


      「ま、下心がなくたって、密室であたしなんかと2人きりになったら
      伊賀君だって豹変しちゃうわよね。
      うんうん、断るのも無理もないわ・・・」
      くるりと背を向ける。我ながら意地悪な言い方だとは思った。
      
      「・・・豹変なんてしませんよ!」
      ホント・・・焦っちゃって・・・
      
      あたしは身をひるがえし、伊賀の唇を人差し指で触れた。
      「そう?じゃぁいらっしゃいよ!」
      アルコールが入っていなければ出来ない大胆な行為・・・
      
      彼はそれを旨くあしらうのだろうと思っていた。
      振り払って、冷静な言葉でかわして、
      いつものように私の理不尽な言動に呆れて帰るのだろうと踏んでいた。
      
      一瞬の沈黙・・・
      違和感を感じて見上げると
      伊賀と視線がぶつかった。
      
      予想外の展開にあたしは戸惑った。
      
      ・・・え?
      
      視線は細く絡まったまま、互いを動かせなくしていた。
      ど・・・どうしよう・・・
      急に黙るなんて・・・
      
      「や・・・やだ伊賀君!・・・調子狂うじゃないの!」
      かろうじて出た台詞。
      視線を外そうとした瞬間
      勢いよく彼はあたしの手首を掴んで壁に押しつけた。


      「痛っ!!」
      
      瞬時には理解できなかった。
      いぶかしげな顔で彼の瞳を覗く。
      「な・・・何?どうしたのよ?」
      
      質問の答はなかった。
      視線が外された。
      伊賀の顔があたしの顔を通り過ぎ、耳元へ寄せられた。
      
      「・・・?」
      思いもよらぬ伊賀の行動にあたしはまだ理解できなかった。
      「や・・・何?離しなさいって・・・ねぇ?」
      彼はそれでも答えない。
      無言でアタシに寄りかかる。
      「じょ・・・冗談でしょ?」
      
      痛い・・・
      
      「誘ってるんですか・・・?」
      重く低く沈むような声。
      えぐるような鋭利な言葉。
      「!?」
      
      ドクン・・・
      胸が音を立てて警告してる。


      『サソッテルンデスカ』
      繰り言葉のように頭の中で言葉を巡らせる。
      
      『サソウ』
      
      『誘う』?
      
      誘う?
      あたしが・・・彼を・・・?
      
      ちがう・・・
      ちがう・・・
      
      必死で否定を繰り返す。
      
      耳元で言葉が続いた。
      「今、ここには・・・僕とあなたしかいないんですよ。」
      
      照明のほとんどが落とされた
      仄暗いフロアが、さっきよりもずっと暗くなった気がした。
      
      『恐い』
      本能的にそう思った。
      
      彼の言動が解せない事・・・
      いや・・・解したくないことへの混乱と、
      心の奥の、そのずっと奥の本心を見透かされたような、
      恥ずかしさが込み上げる・・・


      「そ、そんなんじゃないわよ・・・」
      息を呑む。
      呼吸を整える。
      
      大丈夫・・・まだ・・・
      冗談で済ませられるはず・・・
      
      「離してよ・・・ね・・・お願いだから。」
      日頃出さないような猫撫で声で、子供をなだめるように・・・
      
      けれど手首を押しつける力は変わらずに強い。
      動けない・・・!?
      
      本気?
      伊賀君・・・?
      
      締め付けられる手首は感覚が麻痺している。
      指先の冷たさに恐怖心が次第に込み上げてくる。
      
      「ちょ・・・ちょっとからかっただけよっ!!悪かったわ!」
      
      その瞬間、これまでよりもずっと強い力で体を押さえつけられた。
      「・・・っ!!」
      逃れられない。
      足がすくんでいるのが分かる。
      逃げ出せないと本能で知っている。


      「・・・からかう?」
      怒りを孕んだ声が耳の奧にのし掛かる。
      
      腕が・・・耳が・・・胸が痛い・・・
      
      誰かに荒々しく捲し立てられたことなんて幾度もあった。
      けれど、そんなモノに恐怖を感じたことなど一度もなかった。
      
      でも、そんなモノとは違う。
      胸の奥まで疼くような・・・痛み。
      
      普段見せない彼の態度は、あたしを混乱させ、
      身動き一つ許してくれない。
      
      「・・・離し−」
      言い終えない内に唇が塞がれた。
      「んっ−」


      何?
      キス!?
      
      あまりにも急な出来事に目を閉じることもなく、
      それを受けることとなった。
      
      「っ!!」
      必死でもがこうにも、押さえつけられた体は抵抗一つできない。
      
      いやっ・・・
      こんなのは・・・
      
      噛むような口付けは鋭く、そして熱い。
      呼吸さえ許されない粗暴な口付け・・・
      「ん・・・く・・・っ」
      苦しさのあまり力を振り絞って体をねじり顔を背けた。
      勢いよく唇が外されると、彼はあたしの体を強く抱きしめた。
      
      あたしは乱れた呼吸を整えるのがやっとたっだ。
      「っはぁっはぁっ・・・・っはぁっ」
      涙目になったあたしは必死で彼の瞳を睨め付けた。
      そんな精一杯の抵抗をかわし、彼はあたしに体を預け、そして囁いた。
      「今更冗談だなんて・・・虫が良すぎるんじゃないですか?」
      
      鼓膜へ海鳴りのように響く言葉
      重く、轟くように・・・
      
      「そんな・・・」
      暗闇の中へ失望の声が吸い込まれる・・・
      助けを求めることなど無意味だった・・・


      苦渋で潤んだ瞳は呼吸が整った今でも乾かない。
      
      そして再び唇を塞がれる。
      きつく、熱く、激しく・・・
      
      「や・・・っ!」
      押しつけられた唇を思わず噛んだ。
      
      「っつ・・・」
      不意打ちのあたしの反撃に彼はひるみつつも、
      両腕はあたしを押さえつけたままだった。
      伊賀の下唇に鮮血がうっすらと滲んでいた。
      
      あたしは彼の瞳をきつく嫌悪を持って睨め付けた。
      
      意外にも彼の瞳は怒りを帯びているわけでも、
      卑劣な感情を抱いているわけでもなかった。
      
      強く哀しげな眼差しが在った。
               
      伊賀の心の中を覗き見てしまった気がした・・・
      凍えそうな瞳−
      あたしよりも、ずっと向こうを見るように
      寂しげで、物憂げな瞳
      
      彼は血で滲んだ唇を拭うことなく執拗に押しつけてきた。
      「・・・んんっ・・・!?」


      ・・・違う!?
      さっきとは違う柔らかいキス。
      荒々しく押しつける唇や
      半ば無理矢理押し込められる舌先に
      あたしは柔らかな温もりを感じていた。
      
      それは切なげで、哀しげな獣のようで・・・
      
      痛いほどの口付けと
      生々しい鉄の味・・・
      
      その味に罪悪なんて感じない・・・
      ただ・・・あの眼差しにあたしは脚を取られていた。
      
      屈辱と、悔恨
      慈愛と、憐憫
      
      交錯する感情。
      
      唇を貪られ、舌先を絡められ、
      それが苦痛なのか快感なのか判別できないまま
      あたしは彼の力に降伏していくしかなかった。

     

   あたしは絶対に
      泣きわめいたりはしない。
      取り乱したりはしない。
      そんな屈辱はいや・・・
      
      凛然として、玉砕する覚悟はいつでも持っている。
      
      唇を外すと彼は私の視線を避け、そっと首筋へ顔を埋めた。
      いつの間にか力を緩められた腕の中に、
      あたしは柔らかく抱きしめられていた。
      
      どうして・・・?
      「伊賀君・・・?」
      答のないまま、彼の腕はそっとあたしの背中へまわる。
      
      確かめるかのように、彼の指先はあたしの背筋をなぞる。
      彼の細い指先は微かに震えているように思えた。
      
      憎悪も恐怖心も、今ここにはなかった。
      
      震えているの?
      何を・・・
      何を背負っているの?
      
      言葉よりも先に体が反応する。
      あたしは無意識に彼の髪に触れ、指先を滑り込ませていた。
      そっと梳いくと、そこから温もりと柔らかさが伝わる・・・
      
      抱かれたままじゃ覗く事の出来ない瞳は
      今、何を見つめているのだろう・・・


      「っ・・・!?」
      突然、髪に絡めていた指先を掴まれた。
      首元から顔を外し、彼はあたしの瞳を強く覗いた。
      
      「・・・慰めてるつもりなんですか?」
      胸を突くような凍てつく声と、氷のような眼差しに、あたしはたじろいだ。
      
      同情なんて欲したつもりはないとでも言わんばかりに
      壁に押しつけられる力は抵抗を決して許してくれない。
      「ちがっ・・・」
      自分の言葉に自信はなかった。
      ・・・そんなつもりじゃなかいなんて、言い切れるだろうか。
      あたしは彼の哀しげな瞳や、物憂げな表情に
      それを感じていたのかもしれない。
      
      「そんな事じゃ・・・癒されない・・・」
      冷たく、深く、低い声があたしの耳元へ届くよりも先に
      彼の唇はあたしの唇を乱暴に塞いだ。
      「んんっ・・・!?」
      自由を奪われたまま受ける口付けは
      呼吸をもまともに許さず、執拗に舌先を手繰り寄せ、
      貪るかのように無秩序に絡みつく。


      「んっ・・・やっ・・・放しっ・・・っ」
      乱雑なキスを拒絶しようと、必死で体を反らそうと力を込める。
      
      体をねじり、顔をそらし、腕に力を込める。
      「っく・・・」
      キスを受けながらも、それから逃れる術を必死に試し、
      けれど力の差は歴然で・・・
      「覚悟・・・できてたのではなかったんですか?」
      
      逃げようと思えば逃げられたはずだ・・・
      彼はその猶予を一瞬与えていたのだ。
      
      けれどあたしは彼を受け入れてもいいと・・・
      慰めるかのように、同情するように、
      彼を受け入れようとしたのだ。
      
      玉砕する覚悟だってあったはずなのに・・・
      
      今更逃げたいなんて・・・
      なんて臆病で、卑怯な・・・
      自分への失望と、受け入れる事への躊躇・・・
      
      答を見つけだせずにいるあたしに彼は再び唇を合わせてきた。

      さっきの粗暴なキスとは真逆の柔らかなキス。
      
      それが余計にあたしを怯えさせる・・・
      これから起こるであろう事態を嫌でも察してしまうから。
      
      『覚悟・・・覚悟・・・』
      呪文のように言葉を反芻させる。
      自分を納得させるために・・・なだめるために・・・
      
      柔らかなキスは、ゆっくり唇をなぞり、
      ぬるま湯のような優しさで舌先を愛撫し続けている。
      
      逃げたいの?
      受け容れたいの?
      
      自分に問いながら、
      あたしはその答を出すことすら躊躇している。
      
      答を出すことを先延ばしにして、
      なし崩しに彼を許し、
      『仕方がなかったのだ・・・』と自分を正当化してしまうのだろうか。
      
      「ふ・・・ぁ・・・っ」
      頭では否定しながらも、体は正直だ。
      彼の唇の柔らかさや、舌先の温もりを心地よいと感じているのだから・・・
      それを知ってか知らずか、彼は幾度も唇を甘噛みし、
      舌先を味わうように優しく舐める。


      「ん・・・・はぁ・・・っぁ」
      意に反して洩れていく吐息に恥辱を感じながらも
      それでも止めることはできない・・・
      
      ああ・・・もう・・・陥るしかない
      あたしはいつの間に、こんな弱い女になったのだろう・・・
      
      受け容れよう・・・
      そう・・・自分で決めた・・・
      
      覚悟を決め、キュッと瞳を閉じた。
      なすがままに彼の温もりを受け容れた。
      「ん・・・・く・・・っ」
      
      
      徐々に激しく加速する口付けは熱を増し、
      吐息と衣擦れの音だけが淫猥に鼓膜を叩き、
      それに触発されるようにあたしの舌先はいつの間にか
      彼のリズムに合わせ絡み合っていた。
      
      それを彼は感じ取ったのだろう。
      腕に込められた力は緩められ、彼の手のひらはあたしの頬をそっと包んだ。
      唇を外され、彼はあたしの瞳を伺うように覗いた。
      そして小さく微笑んだように見えた。
      「もう、逃げられませんよ・・・」
      瞳には、小さな炎が見えた・・・



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