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Heaven? 伊賀×黒須(2)-2 by 伊賀フェチさん


      永い口づけを交わし唇を外すと一筋の糸が引く・・・
      伊賀はそのまま首筋に潜り込み、撫でるように舌を這わせる。
      
      鼻先をくすぐる彼女の香り・・・いつもの香水と体臭とが
      入り混じったような甘い香り・・・
      味覚と、そして嗅覚と・・・全てで彼女を感じている。
      そして・・・僕の全てを彼女に感じて欲しい・・・
      
      首筋から耳元を愛撫し、赤い道筋を付けながら、
      指先は柔らかな彼女の双丘に触れる。
      決して大きいとは言えないその双丘をゆっくりと
      揉みしだくと、布越しに突起を感じる。
      耳朶を甘噛みしながら、そっと固くしこった芽を指先でなぞる・・・
      「はぁっ・・・ん・・・」
      黒須の指先に力が入り、伊賀の背中を締め付ける。
      けれど・・・その指先の力が伊賀を後押しする。
      
      舌先を耳の中へ滑り込ませ、溝を愛撫する。
      「ん・・・あぁ・・・」
      黒須の指先が背中に食い込む・・・・それでも伊賀は止めない。
      全ての感覚で感じて欲しいから・・・


      「ぁ・・・はぁっ・・・」しなる背中を抱きしめ、
      胸元のボタンに手をかける・・・
      一つ目のボタンを外したところで、
      黒須が固く瞳を閉じているのに気が付いた。
      ボタンにかけた手が止まる・・・
      
      躊躇いと戸惑い・・・けれど感情の波は止まらない・・・
      
      黒須の瞳が薄く開く・・・小さく微笑むと、伊賀の背中から腕を外した。
      黒須はその手を伊賀の首元に伸ばすと、タイを外し、
      そのまま胸元に手をかけた・・・
      ベストのボタンを外すそのたどたどしい動き・・・
      伊賀は照れながらもその行為に勇気づけられる・・・
      
      黒須の胸元のボタンを再び外すと、白い肌が露わになる。
      手のひらを鎖骨に這わせ、肩までブラウスを広げる。
      陶器のように滑らかな肌、首筋から肩までの曲線、
      喉元から流れる鎖骨のライン・・・
      
      綺麗だ・・・強さの中に秘められた繊細さ・・・
      
      いつの間にか、伊賀のベストもシャツのボタンも外されていた。
      黒須はその指先で不器用に伊賀の肩からベストとシャツを
      脱がそうと必死だ。
      伊賀はそんな賢明な彼女を見るのが好きだった・・・


      背中に手を回し、ブラのホックを外すと、
      ブラウスと一緒に腕からそれらを外す。
      
      冷静な自分はもうどこかへ消えてしまった。
      欲望だけじゃない・・・愛情も・・・僕を後押ししている・・・
      
      首筋に指先をなぞらえる、そのまま鎖骨のラインに沿い、
      そして小振りな双丘の一つを包む。
      唇で、もう片方に口付けをする。
      指先でその固くしこった芽を摘むと黒須の肢体が弾む。
      そして舌先で丁寧に片方の芽も摘む・・・
      輪郭を丁寧になぞり、そっと吸うと黒須の躰は更に弾む。
      「ふ・・・ぁっ!」黒須の甘い吐息が耳元をくすぐる。
      それは伊賀の鼓膜を叩き、全細胞に呼びかけ、そして覚醒させる・・・
      
      黒須の腕は必死に伊賀の背中に絡みつく・・・
      背中から指先の温もりが伝わる・・・
      舌先で転がす・・・唇で甘噛みする・・・
      そしてまた輪郭をなぞり吸い取るように・・・
      花と戯れる蝶のようにそっとそっと優しく味わう・・・
      「ぁあっ・・・ふ・・・んんっ・・ぁっ」
      鼓膜に届く湿った吐息が徐々にうわずり、
      黒須の胸も、そして伊賀の胸も早鐘を打っているのが分かる。


      胸の鼓動を互いに感じ取りながら二人は視線を絡ませた。
      了解を得るように、互いの気持ちを確認しあうように・・・
      
      そして唇を重ねながら片手でスカートのホックを外した、
      腰を浮かせスルリと脱がせると白い脚線が伸びる。
      ショーツ一枚になった彼女のその白い肢体はとても繊細で、
      いつもの態度に比べて随分華奢な印象を受ける。
      
      再度口付けを交わすと、片方の手で双丘を包み、
      もう片手で腿からそっと足の付け根のラインに指先を滑らせる。
      必死に閉じるその脚の間に指を滑り込ませ、
      ショーツ越しのそこに触れると、既に濡れた温もりを感じる・・・
      ツツと指でなぞると黒須の背中が小さく跳ねる。
      「ぁあっ・・・」
      ショーツ越しに何度も指先でなぞる・・・
      その度に黒須の唇が震え、湿った吐息が洩れる。
      「ふ・・・んんぁっ」固く閉じた脚が小刻みに震え
      力を失いかけている・・・
      ショーツ越しに芽を探し当てると、そこは更に湿り、
      黒須の吐息が加速する。
      「はぁ・・・んんっはぁっあぁっ!」小さな芽を摘み、丁寧に撫で上げる。
      ビクビクと脚を震わせ、無抵抗に与える快楽の波に
      呑まれているようだった・・・
      「はぁっはぁっ・・・」黒須の呼吸は乱れ、皮膚は粟立ち、
      肌には幾つもの水滴が浮かんでいる・・・
      瞳は閉じたまま苦しげな表情がたまらなく愛おしい・・・


      ショーツに手をかけ、スルリと片足から外す・・・
      そしてもう片足から外すと、一糸纏わぬ姿になる・・・
      
      白熱灯の暖かな光が薄く灯るホールの中でも
      そのしなやかな体躯は艶美に白く、眩しく、伊賀の心を潤していた。
      
      伊賀の心には既に羞恥心などという言葉は無かった。
      ただ、目の前の愛すべき人を抱きしめたい、という
      単純で、純粋で、無垢な感情だけが存在していた。
      
      黒須は恥ずかしさからか、脚を再度固く揃え、
      瞳をきつく閉じそれに耐えていた。
      必死に体をよじらせて体を隠そうとするいじらしさ・・・。
      
      体のラインが滑らかな曲線を描く・・・
      伊賀は体を隠そうとする黒須の腕をそっと手前に引き寄せ、
      その細くしなやかな指先を口に含んだ。
      指先が口腔内で踊る・・・
      指先の細やかな神経を刺激するようにゆっくりと丁寧に舌先で舐めるだけで
      黒須は何度も吐息を漏らす。
      「っはぁっぁ・・・」
      残された黒須の片手はかろうじて意志を持ち、
      必死に伊賀のタブリエの紐を解いている。
      固く結んだ紐を解くと、黒いタブリエが黒須の体に掛かる・・・
      
      それで幾分恥ずかしさが紛れたのか、黒須は四肢の力を抜いた。
      伊賀はそれを見逃がさなかった・・・


      力の抜けた脚に再び滑り込んだ。
      「あぁっ・・・」
      黒須の温もりを直に感じる。
      ねっとりとしたその温もりを感じながら、そっと漆黒の茂みを
      掻き分けて芽を探し当てる。
      
      ゆっくりと芽を啄むと、黒須の体は仰け反り、
      それと同時に甘い喘ぎを漏らした。
      「ん・・・あぁっん!はぁんっ」
      芽の周囲をそっと指先で撫で上げる・・・
      甘い蜜がじわりと溢れる、そして蜜によって指先は徐々に滑り、加速する。
      小刻みに芽を擦り上げる、そして円を描くように強く、優しく撫でる度に
      それに呼応するかのように黒須は甘い声を上げる。
      「ふ・・・あぁぁっんん・・っやぁ・・・ん」
      ビクビクと体をよじらせ、唇を震わせる。
      指先はその声に誘われるように溝に沿って蜜壷へ滑り込む・・・
      指先が蜜壷へ辿り着くと黒須は再度体を仰け反らせた。
      「ひぁっ・・んっ」
      蜜壷は甘い蜜で溢れかえり、待ちきれないように脈打っていた・・・
      優しく締め付ける蜜壷から蜜を掻き出し、内壁に沿って奧まで進み、
      ある一点を丁寧に刺激していく・・・
      「っあんっ・・・んくっ・・・!!」
      指で芽と、蜜壷を一気に刺激すると、黒須はかぶりを振り、
      伊賀の背中をギュッと掴んだ・・・
      蜜は更に溢れ、指先は蜜の海に溺れながらも、刺激をやめない・・・
      包み込むような蜜壷は逆に指先をも刺激する・・・
      何度も刺激を繰り返し、息継ぎも忘れて蜜の中を泳ぐ。


      泳ぎ疲れた指先を休め、そこへ鼻先を近づけると
      黒須は「やぁっ・・・」と声を上げた。
      恥ずかしがるように閉じようとする脚を抑え、
      伊賀は内腿に舌先を這わせ、赤い痕跡を残しながら徐々に
      沈んでいった・・・
      
      漆黒の茂みを掻き分け、そっと突起した芽に舌先を這わせる。
      柔らかな舌先で芽を押さえ、舐め上げる。
      「ひぁんん・・・ぁんはぁっ・・・んっ」
      蜜が溢れる・・・甘く刺激のある蜜を丹念に舐め取り、更に舌先で
      円を描き、縦に、横にと舌を遊ばせると、
      蜜は更に溢れ、小刻みに痙攣する・・・
      
      「やぁ・・・っん・・んっく・・・」苦しそうに濡れた吐息を
      漏らしながら伊賀の背中を掴む指先は更に力が入る。
      その力に後押しされるように、伊賀の与える刺激は速度を上げていく。
      
      黒須の指先は伊賀の背中を滑り、髪に触れる・・・
      溢れる蜜が内腿を伝う感触と、伊賀の汗ばんだ柔らかな髪の感触が
      黒須をの躰と心を更にかき乱していた。
      
      伊賀は丹念に吸い上げ、優しくそして強く芽を擦り上げると
      黒須の声が甘く上擦った。
      「んんぁっ・・・だめぇっ・・・やぁん・・・あっ・・ああっ!」
      体が弓なりにしなると同時に、しなやかな脚に力がこもる。
      黒須は伊賀の頭をグッと押さえ、動きを止める。
      「はぁっ・・はぁっ・・・だめぇもぅっ・・・」


      黒須の唇から荒く濡れた吐息がこぼれている・・・
      肌にうっすらと汗の水滴が浮かんでいる。
      
      伊賀はそこを解放すると、そのまま内腿、膝、爪先にと唇を這わせる。
      「・・・ぁんっ」つま先に舌先を這わせるだけで、吐息を漏らす。
      黒須の全身を駆けめぐる神経が細やかに反応している。
      伊賀が焦らすように、ゆっくりとそのまま脚線を愛撫すると、
      小刻みに黒須に脚が痙攣している・・・
      黒須の指先が伊賀の髪に触れる・・・
      促されるように体を滑らせるように登る・・・
      再度口付けを交わすと、切なげに潤んだ瞳で黒須が
      伊賀の背中にすがりつく・・・
      伊賀の指先はただ、黒須の腿を這うだけ・・・
      「ふ・・・ぁあ・・伊賀く・・・ん・・・」
      今にも溶けそうに潤んだ瞳が切なげにせがんでいる・・・
      
      「何ですか・・・?」
      瞼に唇を押しつけながら焦らすように伊賀は訊ねた。
      黒須の指先が伊賀の背中を甘く引っ掻く・・・
      「やぁ・・・い・・・がくん・・・もう・・・っ」
      言葉尻を聞かないうちに唇を塞ぐと、
      伊賀は全てを脱ぎ去った・・・纏う物全てと・・・精神も・・・
      黒須の体にかろうじて掛かっているタブリエを外し、
      二人はまっさらな生まれたままの姿を見つめ合った・・・
      
      白い肌、引き締まった体躯・・・
      それが今自分の目の前にある驚きと喜び・・・


      そしてどちらともなくきつく強く抱きしめ合った。
      互いの汗ばんだ素肌が逆に密着度を増し、心地よくさえ感じる。
      虚ろな瞳で必死にせがむ黒須の秘部を再度指先でなぞると
      蜜が更に溢れかえっていた。
      「ひぁっ・・・あんっ・・・だめぇ・・・お願いっ・・・」
      
      伊賀は待ち受ける黒須のそこにそっと自身をあてがった。
      ゆっくりと・・・蜜壷へ滑り込む・・・
      「ふぁ・・・んんっあぁっ・・・」
      黒須の躰は伊賀を受け入れ、大きく弾む。
      黒須の蜜壷は産湯のように優しく伊賀を包み込む。
      絡みつくように、しがみつくように、吸い付くように・・・
      繋がりあう肉体と精神・・・
      深く、浅く・・・飽くことなく往復する躰・・・
      「はぁっ・・・んくっ・・・」
      伊賀が黒須の躰を貫く度に、黒須は苦しげに、
      甘く濡れた喘ぎをこぼす・・・
      巻き付くようにヌルリと絡みつく感触が刺激に変わり、
      神経を光速で駆け抜ける・・・
      
      繋がる感覚・・・躰が一つになる悦び・・・
      徐々に二人は加速する。
      
      「あぁっ・・・んんぁ・・・ふぁあ・・っ」
      黒須はビクビクと躰を震わせ、伊賀の汗ばんだ背中に必死に抱きつく。
      黒須の切なげな、悩ましげな表情が愛おしくて堪らない・・・
      
      自身を包み込む蜜壷は熱を持つ。
      情熱と、発熱とが一緒くたになって波のように二人を襲っていた。


      幾度も黒須の白い肌に沈み、そして浮上する。
      「はぁんっ・・んんっ・・・ぁあっ」黒須の躰が官能にしなるたびに、
      その快楽は伊賀に伝染し、伊賀も快楽に溺れる。
      そして再び黒須へ伝染するようにと、
      互いに快楽の病を感染させあっていた。
      
      白濁する意識の中を彷徨う・・・白光・・・眩しい・・・
      それは黒須の肌の白さか・・・それとも幻か・・・
      
      自身を包む広大な海は、密度と粘度を持って、
      様々なやり方で絡みついてはほぐれ、そしてせめぎ合う・・・
      溺れていく・・・溺れていく・・・ずっと、もっと、深く・・・
      
      伊賀の額を伝う汗をそっと黒須の指先が優しく拭う。
      その指先をそっと絡め取り強く握りしめ唇を合わせる・・・
      
      「はぁっんんぁあっ・・・」黒須の喘ぎと伊賀の吐息が重なる・・・
      互いの濡れた吐息がホールを満たす・・・
      繋がり合った躰で、欲望と愛情の深淵を辿る・・・


      意識が遠のくような、感覚の剥離・・・
      快楽の海で攪拌される細胞・・・
      二人の躰が溶け合って、まるで一つになるかのように・・・
      
      「あ・・・ああっんっんっ・・・」
      黒須が堪らず伊賀の背中に爪を立てた・・・
      細胞を、神経を、精神を、互いに刺激しあい道標を示していくように、
      悦楽へと導き合う・・・
      「ぁっあんっ・・・っく・・・やぁっだめぇ・・・」
      黒須が堪えきれずにうわずった声を上げる・・・
      伊賀も幾度と無く感覚が破裂しそうな衝動に駆られ、
      そしてそれを堪えてきた。
      それでも伊賀は黒須と共に悦楽の道筋を辿ろうと、手を引く・・・
      蜜壷は沸き上がり、そして大きくうねるように伊賀を包み込む。
      
      「やっ・・もうっ・・・い・・・ぁああっっ!」
      黒須の躰が嬌声とともに大きく弓なりに弧を描く、
      と同時に伊賀は堪えてきた全てを解き放った。
      
      「っく・・・ぅ・・・」
      伊賀の躰に一瞬弾けるように躍動した。
      細胞が弾け飛ぶような、解放される悦び・・・
      感覚の飛沫・・・
      
      甘い痺れが細波のように全身に拡がる。
      
      伊賀は繋がったまま、黒須の胸元へ顔を埋め、その余韻の中を
      微睡んでいた。
      黒須の胸が上下に弾み、不規則な呼吸は徐々に緩やかになる・・・
      上気した体は汗を浮かべ、そしてゆっくりと体を冷やす・・・


      黒須の指先が伊賀の髪を撫でる。
      
      こんな時・・・どんな顔をすればいいのか分からない。
      伊賀は顔を埋めたまま、熱が引くのを待っていた。
      
      黒須が伊賀の髪を梳きながら呟いた。
      「もう帰らなきゃ・・・ほら、こんな時間よ。」
      見上げると既に時計は2時半をまわっていた。
      「あ・・・そうですね。明日も仕事がありますし・・・。」
      「さっ帰りましょ!」黒須が伊賀の肩をポンと叩き促す。
      二人は何事もなかったように立ち上がり無言でもそもそと服を着る・・・
      先ほどまで情熱に身を焦がしてきたにもかかわらず、
      急に冷静な会話を交わす二人・・・着替えながら黒須と視線がぶつかり、
      ぷっと吹きだした。
      「変ね。」
      「変ですね。」
      クールすぎるほどの互いの行動が可笑しい。
      けれど何かが取っ払われたような安心感がそこにはあった。
      
      着替えを終えた黒須は原稿を片手に手を振った。
      「じゃね。また明日。」
      伊賀は苦笑いしながらも手を挙げて応える。
      黒須はそのまま店を後にした。


      タブリエとベストを畳みながらロッカールームのドアノブを回すと
      中から声が聞こえる・・・
      誰か居る!?
      そっと覗き込むとそこには携帯電話を片手に話をしている川合がいた。
      「あ〜うん。じゃあね〜。」電話の向こうとの会話をやめた川合が
      伊賀を見つけて言った。
      「あ〜伊賀君おつかれさま。」
      脳天気な川合の表情に伊賀は逆に不安を抱いた。
      「あの・・・川合君。ずっとここに居たの?」
      伊賀は恐る恐る訊ねてみる。
      「うん。帰ろうと思ったら友達から電話来ちゃってさ〜
      伊賀君はまだ仕事だったの?」
      川合の質問に頭が一瞬真っ白になる。
      
      聞こえなかったのか?・・・いや、知らないふりをしてくれてるのか?
      しかし、川合君に限ってそんな気を使うとは考えにくい・・・
      「え・・・あぁ、ちょっとシルバー磨きを・・・」
      伊賀は言い訳を繕い、必死に平静を装う。
      「そっか〜ゴメンね手伝わなくて。じゃぁ僕もう帰るね〜。」
      そういうと川合は部屋を出ていった。
      伊賀は血の気の引く思いで、そこに立ちすくんだ。



      〜翌日〜
      重い気持ちを引きずりながら仕事に出た伊賀は、
      川合と上手く目が合わせられずにいた。
      厨房から「賄いできたよ〜〜〜」とシェフたちの声が届く。
      それと同時に「お腹空いた〜」と気怠そうに、黒須が店に入ってきた。
      黒須とも目を合わせないように伊賀はテーブルセッティングを続けていた。
      
      賄いを食べている最中も、伊賀は終始無言で居た。
      
      今日も川合はいつも通りの態度で仕事をしていた。
      けれど疑念が振り払えない・・・川合君にバレているのか?
      
      食事中のたわいもない会話の中で川合が急に話を伊賀にふってきた。
      「そう言えば伊賀君。昨日遅くまで残ってた時に変な声聞こえたよね?」
      伊賀と黒須は思わず吹き出しそうになった。
      「川合君、昨日残業してたの?」
      黒須が伊賀をちらりと見ながら川合に尋ねた。
      「うん。2時半過ぎまでロッカールームで電話してて〜。」
      「そう・・・」黒須は驚くほど冷静だった。
      「で?そんな夜中に声って?」堤が興味深そうに話を元に戻した。
      「うん。昨日2時くらいかな?女の人の唸り声とか、
      叫び声とか聞こえたよ。」川合が無垢に言う。
      伊賀の全身から血の気が引く。
      「ね?伊賀君も聞こえたよね?」川合が伊賀に振る。
      「い・・・いや、聞こえなかったけど。」必死に言葉を返す伊賀。
      「幻聴じゃないのかね?」山縣が川合に言うと、
      川合は「え〜聞こえたよう。」とささやかな反発をした。


      「もしや・・・」山縣の眼鏡がキラリと光る。
      「もしかして・・・」堤が真剣な眼差しでシェフを見る。
      「おいおい、それって・・・」青ざめながらシェフが伊賀をのぞき込む。
      
      このままではまずい・・・知られてしまう・・・!
      伊賀は心臓が口から飛び出そうなのを必死で堪えていた。
      ・・・チラリと黒須を横目に見る・・・
      けれど黒須は平静な顔をしている。
      ・・・いいのですか?オーナー・・・ばれても・・・
      全員が顔を見合わせて息をのんだ。
      
      重い沈黙・・・
      今すぐここから逃げ出したい・・・
      
      そして沈黙を真っ先に破ったのは意外にも黒須であった。
      「幽霊なんじゃないの!?だって夜中の二時でしょ?丑三つ時よ?
      それしかないじゃないの!?」
      
      ええ!?そんな無茶苦茶な理屈で皆が納得するわけがないですよ!?
      
      更なる沈黙・・・
      重い空気が時間を埋める・・・


      「や、やっぱりそう思います!?」堤が同調する。
      
      ええ!?信じるんですか!?
      
      「そりゃ墓場に囲まれてればのぅ・・・」山縣が頷く。
      
      そんな!?いくら周りが墓だからって!?
      
      「よしてくれ!幽霊だなんて・・・味が薄くなる!」シェフが青ざめる。
      
      シェ・・・シェフまで!?
      
      「川合君の動物的勘じゃない!?」黒須が川合に話を返す。
      
      オ、オーナー!いくらなんでも当人は騙せないですよ!!
      
      「そっか〜どうりで僕しか聞こえないはずだ〜。」川合が納得する。
      
      川合君!君の霊感(動物的勘)はそんなモノなのか!?
      
      「じゃ、幽霊退治しなくちゃだわ!」黒須が満面の笑みで言う。
      
      「え?」全員が黒須を振り返ると、黒須はすでに席を外し、
      厨房から塩を抱えて戻ってくると、店内に思い切り撒き始めた・・・
      「あぁ・・・オーナー・・・」全員に諦観の笑みが浮かぶ。
      
      そして黒須の撒いた塩は伊賀の肩に降りかかるのであった・・・
      
      〜完〜




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