番茶も出花と言うけれど 八   

 「こっちから差し入れたのは、指だけか?」
 月四朗の菊門を撫で擦り、時に凹ませながら酉次は問
う。屁の臭いは最早消え、うっすら開いた口からは微か
に胡麻油が匂っている。月四朗、自分で弄る時は胡麻油
をこっそりと掠め取っていたらしい。
 「指といってもほんの二節くれぇかな」
 「それじゃあ気は遣れねぇわさ」
 酉次はさてじっくり見聞と顔を近づけ、ついでに色付
き始めた菊門を一舐め。いきなり舐められたんじゃ月四
朗も堪ったもんじゃあない。
 「あ、兄さぁん」
 「情けねぇ声出してんじゃねぇよ。まあ、世間でも滅
多にはしねぇ作法だがな」
 喉の奥と唇の端で笑って、傍らの盆から徳利と筆を取
り寄せる。疾うに用意の丁子油の使い所、と言う訳だ。
 「くすぐったがって又屁ぇこくんじゃねぇぞ」
 「俺らん所為じゃねぇよ」
 と、強がったのは束の間。油を染ませた筆に菊門を撫
でられて声を漏らしそうになっている。声を漏らすまい
と布団の端を噛んではいるが、酉次から見る耳朶は紅を
通り過ぎて紫になりつつある。
 「我慢しないで鳴いてみやがれ」
 わざと乱暴に促すものの、布団の端を噛んでいやいや
をするばかりの月四朗。首を振っている所為で髪が乱れ
て徒な色気を醸し出している。体も熱くなってきている
ので丁子油の薫りも立ち、それが月四朗の中の匂いと混
じってえもいわれぬ気が部屋の中に漂い出した。
 「ここで区切りだ。力、抜け」
 酉次の声がかりに、布団に突っ伏す。一つ目小僧も疲
れたのか今はだらりと垂れ下がり、気を遣る前の空涙を
うっすら浮かべるのみである様だ。
 「そんなに良かったのか?」
 「…凄ぇよ。今までこんなにまでなった事無ぇ」
 「これはまだ序の口だぜ?」
 「兄さんもこんなになったのかい?」
 「風呂焚きの河霧の姐さんが証人だ」
 「はての小母さんが?」
 「俺ぁあの人に仕込んで貰ったからな」
 「へぇ」 
 気持ちがほぐれたのか、ゆっくりとうつ伏せのまま伸
びをする。火照りの名残の汗の匂いが酉次の鼻をくすぐ
った。
 「解しはもうこれで充分だろう。とすると、」
 「型を挿れるのかい?」
 「そのつもりだったが、姐さんが良い物を持って来て
くれたんでな」
 火鉢から取り出したるは、先程用意の人参一揃え。そ
の中から細身のものを一本手に取り、唇についと寄せる。
程好く冷めているのを見て取って月四朗に顎で促す。そ
して再び尻を持ち上げる月四朗。その菊門に人参があて
がわれ、つぷりと差し入れられてゆく。
 「どうだ?」
 「ああ…温いのが入ってくる…」
 「苦しかねぇか?」
 「いや、なんかひり出してそうな、そうでないような
変な感じ」
 「じゃ、大丈夫だな」 
 早くも尻いじりに慣れている弟に苦笑いしつつ、ゆっ
くりと出し入れを始める。 
 「はぁ…ぁん…ふゥ…」
 一声上がるたびに力を取り戻しつつある一つ目小僧。
涙の量も増えている所を見ると、上手く気を遣れそうな
兆しはそこに見えているらしい。
              (2004.9.29)  

                                     

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