番茶も出花と言うけれど 九響くのは月四朗の菊門に人参の出入りする滑った音。 そして二人の息遣い。 匂うのは丁子油と行灯油と二人の汗の混じった匂い。 二人の肌は朱に染まり汗ばんでいた。 差し入れられる人参は徐々に太くなり、そして月四朗 の息遣いはその度少し荒くなる。 「辛ぇか?」 酉次の問いにただ首の動きだけで答え、布団を噛んで 掴んで気を溜めている。 「一度、気を遣っちまいな?楽になるから」 それでもなお、嫌々をする。 「……ま、だ…」 「欲を張る奴だなぁ。誰に似たんだか」 でも其の侭では辛かろう。 だから酉次は月四朗の口を吸う。血の繋がりと言う柵 はあるが、気を紛らわせるにはこう言う手立てしかある まい。 兄分の振る舞いに吃驚していた月四朗ではあったが絡 まる舌に何かが目覚めたか気が紛れたか、身体を反して 酉次をグイと引き寄せ、しがみついて深々と口を吸う。 先程より水気のある音が部屋に響いていた。 「痛ゥ!」 これは月四朗の手が酉次に抓られた故の声。 「がっつくねぃ!」 「俺らん所為じゃねぇよ。手がこう、自然にさ」 流石の酉次、いや鶯姐さんだって初心だ初心だと思っ ていた弟が手管に長けた調子で尻を割って来たら驚きも するだろう。口を吸われた調子も思っていた以上に良か ったのでつい我を見失い夢中になってしまっていたし。 「本当に男になっちまってるんだなぁ」 「なんだよォ」 「つい此間まで餓鬼だ餓鬼だと思ってたし、餓鬼の振 る舞いしか出来なかった奴がねぇ。俺の口を吸って身体 を弄って来るんだもんなぁ」 「兄さんだってその気になってたじゃねぇか」 「その気にさせられたんだよ。お前を磨くのがなんだ か惜しくなってきちまうわ」 憎まれ口を叩いて口を吸い、一つ目小僧を撫でてやる。 項垂れかけた一つ目小僧、再び発奮。 「解しで気を遣っちまう前に、出しちまいな」 「でもよォ…」 「一度気を遣っちまうと、後が持つからむしろ楽だと 思うがな」 「その方が良いのかい?」 「それァお前、その方が菊も蕩けようさ」 「今以上にかァ…良い様な悪い様な」 「手前の菊の味をもうみたくねぇなら止めりゃいいさ」 「でも、なぁ」 「疼くか?」 からかいながら臀を撫でてやる。それだけでも月四朗 の息が上がってくるのが判る。 「ずるいや、兄さん」 「お前より少しばかり長生きしてるし、こっちの水も 味わってるしなぁ」 酉次の口は月四朗の口から頬へ、そして耳へ。そして 項をじんわりと滑ってゆく。俄仕込みではなくて手管に 長けた色の技だ。月四朗が抗える筈もない。 「兄さん…」 「ん?」 「もう」 「遣っちまいな。観ててやるから」 「……ッ…ん…」 布団の上に白いものが散った。 (2005.4.18) 続 |