番茶も出花と言うけれど 七
襖を静々と開けて入ってきた月四朗は、心底恥らって
いる様だった。無理も無い。幾ら心安い兄弟の仲とは言
え、こう言う相談なぞは中々出来たものではない。
ましてや逆縁の穴を開く手伝いをして貰おうと言うの
だ。衆道に些かの縁もなく、娘の味もまだ知らぬ身であ
れば恥らうのが当然だと言えよう。
「男だってのに生娘みたいに恥らってるじゃないかえ
?」
「……だって姐さ」
「姐さんじゃねぇよ」
ついと佇まいを変える鶯。唇の紅を懐紙でぐいと乱暴
に拭き取り、『男』の眼で月四朗を見遣る。
「お前、『女』になりたくて弄ってたんじゃなかろ?」
スパリと一服し、月四朗の股座をねめつける。さすれば
肌襦袢を持ち上げて勃ち上がるまだ皮の剥けきらぬ若筍。
それを隠す素振りをちらと見せはしたものの、観念した
のか開き直ったか、寧ろそれを見せ付けるように仁王立
ちになり肌襦袢を自ら毟り取る月四朗。
「立派なもんだ。襁褓に包まれてた唐辛子がここまで
立派になったかよ」
「自分で弄りだしてから少しでかくなったかも知れね
ぇ」
変な恥じらいを捨てる事が出来たのか、自分で力を入
れて動かす余裕まで見せる。一つ目小僧はまだ瞼を閉じ
てはいるものの、流す涙は充分に用意出来ている様であ
る。
「風の兄さんは、女じゃなくて男だった」
「そうだな」
「男でも、抱かれるとああ色っぽくなれるもんなのか
い?酉の兄さん」
「そいつぁ男の器量次第だなぁ」
月四朗に座る様に促し、胡座をかいて又一服やる酉次。
「俺ァ色子の方が性に合ったんでこっちの道に入った
がな、手前に男としての器量があると判ったなら、誰ぞ
の弟分になって念者になる方を選んだろうよ」
「風の兄さんには男の器量があったんだ」
「お前の襁褓を替えたり風呂に入れたりしてたけどな」
「酉の兄さんじゃ…あ、その時は店か」
「風の野郎、手前も学問所通いでばたばたしてるって
ぇのにお前の面倒はようよう見てたな」
(まさかおめぇに片恋なんぞするとは思わずにな)と
心の中で付け加える。
「男で居る方が、矢張り良いか?」
「性に合ってらぁ」
「なら、こっちもなよなよはしっこ無しだな」
お互い顔を見合わせてニヤリと笑い、ふと顔を和ませ
る酉次。
「おめぇを仕込んで店に出そうかと迷いはしたが、お
めぇが男になりたいと言ってくれて安堵したよ」
「菊弄りも、愉しくなってきたんだけどよ」
ふと、何か思う様に溜息を吐く月四朗。
「自分で中途半端に弄ってるから、踏ん切りがつかね
ぇのかなぁ」
「菊を弄って気を遣った事はまだねぇのか?」
首を横に振る月四朗。
「尻こっちィ向けて、四つん這いになってみな」
後ろから見ると確かに文殊尻の絶景である。尻も腿も
むっちりとした肉が盛り上がっているが無駄な脂で弛ん
でいる訳ではない。その中で菊門はほかの肌より少し青
味を帯びて…うっすらと口を開いていた。形は然程崩れ
ていない。
「へぇ、上手に解しやがったもんだ、」
『な』と続けようとして顔に吹き付けられた生暖かい
風に面食らう。月四朗、緊張の余り屁を一発ひり出して
しまった様だ。
「す、すまねぇ」
「いや、元気があって良いやな。食うもんにも気を使
ってる様だからよしとするわさ」
思わぬ笑いもあったものである。
(2004.5.21) 続
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