bath time








「アスラン入んないの?」

「・・・」

「?僕先に入ってるよ?」

「・・・」

「アスラン?」

「あっ?あ、ああすぐ行くよ」
何か考え事でもしていたのか、心ここにあらずといった感じのアスランを見て首をかしげ、
キラは先に浴室へ入り湯船に浸かった。

「ふぅ・・・」

理由もなく漏れる溜息も辺りの湯気にとけ込み、
ゆらゆらと形を留めず浴室の天井へと上っていく。
それらを見上げ、キラは先程のアスランの不審な行動を思い返していた。
いや、先程のことだけではない。
最近泊まりに来る度にアスランはしばしば妙な行動をとる。
それがここ1週間あたりは特に顕著に表れている。

(どうしたんだろ、アスラン・・・)

視線は天井のまま、キラはその不可解な行動について考えを巡らせた。
これまでのことから考えると、アスランが殊更過敏に反応するのは
お風呂の時や一緒に寝たりするときのようだ。
はじめはあまりにもおかしな行動にキラは原因が自分にあるのではないかと考えた。
同じ湯に浸かるのが嫌だとか一緒の布団で寝るのが耐えられないとか、
要するに嫌われたんじゃないかと一時期は酷く落ち込んだりもした。
だが、どうもそうではないらしい。
悩むアスランを気遣ってひとりでお風呂に入ろうとすると慌てて追いかけてきたり、
寝る時もアスランは先に布団を用意してくれていたりと、
嫌われているどころかむしろ好意を寄せてくれている。
背中を流す時だっていつも嬉しそうで、アスランの顔は四六時中笑っている。
では一体何なのか。

(アスランは大人びてるからなあ・・・)

キラは顎を腕に乗せ、軽く嘆息した。

「オトシゴロってやつかなあ」

と、その時、
ガチャ、という音とともにようやくアスランが入ってきた。
その表情は何やら真剣そのもので、
おおよそこれから風呂に入って疲れをとるなどというふうには見えない。
その気迫に押され、思わずキラも口を閉ざす。
アスランはちらりとキラの方を見て、体を洗うべく湯船から湯をすくって自身の体にかける。
ザバア、という湯の流れる音を聞きながらキラはその一連の動作を浴槽の中からただ黙って見ていた。
やがて頭と身体と一通り洗い終えたアスランは、
しばし己の髪から滴る水滴を見つめていた。
そしてふいに顔を上げたかと思うと、

「キラ、おいで」

「え?」

相変わらずアスランの表情は真剣そのもので、キラは少し躊躇した。
動こうとしないキラにアスランはもう一度言う。

「おいで。身体洗ってあげるから」

「う、うん・・・」

促され、仕方なく浴槽から出たキラはアスランの前にちょこんと座った。

「目閉じて」

言われるがままに目を閉じると、頭から湯を掛けられる。
咄嗟に息を止めると、途端に広がるひやりとした感触。
アスランは馴れた手つきでキラの髪にシャンプーを馴染ませていった。
相変わらずアスランは無言のままだったが、
その手つきはいつもと同じで優しく、
キラはほっと緊張を解いた。
加えて、いい具合に加減された指圧が心地よかったこともあり、
次第に意識がうつらうつらしていった。
完全に意識が沈みかけた時、突然頭から大量の湯をかけられた。
途端にクリアになる視界。

「うわっ、ぷ」

慌てて顔を拭おうとするも、
次から次へとひっきりなしに大量の湯が滝のように流れる。
幸い鼻に入りはしなかったが、目が開けられない。
予告も無しにいきなりの仕打ちにキラは口を尖らせた。

「げほっ、何するのっ」

「風呂で寝るなよ」

呆れたような声にキラが返答を詰まられていると、
アスランは腕を伸ばしてボディーソープをいくらか手に取ると、
やんわりとキラの背中や腕に伸ばしていった。
キラはそんなに肌が強い方ではない。
タオルなどで身体を直接擦ると赤く皮膚が削げてしまうのでキラはいつも手で身体を洗っていた。
アスランに洗ってもらうのも今日が初めてではない。
だが、妙な違和感を感じる。

(・・・何・・・?)

いつもとどう違うのかは分からないが、
こう、何というのだろう、少し執拗なとでも言うのか、
アスランの手つきが少し・・・。
その時、泡をつけたアスランの手がキラの胸の飾りに触れた。

「っ」

思わずビクリと反応すると、頭上からくすくすと笑い声が聞こえた。

「くすぐったい?」

キラが素直に頷くと、アスランは益々調子に乗ってキラの身体中を撫で回した。
 
「っアスラっ・・・はは、やめっ・・」

くすぐったくて身体を捩るがアスランの手から逃れることは出来ない。
肩から腕へ、腕から肩へ。
肩から胴体を通って脇腹へ。
そして太股を撫で上げて足首へ。

「っもう、や、ははは、アスっ・・・」

笑いすぎでお腹が痛くて抗議の声を上げようとしたその時、

「あっ・・・」

アスランの手がキラの中心部に触れた。
キラの腰が大きく引いた。

「アっアスランっ」

そこはいいよ!、と振り返ろうとした時、

「っ!?」

ザワリとしたものが背筋を走った。

(な、なに・・・!?)

一瞬思考が停止した。くすぐったいようなむず痒いような、

(やだ・・・!)

思わずアスランの手の内から逃れようとするも、
腰にしっかりと巻かれた腕がそれを許さない。

「っアス、ランっ・・・」

それ以上言葉が続かない。
逃げたいのに、早くこの奇妙な感覚から逃れたいのに、
そんなキラの心中をあざ笑うかのようにアスランは更に執拗に責め立てる。

「やっ・・あ、んん」

(あんなとこ触られてよがってるなんてまるで変態じゃないか!)

キラの目に涙が滲む。

「・・・キラ」

その時、アスランが耳元で小さく囁いた。

「好きだよ」

「っ・・・知ってる、よ?」

「うん。だから許してね」

「・・・?あっああ!!」

言い終わるや否やアスランが手の動きを早めた。

(やだ・・・やだやだやだ!)

熱い。身体が、アスランの手の中のモノが、すべてが熱い。

「やっ・・あ、あぁん・・・いやあ・・・」

甘えたような声が浴室に響く。

「っぐ・・・んん、」

「キラ、手のけて」

知らず自分の手を噛んで堪えていたキラをアスランがやんわりと諭す。

「っあ・・、ああっ!」

もう何もかもがめちゃくちゃだった。
アスランがどうしてこんなことをするのか分からないし、
自分がどうしてこんなにおかしなことになっているのかも分からない。
・・・アスランにはすべて分かっているのだろうか。

「やだあっ・・・あっ、あ」

(やだ・・・助けて・・・助けて!)

キラは無我夢中でめちゃくちゃに腕を振り回した。
そして右手が触れた何かを、
思いっ切り回した。

ザーーーーーーーーーーーー!!

「うわっ」

「わあっ」

突然、氷のように冷たい冷水が頭から降ってきて、
アスランは勿論、ノズルを捻ったキラでさえもその冷たさに悲鳴を上げた。

「冷たい冷たい冷たい!!」

「キラ!何やってるんだよ!」

互いが口々に叫びながら逃げるように湯の中へ飛び込む。
じんわりとした温かさが身体中に広がって、キラはほっと一息ついた。
そして先程までのことを思い出して赤面する。

「・・・キラ?」

さり気なく、けれど明らかにアスランと距離を置いたキラにアスランが視線を向ける。
アスランは困ったように

「・・・俺が怖い?」

「・・・・・・」

「・・・キラ」

すっと手を伸ばしてきたアスランの手から逃れるように
キラは更に壁際へ寄った。
だがアスランはキラのすぐ側まで来ると、浴室の壁と自分との間に閉じ込めて
身動きが取れないようにした。
アスランの目が見れない。
キラは視線を下げたまま漂う湯を見つめる。

(分かんない・・・全然分かんない)

何もかも。
自分の気持ちすら。

(アスランが怖い・・・?)

ゆっくりと自問するように考えて、

「・・・怖く、ないよ?」

目線だけを上げてアスランを見上げると、
アスランは一瞬惚けたような顔をして、それから嬉しそうに笑った。
いつものアスランだ。
つられてキラも微笑む。
するとアスランはキラの顎に手をやって持ち上げると、
ゆっくりと自分の唇をキラのそれに合わせた。

「・・・んぅ・・・アス・・・」

キスの合間に漏れる声が静かに浴室に響く。
次第に濃厚になっていくそれにしばし夢心地だったキラだったが、

「あーーーーーーーーー!!!」

突然アスランを突き飛ばすと、急いで浴室を飛び出した。
焦る手でざっと身体を拭いてパジャマに着替える。
最後のボタンを止めていた時、アスランが浴室から出てきた。
その顔は少し不満げなようだった。

「・・・キラ」

「木星探査SAS始まっちゃう!」

文句を言おうと口を開いたアスランを早口で遮ると、
キラはバタバタとリビングへ走っていった。

「・・・・・・」

ひとり残されたアスランはしばし立ち尽くし、
溜息をついて、リビングに向かったキラを追いかけるべくパジャマを手にした。






END.



●あとがき● 子どもだし。 おまけ

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