はだけた胸元からは昨夜の名残が色濃く現れる。
それを目にして伊藤は苦笑を浮かべた。こういう形
でしか彼を縛れない。この痕が残る限り、離れてい
ても彼は自分を思い出すだろう。不確かな関係の
中で、唯一残せる自分の存在。
「このまま一生……」
消えなければいいのに。
「なに?」
「……なんでもない」
伊藤は苦笑を浮かべたまま耳元に囁く。
「イイ男になるからね」
こんな儚い痕より、この腕で抱き締める。離さず
に縛り付ける。それくらいのイイ男になろうと思っ
た。浅倉は少しの沈黙の後、小さく笑った。
「十分イイ男だよ、伊藤くんは」
「そうかな?」
「うん。この手を離してくれたらもっとイイ男なんだけ
どな」
その言葉に伊藤はくすりと笑った。
「それはね、だめ」
「どうして」
「明るくてやだって言ったの、大ちゃんじゃん」
「それは意味が違うもん」
「ふーん、どんな意味?」
「そ、それは、だから……」
乱れる自分を見られるのが恥ずかしい、なんて口
に出来るはずもなく、浅倉はもごもごと言葉を濁した。
「ま、いいけどね」
伊藤は小さく笑ってそっと耳を食む。ぞくりと甘い痺
れが背筋を走って浅倉は身を竦めた。耳朶を唇に含
んだままそこに舌を這わせると、きつく目を閉じるのが
瞼を覆う掌から感じられる。
「こういうのも意外と感じるんだ?」
甘い吐息と共に囁きかけると、両肩が微かに震えた。
耳元に執拗に繰り返される唇と舌の愛撫に浅倉の呼
吸にも快楽の色が混じり始める。伊藤はそれに合わ
せるように空いた手を胸元に滑らせた。
「あっ……」
胸の突起に触れた瞬間、咄嗟に上がった甘い声。
そしてそれを隠すように慌てて唇を噛み締める可愛い
仕草。
「いいよ、声出しちゃって」
意地悪な囁きに浅倉はふるふると首を振った。
「大ちゃんの声が聞きたい……」
伊藤は浅倉の耳や首筋に舌を這わせながら、指の
腹で硬くなった胸の先端を転がすように弄ぶ。その快
感に浅倉は強くシーツを握り締めることで声をあげない
ように耐える。
「意地張ってると、辛いのは大ちゃんだよ?」
肩口に歯を立てると、はっ、と息を呑むのが分かった。
それに合わせて突起を少し力をこめて摘み上げる。
「やぁっ……」
堪えていた分上がる声は甘く艶やかで、伊藤の雄を
刺激するには十分だった。
「ねぇ、気持ちイイ?」
相変わらず胸を弄びながら問うと、浅倉は答えを拒む
ように再び唇を噛んだ。
「素直になりな、大ちゃん?そしたらもっと気持ちよくし
てあげるから」
「そんなの……っ」
「どうしてこういう時まで意地っ張りかなぁ」
まぁそういうとこも可愛いけどね、と笑いながら手を下
へと移動させる。
「カラダは素直に感じてくれてるのにね?」
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