ツートンカラーの髪。
顔を斜めに横切る大きな傷跡。
その傷跡を境にして色の違う皮膚。
眼光も鋭く、つっけんどんな態度。
不気味だ、怖い、と思う素人も少なくないだろう。
俺だって最初会ったときは、その外見に驚いたものだった。
だが、こうして目を閉じて眠っている顔をみるとイメージが変わる。
睫が長い。
顔の造詣も凄く整っている。
あの強い視線がないせいか、全体的に幼くみえる。
「・・・ん?」
モゾモゾと身じろいだあと、長い睫に縁取られた目が開いた。
不思議な色だ、と思う。
黒とも、茶とも違う。光の加減によっては紅くさえみえる瞳。
その瞳に俺の顔が映し出された。
パチパチと瞬きをしたあと、ジッとみつめてくる。
騒ぎだすかと思っていたが、意外と冷静な先生だ。
色々修羅場をくぐってきているって噂も聞いてるし、さすが肝が据わっているというか。
月明かりで俺の顔は認識できているはず、さてどういう反応をするのか。
「なにをしている」
お、そうきましたか。
確かに間違ってはいない質問だけど、夜中に目を覚ましたら顔見知りの男に圧し掛かられているっていう
普通じゃない状況でいう言葉かね。やっぱこの人は面白いかも。
「いや、ご挨拶に来たらよく眠ってらっしゃったんで」
「どけ」
ジロリと睨んでくる。
だけど、俺はそれを無視して頬にそっと手を添えてみた。
嫌そうに眉を顰められるが気にしない。
「あんたさあ、こうやってみるといい男だね」
「そりゃどうも。だが私は男に押し倒される趣味はない」
「それは俺もだけどさぁ」
でもなんか。なんだろ、これ。
この体勢はちょっとした冗談のつもりだったんだけどさ。
もしかしたら、俺、男もいけるんじゃないかしら。
人生なにごとも経験。ちょっと試してみるか。
グイと体重をかけて自由を奪い、薄く開いた唇に口付ける。
大接近した視界の中で、絶句して目を見張っているのがみえる。
俺の思いもよらない行動に脳内真っ白って感じだ。
抵抗が始まる前に、と足や手でポイントを押さえる。
これなら少しくらい暴れられてもビクリともしないはず。
顎を掴んでグイと引き下げ、開いた口の中に舌を差し込んだ。
「ううっ」
嫌そうな呻き声を聞きながら、逃げる舌を簡単に捕らえて絡ませる。
なんか興奮する。
暴れる体を全身で押さえつけ、遠慮はいっさいないディープキス。
俺様の高度なテクにこの先生はついてこれるかな。
とか挑戦的な気分だったんだけど、この人・・・意外と経験値が低い?
どんどん体の力が抜けてくるのがわかる。すっかり俺のペースだ。
だが、それでも必死に暴れて抵抗を繰り返すしぶとさはさすがだ。
「・・・なにを、するっ!」
ようやく解放してやったら、開口一番この台詞。
このプライドの高さ。ゾクゾクとしてくる。
「いやぁ、なんだかちょっともようしちゃって・・・つい」
悪びれなくヒヒヒと笑うと、先生は呆れたような表情を浮かべた。
お、その顔もなかなか。
「おまえさん・・・男色家だったのかね」
嫌味ったらしい口調。目つきも鋭く睨みつけてくる。
「まさか!自他共に認める女好きですよ。どんな美人でも男なんてとんでもない」
とはいったけど。
だめだよ、先生、あんた色っぽすぎ。
男に使う言葉じゃないけど、この言葉が一番合う。
キスで上気した顔と、生理的なものなんだろうけど目尻には微かに涙。
潤んだ目、唾液で濡れた唇、間から覗く舌。
なんか、冗談じゃなく、下半身にクルんですけど。
「言ってることとやってることが違うんじゃないか」
「ハハハ」
「どけ」
どうしようかな。
このままどいても構わないんだけど、ちょっと勿体無い気もする。
新しい道に足を踏み入れちゃおうかなぁ。
じっと、先生の顔を覗きこむ。
全然女性的じゃない。そんな要素探してもみつからない。
どこからどうみても男。
なんだけどもなぁ。
「センセ」
「なんだ」
どかない俺に怒りを感じているのか、低いドスの効いた声。
おお、怖えぇ。
「なーんかアンタ相手だったら出来そうな気がすんだよね」
「なっ」
絶句。
その表現がピッタリな表情。
冷静沈着なこの先生のいろんな顔がみれて、今日はマジ面白い。
「ちょーと、試したりしちゃったりして」
「ふざっ」
怒鳴る口を掌で覆う。
ムグッと言いながら掌から逃げようと顔を捩る先生の耳元で囁いてみる。
「大声出すとお嬢ちゃんが起きちゃうんじゃなあい?こんな場面見られたくないでしょ?」
ここには小さな子供がいたはずだ。
この家のどっかの部屋で寝ているんだろうけど、あの子が起きてここに来てしまったら。
せっかくのこのお楽しみは確実に中断だ。
いくら俺でも子供の前で男をヤルほど心臓は強くない。
・・・んだけど、先生はそう思わなかったんだろう。
俺なら子供の前でも続行すると思ったのか、悔しそうに呻いて声を出さなくなった。
俺ってどんな鬼畜だって思われてんだ。
ま、この場合、その誤解はラッキーとして受け取りましょう。
声を出さなくなった唇に再び口付ける。
この人の唇も舌も柔らかく熱くって、なんかクセになりそうな感触。
だが、無言になったからといって抵抗をしなくなったわけじゃない。
必死で暴れる体を抑え付け、パジャマのボタンを外す。
いくら修羅場を踏んできているとはいえ、先生は医者だ。
踏んでる修羅場の場所と数の違う、ついでに職業も完全に裏家業の俺様に適うはずはない。
それにベットの上での場数も違うっぽいし。
先生が顔を激しく横にふって、俺のキスから逃れた。
ちょっと残念だけど、そろそろ唇以外の感触も知りたかったからちょうどいい。
顔を反らしたことによって、目の前には吸い付いてくれといわんばかりの首筋がある。
レロリと舐めあげると、組み敷いた体がビクンと震えた。
そのまま吸い付き痕をつける。
汗ばみはじめた肌の感触を楽しみながら、首筋、喉元、鎖骨へと唇で愛撫する。
肌蹴たパジャマを広げると、体中に走る傷跡が目に入った。
すごい傷跡だ。
どうやったらこんなになるんだと感心する。
裏街道を進んできた俺だってここまですごいのはみたことがない。
「やめろっ!」
胸元に顔を寄せた俺に、先生が小さいが鋭く激しい声で叱咤した。
それを無視して乳首に吸い付くと「ひっ」と息を飲むような小さい叫びが聞こえた。
柔らかいそれは根元を甘噛みして、舌先で転がしてやると堅く尖ってきた。
男でも女と同じ反応するんだと、なんだか変なところで感心する。
強く吸い上げるとビクビク体を痙攣させて先生は無言で仰け反った。
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