口で乳首を嬲りながら掌で体中を撫で回す。
傷だらけだが手触りはいい。汗ににじんだ肌はまるで吸い付くようだ。
「くっ」
耐えるようなうめき声。
色を含んでいるような気がするのは絶対気のせいじゃない。
暴れながらも、声を殺す様が俺を益々煽る。
顔をあげると綺麗な目が俺を睨みつけてきた。
差し込む月光にその表情も体も全部が細部まで確認できる。
組み敷いているのは、男の、それも傷だらけの体なのに、ゾクッとする。
屈服させたい、乱れさせたい、湧き上がる征服感。
うわー、こんな感覚久しぶりっていうか初めてな感じがする。
ニヤリと笑いかけて、舌を長く出してからみせつけるように再び肌を舐めた。
「いいかげんにしろっ」
声は鋭いが、息があがってるよ、先生。
体の傷をひとつづつ舌でなぞると大きく反応した。
感度いいなぁこの人。
ゾクゾクとした興奮と快感が背筋をかけあがる。
もっと喘がせたい、俺のテクで鳴かせてみたい。
抵抗を完全に抑え込もうと、強く腕を掴んで気がついた。
鳥肌がたっている。
体は敏感に反応してるけど本当に嫌がってるんだ、と気がついて俺はようやく我に返った。
「鳥肌たってるよ、センセ」
「あ、当たり前だろう!!」
「あーあ」
ヤバイヤバイ。
マジ、ヤバかった。
男をレイプしたなんて冗談にもならないぜ。
俺は起き上がり、組み敷いた体を解放してやった。
抑えつける力がなくなった瞬間、跳ねるように起き上がりベットの奥に逃げ込む先生。
そんな逃げ場がないような場所に逃げるなんて誘ってるみたいなんですけど、自覚ないのかなぁ。
「新しい世界に踏み出せると思ったんだけどなぁ。みて」
ジャケットごとシャツの袖を捲くって腕を差し出した。
先生はそれをみて、怒った表情を崩して呆れた顔になった。
「鳥肌たってやんの。やっぱ体は拒否っちゃったみたい」
「はじめっから気づけ!試されるこっちは大迷惑だ!!!」
ものすごい怒声。
安堵と共に怒り爆発ってやつ?
とりあえず安心させようと鳥肌を立ててみたけどうまくいったみたいだ。
「しーーー!!」
「むぐ」
まだ何か怒鳴ろうとしていた口を掌で塞ぐ。
お嬢ちゃん起きちゃったんじゃない?
耳をすます仕草をすると先生も気がついたのか、口を閉じて同じくドアの外に意識を向けた。
物音ひとつ聞こえない。大丈夫だったみたいだ。
そっと塞いでいた手をはずし、不思議な色彩を持つ瞳を覗き込む。
「ごめんね、センセ。怖かった?」
ジロリと睨みつけてくるが、俺の悪びれない態度に諦めたのか大きく溜息を吐いた。
「お前さん、なにしに来たんだ」
ぐい、と俺を押しのけベットから立ち上がる。
肌蹴た自分の格好に気がつき眉を寄せながら、乱れた寝巻をすばやく調えた。
先生がようやく落ち着いた様子をみせたので、本題に入る。
「お礼に来たのさ」
「お礼?」
「そ、センセのお陰でこんなに元気になりました!と証明してから、深く御礼申し上げようと思ったんだけど」
ちょっと驚いた顔で先生が俺をみている。
まさかわざわざ礼にくるなんて思ってもみなかったんだろうか。
「証明すんのにちょーっと調子にのっちゃったv」
「・・・治してやってこんなことされたら適わん」
「だからゴメンって」
ニヘラと笑ってみせる。
先生は不機嫌そうな表情を浮かべたままだったけど、医者の目になって俺を上から下まで眺めた。
意識がなかったから全然覚えてないが俺の体は、頭、手、足、ボディーの6つのパーツに解体されていたらしい。
生きたまま保存されていたとはいえ、あいつらが体を全部取り戻してくれたのは一ヶ月経ってからだった。
いくらパーツを集めたとはいえ、普通だったら元に戻せない。
腕のいい医者にかかって運良く体を繋げられても植物人間、奇跡的に意識が回復しても体は元のように動かせるようにはならないだろう。
それなのに。
この先生はそれをやり遂げたのだ。
俺は以前と変わらず、物を考え思った通りに体も動かせる。
無免許で医学会で存在を認められていないにも関わらず『世界一の天才外科医』と呼ばれるだけはある。
「すっかりよくなったみたいだな」
術後の経過の良さに機嫌を直したのか、先生の表情が和らぐ。
「おかげさまで。センセ以外だったらこんな完璧に戻らなかっただろうって、あのモグリのじっさまが言ってたんだけど、俺もそう思う」
「そりゃどうも。1000万ドルの価値はあったということだな」
「ホント感謝してるよ、センセ」
感謝の意があれか。恩を仇で返すってやつだな。
口には出さないが、表情がそういってる。
なんだ意外と素直じゃん。いつものポーカーフェースはどこいったんだ。
となんだかちょっとおかしくなる。
「おかげで仲間も取り戻せた。1000万ドルじゃ安いくらいだ」
言ってる意味がわからなかったんだろう、先生は少し不思議そうな顔をした。
解体された俺を助けるために次元と五右エ門は死んだ。
意識が回復してそれを知ったときの俺の衝撃は相当なものだった。
俺の命と相棒ふたりの命。
どっちが重いと思ってるんだ。俺が戻ってもあいつらがいなければ意味がないじゃないか。
悲しみ、怒り、憤り、後悔。
さまざまな感情を乗り越えて、俺はこの頭脳でタイムマシーンを作り、俺はこの体で過去に戻ってあいつらを取り戻した。
俺が完璧に俺であれたのは手術してくれたこの先生のおかげだ。
ま、詳しく説明するつもりは更々ないが、心底感謝しているのは本当だ。
先生は俺たちの命の恩人なんだから。
「センセ、アンタのためならなんでもするよ」
俺は笑いを消し、先生の瞳をじっとみつめて、ひとことひとことを噛み締めるようにいった。
みつめかえしてくる強い力を宿す瞳が少し揺らいだ。
ような気がしたんだけども、返ってきた言葉は。
「泥棒に用はない」
の、にべもないもの。
さすが、先生。一筋縄ではいかないらしい。
ホント、この人は面白い。話していて心底楽しませてくれる。
俺はつい声をあげて笑ってしまった。
「ま、この先なんかあったらいつでもこのルパン様を呼んでくれ、ブラック・ジャック先生」
チュと唇を軽く合わせてニヤリと笑う。
なんでかな、この人とは抵抗感が全然ないや。
一瞬のことに驚いて固まった先生が、なにされたかようやく気がついて俺を殴ろうと拳を振り上げた。
が、そのとき俺は既に開け放った窓枠に足をかけていた。
泥棒の足をなめちゃいけませんよ、先生。
「じゃね、センセ。また会おうぜ」
ヒラリと窓から下で待つ車に飛び乗った。
すかさず相棒がエンジンをかけ、あっという間に車は走り出す。
振り向くと、窓から先生が体を乗り出してこっちをみていた。
大きく手を振ると「もう来るな!!」という怒声が響いた。
今度こそ、子供が目を覚ますだろうなぁ。あの先生、なんて言いわけすんだろう。
そう思ったら愉快になって、俺は腹の底からガハハと大声で笑った。
「おまえ、命の恩人になにやったんだ」
呆れた調子で次元は言い、バックミラーごしに五右エ門と目を合わせた。
「べっつに〜、お礼を言いにいっただけさ」
そう答えながら俺は目を閉じて、体中に残る先生の感触を反芻する。
・・・っとヤバイ。
なに思い出してるんだ、俺。
とにかく不二子ちゃん・・・は無理だろうから、どっかでカワイコちゃんをナンパして、正常な道に戻らないとな。
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