圧迫感に目を覚ました虎徹は、自分のおかれている状況がすぐには理解できなかった。
コンクリートにうつ伏せにされ両手首を一纏めに押さえ込まれ、体格のいい男が上から覆いかぶさっている。
 

乾いた絶頂(前)

 
ほろ酔い気分での帰り道。微かに悲鳴のようなものが聞こえた。
それは一瞬のことですぐに静まり返ったから普通なら気のせいかと通り過ぎる所だろうが、虎徹はヒーローだ。何もなかったと確証をつかめるまでこの場を離れることは出来ない。
夜のコンクリートジャングル。声は壁に反射するためどこから聞こえたのか判断は難しい。
耳も澄ますも悲鳴のようなものはもう聞こえない。
「だ!仕方ねぇ」
何も起こっていなければ問題はない。だが何か事件なら、すぐに駆けつけねば手遅れになるかもしれない。
緊急事態だと虎徹はハンドレットパワーを発動した。
じっと佇み、神経を研ぎ澄まし聴覚に集中する。何か不穏な音は聞こえないか、助けを求める声は聞こえないか。
遠くで鳴るクラクションの音。壁の内側からの生活音。道を歩く足音や会話。そういった関係のないものをひとつずつ排除していく。
「こっちか!」
口を塞がれたような女の呻き。荒い息遣いと下卑た笑い声。もがくような空気の振動。
長年の経験で培ったヒーローの勘が事件だと虎徹に伝えてくる。
PDAを起動してバーナビーにコールする。
応答と同時に相手に問いかける暇を与えず、自分のいる場所、なにかが起こっている可能性があることを伝えると相棒は「わかりました」と力強く返事をした。
セブンマッチ前なら『そんな不確かな事件で連絡しないでください』だの『僕には関係ない』の一言で切られたかもしれないが、態度を軟化させた相棒は虎徹を認めてくれたのかサポートを拒まない。
頼もしさを感じながら「頼むぞ」と言って通信を切る。
音を拾うのに半分以上時間を使ってしまった。残り時間は2分もない。
虎徹は音を頼りに現場へ向かって走りだした。

*

路地裏の突き当たりにある倉庫の中で押し倒され下肢を弄られている女を見つけた。
仲間らしき人間がいないことを確認し、一瞬の隙をつき女を押さえ込む男を引っぺがしたときに能力が切れた。
倒れた男を威嚇しながらも、錯乱する女を背に庇い言葉をかけ少し落ち着きを取り戻したとことで出口に走らせる。
無事に逃げ出すのを確認するため、呻き声を発しながら床に沈む男からほんの少し意識を離した。
途端に身体に激しい電流が流れた。
視界の端にスタンガンを持つ男の手が見えたのが最後であとは覚えていない。
そこまでのことを思い出し虎徹は迂闊な自分を呪った。
なぜ油断してしまったのか。バーナビーのサポートがあるということに妙な安心感があったのかもしれない。
能力が戻って来ないということはまだ1時間は経っていないのだろう。スタンガンの痺れも残っていて、背後から押し倒されている体勢では抵抗もままならない。
口封じに殺されるのかと思ったが、体を這う厭らしい手の動きにようやく男の目的を理解する。
首をねじり背後の男をみる。
薄暗い中でもはっきりとわかる下品な嗤いにぞくりと悪寒が走る。
欲情した男の眼だ。ゴリゴリと尻に押し付けられているモノの存在は間違いなく、男であるはずの虎徹を色欲の対象としてみている。
「やめろっ」
下着の中に手が差し込まれて、命の危険でなく貞操の危険を感じて渾身の力を込めて暴れるが、背後から圧し掛かられていては思うような反撃はできない。
ぐいっと下着ごとズボンをさげられ尻が露になる。
遠慮ない動きで表面を撫でられてゾワゾワと背筋を悪寒が駆け抜ける。
「さすが東洋人だな。手触りは最高だ。さっきの女よりいい」
下卑た笑いを滲ませながら男はそういうと割れ目に指を滑らせた。
「東洋人は締まりもいいっていうよな」
普通なら滅多に触れることのない後門に触れられて、暴れろという叫ぶ意思に反して恐怖で体が固まった。
この男は確実に、男である自分を犯そうとしているのだ。
男同士のセックスについて知識としてはあるが、まさか自分がその対象になろうとは思わなかった。
抵抗が止まったことをどう受け取ったのか、男は虎徹の耳朶を後ろから舌でねぶった。
「そうそう大人しくしてろよ。たっぷり楽しませてやるからよ」
男の指が離れる。
虎徹がホッと一息つくのと同時に、甘ったるい香りが漂ってきた。
それが何か考える間もなく、男の指がふたたび後門をいじりだした。
ぬめった指がなにかを塗りこむように蠢く。
「や、やめろっ、この変態!」
叫びながら腰を振って逃げようとするが指は吸い付いたように離れない。
どんなに暴れても背後の男は微動だにしない。
「ハハッ、暴れてもいいぜ。無理矢理モノにする方が俺も楽しい」
男の高らかな笑い声と共に、後門に指が突きこまれた。
「ひっ!?」
痛みと圧迫感に息がとまる。
「あんたバージンか?キツイな」
そう言いながらも指はぐいぐいと奥に向かって進んでいく。
男に対してバージンってなんだ。そんな場所普通は使わねぇだろう!この変態野郎!
そう罵りたかったが、あまりの違和感と嫌悪感に虎徹の全身から脂汗が吹き出し、口から出るのは呻き声だ。
「だがよ、すぐよくなるぜ。ホラ、どうだ?」
男の指が体内でくいっと折れ、ある一点を指先で強く引っかいた。
「アァッ!?」
ビリリとした快感が虎徹の背筋を駆け上がった。
「解除条件は『ケツにたっぷり中だし』」
意味不明な言葉。理解できぬまま反射的に男を振り返って虎徹は目を剥いた。
男は青い燐光を放っていたのだ。
「ネクスト!?」
「当たりぃ。俺の指が触れた器官は過敏になるんだ。わかるかここは前立腺だよ、兄ちゃん。じっくり此処を可愛がって男なしじゃいられない身体してやるぜ」
コリコリと指先が前立腺を刺激する。
前立腺という器官があるのを知ってはいたが、こんなに快感を生み出す所なのか。
怖ろしいほどの快感が電流のようにその場所から全身に流れていく。
必死に息をとめて耐えるが、男は容赦なく後門を抉り内壁と前立腺を責め立てる。
強要されるはじめてのその行為は鳥肌がたつほどの嫌悪感と強制的な快感を与えていた。
虎徹の全身の力が抜け、かくりと地面に沈み込んだ。
それに気がついた男が愉しそうに笑った。
「気持ちよくなってきたか?もっと弄って欲しいだろ?」
抵抗をしなくなったことに気を良くした男は虎徹の手の拘束をとき、片手で体を撫で回しながら乱暴に服を脱がせはじめた。
その瞬間。
虎徹は思いっきり後ろに仰け反って、男の顔面に後頭部をぶつけた。
「ぐ、わっ」
油断していた男はもろに頭突きを喰らい、顔面を両手で覆いながら仰け反った。
チャンスを逃すような虎徹ではない。体を転がし、男の下から逃げ出す。
「このっ」
痛みに涙と鼻血を垂らしながら手を伸ばす男の頭を横蹴りにすると、男は意外と簡単に吹き飛ばされ床に転った。

*

「虎徹さん!」
逃げ出してきた女から事情を聞き現場に飛び込んだバーナビーは室内をみて唖然とした。
屈強な男が顔を血まみれにして、虎徹を床に押し倒しているのだ。
その両手は首を締め上げようとしていて、抵抗するように虎徹がその手を必死に抑えている。
どうみても殺人現場である。いや殺人未遂現場か。
「やめろっ!」
叫びながら男の後ろに回りこみ、急所である延髄に手刀を落とす。
血が昇り虎徹を締め上げることしか頭になかった男はバーナビーの存在に気がついていなかったのだろう。あっという間に白目をむいて、無言のまま一瞬でおちた。
ぐらりと倒れる男の体をバーナビーが一蹴すると、そのままドスンと横倒しになった。
押しつぶされる危険を回避した虎徹は胸元を押さえ苦しそうに咳き込んでいる。
「大丈夫ですか?!」
殺されそうになっていると思っていたが、虎徹の状態はまさにレイプ寸前だ。
ボタンが飛び、服は破かれ、スラックスは下着ごと膝上まで脱がされている。
ようやく咳き込みがおさまった虎徹は乱れた衣服を整えようとするが、その動きは鈍い。スラックスを腰位置まで戻した状態でチャックもあげることなく、その場にヘタリ込んだ。
「虎徹さん」
なぜだかバーナビーは虎徹を直視できなかった。焦点を逸らしながらも破れたシャツを着せ、衣服を整えてやる。
遠くからサイレンの音が近づいてくる。
被害者に警察へ届けるように頼んでおいたから駆けつけたのだろう。
「・・・バニー」
「なんですか」
「逃げるぞ」
「・・・は?」
なぜ自分達が逃げなくてはいけないのか。唖然としていると虎徹が弱弱しくバーナビーの腕を掴んだ。
力が全然入っていない。それどころか小刻みに震えている。
「頼む」
「虎徹さん?」
男なのにヒーローなのにレイプ被害に合いそうだったことが恥ずかしいのか?そう思ったのだが。
「ネクスト被害にあった」
「え?」
「・・・性・・・的なやつだ」
バーナビーは立ち上がり、気を失った男を虎徹のワイヤーでぐるぐる巻きにすると「ネクスト。能力は不明。要注意」とメモを残し、虎徹を抱き上げた。
「・・・悪いな」
「いいから黙ってください。説明はあとでしてもらいますからね」
バーナビーは温存していた能力を発動する。ハンドレットパワーMAXの動きは一般人の目には映らないほど早い。
能力を発動していない虎徹には辛い衝撃だろうが、同じ能力保持者だ。慣れているといってもいいだろう。とにかく今は虎徹を人目につかない場所へ連れ出すことだ。
外に飛び出したバーナビーは、空に向かって一気に跳躍した。

*

とりあえずとバーナビーのマンションに連れ帰った。
本当は虎徹の自宅に帰るのが一番良いのだろうが、バーナビーは場所を知らない。
虎徹に聞こうにも、腕の中に大人しく収まっているものの発せられる緊張感はただ事ではなく、話かけることが出来なかった。
ゆっくりとチェアーに下すと、薄らと目をあけて辺りを探っている。
「僕の家です」
その言葉に虎徹は頷き、ホッとした様子で緊張を解いた。
と同時に、苦しそうな様子をみせはじめる。
両手で自分の体をしっかりと抱え込み、体を前に倒し丸まる。
息も荒く、こめかみに脂汗が浮いている。
「どうしました!?」
「・・・なんでもない」
なんでもないように見えないから聞いたのだが、虎徹は答える気はないらしい。
「ネクスト被害っていいましたよね?説明してください」
本当ならネクスト病院に連れていくのが正しい行動だ。
だが、それを拒む虎徹の意志を尊重して自宅に連れて帰ったのだ。
ネクスト被害を放置するわけにはいかない。逃亡の共犯者となったバーナビーには聞く権利があるはずなのだ。
だが、虎徹は押し黙ったままで何も答えない。
焦れながらも何度も問うが、虎徹は完全に無視を決め込むつもりなのか一言も発さない。
さすがにバーナビーも切れた。
訳のわからない状況では対処しようがない。一歩間違えれば症状が悪化することもあり得るのだ。
ちゃんと理由を聞き、状況を把握し、どうすれば一番いいのか判断しなければならない。
「いい加減にしてください!!」
バーナビーは怒鳴りながら、丸まる虎徹の肩を乱暴に掴んだ。
「あっ!」
ビクビクと体を震わせた虎徹が小さい悲鳴をあげた。
その反応に驚いたバーナビーは手を放し、虎徹をまじまじと覗き込んだ。
顔を背けてはいるものの、服の合間からみえる肌は上気している。
顎を掴み顔を向けさせると、いままで抱いてきた女達が浮かべていた見覚えのある表情をしている。
「どんな能力です。答えないのなら病院に連れていきます」
じっと見つめながら再度問うと、観念したのか虎徹はバーナビーの手を払いのけて俯き、小さく呟いた。
「触った器官を・・・敏感にする、ネクスト?」
なぜ疑問形なんだと突っ込みたいが、虎徹だって詳しくは知らないのだろう。
「どこを触られたんです」
「・・・・・・・・ケツん中」
予想以上の答えに、バーナビーは額に手を当てて天を仰いだ。
病院は無理でも警察か司法局に接触する必要がある。
犯人の能力の詳細と解除方法。それらの情報を早急に取得しないととんでもないことになりそうな予感がする。
ストレートのバーナビーの目から見ても、今の虎徹は妙に性的だったのだ。

*

バーナビーが部屋に戻るとベッドは空だった。
どこに行ったのかと寝室を出て周りを見渡すと浴室からシャワーの音が聞こえた。
バーナビーはふうと大きい溜息をつきながら、ひとりがけのチェアーにどさりと座った。
ツテを頼って内々に情報を集めた結果、あの男の能力のことがわかった。
虎徹のいう『性的なネクスト』ではなかった。
だが虎徹自身も再度問われたとき『触れた器官を敏感にするネクスト』と言っている。
つまり『性的』だったのは触られた場所と解除条件ということになる。
器官を触れながら解除条件を相手に聞かせると発動する能力。それが男のネクスト能力だった。
解除条件があっての能力発動というのは珍しい。
その解除条件自体も複雑なものではなく、実際に行動可能な範囲らしい。
だから虎徹も解除条件を知っているはずなのだ。だがそのことをバーナビーには洩らさなかった。
もしかしたらただの男の戯言だと思ったのかもしれない。
とにかく虎徹が現状を他に知られたくないというのなら警察や犯人に聞くことはできない。虎徹自身から聞き出すしかないのだ。
ぐるぐると考え込んでいたバーナビーだったが、ふと我にかえる。
随分時間が経っているのに虎徹が浴室から出てくる気配がないこと訝しく思ったのだ。
まさか気を失ってるのではないかと急に心配になる。
慌てて浴室へ向かい、「虎徹さん、開けますよ」と声をかけながらも問答無用でドアをあけた。
まず、冷え切った浴室内に驚いた。
そして、冷水を頭から浴びてぐったりと座り込んでいる虎徹の姿が目に入る。
同時に雄の匂いが鼻腔を擽る。
虎徹が何をやっていたのかわざわざ聞かなくてもバーナビーは瞬時に理解した。
バーナビーの自宅で、いつ帰ってくるかわからない状態なのに、行為に及んだということは相当つらいということだ。
普段の虎徹なら意地でも我慢するはずだからだ。
とりあえず気がつかないふりをしてゆっくりと近づく。
「虎徹さん」
降り注ぐ冷水を避けてシャワーをとめ、虎徹の腕を掴むがあまりの冷たさに思わず手を引いた。
どれだけの間冷水を浴び続けていたのか。氷のような冷たさだった。
掴まれた感覚で正気に戻ったのか、虎徹はビクリと震えると顔をぱっとあげた。
冷え切っているはずなのに、頬や首筋などはうっすら上気して薄紅色に染まっている。
反射的につい視線を下げて見てしまった股間のモノは半勃ち状態だった。
虎徹の全身を視線にいれた瞬間になにやらゾクリとした感覚がバーナビーの背筋を貫いた。
いつも明るく強い力を放つ瞳が弱々しい光を放ちながらも欲情に濡れているせいか。
それとも傷だらけだが張りのある肌が水を弾きながらもぐっしょりと濡れそぼっているせいか。
広がる雄の匂いに虎徹の行為を想像したせいか。
はっきりとした理由はわからないが、バーナビーを襲ったのは間違いなく欲情だった。
それを自覚したバーナビーは自分自身が信じられなくなる。
最近は気心が知れるようになった相棒とはいえ、30代半ばの男だ。決して性欲の対象になる相手ではない。
きっと、この異常な事態に判断基準が狂ったのだと自分に言い聞かせる。
バーナビーは内心の動揺はまったく表に現さず、虎徹を見下ろした。
「ほら、立ってください。いつまでそんなところに座り込んでいるつもりですか」
「・・・放っておいてくれ」
バーナビーが気がついたことに気がついて、虎徹は羞恥と屈辱感に低く呻いた。
八つ当たりともいえる苛々感が湧き上がってくる。
「え?」
「ひとりにしてくれ」
体中が熱くって仕方がない。
今にも暴走しそうな体を必死に理性で押しとどめている状態だった虎徹は、自分を保つためにも忌々しげに言い放った。
その言葉にバーナビーはカチンときた。
犯されかけているところを助けてやって、逃げなくてよかったのに虎徹の希望の通りに他言無用で自宅まで連れ帰ってやって。苦労して犯人の能力を探ったら、解除方法を実は虎徹が知っていたというオチで。
散々振り回されてやったというのになんだこの態度は。
「いい加減にしてください」
そう冷たく言い放つと、バーナビーはバスローブを掴んで虎徹に投げつけた。
「貴方はネクスト能力を受けたときにあの男に何か言われましたよね?解除条件がどうこうと」
弾かれたように虎徹が顔をあげる。
「その言葉の通りにしなくては解除されませんよ」
虎徹の瞳が驚きで大きく見開らかれる。
欲望が湧き上がり続ける体に振り回されながらも、虎徹も考えてはいたのだ。
まさかあんなのが解除条件なんて信じたくなかった。
だが、男との経験などない体なのに、直腸内が熱く刺激を欲しているのだ。
それでも放っておけばヤマが超えればこの欲は引くものだと考えていた。
少し我慢すれば。今夜一晩乗り越えればこの熱はおさまると自分自身に言い聞かせていたのに。
張り詰めていた糸が切れて、虎徹は脱力した。
「・・・くそっ」
「どこを触られましたか」
「・・・・・・」
「虎徹さん!」
「前・・・立腺」
さっきは「ケツの中」と言っていたから直腸内のことだと思っていたが、前立腺だというのなら話は変わってくる。
バーナビーだって前立腺くらいは知っている。
自身は経験はないが、風俗では前立腺マッサージなるものがあり、男にとって性感帯になる可能性のある器官だということも理解している。
「解除条件は?」
ビクリと虎徹が震えた。弱弱しく頭を横に振る様子は哀れではあるが放置することは出来ない。
「病院に行って診断を受けますか?それとも犯人を直接問い詰めた方が?」
「だ!『ケツにたっぷり中だし』!!どうしろっていうんだよ!!!」
ガッと顔をあげてバーナビーを睨む目は悔しさを滲ませながらも途方に暮れている。
レイプしようとしていた男である。予想はしていたが、それを上回る下衆な解除条件にバーナビーは犯人に手刀ひとつしか喰らわせなかったことを心底後悔した。
ヒーローでなければ半殺しにしてやりたいくらいだ。
「あなたの選択はみっつ。このまま我慢し続けながら病院で他の解除条件がないか待つか。男を漁りに街にくりだすか。それとも」
自分は何を言っているんだと思いながらも口は動き続ける。
「僕に抱かれるか」
虎徹の表情がふいをつかれたようにポカンとした。
言ってしまったバーナビーはそれを言葉にした途端、うろたえるよりも開き直った。
目の前で虎徹の顔が驚愕の色を浮かべるのをじっとみつめる。
「な、なにを・・・言って・・・」
唇をふるわせながらようようの態で言葉を紡ぐ虎徹の瞳が一瞬揺らいだのをバーナビーは見逃さなかった。
冷水を浴び、己を慰めて熱を沈めようとしてたのだ。
能力を受けてからだいぶ時間が経っている。耐え難い欲望に襲われているはずだ。
その証拠にさっきは半立ちだったものが、会話をしている間にも徐々に立ち上がり、今ではすっかりと勃起している。
どうしても煽られる。
この強情で、誰にも頼らず弱みを見せようとしない10以上年上の相棒を組み敷き好き放題にするという誘惑に抗えない。
バーナビーは一気に自分が欲情するのを感じた。
「決まりですね」
そう言って虎徹の腕をとり無理矢理引き摺り立たせ、そのまま肩にかつぎあげる。
「お、おいっ、ちょっと待て!」
この状態で暴れられたら堪らないと、バーナビーは虎徹の尻肉を鷲づかんだ。
「アッ!」
虎徹の体がビクンと震え硬直し、抵抗がとまる。
その隙にバーナビーは大股で浴室を出ると、そのまま寝室に直行し虎徹の体をベッドへ放り投げた。
「うわっ!」
高いところから投げ落とされた虎徹は、ベッドの上とはいえ強い衝撃をうけ両目をギュッと瞑り息をとめた。
キッシキシとベッドが軋み体が跳ねる。
軋みをとめるように虎徹の顔の横にバーナビーの手がつかれる。
近い人の気配に虎徹が目をあけると、バーナビーが覆いかぶさっていた。
「冗談は・・・よせ」
バーナビーの本音はわからないが、目が本気だと訴えている。
口では抵抗の言葉を吐くが、欲の篭った視線と圧し掛かる男の姿に、暴走寸前の虎徹の体は快楽の期待に打ち震え始めていた。
「冗談かどうかはすぐにわかりますよ」
虎徹の目をみて、理性と欲望がせめぎあっているのを感じる。
だが、なけなしの理性はすぐに消えるはずだ。その証拠に虎徹はもう抵抗らしき抵抗をしない。
バーナビー自身、正直にいえば虎徹を抱くことに抵抗がある。できれば遠慮したいと理性は訴えるのに、体は制御できずに暴走をはじめた。
 

 
  

 


  >>後編
 




 





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