もう明日は正月だというのにBJは外国にいた。
もっと早くに帰国するはずだったが、予定外のことが立て続けに起こり、大幅にスケジュールが狂ってしまった。
ピノコをひとりぼっちにして可哀想だとは思うが、年末の混雑で帰りのチケットがとれなかったのだ。
予約待ちしようかとも思ったが渡された予約番号は到底回ってこなさそうな番号。
待つだけ無駄だとばかりに、確実にチケットが取れる日はと問うと2日後だという。
仕方なくその日に予約して、ピノコにその旨の電話を入れた。
電話口でキャンキャン言っていたが、帰れないものは仕方がない。
沢山の土産を買って帰る約束をして、ようやくピノコの機嫌をとったのだった。
運良くとれたホテルにチェックインして一息つく。
シャワーを軽く浴びてベットにゴロンと寝転ぶと、意外と疲れていたのだろう。
いつの間にか寝入っていて、目を覚ますと既に外は暗くなっていた。
時計をみると22時近い。
このまま朝まで寝てしまうか、と少し寝ぼけた頭で考えるが、クーと腹が鳴るのを聞いて食事に出ることにした。
顔を洗って、跳ねた髪を水で軽く撫でつけ、上着を着る。
コートを手にとって暫く悩んだが、バサリといつものように肩にかけた。
ホテルのレストランに行こうかとも思ったが、せっかくなので外へ出ることにする。
夕方近くから眠っていたことがあって、すっかり目は醒めている。
たまには外国の賑やかな街並みに繰り出すもの一興だと思ったのだ。
街は年末の賑わい。
綺麗に飾り付けられたツリーやイルミネーションで夜の街は賑やかで華やかだ。
少し先にある会場の一角に大きなツリーが飾られていて、そこで今夜ニューイヤーのカウントダウンが行われるらしい。
色々な店も出てるしとても綺麗で見ごたえがあるから行ってみてはどうか、とホテルマンがにこやかに教えてくれた。
確かにその方向に家族連れやカップルが流れていっている。人ごみが凄い。
せっかく教えてもらったが、その会場方向に背を向けてBJは歩きだした。
行きつけのいつものバーに辿り着く。
何度か来たことがあるその店は、酒の種類も多く旨い。
もちろん、軽食ではあるが食事もできて、その料理もなかなか旨いのだ。
酒も食事も旨いということがあってBJのお気に入りの場所だった。
キィと扉をあけると、中は大賑わいだった。
わりと静かで雰囲気のある店だったと記憶しているが、今日はニューイヤーパーティーが行われているらしい。
いつもより騒がしく盛り上がってい店内の様子に驚きドアを開けたまま立ち止まる。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうから、バーテンダーが明るく声をかけてくる。
一瞬戻ろうかとも思ったが、せっかくのニューイヤーだ。
参加せずとも雰囲気だけでも味わってみるのもいいかもしれないと思い直し、カウンター席に座った。
テーブル席では老若男女、様々な人々が楽しそうに盛り上がっている。
その様子を眺めながらBJは注文した酒と食事を口にした。
食事も終わり、ゆっくりとしたペースで酒を呑む。
たまにバーテンダーと会話しながらひとり酒を呑むBJは、ふと自分は周りに異様に見えてるんだろうなぁと考えて少しおかしくなった。
まあ、それはいつものことで気にするようなことではないが。
賑やかな喧騒に加わらないまでも、BJは充分に雰囲気を楽しんでいた。
カウンター席に座っていた人々も店の中央に集まりだし、店内は一層賑やかになった。
時計をみると0時少し前。
カウントダウンが始まるらしい。
軽快な音楽が流れ出す。
舞台中央にあがった男がマイクを握り一言二言なにかを言ったあと、片手をあげた。
カウントダウンがはじまる。
人々が声を合わせて大声で楽しそうに数を数える。
スリー!
ツー!
ワン!!!
ハッピー・ニューイヤー!!!
パパパパパッン、というクラッカーの音と共に照明が消された。
ニューイヤー・キス。
近くにいる人なら誰にでもにキスしていい、というちょっとしたイベントである。
暗闇の中、恋人のキスを他人に奪われないように愛する人としっかり抱き合ってキスし合う恋人同士、
好きあらばと想いを寄せる相手にキスする者、友人同士親愛の情を込めたキスを送る者、様々である。
BJは更々参加するつもりはなかったので静かにカウンターでひとり飲み続けていたのだが。
暗くなると同時に後ろから腕を引かれ、あっという間に抱き込まれ唇を奪われた。
逃げ出せないほどの力の強さ。
当たる体も逞しく相手はBJよりも大柄な、男。
「・・・やめっ」
顔をよじってもがくが、主導権は完全に相手に奪われ、逃げられない。
顎を引き下げられたと感じた瞬間、口内に男の舌が差し込まれた。
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