【注意】

TVシリーズ『BJ21』の最終回を補完妄想。ちょっぴりネタバレあり。
一応、元ネタを知らなくても大丈夫だと思います。
 
 
 
 

 
 
【 Afterwards (1) 】
 
 
 
 

 
ふっ、とBJは目を覚ました。
視界にはぼんやりと白い天井がみえる。
意識を覚醒させようと頭を振りながら体を起こし、辺りを見回した。
今まで自分が横たわっていたのは白いシーツに包まれた清潔なベットだ。
部屋の様子も趣味のいいちょっと高級なホテルと言った感じで、必要最低限の設備がそろっている。
安っぽくもなく、かといって特別高価そうでもなく、趣味のよさが伺える。
だが、ここがホテルの一室ではないということを部屋の隅やベットの脇に置かれている医療設備が主張していた。
「ああ・・・そうか」
今どこにいるのか。
ようやく思い出したBJは立ち上がり、洗面台で顔をバシャバシャと洗った。
冷たい水の感触がBJからすっかりと眠気を吹き飛ばす。

フェニックス病。
スカイホスピタルの中で自分を含め全員が感染し発病。
制限時間ギリギリで治療法をみつけだし、ようやく命の危機から逃れることができた。
スカイホスピタルに乗り込んでいたのは1〜2日だったのだが、今落ち着いて思い返してみるととても長い時間だったような気がする。
実際にあのときは時間との戦いで、どちらかといえば時間が経つのが早すぎると思っていたはずなのに。
時間的感覚というのは不思議なものだ、とBJは苦笑した。
特効薬を打ったとはいえ、出来上がったばかりの即席の薬だ。
応急処置的なもので完璧ではなかった。
アラスカに迎えにきたアメリカ軍にそのままここまで連れて来られたのだ。
不眠不休でフェニックス病を分析していたことと、感染して随分時間が経っていたことにより体力はほとんど残っていなかった。
そして助かったという安堵感。
途中で気を失ったのだろう、記憶はこの施設を軍用機の窓から見たところまでしか残っていない。

シューン
小さな機会音のした方向に顔を向けると、部屋の扉が開き一人の男が入ってきた。
「ドクター・クーマ」
目を見開いたBJにドクター・クーマは大きく頷き、ゆっくりと近寄るとガシリと両手でBJの手を握った。
「よくやってくれた、ブラック・ジャック君」
「ドクター」
怖ろしい威力を持つフェニックス病。
それに感染しながらもその治療法をみつけ出したBJ。
あの膨大な資料。
読むだけで相当な時間を要するはず。
それを完全に理解して分析をするとなると数週間は必要となる。
無理は承知でいや無駄と知りつつも、本間の愛弟子である天才外科と名高いBJに賭けるつもりであの資料を送ったのだが。
それを1日とかからず、BJは治療法を見つけ出したのだ。
信じられない事実だ。奇跡といってもいい。
天才というのは噂だけではなかった、BJは本当に世界の頂点に立つ天才外科医なのだ。
「まさか。奇跡までとはいかないが、偶然に近い」
感慨深げに賞賛を繰り返すドクター・クーマにBJは苦笑しながら答えた。
彼の言葉がお世辞ではなく真に心の底からのものだというのが伝わってくるだけに、BJは居心地の悪さを感じた。
「とにかく、感謝しておるよ。君のような優秀な弟子を持って本間先生も鼻が高かろう」
「本間先生・・・」
本間の名前を出されてBJは苦笑ではなく、微かな安堵したような笑みを浮かべた。
その表情の綺麗さにドクター・クーマは少し目を見開いたが、もう何も言わなかった。
「それで・・・悪いのだが、ブラック・ジャック君」
「わかってます。私も医者ですから」
ドクター・クーマの言いづらそうな様子をみて、BJは答えた。
あの特効薬は即席のものだ。
とりあえずフェニックス病は治ったかのようにみえるが、ノワールプロジェクトの前例がある。
それもBJ達が感染したのは従来のフェニックス病ではなく、それが更に強力になったものだった。
今はよくともあるとき突然何が起こるとも限らない。
ならばとにかく徹底的に調査し研究しなくてはならない。
つまり、BJ達は被験者、悪い言葉で言うとモルモット。
これから体の隅から隅まで、細胞の一欠けまで採取され分析されるのだ。
だがそれは仕方がないこと。
万が一にも解放後に再発でもすれば、怖ろしいまでの感染力で多くの人間が死ぬ。
もう再発しないこと、完全な特効薬を作成すること。
このふたつが揃わなければ、BJが解放されることはないのだ。
「で、期間はどのくらいの予定で?」
「君には悪いが最低でも2週間は必要だ」
「そうですか。ま、仕方がありませんね」
あっさりと頷いて、BJは肩をすくめた。
「この施設には大抵のものは揃えている。図書室、娯楽室などもある。検査時以外のフリーな時間は好きに使ってもらって構わない。
部屋を出て右に進むとそのまま研究施設へ通じている。この建物の出入り口はその研究施設の向こう側だ。この施設には出入り口は設けられていない」
「籠の中の鳥っていったところですね」
「すまんな」
「いえ、構いませんよ」
「何か希望はあるかね?出来る限り叶えよう」
BJは部屋をぐるりと見渡し医療設備をじっとみつめた。
少し考え込んだあと、ドクター・クーマに向き直って言った。
「研究結果を逐一報告していただくこと。被験者としての役目は果たしますが、私も私なりに調査したい。今後何がおきようと自分で対処したいのでね」
「わかった」
ドクター・クーマは微かに笑いながら、BJの要求を快諾した。
「で、ピノコは?」
話は済んだと言わんばかりに、話題が唐突に変わった。
そして微かだがその表情も。
医者の顔から娘の安否を気遣う父親の顔に変わっている。
「心配いらない、この施設内にちゃんといるよ。体が小さいことと発病するのが君より早かったせいでまだ完全に回復していないが、随分よくなっている。まだよく眠っておるよ」
「そうですか」
ほっと安心した表情を浮かべ、扉に向かってBJは歩きだした。
ピノコの症状を確かめに行こうと思ったのだ。
「ひとつ向こうの廊下沿いの部屋に女性陣、この廊下沿いに君と白拍子君の男性陣。患者だからね、わざわざ分ける必要もないかとも思ったのだが長くここに滞在するのならやはり少しは気をつかった方がよいという女性スタッフの提言を採用してみた」
言われてようやくBJは自分の身に降りかかった現状は自分だけでなく、スカイホスピタルで感染した全員に降りかかったものなのだと気がついた。
ピノコだけなら別によいが、これから二週間白拍子たちとこの狭い施設内で毎日顔を合わせると思うと少しうんざりする。
「それとブラック・ジャック君、もうひとつ」
「なんですか?」
振り返りながらドクター・クーマに体を向けたBJの背後で扉が開いた。
「ここに滞在する間、君たちひとりひとりに専属の医師をつけさせてもらう」
「私には必要ありませんね」
「そう言わんでくれ。いつなにが起こるかわからないのでね。フェニックス病に詳しい精鋭の医者達だ。君の場合は君自身の研究の手伝いもできるだろう」
ムッとしたBJだったが、ここで我を張っても仕方がない。
自分でも言ったが今は籠の中の鳥も同然。
とりあえず受け入れるが、纏わりつく医者は使えるようなら使ってやって不要なときは完全無視してやればいい。
「わかりましたよ」
大きく溜息を吐いたBJの背後で気配が動いた。
自分に反応して扉が開いたと思っていたがそうではなく、廊下から誰かが扉を開けたらしかった。
「ブラック・ジャック君、紹介しよう」
よく知った気配。
信じられない気持ちで驚きに目を見張りながらBJは振り返った。
「君の担当のドクター・キリコだ」


いつもの黒いスーツではなく白衣に身を包んだ死神が、開いた扉の真ん中に立ってBJをみつめていた。
 
 
 
 
 

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 ■なかがき■
ほ、ほら、だって!!
最終回にキリコが登場しなかったじゃないですか!
確かにBJの夢の中には出てたけどあれじゃあ足りない。
だいたいBJの危機にキリコがなんにもしてないハズないじゃないか!
(注:キリジャスキー思考)

思いまして・・・(汗)

最終回の後日談っていうか
まあ、アラスカでミサイルから逃げ切ったあとから
日本へ帰ってくるまでの
その間を勝手に妄想してみました。

の割にはキリコの登場が一文のみだ(^^;)
ま、後編には沢山出て来ますので。
 
 
 
 

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