■ルパンファミリー的バレンタイン(2)■
 
 
 
 

 
買出しに出ていた次元の携帯が鳴った。
ルパンからだ。
「なんだ?」
なにかあったのか、それともただの買出しの追加か何かか。
追加だとしたら、既に買い物はすんで車に乗り込むところなのに、また店に戻るのは億劫だと思いながら次元は携帯に出た。
「次元ちゃ〜ん」
ちゃん付きである。そして猫なで声である。嫌な予感。
「・・・なんだ?」
「あのね、早く帰って来て欲しいのv」
緊迫感のない声。甘えた感じの女言葉。
こいつ、何かしたな。
直感というか、長年の付き合いからの経験というか、とにかく次元はピンときた。
「なにをやった?」
「俺様はね、遠慮してお出かけするからね。早く帰って来て?でないと・・・」
「でないと?」
「五右エ門ちゃんが・・・」
「五右エ門がどうした?!」
五右エ門になにかあったのかと、敏感に反応して噛み付くように問いかけるが、ルパンは答えなかった。
「とにかく早く帰ってこい!!じゃなきゃお前、絶対後悔するぞ!?じゃーな!」
プツ。
次元が問いただす間もなく電話が切れた。
何度リダイヤルしても「電波がはいらないか、電源が入っていません」というメッセージが流れるだけ。
衛生携帯の特別開発仕様のルパンの携帯である。相当なことがない限り繋がらないということはない。
ということは、ルパンが自ら電源を切ったとしか考えられない。
だが、ルパンのあの様子。大事が起きたとは思えない。100%着信拒否だ。
なにかやらかしたのだ、きっと次元が怒るようなことを、あの男は。
それも五右エ門絡みの何かを。
とにかくアジトに戻って確かめようと、次元は買い物袋を乱暴に助手席に投げやると車を急発進させた。


アジトの扉を乱暴に開く。
「おい、ルパン!五右エ門!?」
ふたりの名を呼びながら廊下を足早に歩くが、もちろん誰からも返事はない。
リビングに入り、とりあえずテーブルの上に買出しの品をドサリと置いて、次元は周りを見渡した。
微かに甘ったるい香りが漂うだけで、人の気配はない。
電話のルパンの感じからいくとすでにルパンはここにはいないだろうが、五右エ門はいるはずである。
「五右エ門、どこだ!?なにかあったのか!」
隣の部屋を覗き、五右エ門の寝室も覗く。だがどこにも侍はいない。
「チッ、どこにいきやがったんだ」
苛々しながらアジトの中を探し回っていると、どこからか水音が響いた。
風呂場ではない、家の外からだ。
バシャン、バシャンと大量な水が何かに当たって音を立てている。
雨が降っているでもなし、おかしいぞ、と思った次元は窓をあけ裏庭を覗いた。
いた。
五右エ門だ。
上半身着物を脱ぎ、庭の片隅に片膝をたててしゃがんでいる。
そして。
バシャッ、バシャッとタライに溜めた水を、頭から何度も被っている。
「あいつ、なにをやって!」
修行の一環で滝に打たれる侍である。あれも苦行のひとつなのかもしれないが、今までアジトで水修行なんてしたことはない。
そのうえ、今は冬。特に今日はいつも以上に冷え込んでいる。
ルパンが言っていたのはこのことだったのか!?と大慌てで次元は窓から庭に飛び出した。
「おい、五右エ門!お前なにやってんだっ!」
走り寄って、手からタライを奪い取る。そのいきおいで水が足にかかったが、やはりかなり冷たい。
五右エ門をみると、全身ずぶ濡れ。
白い肌は益々白く、青白いといっていいほどだ。見上げてきた顔も蒼白で唇も紫色になっている。
「お前、限度ってのがあるだろうがっ」
ジャケットを脱いで肌蹴た肩にかけてやり、次元は五右エ門の腕を掴み引き起こした。
触れた瞬間、ビクッと体を震わしたが気にしているときではない。
ぐいぐいと引っ張って、暖房の効いたリビングに連れ込んだ。
「何考えてるんだ、お前はようっ」
ぐるりと向き直って怒鳴りつけた次元はここに来て五右エ門の様子がおかしいことに気がついた。
もし修行の一環ならとっとと次元の手を振り払っていただろう。
だが抵抗もせずされるがままのうえ、何かに耐えるような仕草をしている。
握った五右エ門の腕が冷たくて熱い。
熱い?
すっかりと芯から冷えてもいい状況なのに、表面は冷たいとはいえ強く握っていると掌が熱くなってくるのだ。
「どうしたんだ?」
訝しげに尋ねる次元から五右エ門は視線を逸らし俯いた。
ボトボトと水滴が滴り床に広がっていくのをみて、次元は今更ながら五右エ門がずぶぬれであることを思い出した。
とりあえず話はあとだと、タオルを取りに行こうと手を離すと、五右エ門が弾かれたように顔をあげて次元を見た。
「とにかく着物を脱いでおけっ」
五右エ門の視線に戸惑いつつ、リビングを出て脱衣所にかけこみバスタオルを数枚掴み取る。
大急ぎでリビングに戻るが、五右エ門はぽつんと佇んでいてさっきから動いた様子がない。
もちろん濡れた着物はそのままだ。
次元はチッと舌打ちをして、タオルを1枚頭から被せた。
残りのタオルで体を拭こうと手を伸ばすと「修行が足らん」と五右エ門がポツリと呟いた。
 
 
 
 
 

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■VALENTINE OF LUPIN FAMILY■
   

    
 
  
 

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