■KISS ME (前編)■
 
 
 
 

 
ルパンが不二子を伴ってリビングのドアを開くと、次元が待ち構えていたかのように近づいてきた。
その表情は不機嫌そのもの。
「あ、次元、たっだいま〜」
不二子を連れてきたことを怒っているのかという不安を、ルパンは満面の笑みで隠してテンション高く挨拶する。
そんなルパンを完全無視して次元は不二子の前に立った。
ジロジロと不二子を上から下まで眺める。かなり不躾な視線だ。
視線を反らしたり無視することはあってもこう正面から来ることは珍しい。不二子は意外に思って目を見張った。
だがその視線は気持ちいいものじゃない。
そしてその不愉快さを我慢するつもりも不二子にはない。
「なによ?」
胸を張って挑戦的に次元を睨みつける。
もちろん次元はたじろかないが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
そして少しの間をおいてこう言った。
「不二子、俺にキスしろ」


間(15秒)。


一番最初に反応したのはルパンだった。
「な、なに言ってるんだ、次元!!俺だって滅多にしてもらえないのにーーー!!!」
守るように片手で不二子の体を抱き寄せる。
その動きで止まっていた不二子の脳が動きだした。
この男は今なんと言った?ルパンならともかく、この次元の台詞とは思えない。気が狂ったんじゃないかしら。
そう思いながら帽子のツバの下に隠れている目を覗き込むと、一応は正気の目をしている。
一応は、というのは、なにかいつもと違うからだ。
それが何かはわからないが、切羽詰ったような焦っているような怒っているような、複雑な感情が交じり合っているのだ。
「なあに?なにか良いことしたご褒美にほっぺにでもキスして欲しいわけ?」
なんか面白いわ。
と思いながらからかい半分で答えたが、次元の返事を聞いて絶句する。
「いや、ディープ」
「次、次元!!!!」
心底驚いて固まった不二子を背中に隠し、ルパンが歯を剥いた。
「今頃不二子の魅力に気がついたのかもしんねぇが、不二子ちゃんはやんねぇぞ!」
唾を飛ばしながら怒鳴るルパンに次元の視線が移る。
真正面からルパンをみつめてなにやら考え込んでいる風。
沈黙の時間に比例して、次元の苦虫は益々苦くなってきたらしく、表情は歪みまくり。
それでも意を決したような様子でルパンを睨みつけた。
負けるものかと睨み返すルパンの耳にまたもや理解不能な次元の言葉が聞こえた。
「じゃあ、ルパン、お前からでいい」



間(30秒)。



なんですと?
言葉もなく、ルパンは片手を添えた耳を次元に向けた。
「キスしろって言ってんだよ」
ピキーーン。
部屋全体が凍った。もちろんルパンもその背に隠れている不二子もである。
唯一凍らずにいるのは次元だったが、心底嫌そうな顔をしている。
そんなに嫌なら変な頼みごとするんじゃねーーーー!!!
そう叫びたかったがルパンの体は固まったまま。
動かないルパンの顔を次元の両手ががっしりと固定した。
色気は全然ないが、これはキスの体制だ。
そう思った瞬間、身の危険に対する条件反射、闇に生きる男の反応。
ズサッとルパンは後方へ逃げさる、もちろん背中の不二子ごと。
ルパンの背中とドアに挟まれ「ぐっ」と不二子が呻いたが、そんなの気にしている場合じゃない。
「なんで俺がお前とちゅうしなくっちゃいけねぇんだ!!次元、その道に目覚めたのか!?五右エ門限定じゃなかったのか!!」
「目覚めちゃいねぇ!気持ち悪いこというなっ」
相棒同士のはずのふたり、双方ともガウッと噛み付きそうな勢いである。
「とにかく、しろっ」
「嫌だっ」
はんぐぐぐぐ、とキスを迫るものと迫られるものの攻防がはじまる。
ようやく我に返った不二子は、そんな気持ち悪いものをみたくない、とばかりにドアノブに手をかけた。
「逃げるなっ!!」
次元の怒号。ビクリと不二子の体が震える。
「ルパンの次はお前だからな!!」
何を言っているのか、この男は。
ルパンだけじゃなく不二子にもキスを強要するところをみると、男色に走ったわけではないのはわかる。
だからといってこの現状の説明がつくわけでもなく。
何か憑いたのか、気が狂ったのか。
次元の攻撃を必死に防ぐルパンも、逃げそびれた不二子も、すでにパニック状態である。
ガチャリ。
ドアがあいた。
不二子があけたわけではない。外側から開いたのだ。
ドアを背に攻防が行われていたわけだから、扉と共に三人団子になって廊下へ倒れ転げた。
「なにをやっているのだ、おぬしら」
呆れた顔で五右エ門が折り重なった三人を見下ろす。
一番下に敷かれているのが女の不二子であると気がついた侍は、男ふたりの首根っこを掴み横へ転がし、不二子を無事救出した。
「あ、ありがと」
乱れた髪を片手で撫で付けながら、自分を支える五右エ門の腕にしがみつく。
精神的なショックが体に来たのか膝がガクガクしている。
転がった男のうちのひとり次元は五右エ門をみとめると、チッと小さく舌打ちをしながら体を起こし、その場に背を向けさっさと立ち去る。
もうひとりの男ルパンは、汗だくで転がったままだ。相棒から迫られるというショックからまだ立ち直れていないらしい。
「なにをやっているのだ、おぬしら」
同じ台詞を繰り返しながら、五右エ門はルパンの腕を掴み引き起こした。
「いや、なんでもねぇよ」
ふらりと立ち上がったルパンは五右エ門の腕から不二子を取り戻す。
そしてふたり顔を見合わせて、ふーーーと大きく安堵の溜息をついた。
不思議そうにその様子をみていた五右エ門であったが、まあいいかとばかりにふたりを置いて部屋へと入った。
とことんマイペースな侍である。
廊下に残されたルパンと不二子は額をつきあわせてヒソヒソと話し出した。
「なんなの?あれ」
「わかんねぇよ、ああ、怖かったよ、不二子ちゃん」
唇をつきだし甘えてくるルパンの顔を片手でぐいと押しのける。
「ふざけないで、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。あの様子じゃ、また来るわよっ」
いきなりキス魔になったガンマン。
とにかくその理由がわからなければ、今後どう対応していいのかわからないのだ。
次元の態度を見る限り諦めた感はなかったから、不二子の言うように同じことを繰り返してくる可能性は非常に高い。
あんな怖ろしいことは一度で充分だ、とIQ300の天才、大泥棒ルパンはぶるりと体を震るわせた。



真の敵は身内にあり。
 
 
 
 
 

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■KISS ME■
 

    
 
 
  
 ■なかがき■

ジゲルパでジゲフジでもありませんよ?
ちゃんとジゲゴエです(笑)
つうか、ジゲゴエ基本のファミリー的お話かな。



 
 
 

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