■ちちゃフロ物語(5)■
「だが、悪夢ではなかった?」
黙って聞いていたレゴラスがフロドを見つめながら尋ねた。
羞恥に顔を染め泣きそうな顔をしながら、フロドはコクリと小さく頷いた。
「その後、何度も何度も・・・」
そのうちフロドは眠るのを怖れて不眠症になった。
毎夜夜這いのように訪れる現象を誰にも相談できなかったのだ。
フロドの憔悴に周囲の者たちの心配が頂点に達したとき。
ガンダルフがホビット庄を訪れた。
「随分、都合の良いときに登場したものですね」
レゴラスはチラリとガンダルフに視線を送った。
「禍々しき気配を感じたからじゃ。杞憂かもしれぬと思ったがビルボを訪ねた。そしたら・・・」
フロドにはめられた金の指輪。
それに魔法使いの呪いがかかっていることは一目でわかった。
魔法だけならばガンダルフにも解呪できた。
しかし、呪いはある男の妄執を糧として成り立っていた。
その妄執が強力すぎて、どうにも出来ぬほどやっかいな代物だったのだ。
「フロドの指輪にかかっている呪いはフロドの存在を知る、といったものじゃった。
どこにいても何をしていても、フロドを逃すことなく一動一挙知ることが出来る。」
「覗き見趣味、ということですか。悪趣味な。」
「だが問題は呪いでなく妄執の方じゃ。フロドと捕らえて離さない、婚姻を結び必ずすべてを己の者とする、という強力な執着心。」
「最低ですね。自分の感情を相手に強要するような者は下種だ。」
レゴラスは不快そうな表情で吐き出すように言った。
恋情というのは執着や独占欲を生む。
しかし、それも過ぎれば醜悪でしかない。
この小さなホビットがそんな汚らしい妄執に身も心も晒されてしまったなんて、吐き気がするほと胸がむかつく。
会ったばかりのホビットの身の上話を聞いて、どうしてこんなにこのエルフが怒っているのか、サムは少し不思議だった。
自分だって知ったときは心底腹が立った。
フロドを知らない人が聞いても良い気持ちはしないだろう。
だが、まるでサム自身が話を聞いたとき以上の感情で、レゴラスは怒っている。
レゴラス自身にはその自覚はないようだが。
「で?どうしてこのような姿に?」
今までの話の内容では、フロドのこの小さな姿の説明にはなっていない。
それに人形のように小さくなったフロドの指に金の指輪ははめられていなかった。
「指輪はここにあります」
チャラ、と金属の音がして、フロドが首にかけられていた鎖を引き出した。
その先には小さい小さい金の指輪が通されている。
「フロドの体の大きさに合わせて指輪も縮んだのだ。」
「だから、なぜ体が縮んだのです?」
このままではフロドの身が持たないと、解呪を試みた。
慎重に慎重に呪いの内容を解読して、出来る限りの魔術を使って解呪したのだが。
「指輪ははずれたが、指輪はフロドから離れるつもりはないらしくてな。
フロドに新しい呪をかけたのだ。指輪がフロドから離れれば離れるほど体は縮む。
首にかけておくくらいが限界じゃ。これ以上離すと消滅しかねぬ。」
「でも、それでは・・・」
「ひとつめの呪いは解けた。指にはめない限りフロドの存在をサウロンへ伝えることはない。
それにわしの魔法によってパランティアからもフロドを隠しておる」
そう言いながらガンダルフの眉間の皺が深くなる。
サルマンの呪いを解いたことにより、指輪自身の呪いが発動したのだ。
それもこんな風に体に異変をもたらすほど強力な呪いが。
「このままではフロドがもたない。指輪が傍にある限りなんらかの呪いがフロドの身に降りかかる。
そこでガンダルフが指輪を葬り去る方法を探す間に、サムがフロドをホビット村から連れ出し、
その後私が彼らを保護し、呪いと一番縁が遠いこの地に連れて来ることになった。」
ガンダルフの言葉を引き継いでアラゴルンが言った。
旅の途中でも、サウロンの部下であるナスグルが闇夜を徘徊し何かを探す姿を何度もみかけた。
それを避けながらようやく昨夜、この裂け谷に辿り着いたのだ。
ようやく呪いを解く方法をみつけたガンダルフが此処に辿り着いたのも一昨日。
そして今日、今後どうするべきか話し合いをすべくこの場に皆が集まったのだった。
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