■ちちゃフロ物語(3)■
 
 
 
フロドたちと伴ってレゴラスが姿を現したことにガンダルフは驚いて目を見張ったが、何も言わなかった。
既に気まぐれな訪問者の存在を知っていたであろうエルロンド卿は小さく溜息を吐いたが、普通に挨拶を交わす。

フロドを手に当たり前のように席についたレゴラスを追い払うことはもはや無理なようだ。
初対面であるはずのフロドもなぜか警戒心も持たず、レゴラスの手の中にある。
ガンダルフはレゴラスの様子をチラリと見た後に少し呆れて眉を微かに寄せたが、そのまま無言で、立ったままのアラゴルンとサムに椅子に座るようにと促した。

一同が席に着くと、ガンダルフはぐるりと見回した。
エルロンド卿へいきなりの訪問の非礼をわびた後、おもむろに話し始める。

「アラゴルン、サム。よく無事にフロドを此処まで連れて来てくれた。危険も多々あったことじゃろう」


ガンダルフの依頼を受け、サムはフロドをホビット庄から連れ出した。
途中危険なことはなかったが、流石に仔馬亭に近づく頃には身辺に怪しい気配を感じられた。
だが、仔馬亭にはアラゴルンが待っていて、その気配を追い払ってくれた。
と、サムは語った。
その後、避谷まで安穏無事というわけにはいかなかったが、アラゴルンの活躍によって此処まで辿り着けたのだった。


「指輪の気配を探しているといった感じで、標的として私達を見つけ出せたわけではなかったのが幸いした」
「そうか。わしがかけた魔法は破られなかったようじゃな」

アラゴルンの言葉を受けて、ガンダルフは安心したように軽く頷いた。

「しかし、このままではいつかは破られる。」
「ど、どうしたら・・・」

不安げに問いかけるサムをガンダルフは労わりの色の瞳でみつめた。

「指輪を葬りさるのじゃ。」
「葬りさる?」
「そうじゃ。その呪いの指輪はちょっとやそっとのことでは葬りされぬ。強い妄執が宿っているからのう。」
「妄・・・執」
「その妄執の炎を消せるのはそれ以上の炎の力が必要じゃ。そう・・・滅びの、火の山に捨てるしかない」

滅びの山、と聞いてサムとフロドは身をぶるりと震わせた。
怖ろしい道のりの果てにある、火の山。
マグマと溶岩に満たされた悪しきものの集まる、この世の地獄。
そういう、噂を小耳に挟んでいたのだ。
エルロンド卿やアラゴルンさえ、眉を顰めて険しい表情を浮かべた。

そんな空気を散らすように軽やかな声が沈黙を破った。

「私には話がみえないんだけど・・・ちゃんと筋道を立てて説明してくださいませんか?」

軽く小首を傾げるレゴラスに他の全員の視線が集まった。
今この場でレゴラスだけは何も知らずにいるのだ。
しかし、それは仕方がないこと。
エルロンド卿以外はみな当事者だ。
そのエルロンド卿にはこの地に集った理由を前もってガンダルフから伝えてある。
だが、レゴラスは先程偶然フロドに会っただけの・・・完全なる部外者なのである。
この場にいる方がおかしい。
おかしいのだが・・・なぜが誰も文句を言えない雰囲気をこのエルフは醸し出している。

「あの・・・」

フロドが自分を手の内に納めているレゴラスをそっと見上げた。
その視線を受けてレゴラスはにこりと微笑んだ。

「滅びの山、とは穏やかでないね。私に手助けが出来るならなんでもしてあげましょう。」

だからフロド、とレゴラスは説明をフロドに求めた。
フロドは綺麗なエルフの瞳を覗き込んで、じっと見つめた。
彼の真意がどこにあるのか、なんなのか、真実を見極めようとしたのだ。
だが、レゴラスから伝わってくるのは彼の言葉の通りのもので、悪意も他意も何もないように感じられた。

確認をとるためにガンバルフにチラリと視線を送ると、諦めたような表情で小さく頷いた。
こくり、と唾液を飲み込むと、フロドは自分の身に降りかかった出来事をゆっくりと語りだした。
 
 
 
 
 

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