■ちちゃフロ物語(2)■
 
 
 
「隣に座ってもいいですか?」
「あ、どうぞ」

フロドが席を譲るように身体を少しずらした。
だが、小さい彼が動かずともレゴラスが座る余裕は悠々にある。
フロドの仕草をみてレゴラスは、今はとても小さいが本当であれば普通のホビットと同じ大きさの体を持っていたのではないか、と思った。

「この庭園はとても美しくって・・・私のお気に入りなのです」

楽しげで歌うようなレゴラスの言葉を聞いて、フロドは隣に座るエルフをまじまじとみた。
この裂け谷に来て、まだ一晩しか経っていない。
なので、エルフ達とはほとんど顔をあわせていないのだが、このレゴラスというエルフは今までみた誰よりも美しいと思った。
優しげな容姿と、陽に輝く金糸の髪に新緑の瞳。
女性的では決してないのに整った顔はどんな女性でも敵わないのではないかと思うほど綺麗だ。
なぜだか顔が熱くなり頬が赤く染まるのを感じる。
これ以上見たらどうにかなってしまうような気がして、慌てて顔を背けた。

「僕もとても綺麗だと思います。裂け谷に来たばかりですが、この場所はなんだか凄く落ち着きます」

フロドの視線が外れたのを感じて、レゴラスは横目でフロドをみた。
この小さい人は男だ。たぶん成人もしているだろう。
だけど、やはり綺麗で可愛らしいと思ってしまう。
なんとも言葉に言い表せない、今までにない感情が胸に満ちてくるのを感じた。

フロドがチラリと視線をあげてレゴラスをみる。
すると同じくフロドをみていたレゴラスと視線があってしまいドギマギするが、
にっこりと優しく微笑むエルフにつられてフロドも恥かしげだが花が咲くように微笑んだ。

ふたりは何気ない言葉を交わして笑い合った。
はじめて会ったというのに旧知の仲のような、なんだか不思議な感情が沸いてくる。
一緒にいられるのを、触れ合いそうなくらい隣にいることが嬉しいのだ。

「フロド様!!!」

驚きを乗せた大きな声。
それが、ふたりの間に作られた不思議な空間を一瞬にして散らした。
声の方向を向くと、ホビットらしい青年が必死な様子で駆け寄ってくる。
フロドの横に見知らぬ人物がいるので慌てたらしい。

「大丈夫だよ、サム。そんなに慌てないで。」

苦笑を乗せた声でフロドがそのホビットに言った。
フロドの言葉にホッとした表情になったが、隣に座るエルフへの警戒は残っている。

「レゴラスではないか」

サムの後ろから現れたアラゴルンが呼びかけるのをみて、サムはようやく肩の力を抜いた。

「久しぶりだね」
「あんた、どうしてここへ?」
「理由がなくちゃ来てはいけないの?」
「・・・・・・そうだったな」

微笑んで応えるエルフにアラゴルンは小さく溜息を吐いた。
エルフらしからぬこのエルフは放浪癖がある。
理由もなく、好きなときに、好きなだけ旅を続け、好きな場所へ顔を出すのだ。
アラゴルンはレゴラスから視線を外し、その横に座るフロドをみた。

「フロド、ガンダルフが呼んでいる。行こう。」
「あ、はい。」

フロドが背筋を伸ばしてその場から離れるような仕草をした瞬間。
ひょい、と優しく持ち上げられた。
驚いたフロドがその手の主を確認すると、なんとレゴラスであった。

「ガンダルフも来ているの?では私も挨拶に行こう。」

立ち上がりながら手の中のフロドにニコリと笑いかける。

「誰かに運んで貰わなくては行けないよね?それとも、こんな風にするのは失礼かな?」
「あ、いいえ!」

驚いたが嫌じゃない。
こんな綺麗なエルフの手の中にいると思うと恥かしくてドキドキするけど、なんだか嬉しい気分になる。
レゴラスは大事そうに両手の中にフロドを納めると、スタスタと屋敷に向かって歩き出した。
迎えに来たはずのサムとアラゴルンにさっさと背を向けて。

警戒心もなく、大人しく出会ったばかりのエルフの手の中にあるフロドに驚きつつも。
久しぶりに見た嬉しそうな表情にふたりは仕方がないと諦めて、レゴラスの従者のようにその後に続いた。
 
 
 
 
 

(3)へ
 

   
  
 ■なかがき■
手乗りのちっちゃなフロド。
私もダッコしたい♪

それにしてもこのふたり、出会ったばかりなのに
なんだか無意識にラブラブしてますね(笑)

 
   

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