■恋人の証明(2)■
 
 
 
裂け谷で出会って、彼はすぐに心の中へ滑り込んできた。
一緒にいたいと思い、守りたいと思った。

旅の間に彼の存在は益々大きくなっていった。
命に替えても守りたいと思い、自分にだけ微笑みを向けて欲しいと思った。

はじめはその意味を掴めないでいたが、ある日突然にその意味を知った。
強い独占欲と激しい恋慕。
長い間生きてきていて初めて経験することだった。

彼の運命の重荷はよく理解していた。
だから、この気持ちは抑え付けてただの仲間として共にいようと決心したのに。
思ったよりも自分の決意は脆く理性は儚かった。

でも、彼はそんな自分の心を受け入れてくれた。
恥ずかしそうに俯きながら「僕も同じです」と応えてくれた。
天にも昇る幸福感。
決して不幸にしないと、心から大切にすると誓った。

彼がひとりで旅立って焦燥感と恐怖に満ちた日々を送った。
でも、すべてが終わって。
還ってきた彼をみて、彼を還してくれた何かに心底感謝した。

心から愛している。
何者にも替え難く、彼のためならこの命さえ惜しくない。
いつでも笑っていて欲しい。いつでも幸せでいて欲しい。
大切に大切にして、もう決して苦しい思いはさせない、と思っていた。






フロドとの出会いから今までのことに思いを馳せながら、レゴラスは馬を走らせていた。
フロドの言葉、フロドの笑顔、すべてがまるで昨日のことのように思い出せる。

腕の中に愛しい人が眠っている。
自分がいまどんな状態でいるかも知らず眠り続けている。
フロドを眠らせた眠り草の効き目は3日。
その間にとにかく遠くまで連れ去らなければいけない。

レゴラスはただひたすらにホビット庄から離れるため馬を走らせ続けた。






フロドがホビット庄に帰って随分経った。
会いに行きたいのは山々だったが、なかなかその機会は与えられなかった。
アラゴルンによって保護された彼の地には余所者は勝手に入り込むことは許されていなかったのだ。
だが、いつまでも我慢できるものでもない。
それによく考えればエルフの自分に人間の掟を守る謂れはないのだ。
自分に与えられた役割が一段落したら、誰が何を言おうがフロドの元へ飛んで行こうと思った矢先。
ある会話を耳にしてしまった。

アラゴルンに用があって彼の部屋へ向かう途中。
遠くから「フロド」という名前が聞こえた。
エルフの耳はとてつもなくいい。聞こうと思えば遠くの会話でも聞くことが出来る。
足を止め耳を澄ますと、どうもその声はアラゴルンのようであった。
誰かと会話をしている。
顰めるように小さい声なのでどうしても聞き取り難く、レゴラスは目を閉じて神経を集中させた。

「フロドからの手紙には・・・」
「・・・彼は結婚するそうだ、これはめでたい・・・」
「命をかけた指輪の旅で苦労したからな・・・幸せになって欲しい」
「祝いは何かを届けさせよう。出席するわけにはいかないからな・・・」
「・・・レゴラス?・・・彼には知らせぬ方がいいだろう。」
「知ったら最後、何を仕出かすかわからないからな・・・」
「気の毒だが、式が終わったあとに知らせるがよかろう・・・」

途切れ途切れで聞こえてきた会話の内容にレゴラスは驚愕した。
目を大きくあけて呆然とその場に立ち尽くす。

何度も何度もいまの会話を反芻する。
間違いなく、彼らはフロドが結婚すると言ったのだ。
そしてそれを自分に知らせるな、と。
知ったら最後、自分が何を仕出かすかわからないから、と。

そう言ったのだ。

おかしいと思った。
何かの間違いだと思った。
だって、彼の恋人は自分のはずだ。
自分は彼を愛しているし、彼は自分を愛している。
愛されていることに疑いを持ったことは一度としてない。
そこまで考えて、レゴラスはある事実に気がついてハッと息を呑んだ。

彼が、自分の愛を疑っていたとしたら?
愛されていないと、または優しさからくる同情に近い愛情だと、思っていたら?
彼にそんな言葉を吹き込む人物は少なからずいる。
実際に惑わすようなことを言われて、フロドは最後の夜に自分の部屋を訪ねてきたのだから。

あのときの自分の対応は間違っていなかっただろうか。
言葉と態度で愛を伝えたが、それはきちんと伝わっていただろうか。
もし。あのとき間違ってしまっていたのなら。
彼は、レゴラスのフロドへの愛情を疑って、恋人の位置から降りてしまったのかもしれない。

背筋にぞくぞくと寒気が走る。
今まで気がつかなかったけど、もうフロドは自分のものではないのかもしれない。
頭をブンブンと振って、そんな考えを振り払おうとしたが。
アラゴルン達の会話が、すべてを証明しているようで。
どうしようもない焦りと恐怖が湧いてくる。

フロドに確かめなければ。
フロドの口から間違いですよ、という言葉を聞かなければ。
レゴラスは踵を返すと誰にも何も告げず、ミナス・ティリスを後にした。






そして、フロドと再会し、フロドの応えを聞き。
レゴラスは彼をそのまま連れ去ったのだった。
 
 
 
 
 

(3)へ
 

   
  
 
   

戻る


 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル