■恋人の証明(3)■
 
 
 
ミナス・ティリス最後の夜。
フロドはある決心をかためてレゴラスの部屋を訪ねた。

コンコン。
と控えめに扉を叩く。
周りに聞こえてしまうのが恥ずかしくて、小さく叩いた音だったけど。
エルフの耳には充分な大きさで、誰何の声もなく扉はゆっくりと開かれた。

「フロド・・・こんな時間にどうしたの?」

夜着姿のフロドはじっと俯いて顔をあげない。
何か言いたいがなんと言っていいのかわからない、という態度だった。
だが、ピンとたった耳は夜目でもわかるほど紅く染まっていて、真っ赤な顔をしているのだろうということはすぐにわかった。

「どうぞ、入って」

レゴラスはフロドの肩に軽く手を添えて、部屋の中へ導いた。
触れられた瞬間にビクリとフロドが震えたことに気がついたが、気がつかぬ振りをして扉を閉めた。
視線を下げるとフロドの柔らかそうな髪が見える。
そこから飛び出ている耳は赤く、うなじまで染まっている。
上から見下ろすレゴラスには、浮いた夜着の隙間がよくみえて、フロドの白い胸元が覗きこめた。
ゾクッと背筋を走った欲望を理性で押し込めながら、レゴラスはフロドを椅子に座らせた。

「どうしたの?フロド?」

レゴラスは優しい声色でもう一度聞いた。
それまでじっと俯いていたフロドだったが、息を大きく吸い込むとぐっと顔をあげた。
大きな蒼い瞳でレゴラスをみつめる。
強い意志と決意を乗せた瞳はとても煽情的だった。

「レゴラス、僕は明日ホビット庄に帰ります。」
「うん。」
「当分会えなくなります。」
「そうだ・・・ね。寂しくなるよ。」
「だから・・・」

フロドは言葉をとめた。
決心はしているものの、なかなか言葉にしにくい、といった様子だった。

「だから?」

レゴラスが優しく微笑んでフロドをみつめる。
その揺れる瞳からレゴラスもまたフロドと離れたくない、と思っていることは一目瞭然だった。
フロドはコクリと唾液を飲み込む。

「僕は貴方を愛しています・・・貴方は・・・?」

今まで愛を何度も囁いてきたが、フロドからこんなにはっきりと聞かされたことはなかった。
レゴラスが今の台詞と同じことを言って、フロドから言葉を引き出していたのだ。

「もちろん、愛しているよ・・・どうしようもないくらい」

疑うことは許さない、という力を込めてフロドをみつめる。
今抱きしめたらフロドをホビット庄に帰したくなくなる。
闇の森へ連れ去ってすべてのものから隠してしまいたくなる。
だから、最後の夜だというのにレゴラスはフロドの部屋を訪ねなかったのだ。

「僕は貴方と離れるのは寂しい・・・寂しくて寂しくて狂ってしまうかも・・・」
「フロ・・・ド」

思いもしなかったフロドの言葉にレゴラスは驚きと共に喜びが心の奥から湧き上がってくるのを感じた。
愛しく恥ずかしがり屋な恋人がこんな甘い言葉を紡いでくれているのだ。

「だから・・・レゴラス。離れても寂しくならないように・・・」

立ち上がったフロドはレゴラスの胸の中に飛び込んできた。
軽くて小さい躯を両手で包み込む。
胸に押しつけられた顔を頤を持ってあげさせる。
潤んだ瞳とピンク色に染まった白い顔。
微かに開いた唇の奥に誘うように小さな舌が見えた。

レゴラスはフロドを思いっきり抱きしめると、その唇を吸った。
はじめから遠慮なく舌を差し込み、小さな舌に絡ませる。
レゴラスを受け入れるために大きく開いた唇を激しく貪る。
ピチャピチャと淫らな水音が響き、絡み合う舌から痺れるような快感が躯を貫く。
角度を変えながら深い口付けは長く続いた。

つうっ、と銀糸が橋をつくり離れた唇をしばらく繋いでいたが
弾けるように切れて小さな飛沫が落ちていく。
荒い息の中、ふたりは強く抱きしめあっていた。

「レゴラス・・・お願い・・・」

フロドは両手をレゴラスの首に廻すと強く抱きついた。
そしてその耳元で小さいがはっきりと甘い吐息に混じらせて囁いた。

「僕を抱いて・・・ください」

レゴラスは一瞬何を言われたのか理解できずに硬直してしまった。
だがすぐに我に返ると小さな体を抱き上げ無言で寝台へ近づいた。
フロドがギュッと抱き付いてくる。
恋人の甘いおねだりはレゴラスの理性を霧散させるには充分だった。
フロドを寝台へ横たえると、そのうえに覆いかぶさる。
そして再び、小さな唇を貪りだした。

「ずっと・・・我慢してた・・・本当に、抱いて、いいの?」

口付けの合間に問いかける。
フロドと心が通じて恋人同士になったとはいえ、未だ躯を繋げたことはなかった。
お互いの手や口で昂ぶりを開放しあったことはあったが、それも片手で数えられるほど。
あとは抱きしめ合ったり、口付けたりする、恋人同士の戯れ程度の接触しかなかった。

「抱いてください・・・レゴラスが・・・嫌じゃ・・・なければ」

男同士なのに恋人の関係になって。
戸惑っていたのはフロドだけではなかった。レゴラスもまた戸惑っていたのだ。
抱きたいという気持ちは強くあったが、それをフロドが望むとも限らない。
男として同性に抱かれたい、とは思わないのではないか、と思っていたのだ。

フロドもまた、自分の湧き上がる気持ちに驚いていた。
レゴラスを愛している。愛しいと思うし、彼を思うと躯が昂ぶる。
でも、抱かれたい、とは思わなかった。
男としてそんな欲望はありえない、と思っていたのに。
離れることになって、寂しいと感じて。
自らすべてでレゴラスの何もかもを取り込みたいと思ったのだ。

抱いて欲しい、と。
まるで女性のような欲望を持て余していたが、もう男としてのプライドなんかどうでもよくなった。
レゴラスが欲しくて。
自分のものであるという確かな証拠が欲しくなってしまったのだった。
 
 
 
 
 

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 ■なかがき■
時間軸がアッチコッチに飛んで、内容がわかりづらくってスミマセン。
今回から数回は過去の出来事です。
   
   

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