■恋人の証明(1)■
 
 
 
コンコン。
扉を叩く音が聞こえたような気がしたが時間はもう零時近くで人が訪ねてくるような時間帯ではない。
風で枝が何かに当たったのだろう、とフロドは気にもかけない。

旅の記憶は辛くて苦しいことが多すぎた。思い出すのも憚れるほど。
だからなかなか書き出せないのだが、一度書き出すと止まらなくなる。
寝食を忘れて、リアルに蘇る長く辛い旅の記憶を文字として紙へ写していくのだ。
今がまさにその時で。
フロドは一心不乱にペンを走らせ続けていた。

結婚式が近い、ということもペンをとろうと思った一因でもあった。
一度は諦めた命。
故郷の還ることも愛する人に再び会うことも出来ないと思っていた。
でも、今ここに、このシャイアに自分達はいて。
そして念願の愛する人と婚姻を結ぶことになった。
運命がどのような道筋を通るのかわからない、としみじみと感じたことが
旅の記録を文字として残すという意欲を引き出したのだった。

コンコン。
今度は先程より強く扉が叩かれた。
その音に人の意思を感じてフロドはようやく顔をあげた。
確認のため時計に目をやると、もう零時はまわっている。
こんな時間に訪問してくる非常識な人物には心当たりはない。
それでも叩かれ続ける扉の音に、フロドは小さく溜息を吐き椅子から降りると扉へ向かった。

「こんな夜分にどちら様ですか?」

扉は開かずに訪問者へ尋ねる。
こんな時間に来られるのは迷惑だ、という意思を乗せた不機嫌そうな声色で。
フロドの問いかけと同時に扉を叩く音はやんだが、返事はない。
じっと立ち尽くし相手の出方を待っていたが、何の反応も返ってこない。
大きく溜息を吐いて、もう一度声をかけた。

「たいした用件でないのなら明日にしてください。」

そのまま踵を返して部屋へ戻ろうとしたフロドの耳に聞こえてきた声。
言葉としての形はとられていなかったが、その声には聞き覚えがあった。

「え?」

まさか、その人物が此処にいるとは思えない。
というか、いるはずはないのだ。
それなのに聞こえた来た声はずっと聞きたくて聞きたくて、そして聞きたくなかった声。
驚きの声を発して振り返ったフロドはそれが空耳でも勘違いでもないことを知った。

「私です、フロド。扉をあけてください。」

フロドは扉へ駆け寄ると、ガチャガチャと音を立てて鍵を外しにかかった。
いつもなら簡単に外れるはずの鍵は、慌てているためか気が競っているためか、なかなか外れてくれない。
それでもようやく、いつもの倍以上の時間をかけて外し、扉を大きく開いた。
飛び出すようにフロドが一歩踏み出すと、そこには大きな影が立っていた。

ホビッ庄にはホビットしか住んでいない。
こんなに大きな人物は存在しないのだ。
フロドは相手の顔を見極めようとその人物を見上げた。
黒いコートを羽織り、すっぽりとフードを被ったその人物は闇を背負って闇に同化している。
しかし、黒いフードに象られた顔は白く、隙間からは闇夜でも見事なほど輝いている金糸の髪が見え隠れしていた。

「レ・・・レゴラス・・・」

思いもしない突然の訪問にフロドは喜ぶより感激するよりも、驚きのあまり呆然としてしまっていた。
名前を呼ぶ声も細く震えて信じられないといった声色だった。

そんなフロドの様子にレゴラスの眉間に軽く皺が寄る。
元より機嫌のよさそうな顔はしていなかった。
何か思いつめたような、怒っているような不機嫌そうな表情だった。
今までのレゴラスなら、すぐさまフロドに抱きついて再会を喜ぶことだったろう。
だが、彼はそれをしなかった。
いつもと違うレゴラスの様子に、フロドはまったく気がつかなかった。
あまりの驚きに自分のことだけで精一杯だったのだ。

レゴラスとはミナス・ティリスで別れたきりだった。
再会の約束はしたが、いつときちんとした約束は成されなかった。
その後、文のやり取りは行っていたがレゴラスが訪ねてくるなんていうのは書かれていなかったのだ。

「フロド」

小さいが、力の篭った強い声で名前を呼ばれ、フロドはやっと我に返った。
目の前のレゴラスをみて、自分は夢をみているのではないかとフロドは思った。
本を書いている途中で眠ってしまって。
いつの間にか夢の中へと入り込んでしまっていたのではないかと。

「貴方に聞きたいことがある。」

部屋へ入り込むこともせず、扉の前で微動だにせずレゴラスは言った。
硬い声には怒りと縋るような色が微かに篭っていた。

「結婚すると・・・聞いたのですが。本当ですか?」

聞かれた内容にフロドは目をぱちくりさせた。
そして、ああそうか、と納得もした。
結婚式のことを手紙でアラゴルンに知らせたのだ。
たぶんレゴラスはその代表で祝いを延べに来てくれたのだろう。
夢でもなんでもなく、本物のレゴラスがいまこの場にいる。
それに気がついて、フロドはとても嬉しくなった。

「本当ですよ。そんなところに立ってないでどうぞ入ってください。貴方には天井が低いかもしれませんが・・・」

破顔したフロドは体を引き、レゴラスを室内に招こうとした。
が、次の瞬間に意識を失って床に崩れ込んだ。
自分に何が起こったのか気がつかないまま。

足元に倒れたフロドを無言でレゴラスは見つめていた。
その目は暗く冷たく光っている。





その日からフロドはホビット庄から姿を消した。
書斎の机のうえには書きかけの本が開いたままで。
用事でちょっとその場を離れてはいるが、すぐに戻ってくる、というような室内の状況なのに。
いつまで経ってもフロドは帰って来なかったのだった。
 
 
 
 
 

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 ■なかがき■
今回は珍しくシリアス風味でいきま〜す
エロくしたいけど・・・予定は未定。(笑)
トロトロ〜と続けていきたいと思ってマス。
 
   

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