トントン。
控えめに扉が叩かれる。
いつもこの時間、やって来るのはあの美しいエルフ。
生還して養生中のフロドの見舞いに、毎日花だの菓子だの果物だのを携えてやってくるのだ。
「どうぞ。」
いつものようにフロドは体を起し、訪問者に扉をあける許可を与えた。
 
 
 
■Kiss Me(前編)■
 
 
 
ゆっくりと扉が開き、部屋に入って来た人物をみてフロドは目を見開いた。
予想していた人物でなかっただけではない。
現れたのは思いもしなかった相手だったのだ。

生きているか死んでいるかもわからない。
最後に別れて暫くは彼の行く末を心配していたが、次第に指輪に蝕まれて
そのうち思考から彼のことを追いやってしまっていた。
モルドールの火の山から奇跡的に生還できて。
目覚めて数日が経った頃、今いる場所がミナス・ティリスだと聞いてやっと彼のことを思い出した。

自分達を放てば死刑になる、と部下に言われていた。
それでも構わない、刑を受けよう、と彼は言っていた。
自ら死の道を選んででも、自分達を指輪を捨てる旅に放してくれた彼。

あのときの言葉の通り、法を破った者として処刑されてしまったのか。
それとも罪を免れて無事に生きているのか。
誰かに聞けばもしかしたら彼の消息を知っている人がいるかもしれないと思いつつ。
どうしても怖くて確認することが出来なかった。

その彼が。
今、自分の前に立っている。

「ファラ・・・ミア・・・」

驚いた表情で自分の名前を呼んだフロドにファラミアは柔らかく笑いかける。
先の戦いで重症を負った身には、まだ痛々しく包帯が巻かれているが元々強靭な肉体を持つ戦士だ。
その足取りはしっかりしたものだった。

「フロド、久しぶりだな。元気そうでよかった。」

近づいて来るファラミアからフロドは視線を離せない。
寝台の横で立ち止まったファラミアを見上げて、声を聞いて。
ようやく彼が亡霊でも他人の空似でもなく、本人だということを認識した。
震える手をファラミアに向かって差し伸べる。
フロドの様子を少し困った笑いを浮かべながら見守っていたファラミアだったが
自分に向かって伸ばされている小さな手みて、自らもフロドに向かって手を差し伸べた

フロドの小さな手が恐る恐るファラミアの大きな手に触れる。
そっと両手で握ると暖かい体温が伝わってくる。
生きている証。血の通っている証拠。
フロドはようやく嬉しそうに微笑んで、ファラミアの手を強く握り締めた。

「生きてたんだね、ファラミア。よかった。」
「フロドこそよくあの滅びの山から無事に戻った・・・再び会えて嬉しいよ。」

別れたときのフロドは指輪からの影響を受けはじめていた。
指輪を捨て去るという強い意思のみが、指輪の支配を跳ね退けていたのだ。
精神的な危うさを感じない訳ではなかったが、あの強靭な意志のある蒼い瞳が印象的だった。
その印象は今でもそのまま残っている。
だがあのときの焦燥や切羽詰った色が拭い取られ優しい雰囲気を纏っているフロドに
ファラミアはフロドが指輪の呪縛から放たれたことを実感した。
その代わり、その身はとても痛々しかった。
痩せて一回り小さくなった身体に巻かれている包帯や沢山の小さい傷跡。
こんな小さいホビットが世界の運命をかけて苦難な旅を続けたのだと、
あの恐ろしい指輪を葬り去り平和な世界を取り戻したのだと思うと、
体の奥から感動や感謝に似た熱い何かが込み上げてくる。

ファラミアは寝台の脇に膝をついた。
自分の手を握っているフロドの手ごと引き寄せる。
そして反対に小さな手を両手で包むように握るとゆっくりと唇を寄せた。
小さな手の甲に感謝の念を込めて口付ける。

「貴方の勇気と無事に・・・心より感謝する」

ファラミアの口付けと言葉に少し驚いたフロドだったが
握った手と唇の温かさに彼の生を感じて嬉しさが込み上げてくる。
改めて見てみるとファラミアはかなり軽装だった。
顔色もあまり良いとはいえず、少し開いた襟元や袖口から包帯が巻かれているのもみえる。
彼もまた何かと戦い傷つき、その中でも命を永らえたのだろう。
ファラミアの手からゆっくりと自分の手を引き抜く。
跪きほとんど同じ高さにあるファラミアの頬を両手で覆う。
抵抗もせずされるがままのファラミアは少し疑問の色を乗せてフロドの蒼い瞳を覗き込んできたが
フロドは微かに微笑んで何も言わずに、その顔を引き寄せた。
触れ合わんとするまで引き寄せると、フロドはちょっと背を伸ばし顎をあげ。
ファラミアの額にまるで鳥の羽が触れるように、そっと優しく口付けた。

「僕も・・・貴方が生きていてくれて、もう一度会えることが出来て・・・本当に嬉しいです。」

フロドの口付けと言葉を受けてファラミアも嬉しそうに微笑んだ。
添えられた小さな手が、目の前にある小さな体が、ゆっくりと離れていくのを少し残念に思う自分にファラミアは少し驚きながらもフロドと見詰め合った。

「ありがとう、フロド・・・」
  
お互いいろいろあった。命をかけた日々だった。
そして今。お互い無事に再会出来て心底嬉しく思った。
 
 
 
 
 

後編へ
 

   
  
 ■なかがき■
ファラフロではありませんよん。レゴフロです。(笑)
ちゃんとレゴラスは登場しますヨ。後編にね。

ファラミアも好きなんですよね。なんかカワイイ♪
ファラミアとフロドの再会シーンが映画になかったので
こんな感じかな〜とか思って書いてみました。
 
   

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