だって、仕方がない。可愛いのだから。
彼は植物や動物ではない。それはわかっている。
しっかりとした意思を持つ、それも成人している青年。
だから怒られることはわかっていた。
でも、それでも、可愛いのだから仕方がない。
 
 
 
■あいらしき(4)■
 
 
 
フロドの様子に苦笑を浮かべながらレゴラスはゆっくりと手を伸ばす。
そして、ヒョイとその小さい体を抱き上げると。
我慢出来ない、というように力いっぱい抱きしめた。

「ああ、フロド!可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

ぎゅうぎゅうと苦しいほど抱きしめられて、思いもよらないことを言われて。
レゴラスの腕の中でフロドは元々大きい瞳を、これ以上ないというほど大きく見開いた。

「この抱き心地!!この柔らかい髪!!ああ、肌もすべすべで・・・可愛い過ぎるっ!」

頬をスリスリし髪をくしゃくしゃと撫でながら、レゴラスはギュッギュとフロドを抱きしめ続ける。
いきなりの展開にフロドはただ驚くばかりで言葉も出ない。
綺麗な綺麗なエルフに抱きしめられるのはどきどきするけど嫌ではない。
レゴラスの言葉の意味はまだ脳まで届いていないが、悪意のある言葉ではない。
避けられて嫌われていると思っていた。
自分とは一線を引いて接触していたレゴラスがこんな風に抱きしめてくるなんて思いもしなかった。
だがそんなことよりも、レゴラスのこの豹変ぶりにフロドはついていけなかったのだ。

「嗚呼、なんでこんなに可愛いんだ。私が今までみてきたなにものにも勝る。」

頭を撫でながら抱きしめる腕の力を少し緩めると、フロドを真正面から見据えた。
間近でみるエルフの美貌に今更ながらフロドの心臓は高鳴り始めた。
信じられないほと整った美しく白い顔。
スラリとした柳眉に深く輝く緑色の瞳。
薄く形の良い唇とサラリと流れる金糸の髪。
そんなエルフに見つめられてフロドの顔に血が昇った。

顔を真っ赤に染めたフロドをレゴラスはうっとりとみつめる。

「この綺麗な蒼くて大きな瞳。ぷっくりとした小さな唇。赤く染まった頬・・・嗚呼、可愛い・・・」

レゴラスはゆっくりと顔を近づけると、柔らかいフロドの頬に優しく口付けた。
そしてそのまま、瞼や額とフロドの顔に口付けの雨を降らせはじめた。

展開についていけなかったフドロだったが。
間近でみるレゴラスの美貌にぼうっとしていたフロドであったが。
ようやくここに来て自分の身に起こっている状況を自覚した。

「ちょ、ちょっと、レゴラス!!何をするんです!!」

再び近づいてこようとするレゴラスの顔を止めるため、フロドは両手でレゴラスの頭を押し返す。
足をバタバタしながら体を捩ってレゴラスの腕から脱出を図った。
突然の抵抗に、うっとりとどこかへトリップしていたレゴラスの腕が緩む。
その機を逃さずフロドは体全体を仰け反らせた。
スルリと体が滑ると重力に引かれるのを感じた。
ドサッと音を立てフロドの体が地面に転がる。
フロドはすかさず体制を整えると、レゴラスの手の届かない場所まで後づさった。

「あ・・・」

腕の中から重さと温かさを失って、レゴラスが小さく呟く。
問いかけるような非難するようなフロドの視線を受けてゆっくりと大きく溜息を吐いた。

「私はね、フロド。・・・・・・綺麗なものや可愛らしいものが好きなんだ。
 まあエルフという種族が全体的にそうなんだけどね。」

フロドをじっと見つめながら言った台詞はこうだった。
突然、関係ないことを話し出したレゴラスにフロドは眉を寄せる。
勇気を持って尋ねたことに答えてくれないどころか話を変えて誤魔化そうとしている。
そう思ったのだ。
だけど。

「でも私の場合はそれが顕著で・・・美しいものもだが、特に可愛らしいものに弱い。
 小さくて可愛らしい小動物に至っては、抱き殺したくなるほどなんだ。
 こう、ギューーーーーーーーーーーッって抱きしめてこうぐりぐりしたくなる。」

目の前の空間を両手で抱きしめて顔を擦り付ける仕草をする。

「綺麗な毛並みを撫でてキスを降らせて・・・ずっと放したくなくなるんだ。」

そう語りながら今は腕の中にいない、架空のあいらしきものを語るレゴラスの表情。声色。
そしてその仕草。
そのすべてがたった今見たばかりのものとまったく同じものだということにフロドはようやく気がついた。

「そこまで僕の好みに合うあいらしき生き物には滅多に会えるものではないのだけど・・・・・・」
「ぼ、僕は小動物じゃありません!」

ようやくレゴラスが言わんとすることを理解したフロドは叫んだ。
自分に綺麗とか可愛いとかいう形容詞が合うとは思わない。
でも人の好みはそれぞれだ。
レゴラスのいう「あいらしき生き物」の定義はレゴラスの主観によるものだろう。
だから、それが自分の持つ何かと当てはまってしまった、という可能性はなきにしもあらずだ。
だが。
自分は小動物などではない。
エルフや人間と比べれば小柄だが、ホビットという種族でそれも成人している男なのだ。
一瞬頭に血が登る。
しかし、次のレゴラスの返事でそれは怒りには変換せずに削がれてしまった。

「うん、わかっているよ。だから近づかないようにしようと思ったんだ。」

困ったように微笑みながらレゴラスはフロドをみつめた。
 
 
 
 
 

(5)へ
 

   
  
 ■なかがき■
かわいいものフェチの王子様〜〜♪
って、阿呆な設定でスミマセン。

いやあ、フロドはホント可愛いと思うのですよ。
あの大きなおめめとか白い肌とかもう絶品ですっ!
というコンセプトで書いた小説なので
このレゴフロは「恋人になる前」というより
「恋になる前」という感じなのデス
      
  

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