もう遠慮しなくていいと思うと気が晴れる。
まあ、これで私のことは理解してもらえただろう。
彼が嫌だと思ってもこればっかりは仕方がない。諦めてもらおう。
だいたいフロドが悪いんだよ。
だって、あんなに可愛いんだから。
 
 
 
■あいらしき(5)■
 
 
 
レゴラスが自ら近づいてくることなどないに等しかった。
そのレゴラスがゆっくりとフロドに近づいてくる。

「君がホビットで、しっかりとした意思を持つ成人した青年だということはちゃんと理解しているよ。
 だから抱きしめたり可愛いなんて言うのは失礼だとわかっている。でも・・・・・・」

レゴラスはフロドの前まで来ると跪き、視線を合わせ蒼い瞳を覗き込んだ。

「でもね、こればかりは仕方がないんだ。第一、ここまで私好みの君が悪いんだよ?」

そういうと、レゴラスは再びフロドを引き寄せる。
フロドがハッと気がついて抵抗しようとしたときは既に思いっきり抱きしめられていた。

「嗚呼、本当に可愛い!!フロド!!!なんでこんなに可愛いんだーーー!!!」
「ちょっ・・・やめてくださいっ、レゴラスーーーー!!」

夜の静寂の中。
ふたりの叫び声が響き渡った。





「なんだ、そんなことだったのか。」

草陰に隠れながらこっそりとふたりの様子を伺っていた仲間達は呆れ返っていた。
ぎゅうぎゅうとフロドを抱きしめるレゴラスと逃れようと足掻くフロドを眺める。
馬鹿馬鹿しい。
と思った彼らを誰も責められないだろう。
彼らは彼らでふたりの様子に心を痛めていたのだから。

「ま、理由がわかってよかったじゃん。」
「そうだな。それに仲悪いよりもよかろう。」
「安心したらおなかすいちゃったよ。」

ぎゃいぎゃいと騒ぐふたりをその場に置いて、みなそそくさと火の元へと戻りはじめた。
「フロド様を助けた方が・・・」
サムだけは心配そうに佇んでいたが。
「ほっときなよ。無視されるよりあの方がマシだとフロドも思うよ、きっと。」
「そうそう、それより、食事、食事っ!」
確かにメリー達の言うことにも一理ある、とサムも思ったのか。
後ろを気にしながらも、ボロミアの手を両方から引いて戻っていくメリーとピピン、ギムリの後に続いた。





火の元から動かず、遠くから眺めていたのはガンダルフとアラゴルン。
先に自分達だけが食事をするわけにもいかず、パイプをふかせながら事の成り行きを見守っていた。
レゴラスとの付き合いの長いふたり。
彼の性癖や好みもだいたい熟知している。
だからこの件に関してもそう心配はしていなかったのだが、フロドの落ち込みように口出しせずにいられなかったのだ。
自分達が教えるよりレゴラス本人に理由を聞いた方がいいと思っていたのでその点は何も言わなかった。
だが。
レゴラスの行動を観察しているうちにあることに気がついてしまった。
アラゴルンが大きく溜息を吐きながら呟いた。

「あれは・・・本来の可愛いもの好き、というレベルを超えてしまってますね。」
「レゴラス自身は気がついていないようだがの。」

長い年月を生きるエルフはどうも恋愛感情というのに少しばかり疎いようだ。
特にレゴラスの場合、性格的、性質的にその傾向が強い。

「まあ、とりあえず・・・このままでよしとしますか。」
「そうだのう。なるようになるじゃろうよ。」

ふう、ともう一度大きく溜息を吐きながら、アラゴルンは遠くでじゃれついている(ようにみえる)ふたりを眺める。
自分が口出すことでもないし、ほっておこう、と思う。
レゴラスにわざわざ指摘してやるほどお人よしでもないしおせっかいでもない。
だいたい種族が異なるうえ同性なのだ。
気がつかずにこのままいた方がお互いの、いや皆のためだろう。

フロドに対する感情を自覚したレゴラスの行動なんて予想はつく。
想像するにも怖い気がするし。本音をいえば想像するのも嫌なのだ。

「おまえさんが気に病む必要はない。まあどうにかなるだろう。」

パイプから口を離すと、フーーと煙を吐き出しながらガンダルフは苦笑しながら言った。
アラゴルンも困ったように笑い返す。

「さあ、食事にしましょう!」
「そうそう、あの人騒がせなふたりは放っておいていいよ!」

賑やかに覗き見集団が戻って来て、ガンダルフとアラゴルンは口を閉じた。
ほんと人迷惑だよ、心配して損した、
などなど、愚痴的な言葉が飛び出すがみんなの顔は晴れやかで。
未だ遠くから時折フロドの叫び声が聞こえるものの、誰も気にせず賑やかに夕食は始まったのだった。




その後、それまでのことが嘘だったかのように。
嬉しそうにフロドに近づくレゴラスと。
兎のようにぴょこぴょこ逃げ出すフロドの姿が。
見られたとか、見られなかったとか。
 
 
 
 
 

end
  
 

   
  
 ■あとがき■
シリアスでもラブラブでもなっくってスミマセン(笑)

「恋」に発展するのはこれから。
でももうお互いに「自覚のない仄かな恋心」を持っている
という感じにしたかったのですが・・・
ちゃんと達成できてましたかね?(笑)

ちまちまと更新で1ヶ月半経ってしまいましたが
最後までお付き合いくださり有難うございました♪

      
  

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