外から差す街灯だけが頼りの暗い部屋の中、濃厚な性の匂いがロッカールームにたちこめている。
 どうせ死ぬのなら、とあらゆる体位で麻紀菜とセックス――いや、「交わる」と言った方がふさわしいような激しさで、二人は互いを求めあった。
 もう、何度麻紀菜の中に出したか覚えていない。
 決して萎えず底無しとも思える精液を吐出し続けたため、マットどころか床までどろどろになるほどだった。
 麻紀菜の精液臭い口にキスをし、舐め、口に膣にアヌスにペニスをねじこみ、射精し、しゃぶられ、挿入し、
すすられ、また射精と、体がどろどろになって溶け合うような激しいセックスだった。
互いの体臭さえもが入り交じり、一体化していた。
最初は触るのにも抵抗があった自分の精液さえも、いつの間にか譲は平気になっていた。
 「辰熊さん」という呼び名はいつの間にか「譲くん」になり、譲も麻紀菜を「篠崎」と呼ぶようになっていた。
「はぁ……」
 憑かれたように麻紀菜の体を貪っていた譲もついに体力が切れ、疲れ果ててマットに横たわった。麻紀菜の方もまた同じようだった。
だがペニスは一向に柔らかくなる様子はない。麻紀菜は譲の上に乗っかる格好でペニスを挿入されたまま、いつでも続きを再開できる体勢でまどろんでいる。
 時計がどこかにいってしまっているので時間はわからないが、間違いなく夜中の十二時は越えているはずだ。
しかし、家に帰ろうという気はまるでおきなかった。
それよりも一秒でも長く、麻紀菜とセックスをしていたかった。
「ねえ、譲くん」
「ん?」
 麻紀菜は譲の首筋に、紅い吸い痕をつけて言った(ちなみに、譲の下半身に集中して同じような印がついている)。
譲も麻紀菜を抱く手に力を込める。押しつけられた柔らかな胸の感触が、なんとも気持ちがいい。
また、股間に力がみなぎるのがわかった。
「譲くんは、サキュバスとインキュバスの関係って知っていますか?」
「さ、さあ……」
「どちらも淫魔なんですけどね」
 麻紀菜は譲の手をそっと振りほどき、上半身を起こした。汗と精液にまみれたバストが、外の明かりを照らしかえしている。
 ぬるり、と何かが譲の中から引き抜かれた。
 譲が抜いた、ではない。
「あ、なん……だ?」
 虚脱と喪失感に襲われて、譲は額に手を当てた。
 奇妙に、冷たかった。
「実はサキュバスは、インキュバスでもある、表裏一体の関係なんですよ」
 腰を深く引いた麻紀菜の股間には、赤黒いグロテスクな陽物がそびえたっていた。
完全に引き抜くと、それはぴたん! と音を立てて彼女の白い肌に張りついた。
「ありがとうね、譲くん。あなたのおチンチン、貰っちゃいました……」
 何が起きたか理解できないまま視線を移して自分の股間を見ると、薄暗がりの中でも、見慣れていたものが無くなっているのが、はっきりとわかった。
 恐る恐る、股間を触ってみた。
 つるつるで、何のでっぱりもへこみも無かった。
「う、うわぁぁぁっ!」
 自分では大声をあげたつもりだったが、かすれるような声しか出てこない。
「サキュバスは、サキュバスとして精を注いでもらって、インキュバスとして女の人にその精を注ぐんです。
昔の女性は、言い訳として浮気相手の子の妊娠をインキュバスのせいにしたそうですけどね」
 麻紀菜は腰を前後に揺すって、生まれて初めて味わうペニスの感覚を楽しんでいるようだった。
「はぁっ……おチンチンって、すごいですね。こうして揺すっているだけでも気持ちいいです」
 つぅ……と先端から透明な汁が幹に沿って袋まで垂れ落ちる。
 彼女の股間は、陰嚢まで存在する完全な男の性器になっていた。
袋の中に納っている睾丸はずっしりと重そうだし、彼女が上下に揺すっているそれは、幼児の腕くらいもあるんじゃないかと思えるほどの凶悪さだ。
 麻紀菜はたまりかねて、幹を自分の手で扱き始めた。
「気持ちいい、気持ちいいですっ! おチンチンが、こんなに気持ちいいなんてっ!」
 たちまち、鈴口から精液が勢いよくほとばしり、寝転がったままの譲の腹部にぼたぼたと滴り落ちた。
「うう……はぁ……すごいです。射精って、とっても気持ちがいいんですね。おチンチンがきゅうって気持ちよくなって……」
 こってりとした粘液の放出はとどまるところを知らない。麻紀菜はしごく手を止めず、恍惚とした表情で射精し続けている。
「やめっ! 篠崎、やめてくれ!」
 だが言葉とは裏腹に、顔にまでかかった精液に嫌悪感を持っていないことに譲は気づき、背筋を寒くした。
すっかり体液に対する認識が変わってしまっている。譲は唇についた精液を無意識に舐め、体の奥底からわきあがってくる不思議な衝動を感じていた。
 全身がまんべんなく白濁液におおわれたところで、麻紀菜の手はようやく止まった。もう、譲は精液でどろどろ。1リットルくらいはありそうな恐ろしい量 だ。
辛うじて顔にはほとんどかかってはいないが、髪の毛にまでべったりと白濁液がこびりついてしまっている。
「あ、は……男の子のオナニーって、女の子とは別の感じで、気持ちいいです。でも、セックスって……もっと気持ちがいいんですよね……きっと」
 麻紀菜は恍惚とした表情を浮かべながら、ゆっくりと亀頭をいじり続ける。
 譲と麻紀菜の視線が合った。
「ねえ、譲くん?」
 ぞくっと背筋に寒気が走った。
「それとも、譲ちゃんでしょうか」
 麻紀菜が上にのしかかってきた。
「しっ篠崎っ! やめ、やめろっ!」
「だめ、ですっ♪」
「……っ!!」
 信じ難いほど力強い手が譲の両手を組ませてがっしりとつかみ、頭の上でマットに押さえつけた。つるりとした丘に先端を押しつける。
麻紀菜がペニスに片手を添えて腰を進めると、入る場所などなかったはずなのに、ずぶずぶと肉根が譲の中へとのみ込まれていった。
「あ、うぁぁぁっ!」
 挿入された瞬間、譲の下半身が内側から蠢いた。
 内臓が暴れているようだった。
 異様な感覚は下痢をした時の感覚が一番近いのだが、それは今まで存在しなかった器官が急速に作られてゆく過程で生じるものだった。
だが決定的に違うのは、彼にとってそれは他に例えようも無い未経験の、それも強烈極まった恐ろしいほどの快感だった。
「んんんんんんんんんんーっ!」
 悶える譲の声は、いつの間にか甲高い少女のものへと変化していた。
「すごい。気持ちいい……です。譲くんに入れられた時も良かったけど、これも――んっ! 違った感じで、とっても……はあ……すごく、いい……」
 一気に突きこむことなく、押したり引いたりしながら、麻紀菜はじっくりと「初体験」を味わっている。
「男の子が、セックスしたがる、の、わかる、気が……します。だって、痛くないし、妊娠もしないし、気持ちいいだけだもの。
こんなに気持ちいいなら、一日中だってセックスしていたい。はあっ……おチンチンが溶けちゃいそう。
譲くんの中が、私のおチンチンをきゅっきゅっと締めつけて、精子を頂戴って言っているみたいです……」
 白濁し、泡立つ股間から、完全に女性の物になった譲の器官が見え隠れしている。
「見てください、譲くん。もう、すっかり女の子になってますよ」
 わずかな時間で、譲の体は驚くほど変化を起こしていた。先程までは男としてはきゃしゃとは言え譲の方が大きかった体も、麻紀菜よりも小さくなってしまっ ている。
「体も小さくなっちゃって、本当に女の子になっちゃいましたね。おっぱいもかわいいです」
 麻紀菜は精液でどろどろになっている譲の胸にしゃぶりつく。
「ああっ! 自分で出した精液なのに美味しいです。甘くて、舌が蕩けちゃいそう」
 淡い色の乳首に精液まみれの唇を押しつけ、くりゅくりゅとこねまわす。
「譲くんのおっぱい、かわいい……小さいけどすごく敏感で、乳輪がこんなに膨らんじゃってます」
 譲の胸に、まぎれもない女性の標(しるし)が現われていた。控え目だが、ふっくらと柔らかで形のいい乳房だ。
「やめ、やめっ! らめれっ!」
「うふぅ……♪」
 麻紀菜は笑いながら譲の抗議をさらっと受け流し、すっかり固くなって陥没状態から抜け出した敏感な突起を執拗に舐め回す。
「んんっ! んぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 譲の体が、海老のように跳ねた。麻紀菜も譲が絶頂に達するのに合わせて、今までで最大の量の精を譲の中に放った。
 逃げる間も無かった。
 体の中に、熱い精液が大量に注がれているのを、譲は確かに感じていた。

「これはね、あなたの精液なんですよ。譲くんは、自分の精液に犯されちゃったの」
「え?」
 麻紀菜は彼の顔を正面から見つめて言った。
「おめでとう、譲くん。あなたもこれで立派な淫魔ですよ」
「うれしくない……」
 無理矢理女にされた上に、女性に強姦されてバージンを失うなんて考えてもいなかった。しかも思いっきり中出しだ。
溢れ出した精液がとろとろと会陰にかけて流れているのがわかる。おまけに、まだ麻紀菜のペニスは萎えておらず、奥の奥までずっぷりと突き刺されている状態 だ。
「って、なんで俺が淫魔に!?」
「だって、淫魔の種を飲んだでしょう? 私もおねぇさまに飲ませていただいたの。退屈な毎日から抜け出せるって」
「俺は……」
 と言いかけて、譲は口ごもった。
 自分は退屈していなかっただろうか? 将来に不安を抱いていなかっただろうか?
 どちらも、NOだ。
「私は兄さんみたいに頭が良くないし、勉強だって……」
 そういえば麻紀菜の兄は超名門高校を出て国立大学に進学し、エリート街道一直線だという話を聞いたことがある。
彼女もてっきり同じ道を進むものだと思っていた。だが、譲達の学校は進学校とは言え、一流校とはいい難い。
しょせん、自分とは頭のできが違うのだと比べることすらしなかったが、彼女にも彼女なりの悩みがあったのだ。
「私は普通のお嫁さんになりたかった……でも、お父さんもお母さんも、高級官僚になればいくらでも相手なんかいるって。そんなの嫌。私だって普通の女の子 だもの」
 麻紀菜の顔は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「えっちなことだって興味ありますから」
「それにしては、エロすぎる」
 譲はきっぱりと言った。
「あいつと……裸で何してたんだよ」
「おねぇさまとですか? もちろん、えっちなことですよ。野外露出って気持ちがいいですね。譲くんも、今度しましょうね」
「きっぱり断る」
 しかし、体の奥が疼く。麻紀菜の呼吸に合わせて、自分の中に入っている麻紀菜のペニスが、ひくひくと蠢く。
それだけで頭が真っ白になりそうなほど気持ちが良かった。そんな譲の感情を読み取ったかのように、麻紀菜が言った。
「セックスって気持ちがいいですね」
「……まあな」
 男と女の両方のセックスを味わうなど、普通はないだろう。
「じゃあ、もう一度……いいえ、譲くんが疲れ果てるまで、私が抱いてあげます」
「いや、いいっ! もう、しなくていいから!」
「遠慮なんかしなくてもいいんですよ」
「してないっ!」
「もう……素直じゃないんですね」
 麻紀菜が腰を動かし始めた。
「譲くんのおま○こ、こんなに……きゅうきゅうと私のおチンチンをしめつけて……とってもいやらしく動いてます」
「あひ……篠崎、だめ……だめだって」
「お尻の穴もほら。こんなに広がってます♪ 次はここのバージンをいただきますね」
「だめだって! だめ、だめぇぇぇ……」
 後の言葉は、本格的に腰を使い出した麻紀菜によってどこかへと消え去ってしまった。
「譲くん……譲くん、大好き……♪」

 ***

 東の空がわずかに明るくなり始めていた。
 譲は、麻紀菜が用意した、服とも言えない際どいコスチュームを着せられて、もじもじとしていた。
紐とわずかな布切れで構成された、ボンデージというかブラジリアン水着とでもいうか、とにかく露出度は半端じゃなく高いものだ。
 極薄の紅いエナメル質のコスチュームは、ぴったりと体に張りついている。下着と水着の中間といったところだろうか。
Bカップほどの控え目なバストの頂きにある乳首と股間のスリットがくっきりと浮き出ているのが、なんとも淫らだ。
うっすらとした柔毛も完全にはかくしきれず、極小の布地の端からちょっと顔をのぞかせている。
そして脚はガーターベルトで留められた黒のシースルーのストッキング。
 これなら、全裸の方がまだいやらしくないくらいだ。
「篠崎さぁ……これ、なんとかなんないかな」
「もう私たちは人間じゃないんだから、その呼び方はよしましょう」
 彼女もまた露出度が高いボンデージ風のコスチュームだ。譲が赤なのに合わせて、こちらの色も真っ赤っか。
ただでさえ胸が大きいところにさらに胸を強調するようなデザインになっていて、見ているだけで鼻血がでそうだ。
「じゃあ、なんて言えばいいんだよ」
 麻紀菜は人差し指を頬に当てて少し考えて、答えた。
「麻紀菜だから、私はマナ。譲くんはユズ。そうしましょ」
「げっ! ユズってなんだよ」
「嫌ですか?」
 麻紀菜……マナは、譲……ユズをぎゅっと抱きしめた。
「もう、人間だった時のことなんか忘れましょう」
「篠崎」
「マナです」
 胸が押しつけられて気持ちがいい。極薄のコスチュームを通して、マナの勃起した乳首をはっきりと感じることができる。
「ユズが感じているのがわかりますよ。私の乳首も、こりこりって、固くなってます」
「うん……わかる」
 下半身が疼いて、力んだ体から緊張が抜けてゆく。
「これからは、ずっと一緒です」
「うん」
「もう、独りぼっちじゃないんですね。私とユズは、一心同体です」
「うん」
 マナの舌がユズの首筋をちろちろとくすぐる。
「ユズの味、大好きです。ユズのだったら、おしっこだって飲めます。もう、大きな方は出ないですけどね」
「そうなのか?」
「うしろは、アナルセックス用の性器なんですよ。人間の時の何十倍も気持ちがいいんですから。ユズだってさっき、あんなに感じていたでしょう?」
「はうっ」
 マナにアヌスホールを掘られてよがり狂ったことを思い出し、ユズは顔を真っ赤に染めた。
「男の人だって、マナのアヌスに夢中になりますよ。私が保証します」
「いや。男とするくらいなら、このままでもいい」
「あら。じゃあ、私とセックスしたくないんですか? おちんちんが無いと、私の中に入れられないでしょう?」
「いい。それでもいいっ!」
「本当に、本当?」
 マナはユズの顔を覗きこんで言った。
「私のおま○こ、気持ち良くなかったですか?」
 ユズはしばらく口ごもってから、そっと言った。
「……気持ち良かった」
「また、したいですか?」
「ま……まあ、な」
 触りもしていないのに股間が熱くなり、とろとろと愛蜜があふれ始める。食い込んだ衣装がクリトリスを刺激しているようだった。
もしかするとこの衣装は、意思を持っているのかもしれない。
 男でいる時よりも、ずっと気持ちがいい。もうオナニーなんかする気になれない。
 こんなにも変わってしまった。
 もう、人間には戻れない。
 ユズ……いや、譲は寂しさを感じていたが、そんなつまらない感傷を怒涛のごとく埋め立ててゆく圧倒的な快感の前には何もかもが無力だ。
もう、頭の中はセックスのことで一杯だった。
「私もまだ完全なインキュバスにはなれないし、ユズもまだ、なりたてのサキュバスですから、もっともっと精気が必要ですね」
「でも……」
「男の人とは、まだセックスしたくないんでしょう?」
「うん……」
 マナの手が、ユズの股間をまさぐる。くちゅくちゅという水音がして、腿に熱い汁がたれるのがわかる。マナはそっと耳元で囁いた。
「とりあえず、今晩はどこかの学校の寮に行きましょう。
女の子からでも精気は吸えるし、私もユズの精液をいっぱい作れるから、あなたの可愛い赤ちゃんをいっぱい産んでもらえますよ。それとも……」
 マナが言葉を区切り、ユズの目を正面から見つめて言う。
「ユズは、女の子を孕(はら)ませる方が好き?」
「孕ませるって……」
 と言いながら、ユズは顔を赤く染める。
「オレはマナがいいんだ」
「おねぇさまに聞いたんですけど、サキュバスは上級淫魔にならないと子供を産めないんですって。
でも、女の子同士だって気持ちいいんですよ。ユズにも教えてあげます。それに、見ているうちにユズもきっと、混ざりたくなるはずですから」
 マナはユズを、今度は背後から軽く抱きしめ、控え目な胸のふくらみと、愛液をあふれさせている股間を刺激する。
「もうびちょびちょです。ユズってエッチなんですね」
「マ……マナがいけないんだからな」
 コスチュームを簡単に横にずらされてあらわになったユズの股間を、マナが手でまさぐる。
白い蜜をあふれさせている股間をマナの指に合わせてくねらせ、続きをねだる。
「でも、もうすぐ朝ですよ。どこかで休みませんか?」
「ホテル……とか?」
「魔界って行ったことないでしょう? 私はおねぇさまに連れられて何度も行ってますから、一緒に来ませんか? すごいエッチなこともできますよ」
「でも……」
 だが、ぐずるユズの耳元でマナが二言、三言囁いただけで、ユズはふにゃりと蕩け崩れてしまう。
「ね? 行きましょう」
「ちょ……ちょっとだけ、だからな。マナが行こうっていうからだぞ」
「はい」
 マナはユズをもう一度抱きしめて、にこりと笑った。
 そしてユズとマナの二人の淫魔は手を取り合い、静かに夜と朝の狭間へと消えていった。

END


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