くぱぁっ……。
 粘液質の、湿った音がした。
「あっ……あはぁぁ……」
 ペニスが抜き取られた時、鈴は思わず小さな声を漏らしていた。
 さっきまで身体中に満たされていた“何か”が消えてゆく。まるで、体が急速に縮まってしまったようだ。
「おい、次ぃ早くしろよ!」
 じくん……と、腹の底で何かが蠢く。
 何日も悩んでいた便秘が解消されるような、それでいてむず痒くて、もどかしい感じがする。
頭の後で線香花火が、ちりちりと小さな音を立てて燃えているみたいだ。
 痒い。
 皮膚から体の奥底まで、小さな火花が散っている。
 かゆい。かゆい。
 かゆくてかゆくて、たまらない。
 体中の皮膚だけではなく、内臓までもがかゆい。
 内臓に手を突っ込んで、かきむしりたい。
体を真っ二つに割り開いて、思う存分内側からひっかき回したらどんなに気持ちがいいだろうと、鈴は考えていた。
「へへへ。こいつ、マンコからよだれ垂らしてやがるぜ」
 うつむきにひっくり返され、尻を持ち上げられる。腹に回された手の感触に、鈴はぞくりと体を震わせた。
 大きな男の手。固い手の平。太い指。
 自分からは失われたパーツが直接肌に触れるだけで、おかしくなってしまう。
 変だ。
 執拗に体を撫で回す偏執的な手の動きにさえ、体は反応している。
 ガマンしなければ……。
 鈴は心の中で再び、固く誓った。
 幸いなことに、こいつらが自分に夢中になっている。その間は、美羽には手出ししないだろう。

(じゃあ、その後は――?)

 だが、鈴の思考は次なる挿入によってさえぎられてしまう。
「んはぁ……」
 バックから突かれる。
 たちまち、さっきまで感じていたかゆさがやわらいでゆく。
体積にしたら体の百分の一にも満たないだろう器官を挿(い)れられただけなのに、頭の先まで貫き通されたようだ。
ずんと突き刺されると、子宮を、腸を、胃を、食道を、脳を次々と通過して頭の天辺から、
つるりと何かが飛び出したような気がする。
「あ……はぁんっ!」
 このまま、一番かゆい体の奥の奥を、いや、全身をくまなくかきむしってほしい。
鈴の頭の中は再び、体の中で荒れ狂う刺激に占められていった。
「おいおいおいおい! なんだよ、この締まりはヨ!」
「どうだ、スゲェだろ?」
 すでに四人に犯されている。この男で五人目。全て中出しだ。射精の回数だけなら、七回は出されている。
四人の精液がミックスされて、鈴の股間はどろどろだ。胸にペニスをはさんでやった者も三人いる。
それぞれ最低一度は、鈴の体に白濁液を発射していることになる。
「こいつはよぉ、盛りマンで毛も薄いじゃん。俺の好みだぜっ」
「ケッ! このロリ好き野郎がよ」
 胸がゆさゆさと揺れる。その胸は汗と唾液とザーメンに濡れ、ぬらぬらと月明かりで照り返っている。
中に出した上に、胸にも出した器用な奴が二人。どうもAVの見過ぎのようだ。
 鈴は春頃から眠る前に胸をいじって自慰をしていただけに、胸の感度は良好だ。
最近では乳首をつまんだり指で押し潰したり、くりくりと回転させるのがペニスをこする気持ちよさに通じるような気がして、
こんなことはいけないと思いながらも、毎日のように胸をいじりながら股間を濡らしていた。
 だからなのか、鈴は触られることに対して非常に敏感に反応する。
 水泳の授業の着替えの最中に、遊び半分でクラスメートに股間を指で愛撫される時など、
相手の手首まで濡れるほど感じてしまうのだ。
 これが幸運だったのか、不運だったのか。
 もはや鈴は、痛みを感じていない。
「彼」が感じている未知の感覚は、本来ならば全て快感となる信号(シグナル)である。
しかし鈴は、いまだに快感としてとらえるのを拒否していた。
 それも、限界に近づいている。
 胸を絞られる。乳首を弄られる。クリトリスをしゃぶられる。
精液をたっぷり含んだ性器さえも、彼らは口をつけるのをためらわない。
舌を入れ、執拗にかき回してくる。アヌスにも舌を這わせる。指を入れてくる。
 一人だけではなく、常に複数の男が鈴の体に触れている。ペニスを握らせたり、しゃぶらせたりしている。
休むことなく、飽くことも知らないかのように次々と……。
 バックから突いている男が鈴の尻を撫で回しながら言った。
「こいつのマンコはよぉ、チンポを咥えこむためにできてんだよ! こいつぁ、今まで犯ってきた女の中で最高だぜ」
 精液を体内に押し留めようとする本能的な締め付けが、バックから犯している男にとってはたまらない良さになっていた。
 鈴の尻をつかまえて自分から動けないようにしておきながら、自慢の逸物でわざとゆっくり抜き差しする。
女が動こうとしても、押さえつけて腰を振らせない。焦れた女に哀願の言葉を口にさせるのが、この男の好みだった。
「おら、どうした。腰振ってみろよ?」
「あ……」
 意識が朦朧としている。
 それなのに、股間の感覚はしっかりとしている。いや、むしろ体中が性器になってしまったようですらある。
 ぱっくりと男を呑み込む巨大な淫花――。
 頭がクリトリスで、小陰唇を両手で引っ張り、正中線から左右に割り開かれた皮膚の内側には、
粘液にまみれた肉が詰まっているようだった。
そんなことなどあるはずがないのに、鈴の頭ではそのような妄想が渦巻いていた。
 射精されたら、体の内側までくまなく男の精液で汚されてしまう……。
 だが、恐れはない。
 むしろ、隅々まで精液で満たされたいという願望の方が強い。
 どこかで、自分はおかしくなっている、と囁く声がする。
 やがて男の腰の動きが早くなり、子宮口を割り開こうという勢いで強く押し込まれたペニスの先端から、
激しい勢いで濃い粘液が飛び出してくる。
 背中が自然に反った。
 かはっ……と小さな吐息が漏れる。
 男達の匂いがする臭い息だ。ザーメンと唾液が撹拌されて醸成された匂いは、けっして心地好いものではない。
喉にまだ、精液の塊がこびりついているようだ。
 なのに――不快ではない。
 喉が渇く。
 息を吸おうと口を開くと、すかさずペニスが割って入ってくる。
どろりとした先走りの苦い汁が、鈴の喉を潤す。口の中にじわりと唾液がわいてくる。
 噛み切ってやりたいという欲望があるのに、なぜか自分の舌は亀頭を舐め回す。
カリをくじり、裏筋をしゃぶる。茎に唇を這わせ、袋を口に含む。
 もう一人が、いや、二人が競うようにペニスを鈴の前に差し出す。
射精した男は、まだ鈴の中に一向に萎える様子のない陰柱を挿入したまま、彼女の胸を後から揉んでいる。
「けけっ……胸いじられるとこいつ、マンコがひくひくしやがってたまんねぇぜ!」
「おい、いつまで突っ込んでンだヨ! とっとと、その汚ぇチンボを抜いて俺に譲れ」
 抜かれる……。
「おおおおおっ! こ、こいつ、すげぇ締めつけしてきやがるっ!」
 抜ける、抜ける、抜けてしまう……。
「うっ!」
 熱い。
 ペニスの表面に媚肉がすがりつき、微妙な起伏ですら刺激を感じてしまう。
下腹がひくひくと痙攣しているのがわかる。

(あ……やだやだやだやだぬけちゃうぅっ!)

 頭の中が、かあっと熱くなった瞬間、
「おおっ!!」
 鈴の腹と顔に向かって、熱い飛沫が跳ねた。
同時に、鈴の股間からも透明な雫が吹き出し、ペニスを扱きながら鈴に向かって精液を絞り出している男に命中した。
「すげぇっ! コイツ、マン汁吹き出しやがったぜ」
「ほんもンのエロ豚だな、こいつはヨ!」
「う、あはぁ……」
 鈴は無意識のうちに、媚びるようなため息をついた。

 なんだか、わからない。
 あたまがまっしろで、からだがおもくて、ういているようで、
うみのなかにしずんでいるみたいで、じめんにうめられているみたいに、うごけない。
 おかしい。
 こんなの、わからない。どうして、こんなになるの?

 頭の中で少しずつ、シナプスが繋がってゆく。
 人工的に再構成された鈴の体は、外見はミドルティーンだが、その実は赤ん坊同様なのだ。
特に刺激については、幼児並の感覚だと言っていいだろう。
ビールも飲めて甘い物は苦手だった左党の徹が、今では甘党だというのもそれを裏付けている。
 男達の手で凌辱されることによって、鈴の神経組織は急速に発達をし始めていた。
 その副作用なのか、鈴は夢の中にいるような気持ちを味わっていた。

(ふわふわと、体が宙を舞っているみたいだ……)

 二人の男に両脚を広げられ、飛び跳ねようとする蛙のような格好をとらされた鈴は、
真っ白になってしまった頭で、なすがままにされている。
「ふわあっ!」
 股間にしゃぶりつかれて、鈴が声を上げた。
 四人の男のミックス・スペルマで溢れているにもかまわず、無精髭を生やした男がフルーツにかぶりつくように、
鈴の桃を思わせる媚唇に口を尖らせて舌を差し込む。
 唇を使い、舌を使い、指も使って鈴の膣に注ぎこまれたザーメンを、音を立てて吸い出し、掻き出している。
 気持ち悪くないのだろうか、と鈴はぼんやりと考えた。
 自分だったら御免だ。自分の精液だって舐めたことがないのに、他人の精液を舐めるなんて……。
 また、股間が熱くなってくる。
 舐めたじゃないか。さっき、こいつらのチンポをしゃぶって……。
 何度も口の中に、タンのようなこってりとした塊を、たっぷりと喉の奥に、そして舌の上に……。
 息が苦しい。

(したのうえに、しおあじの、にがくて、でも、どこかあまくて、おいしくなんかないはずなのに、
あたしは……あたしは……せいえきが、おいしいって……
どうして、あんなのが、おいしいなんて……でも、でも……また、ほしいよぉ……)

 股間からわき上がってくる刺激と、恥辱の記憶が鈴の正常な思考を狂わせる。
西洋の教会の鐘の中に頭を突っ込んで振り回されているような気分だ。
 絶え間ないインパルスが、鈴の脳を揺さぶる。
 とても処理しきれない。
 股間をしゃぶられて、舌を吸われて、胸を揉まれ乳首をこねられ、腋をざらざらの舌で舐められている。
その腋も、一度ペニスを挟まれて白濁液にまみれている。
 そこに、新たな刺激がやってきた。
「うにゃぁふぅぅっ!」
 意味の無い声しか出せない。未知の感覚が、またもや鈴をさいなむ。
 尻の穴に挿入をして楽しむセックスがあるということくらいは知っている。
だが、今まで一度もそんなことをしたことがない自分に、いきなり異物が挿入されてしまったらどうなるのだろう?
 尻を割り開かれ、舌がぬるりと入ってくる異様な感覚に、鈴の背筋に幾億匹のアリが這いずりまわったような刺激が走る。
「やっ……やぁあっ!」
 だが、両膝を支点に足を持たれて尻をぶら下げている状態なので動けない。
赤ん坊におしっこをさせるときの体勢にそっくりだ。
仰向きになった男の指と舌が、宙に浮いたままの鈴のアヌスを攻める。
 長い舌が、入口を丹念に舐め回している。
 力が抜けた拍子に、股間から、奥に溜まっていたザーメンがこぽこぽとこぼれ出してきた。
だが男は、精液にまみれながらも鈴のアヌスを舐め回すことをやめようとしない。
 指が入る。
 緊張して、きゅっと尻に力を入れるが、男の指はその場にとどまってゆっくりと内側を刺激している。
空いた方の手でクリトリスをいじられ、力が抜けた瞬間を狙い、指がまた奥へ進む。
 何度も緊張と弛緩をくりかえしているうちに、胸がはちきれそうになってきた。
乳首から汗がにじんで、ぽたぽたと垂れ落ちるような気がする。
 やがて指は根元まで入ったばかりか、左右二本ずつ、合計四本もの指が鈴の薄紫色のすぼみを広げて、
普段は決して見られない内部を晒してしまうまでになってしまった。
「よし、いいみたいだぜ。これなら切れないで入りそうだ」
「こいつ、アナルセックスでもしてたのか? ずいぶんあっさりと広がったじゃねえかよ」
「さあな。だけどこの濡れ方は普通じゃないぜ」
 声がする。音がする。
 でも、鈴の頭は会話を理解できない。
 乳首は痛いくらいにピン! と尖り、亀頭をこすりつけられるとたまらなく気持ちがいい。
 気持ちが――いい?
 そんなのは、嘘だ。無理矢理犯されているのに、そんな……そんなはずは、無い。
 絶対に。
「あ……ふぅぁあああっ!」
「入る入る! こいつ、あっという間にチンポを根元まで呑み込みやがった!」
 嘘だ。
 こんなのウソだ。ぜったいに、うそだ!
 排泄物よりも太いものが入ってしまっているのが信じられない。
 だが、それをいともあっさりと受け入れるどころか、たちまち粘液を漏らし、
感じ始めている自分の心の方が、もっと信じられなかった。
 下からリズミカルに突き上げられる感覚が、気持ちよくなり始めている。
 この体は、とてつもなくエッチな体だ。
 胸を触っているだけで、男の時にしていた自慰に匹敵する快感を得られたのだ。
だとすれば、もっとキモチイイ場所ならば……?
 答えは簡単だ。
 ついさっきまで純正の生娘だったのに、今ではベテラン娼婦のように男のペニスを咥えこみ、奥まで飲み込んでいる。
それも、性器だけではなく、不浄の排泄孔でも――だ。
 鈴は今までの違和感の正体を、ようやく認識し、理解した。
 これは、快感だ。
 男だった時の、あの刹那的な、射精へと至る短い快楽とはまるで違う、長く引き伸ばされた、とてつもなく深い甘美なパルス。
 気持ちがいい……。

 キモチ、イイ?

 ぞくん!

「うぉっ!」
 下から突き上げていた男が腰を止め、鈴の腰をぎゅっとつかむ。
 鈴の中が、まるで生き物のように蠢いたのだ。男はたまらず射精しかけてしまうが、なんとか堪えた。
 だめだ。もう、がまんできない。
 回路が繋がってしまった。
 痺れや未知の感覚はたちまち快楽信号として変換され、脳に怒涛の勢いで押し寄せてゆく。
頭が膨れ上がり、目から、耳から、ピンク色の粘液が溢れ出していくようだ。もちろん実際にはそんな物は出ていない。
だが、鈴には確かに、頭からとろとろと熱い物がこぼれてゆくような錯覚をおぼえていた。
 鈴の意識は、体から絶え間なく送り続けられている快楽信号によって、ほとんどピンク色に塗り潰されていた。
ただ、美羽の存在だけが彼女の意識を継ぎとめていた。だから男に媚びる声も出さず、耐えた。
 美羽の為に頑張って耐えているのだと、自分に言い聞かせていた。
 それでいながら鈴は六人の男に囲まれて、鈴は最初の男が中に放った精汁の熱さと量に酔っていた。
精液が膣内に溜まっている感覚が、彼女を狂わせてゆく。

(ぬるぬると、ぬるぬるした、あつい、くさい、ずるずるの、あついのが、ぬるぬるって、おまんこの、
ぬるぬるしてて、ぬるぬるのふといのが、おしりの、ぬるぬるの、めちゃくちゃで、ずるずるで、
おしりのぬるぬるのあなの、べとべとで、あつい、あつい、ぬるぬるが、いいにおい、
ふとい、ふとい、あつい、かたい、ぬるぬるの、きもちいい、おしりで、ぬるぬるぬるぬるの、ずるずるだよぉ……)

 頭では嫌がっていても、体は正直だ。
 気持ちがいいことをされれば、素直に反応する。
 それでも鈴は、落ちそうな意識の中で、ただひたすら堕ちきるのに抵抗した。

(堕ちてしまえば楽なのに)

 鈴と同じ顔をした悪魔が、耳元で囁く。

(女の子のセックスってキモチイイでしょう?)

 ああ、そうだ。その通りだ。
 イソギンチャクが獲物を捕えるように肉襞がペニスにまとわりつき、
優しく、強烈に、肉竿を締めつけているのが自分にもわかった。
襞の一つ一つがペニスに匹敵し、それが幾十、幾百もあるとなれば、快感もその数だけ大きくなる。
 どこまでも昇り詰めて行く。止まらない。
 そのままバックの体勢にされて、前にも挿入された。
下から性器を刺激され、バックからはアヌスを攻められる。アヌスとヴァギナの両方が圧迫される。
動きによる快感は減ったが、充足感と圧迫感がたまらなくいい。
 腰が持ち上げられた。秘唇からペニスが抜けてゆく。
 カリの部分が、汁をかき出しながら外へ抜け出ようとしている。
 締め付けが一層強くなったのが、自分にもわかる。
「とんでもねぇ好きモンだな、コイツはよ!」
「チンポが無ぇと生きてけねぇんじゃねぇか? おい」
 鈴は反射的にうなずいていた。
「チンポとザーメンが好きなんだな、おい!」
 とろとろに蕩けきった鈴の思考に、ピンク色の閃光が走る。
 逃がしちゃいけない。
 だってまだ、全部絞り出していないから。
まだ一杯出してくれそうだから、最後の一滴まで中に……中に注いでもらわなきゃ……。
 奥のキモチイイとこを、ずんずんと突いてほしい。
 ああ、でも抜けちゃう……。

(おちんちんのおちんちんが、ぬけて、いや、だめ!
ぬいちゃ、いや、もっとおく、おまんこに、ザーメンいっぱいだして、かけて、ぐりぐりって……!)

(おし、おしりにもぉ、はいってくるうぅっ!
おまんこのなかで、こすれてっ、あ、ああっ、お、おちんちんとおちんちんが、なかでこすれてるぅっ!
きもちいいトコで、かたいのが、ぐりぐりって、あたしのおまんこのなかで、きゅいきゅいって、やぶれそうでぇっ!)

(おっぱい! おっぱいで、おちんちんをはさんであげるぅっ!
ほらぁ、ぬるぬるのおっぱいで、おちんちんをこすってあげるぅっ!)

 今や、鈴のアヌスとヴァギナは、男の精を飲み干す肉のブラックホールとなっていた。
吸い付き、舐めつくし、出て行かないでとすがる締め付けは、男を狂わせる魔性の性器だ。
その証拠に、男達は精液をほとんど出し尽くしているというのに、先を争うようにして鈴に挿入したがっている。
 あえなく精を放ってしまった男を押しのけるように、次の男が休む間もなくのしかかってくる。
 口で吸った。
 手で扱き、胸ではさんで扱き、ザーメンを出させては舐め、尿道に残った精液をすすった。
もう、誰が自分を犯しているのか、鈴にはわからなくなっていた。
「あは……あはははっ!」
 騎乗位で下から突かれ、上から体を折り曲げるようにして挿入され、バックで貫かれ、
アヌスにも挿入され、両手にペニスを握り、顔の前に突き出されたペニスをしゃぶる。それも、休むことなく。
「あひゃ……はひぃ……ひゃん!」
「へへへ。こいつ、狂っちまったんじゃねぇの?」
 何度も射精を促されてさすがに疲れたのか、休んでいる男が鈴に向かって言った。

(そうだ。“わたし”は、もう……)

 頭の中が真っ白になってしまう。
 喉の奥に大きな塊が詰まっているようだ。それがどんどん熱くなってゆく。
「あああああっ! いい……いいよぉっ! お、おまんこぉっ、イイッ!!」
 言ってしまった。
 とうとう、堕ちてしまった。堕ちたことを自覚して、認めてしまった。
「そ、そぉなのぉ! わたしはぁ、チンポがないとぉ、生きてけないのぉ……。
もっとぉ、わたしにぃ……チンポを入れてぇ、突っ込んでぇ、かき回してぇ、注ぎこんで下さいひぃ〜〜っ!」
 まるで自分が自分でなくなってしまうような。
 自分でしゃべっているのに、どこか他人の台詞をきいているような。
 奇妙で現実味のない、でも確かな現実。
 男達の野卑な言葉が聞こえる。聞こえるけど理解できない。両方の耳元で心臓が鳴っているようだった。
 顔が、熱い。
 鈴は目の前に突き出されたペニスに手を添え、唇を寄せる。
 皮膚が波打つような感じ。
 強要されて、男のモノをしゃぶらされているのに、子宮が疼く。
 意識が何度も遠くなり、また落ちてくる。
過激なジェットコースターどころか、戦闘機で極限の曲芸飛行をしているように意識が縦横無尽に揺さぶられる。
 あまりの気持ちよさに、声さえも出せない。
 意味の無い呻き声しか出てこない。
 それでも、鈴の意識は現実に継ぎ止められていた。

 ただ、美羽を守るために。

 こうやって自分を犯している間は、彼らを継ぎとめておくことができる。
 鈴はそれだけを頭の中で繰り返す。

(美羽を守るんだ。 わたしは、おとこだから、みわを、まもらなくちゃ、いけない……)

 ああ。でも、男なのになぜ、こうして男に犯されて悦んでいるのだろう?
 何度も何度も犯された。十を越えたあたりで膣内射精された回数を数えるのをやめた。
顔なんて憶えていられなかった。どこまで射精(だ)せるのだろう。
彼等は、信じられないほどの絶倫なのだろうか。濃い精液が、水道の蛇口をひねるように際限無く鈴の中に放たれる。
 前の穴でも後の穴でも受け入れた。言われるままに腰を振った。ペニスを咥えた。しゃぶった。
胸でザーメンを絞り取り、体中がどろどろになるまで男達の精を浴びた。
粘液はやがて粘りを失い、異臭を放ちながら滴り落ちる。
今、鈴の体をてらてらと濡らしているのは、彼女自身の汗だ。
男と女の体液の入り交じった臭いなのに、どこか芳しいのがふしぎだ。
 太腿から下は、精液と汗と唾液と、愛液の入り交じった混合物で濡れている。
奴等は鈴の体をしゃぶった。髪の毛、耳の穴、まぶたの裏、腋、へそ、アヌス、恥丘、そして爪先まで、舐めまくられた。
 胃の中まで、ザーメンが入り込んでいる。体の中も外も、みんな汚されてしまった。
 吐きそうだ。

 でも――美羽を、守るんだ。守らなくちゃ。

 鈴の頭の中で何百回も繰り返されたフレーズ。
だから、自分の体を与えなければならない。自分は汚れてもいい。美羽は汚れてはならない。彼女を悲しませてはならない。
 だが、その想いこそが彼女を悲しませるということも鈴は知っている。
 いいや。美羽のためなんていうのは、詭弁だ。
 ぐりぐりと奥までねじ込まれ、張り詰めた“オトコノシルシ”を迎え入れるのが、気持ち良くてたまらなくなっている。
 また、グッと子宮まで押し込まれた。
 吐息が漏れる。
 まだ、いけるというのか。
 ならば、絞り取らなければならない。最後の一滴まで。
 もっと――もっと!

(ワタシヲ、メチャクチャニ犯シテ!)

 身体中が、屈辱と歓喜に震える。止めたいのに止まらない。
快感が、限界かと思われた沸点を軽々と飛び越えて、どこまでもどこまでも昇りつめてゆく。
 血と理性が沸騰して、気体へと変わって消えてゆくようだ。
「ひゃっほぅ! こンだけ突っ込まれまくってンのに、全然締まりが悪くなってねぇじゃねぇか。たまンねぇぜ!」
 ヒコヒコと間抜けに腰を動かす男の単調な動作でも、鈴は腰が蕩けてしまうほどの快感を感じてしまっている。
歯を食いしばる鈴を見て、奴らはそれを、痛みに耐えているものだと勘違いしていた。だが、違う。
 膣壁がペニスの表面とカリにすがりついて、吸い付いて、舐め回しているのがわかる。
血管の筋さえもが感じ取れそうなほど敏感になっている。
 誰もが、美羽の存在を忘れ去っていた。
 鈴も淫楽の渦にまきこまれ、美羽のことを忘れてしまいかけていた。
 いつの間にか彼女の姿が消えたことに、誰も気づかない。それほど今の鈴の肉体は、男達を狂わせていたのだ。
「ねぇ、チンポぉ……もっとチンポ、ちょぉだぁい!」
 鈴の甘い声に、鈴が犯されいる姿を見学しながら休んでいた男が二人、ペニスをしごきながら寄ってきた。
さすがにもう、ほとんど勃起していないような状態だ。
それでも、彼女にこびりついた大量の粘液と、彼女自身の汗が入り交じった匂いを嗅ぐと、見る間に硬度が回復してくるのだ。
「くそぅ……こいつ、たまんねぇぜぇ! 全部の穴に突っ込んでンのに、全然犯りきった気がしねぇっ!」
「どっかに放り込んで、クスリでもブチ込んで客取らせた方がいいんじゃね?」
「そうだな。ついでに裏ビ(デオ)でも撮って流すか?」
 鈴の顔の上に男がまたがると、彼女はすかさず袋を咥えて吸い始めた。
もう一人の男は、唾でぬるぬるにした指で、裏筋を中心に竿と亀頭をくりくりと刺激する。
 自分を前から押さえつけている男の肩越しに、何者かがこっそりと忍び寄ってきたのが鈴には見えた。
だが、意識はそれを人影として捉らえていなかった。
「売っ払ちまうのはもったいねぇな。その前に、もう何発かッ!?」
 ゴスッ! と鈍い音がして、男は鈴にペニスを握られたまま崩れ落ちた。
「なッ?」
 続いて鈴を犯していた男が、鈴にまたがっている男の背中に倒れてくる。
「おい、どうしたんだよ?」
 立ち上がろうとするが、鈴がペニスをしっかりと咥えているので立ち上がれない。
彼が見たのは、目前に迫ってくるバットのような物体だった。

 ***

「ねえ、これ使って」
 誰かがサマーカーディガンを鈴の体の上にかけてくれた。仲島初芽(なかじま・うぶめ)という子だ。
「滝田、大丈夫か? ……って感じじゃないようだけど。とりあえずあいつらは縛って、逃げられないようにしているぜ」
 植込の向こうから低い男の声が聞こえる。
「合計十一人。絶対逃げられないようにギチギチと亀甲縛りにして、SM責めにしているぞ」
 続け様に鈍い音が、三、四度ばかり薄闇の中で響いた。
「あぎゅ……」
「間垣、お前って奴は!」
「ジョーク、ジョークだって……。場をなごませようとして、だなあ……」
 鈴の周りを四人の少女が取り囲んでいる。さらにやや遠巻きにして十人近くの少女達が鈴を心配そうに見守っている。
その中の一人、背の高い少女が言った。
「じゃあ、そっちはまかせたわ」
「オッケー。じゃあ、間垣と栗島、大綱はあっち。鈴木、甲斐崎、蔵留は向こうの方を頼む。
安座と新橋、兼田と、潮島……あと呑海は、警察が来るまであいつらの見張りを。
僕はここに残っているから、何かあったら連絡は携帯で。それと、暗いから迷うなよ」
 先程とは別の声があがり、取り仕切ってから人の気配が散ってゆく。
「滝田のこと、頼む。僕は少し離れた場所にいるから、何かあったら声をかけて。すぐに行くから」
「お願いね」
 鈴はまだお腹をひくひくさせながら、アクメの余韻に浸っていた。
「鈴ちゃん……」
「り、リンリン……」
 他の女子達もやってきて、一目で彼女に何があったかを察した。
息を飲む者、声を詰まらせる者、押し殺した声で泣く者……様々だ。
「さ。泣いている暇なんかないよ」
 長い背を折り曲げるようにして鈴を診ているのは、 森宵子(もり しょうこ)だった。
世話好きで人当たりもいいことから姐御(あねご)として同級生のみならず、
下級生や教師達からも信頼されている委員長肌の少女だ。
「あ、は……」
 鈴が艶っぽい声を上げた。
「もう、そんなことしなくていいから……」
 宵子が、股間をまさぐって体内からこぼれ出た精液を口に持っていこうとする鈴の腕をそっと押し戻し、
体中がどろどろなのにもかまわず、ぎゅっと抱きしめる。
 しばらくそうしているうちに、鈴の目に、徐々に正気の光が戻ってきた。
 宵子が木陰に向かって言った。
「警察と、それから病院に連絡して」
「どっちももう、携帯から連絡済み。サイレンを鳴らさずに来てくれって言ってあるから。
辻村さんが裏口で来るのを待って、こちらまで案内してくれるそうだよ」
 植込みの向こう側から声がする。
たぶん、芳本貴雄だ。地元の大きな病院の院長の息子で、医大合格を目指して猛勉強中のはずだ。
どうしてこんなところにいるのだろう。
「芳本君のとこで見てくれるの?」
「一応、そのつもり。うちでは手配済みだって、さっき連絡があった」
 彼の家は総合病院で、地元の緊急指定病院でもあった。産婦人科もある。
「上出来」
 宵子も、いつものふざけたような雰囲気はまるでない。誰もが真剣な面持ちで、かつ沈痛な表情を漂わせている。
 どうして皆がここにいるのかというと、要するに鈴と美羽の姿が消えたので心配して探していたのだ。
 最初は二人でえっちなことでもしているんじゃないの? などと冗談半分で言っていたのだが、
彼女らが蘭校の生徒に絡まれている現場を目にしていた者が不安を感じて、
近くに住んでいる男子を携帯電話で呼び出して二人を探し始めた。
その後、女を犯せると携帯に向かって奇声をあげている蘭校の男を男子の一人が偶然目撃した時点で、
本格的な二人の捜索が始まった。
 鈴が輪姦されている現場を探すのは、さして難しくなかった。鈴の哀声が森の中から聞こえたからだ。
だが、十名あまりの男が入れ代わり立ち代わり、鈴を犯していたので、
まずは一人放っておかれていた美羽を助け出し、人出を集めて一気に拿捕するまで予想以上に手間取ってしまったのだ。
 そのせいで鈴の心を深く傷つけてしまった。
犯人を捕まえることより、何よりも彼女を一刻も早く助け出した方が良かったのではないかという思いが、皆の心を暗くさせる。
 鈴が声を振り絞って言った。
「美羽……丹堂は大丈夫か?」
 寒くないのに震える体を両手で抱きしめるようにして、宵子の胸にもたれている。
「美羽ちゃんは、無事よ。怪我ひとつしてないから、心配しないで」
「そっか……よかった」
 うつむいた拍子に、今まで我慢してきた涙がつぅ……とこぼれ落ちた。
「あ、あれ。どうしたんだろ、俺……なんで、泣いてるんだろ」
 一度流れ始めた涙は止まらない。そんな鈴を、宵子は黙って抱きしめてくれた。
 いつもは嫌で仕方がない抱きつき魔とも称される彼女のスキンシップが、今の鈴にはたまらなく嬉しく、心休まるものだった。
「しょこちゃん、救急車来たよ。目立たないように、裏で待っててもらってるから」
 紅葉が両手にコンビニのビニール袋をぶら下げてやってきた。巫女姿ではなく、暗色系のパンツルックだ。
袋の一つには服が入っていた。紅葉のものなのか、ジーンズとブラウス、そして新品の下着の上下だ。
紅葉は、実は鈴と双璧と言われるほどのスタイルだったりする。もう一つの袋に入っていたのは、大量の蒸しタオルだった。
 紅葉から袋を受け取った宵子は、壁のように鈴の周りを守っている少女達に
それを手渡し、紅葉に指示をした。
「もみっち。鈴ちゃんに服を着せるから、もう少しだけ待ってもらって。それと、担架持って来れる?」
「担架? わかった。ちょっと待っててね」
 いつもの脱力系の言葉はどこへいったのやら。紅葉が舌ったらずの口調の中にも真剣さを忍ばせている。
 誰もが真剣に、親身になって鈴の身を案じていた。
 宵子と紅葉が会話をしている間にも、三人掛かりで鈴の体を拭き、服を着せている。
「鈴ちゃん。いちおう聞いておくけど、生理はいつ終わった?」
「……一週間前」
 あっと言う間に服を着せられ、見た目は普通の姿になった鈴が答える。
「ピル……は飲んでないんだっけ。念の為に、避妊処置はしてもらった方がいいわね」
「……」
 じわり、と股間が熱くなる。
 鈴は今の『避妊処置』という言葉に反応してしまった自分を、情けなく思った。
 こんなことにまで感じてしまう自分の中の女の部分に、鈴は嫌悪感を感じると同時に、
どんなに否定しようと自分は女なんだということを、「彼女」は、理解してしまった。
 心の中にある、ドロドロとした欲望を知ってしまった。
 自分の体がどんなに淫らに反応するかをおぼえてしまった……。

 こうして担架に乗せられて救急車で運ばれるまで、鈴は宵子の腕の中にじっと身を委ねていたのだった。

 ***

 あの七夕祭りから、一週間後のこと。
「り、鈴ちゃん!?」
「よっ!」
 某大手予備校の夏期講習の会場で、一三や美羽達の目の前に鈴が元気な姿を現したのだ。
 まだ顔にはうっすらと痣が見えるが、薄化粧でもしているのか、
近寄ってまじまじと見つめなければわからないほどになっていた。
ほんのりとファンデーションの匂いがすることに気付いて、目を見張る者もいた。
 だが、何より驚くのは彼女から発されている雰囲気だ。
 今までの、どこか張り詰めた気配は影をひそめ、穏やかで優しいものへと変わっている。
いつも眉をひそめるようにしていた顔つきが、自然な笑顔になっているというのもあるのだろう。
「どうしたんだよ、みんな。俺が幽霊だとでも思ったか?」
 そう言って鈴はジーンズを履いた足の片方を曲げて、手で叩いて見せた。
「……大丈夫?」
 一三が彼女にしては珍しく、カメラを構えようともせずに問い質す。
ちなみに彼女は、私大受験コースだ。鈴が通う学校の生徒は、かなりの割合でこの予備校へ夏期講習に通っているのだ。
「大丈夫って何が?」
「本人がいいって言っているんだから、いいんでしょ」
 宵子があっさりと言った。だが彼女の目がうるんでいるのを、この場にいる誰もがわかっていた。
「そうだよ。いつまでもくよくよしてられるかってんだよ!
受験もあるし、ただでさえ合格するにゃキツいんだから、これ以上休んでられないし」
「リンリンなら、推薦入学の口もあったんでしょ?」
 思っていた以上に元気な鈴の言葉に、皆の口も滑らかさを取り戻してきた。
「何言ってんだよ。俺に女子大に行けってか? 冗談じゃない」
「だったらあたしと一緒の大学にする?」
 宵子が言った。
彼女は最難関の国立大学選抜コースで、現役で久し振りの最高学府合格者が出るのではないかと、
学校でも期待されていたりする。
「無茶言うなよ。森が受けるとこだと、合格率50%だぜ? そこまでの博打はできないな」
「え゛?」
 宵子と鈴、そして美羽以外の誰もが固まった。
「ご、50%?」
「一番難しいとこで、ごじゅっぱぁせんと?」
「いや、別に一番難しいわけじゃないぞ」
 鈴が答えると、一三が平坦な声で言った。
「ソレハ、イヤミデスカ? イヤガラセデスカ?」
「……リンリン、あんた、ここに来る必要ないって」
「どこ受けんのよ、あんた」
 さっきまでの温かいムードはどこへやら。あんた呼ばわりである。
「えーっと、○○大学の医学部」
「ぶはっ!」
「ええ〜〜〜っ!?」
「な、何だってぇっ!?」
 鈴が口にしたのは、私大の名門医学部だ。
併設されている大学病院も有名だが、研究部が特に充実していて、最近は遺伝子研究で国外にもよく知られている大学だ。
国内外の医学関係の賞を獲得している人も多い。むろん、大学入試の難易度もトップクラスだ。
「なんでリンリンが医学部なのよぉ!」
「そりゃあ、自分で元に戻るためだよ。クソ親父なんかに頼ってたら、一生元に戻れないかもしれないからな」
「ああ、そういえば滝田は僕と同じ志望校だっけ」
 あとからやって来た芳本貴雄が、さらりと言った。彼は医者の跡取り息子だ。
「滝田には春の模試の順位で負けてたからね。今度は負けないよ?」
「芳本君よりデキマスカ、この人は……」
 一三が絶句した。ちなみに貴雄は、男子トップの成績を誇っている。ただ、上には森宵子がいるので学年トップではない。
この双璧の間に鈴がいるということを今までクラスメートのほとんどが気付かなかったのは、ある意味、謎である。
「……みわっちは知ってたのかみゃ?」
「うん」
 紅葉の言葉に、美羽は素直に返事をする。
「だって、鈴ちゃんにいつも勉強教わっているもの」
「うわ、この裏切者! 来年もここで共に勉強しようと蒼天に誓った仲なのにっ!」
「それで、それでっ! そっちの方の合格率はどのくらいなの?」
 抜けるような白い肌の日本人離れした(実際、彼女はハーフである)美少女、各務奈穂美(かがみ・なおみ)が鈴に詰め寄った。
一緒に五人あまりが一斉に鈴の方を向いて睨みつける。気圧されて声も出ない鈴に変わって、貴雄が答えた。
「滝田も僕も、合格確実圏内だよ。でも受験は水物だし、実際に合格するまで気が抜けないからね」
 今度こそ――本当に今度こそ、不遇(?)の少女達の行き場の無い怒りが爆発した。
「おまいなんかっ! おまいなんか、あたしらみたいなバカの敵だっ!」
「リンリンなんかあっちいっちゃえ〜っ!」
「ガッコで寝てばかりいるのに、なんでそんなに勉強できるのよぉ……」
「そんなので合格がきついなんて言われたら、滑り止めですら確率30%のあたしはなんなのよぉっ!」
「もぉ、リンリンのバカバカバカバカッ、バカバカバカバカバカバカバカッ!
 ついでにバカッ! おまけにバカッ! 最後にバカバカ、ばかぁんっ!!」
「え〜っ、信じられないよぉ。りんりんだけはあたしと一緒にぃ、くらぁい浪人生活を送ってくれると思ってたのにぃ〜」
「誰が浪人するかっ!」
 鈴は、すがりついてきた紅葉の額を指で弾いた。
「まあ、リンリンのことだから、受験日を間違えるとか、受験票を落すか忘れるとか、
電車の乗る方向を間違えて試験時間に間に合わないとか、場所を忘れちゃうとか、そういうミスはしそうだよね」
 奈穂美がぽそりと言うと、鈴は、あっ! と小さな声を上げて天を仰いだ。
「……受講票、忘れた」
「言ってるそばからこれだ」
 宵子ががっくりと頭を垂れた。
「家に戻って取ってくる!」
「別に入口でチェックするわけじゃないから、戻る必要ないだろ?」
 すっかり忘れ去られた感のある腐れ縁の友人、間垣が言う。
「気分の問題だからな」
 鈴の言葉に、
「まったく、妙な所で真面目なんだから」
「もっと要領良くできないのかしらね」
 と、そんな鈴のドジさ加減が大好きなはずの女子達が口々にまくしたてる。
 鈴は出口に向かう前に美羽の側に寄って、そっと耳打ちをした。
「勉強して、少しでも早く男に戻りたいんだ。だって、美羽を行かず後家にはしたくないからね」
 美羽が驚いて鈴の方を見るが、鈴は軽い足取りで既に出入口に達していた。
「鈴ちゃん!」
 美羽の呼び掛けに鈴が振り向いた瞬間。

 べしゃっ。

 鈴は開いたガラス扉に背中を押されて倒れ、腹這いになって床とキスをしていた。
「あうぁぁう……」
「……」
「ドアに気をつけてって言おうとしたのに……」
 一三が、美羽の肩をぽんぽんと叩いて言った。
「美羽っち。今回はあんたが悪い」
 穏やかな笑いの輪が広がった。
 だが、唯一人だけ笑っていない者がいた。
 間垣亨である。

(あいつ……こんなにポカポカとドジ踏むような奴じゃなかったはずなんだがなぁ。
女になっちまってから、どうもあいつ、変だ)

 なにしろ幼稚園の時からの付き合いだ。
高校こそ別々になってしまったが、徹が女の子の鈴となって転校してきたので、
幼稚園からずっと同じ学校で共に勉強してきた、言わば幼なじみである。
 確かに、ここ数ヶ月の鈴の様子は、ちょっと変だった。
 それは本人にも自覚できない、「彼」から「彼女」へ変化し始めた小さな、しかし確かな兆しであった。

 ***

 鈴を輪姦した男達の消息が途絶えた。
 最初に鈴を犯した六人の他に、途中から参加して捕まった者や危険を察してあやうく逃げ出した者を含めると、
彼女を手にかけた男は二十人あまりにものぼった。
 だが警察に連行されたものの、彼らの親がどこかにかけあい、
早々に保護観察処分と称された実質上の釈放をされた一行は、警察から出たその足で、揃ってどこかに向かったとされている。
 噂では鈴に報復しようと家に侵入しようとして逆襲にあったという噂もあるが、
鈴の姉である有沙はにこやかに微笑むばかりで、否定も肯定もしない。
警察も事情聴取に来たが、何も手がかりを得られずに帰ったという。
 彼らは、どこに消えたのだろう?

 その後、いくつかの変化があった。


 鈴の部屋から官能小説やビデオ、成年マンガの大半が消え、
その代わりに少しだけ――ほんの少しだが、女物の服が置かれるようになったこと。
 そして、蘭鳴高校が男子のみの受入れをやめ、翌年から男女共学になるという告知がなされたということ。
 なぜか蘭高の学生の半分近くが休学してしまったという噂もある。
現在、学校は一時閉鎖状態にあるそうだ。なぜ閉鎖されているかは、明らかにされていない。そこから出た噂なのだろう。
 鈴もその噂は耳にした。妙に上機嫌な姉を問い質しても、
「なんでもないのよ。それより、鈴ちゃん。体は大丈夫? お姉ちゃん、鈴ちゃんのこと、いつも心から心配しているのよ」
 と言われてはそれ以上突っ込んで聞くわけにもいかない。
納得がいかないものを感じながらも、鈴はこれ以上深入りしても不快になるだけだと思い、このことを忘れるようにつとめた。

 男女共学となった蘭高はやがて更正を果たし、圏内でも有数の名門校へと復活を遂げるのだが、それはまた別の話となる。
 あの事件の後、蘭高の理事の中に、鈴の父親であ航十朗の名前が記されたということを鈴が知るのは、ずっと未来のことだった。


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