「むかしむかしの、そのむかし。
都の近くのお山に、一柱の龍神様が棲んでをりました。
…しかし、『神』とは名ばかり、数年に一度目覚めては生け贄を求め鳥獣を食い荒らし、
気まぐれで川を氾濫させ田畑を日照りにし、それに飽きたらまた惰眠を貪るという、とても悪い龍でした。
民草の困窮を憂いた帝も、幾度か討伐の兵を遣わしましたが、たとえ眠(ねぶ)りについていても龍を討つことはならず、
逆に龍の怒りを買って返り討ちに遭うのが関の山でした。
こうして、無為に幾世代もの刻が流れてゆきました。
さて、今日も今日とて自在に天駆け巡りながら、下界の餌どもがおびえうろたえる様を楽しんでをりました龍は、
ふと、都のお宮の真ん真ん中に、一人の類稀なる、たをやめが座している様に目魅かれました。
だれあろう、そのお方こそ、時の帝の姫君にあらせられたのでございます。
近隣の村を襲ったついでに、娘がいかにやんごとなき身であらせられるか、そしてその麗しさと心根の美しさから、
帝だけでなく貴人百姓いずれを問わずいかほど万民より敬愛されているのかを知った龍は思いました。
『ああ、あの娘の肉はどんなに柔らかく、どんなに露多く、どんなに滋味豊かなことであろう。
また、どれほど綺麗な声で怯え泣き、どれほど醜く命乞いし、どれほど切ない断末魔の声を聞かせてくれることであろう。
さらに、そのような娘御を雲上にて貪り食い、ちぎれた四肢、臓物、血肉を下界の餌達まで千々と万(よろず)と乱れ散らせば、
かの者達はいかほど怒り嘆き苦しみ悲しむことであろう』
いてもたってもいられなくなった龍は、傲慢にかつ礼節を保って、娘を贄と捧げるよう、帝のもとに使いを寄越しました。
さて、しばしも間を置かず、帝よりのお返事が参りました。
『うっさいハゲ』
…大事な大事な一人娘が毒牙にかけられんとして、さすがの帝もブティ切れた模様です。
この、宣戦布告同然の応えに龍は激怒しました。まー当然です。
いかなる無法をとっても姫君をかどわかし、目にもの見せてくれんと決意しました。
しかしながら、都は天地陰陽万物の理に基づいてつくられた神仏の守護も篤き護法の地にて、
うかつに強襲(ごうそ)すればさすがの龍とて博士大巫大師いずれの方によって調伏せしめられかねぬことは自明の理です。
龍とて痛いのはイヤです。
そのようなわけで、搦め手より攻めるべく、龍は一計を案じました。
──すなわち、人の姿を借りてお宮に忍び入り姫君をさらうというのです。
ああなんと卑劣な企みでありましょうか。
龍の襲撃を期して戦の装いもものものしき都の中を、術にて化生した龍はすいすいと進んでゆきます。
武士(もののふ)の姿にて外門、大夫(たいふ)の姿にて内門。
さてここより先は内裏でありますが、こちらともなればお世話方に夫人(ぶにん)方、帝と殿居の者共しかまかり通ることはなりません。
無論、虫も通さぬ警護体制が敷かれてをります。
ましてや、神祇天文に明るい博士が侍ってらっしゃるとなれば、迂闊な変わり身ではすぐさま見破られる事は想像に難くありません。
やむなく、女官の姿を借り、かつここを出ぬ限り力も使えぬよう己から小細工を施し、お宮へと這入りました。
常平穏に行き交う者どもの表情を窺う限り、愚かしくも、虫けら共は龍の闖入に気づいてをりません。
広いお宮を渡り歩き、いよいよ目指す姫君の局に押し入った龍でありましたが!
…部屋の中には誰も居りません。呆然と、中を見渡す龍の後ろで…
突如ぴしゃんと、入ってきた先の襖が閉じられました!
「くッ!?」
慌てて押し開こうとするも、いかなる術によるものか、岩戸の堅牢さもかくやとばかりに、一向に襖は開きません。
押し破ろうにも、八尋の鉄(まがね)を押すがごとき手ごたえが伝わってくるのみです。
室内に笑い声が響くに当たって、龍は自分が罠にかけられたことを悟りました。
「神よ悪魔よと吹いてはみても所詮は妖(まがもの)、人の智恵にはかなわぬか」
「おのれ何奴!」
いつの間にやら部屋の中央に端然と座す若き美丈夫が告げた名、そは当代随一と称せられる陰陽道の博士のものでありました。
「たわけ。うまくたばかったつもりであろうが、それ、妖の浅知恵。
そのように妙なる美女が宮中に居れば、即座に人目を引くものよ」
…まさしくその通りでありました。
亜神の力を用いて変生した龍の姿はこの世のものとは思えぬほどに眉目麗しく、
姫君さえ敵わぬほどの傾城の美女となっていたのです。
それと気づかぬがおかしい有様でありました。
「いかに悪行なしたるといえど重代長らえし半神(なかがみ)、神妙に縛につけば苦しませず屠り、
風土(ふど)の神としてとこしえに祀り鎮める情けを知るがいい」
「この上は、是非もなし!」
なんとかこの場を切り抜けんと博士に飛びかかった龍でありましたが、
妖しの力さえ使えぬか弱き乙女の身、たちどころにねじ伏せられてしまいました。
「ふむ、おとなしく応ずれば我が使鬼として飼うてやる横心もあったものの、思ったよりも頭が悪い。これは仕置きが必要だな」
にやりと笑うなり、たちまちに龍がまといし衣を博士は剥ぎ奪りました。
「きゃあっ!」
さんざ人々を喰らった魔物とは思えぬ、可愛らしい悲鳴が龍の整った唇よりこぼれます。
「貌(かんばせ)だけでなく、柔肌もこれほど麗しいとは。これは抱き甲斐がありそうな」
そう嘯くと、博士は龍の、雪のように真っ白な裸体にむしゃぶりつきます。
「こ、これ何をする!」
「妖を犯すというのも初めてでな。
ましてや、このように美しい女(おなご)を前にして手篭めにせぬとあらば男の名折れ!」
言うなり、股間にそそり立つ恐ろしげな魔羅を、龍の女陰(ほと)目掛け、博士は一気に突きこみました!
「──ぎゃああああああっっ!!!」
股間から全身を貫く、凄まじい激痛!
これまで味わったことのないような痛みに、万世歳経たはずの龍神も、あられもなく泣き叫ぶほかありません。
「ほう、生娘だったか? これはもっけの幸い」
痛々しくも龍の可憐な女陰から滴る鮮血を見据えながら傲然と嘯き、博士は腰を使い続けます。
「しかし、この具合とくればどうだ。まさしく天女と交わっているようではないかっ」
「こ…殺してやる…ぐっ!」
「ほれ、男(おのこ)として生を受けながらの、女(おなご)の生涯唯一の痛みの味わいはいかがなるものかね? …と、聞いておらぬか」
破瓜の痛みに息も絶え絶えという様子で、もはや龍は博士のなすがままになっております。
「こ、殺すだけでは飽き足らぬ…主の血族、末代まで呪ってやる…!」
尚もズコバコと繰り返される律動の中、細くしなやかな裸体を苦悶にくねらせながらも、健気に龍は呪詛の言葉を呟きます。
…しかしそれも、珠のような涙をこぼしながらの、鈴を転がすようなべそ泣き声とあっては、逆に博士の劣情を煽るだけに過ぎませんでした」
つうかいなげやり実験作
「 ネ コ ミ ミ モ ー ド で す ♪ 」