なにしろ時間が迫っている。いつもならばすでに出かけている頃だ。なのにまだ朝食も食っていない。
「もう! 女の子がなんてはしたない!」
途中、台所の母がそんな抗議を叫んできたが気にしない。
女の子がはしたない、だって!?
はっ! そんなもん知るかよ!こっちだって好きで女の子やってんじゃないっての!
「ったく! こりゃほんとに世の中は…のわあああっ!!」
見事に階段途中ですっ転んでしまう。芸術的なまでに足を滑らせ、残り数段を一気に駆け下り…いや、ずっこけた。
ドドドドドドッッ!!!
ドカ!とこれまた絵になるほどの尻もちをついてしまう。
「ぐはっ! いってええええええ!!」
床に見事に着地(?)したまま身動きもできない。
ずいぶんと大きく、そしてふっくらとなってしまった自分の尻を手でさする。
フニュっとした尻肉が手にフィットしてきた。
(・・・お、おおっ!?)
痛いものは痛い。だからこそつい患部に手を当ててしまったわけだが……
そのおかげで今まで気づかなかった胸や股間以外の“女”の部分を意識するにいたった。
(し、尻ってこんなに柔らかいのか?)
女の身体になってしまったのだから当然だ。女性は腰まわりがふっくらとしてくるのが成長期というものである。
そのことくらいは知っている。
男には絶対に無い乳房などは見た目からもあからさまだし、女の特徴をこれ以上なく物語る部分だ。
しかし両性に共通する、つまり臀部に触れることでいかに男女の性差が大きいかを感じてしまったのである。
男のようなゴツゴツした固さとは程遠い、さすがに乳房ほどではないが、
実に甘美な感触をクッションのようなそこは伝えてくる。
つい無心に自分の尻をさすっているうちに…また身体の芯がジーンと熱を帯び始めてきた。
(ん…あ。やばっ…)
女の身体をこんなに好き勝手触っているのだ。男として興奮しないほうが難しい。
「ん、はぁ。やっぱ違うな、男と女ってのは…」
カシャ!
突然聞こえてきたシャッター音。
「いいよぉ、姉さん!朝からいい絵…」
慌てて手を身体から離し、声のしたほうを見上げる。
そこには…携帯のカメラ機能で激写したばかりの弟がいた。
「わっ! 涼貴(りょうき)!! てめっ!なに俺のこと撮ってんだ!!」
思わず赤面する。朝からこんな尻もちシーンを記録に残されて素直に容認できるほど雄介は大人ではない。
「だって姉さん、朝から写真に撮ってくれといわんばかりだよ、その格好」
確かにそうかもしれない。
今、雄介はまるで女の子のように――実際に女の子なのだが―ー両のふとももを閉じ合わせ、
膝から下を両サイドに軽く広げた“女の子座り”をしていたのである。
そして挙句の果てには、赤面した顔をカメラ目線で見上げている。
「お、お前…! な、なにいって…!!」
カアアァァァ…
自分がまるで気がつかないうちに、そんな恥ずかしい格好をしていたことにますます赤面してしまった。
とっさに携帯へのカメラ目線をはずしうつむく。
(…ハッ!)
しかし、その格好もまた女の子らしさ全開である。
というよりただ単に男である弟を刺激させてしまっただけであると雄介は気づいた。
「や、やめ…!!」
カシャ!
やめろ、と言う前に再び弟の携帯に記録が残ってしまった。
ブチッ!
いい加減堪忍袋の尾も切れようというものである。
「て、てめっ! いい加減にしろっ!!」
ゴスッ!
さっと立ち上がり涼貴の脳天に鉄槌を下す。鈍い音がキッチンまで届いたかもしれない。
「ってぇええええ! 何すんだよ姉さん!」
「何すんだ、じゃねえ。それは俺のセリフだ。この変態!!」
「だってあんな格好、男としては最高の絵になるんだよ…!」
「ううぅ!」
た、確かにそうだろな。それは・・・こういっちゃあなんだが、その気持ちってのはわかる。
正直いって俺がこいつの視点で俺を見たとしたら、間違いなく同じことを思うだろう。
「だろ!?」
「ううぅ。そ、それは…!?」
ひ、否定できん…。間違いなく、こいつは俺の弟であると確信できるかのような発言だ・・・。
「姉さんは男がわかってないねえ…」
「うっせぇ! んなもんくらいわかるっての!」
ドゴスッ!
「のぐわぁぁぁぁぁ!! な、なんで!?」
もう一度、今度は肘で涼貴の脳天に天罰を下す。
許せ、認めるわけにはいかんのだ。気持ちは痛いほどわかるが。
「母さ〜〜ん!! 姉さんがっ! 姉さんがぁぁぁ!」
さっと雄介の手から逃れた涼貴はそのままキッチンへとダッシュしていってしまう。
「母さ〜〜ん、だぁ? てめえはいったい何歳だってんだ。」
呆れて先ほどの怒りも恥ずかしさもすっかり消えてしまった。気を取り直してキッチンまでの廊下を歩く。
(しっかし…)
階段を見事に踏み外したときも、そして今廊下を歩いているときも感じたことだが…。
(女の身体ってのは…なにからなにまで違うな)
ただ歩いているだけでもなんとなくわかる。
両の脚を普通にすり合わせるだけでふとももの肉感がまるで異なっているのだ。
下着で補強しているとはいえ、これだけ乳房が大きければ歩くだけでもその豊かな揺れを無視することもできない。
ましてや…両脚の間にあった、昨夜までは確かにあった象徴がすっかりなくなってしまっているのだ。
すでにこれだけでも驚くべき発見をもたらしている。
肩幅が小さくなってしまったせいで前後に動かす両腕の感覚も違う。
「ほんと…違うよな…」
ふと自分の身体を見下ろして、まず目に入った豊かなふくらみ。
そして思い出す先ほど触りまくってしまった尻の感触。
知れず…それらに手が動いてしまった…。
片手に含みきれない乳肉がふたつある。女の自分を主張してやまない…大好きな部分だ。
ムニュゥ
「んっ!」
これほどの身体を男である雄介に無視し続けろというのは無理難題である。
(ほんと…この身体…)
もっといっぱい触りたい、そう考えるのは実に自然なことだろう。
「まさか自分の身体に興奮するなんて……はふっ!」
もう一回握り締める。何度まさぐっても決して形を変えることなく、絶え間ないレスポンスを返してくるのだ。
「ったく…俺、どうなるんだろ…はぅ!」
最悪で最高のスタートを今日という日はすでに出発していたのだった。


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