平平凡凡にくらす男、紀和雄介。
彼は父、母、妹と暮らす典型的な核家族世帯の長男だ。
掃除という単語はどうやら雄介には難しすぎるようで、自室では服や菓子類は放りっぱなし。
それでもゴミが少ないのはただ単に彼が多くを望まないからか。面白みにかける若者である。
妹の猛烈な反対を押し切り、手に入れた約八畳ほどの空間。『ゆとり』は『無駄』と紙一重だ。
そんな空間の中央に突如小さなプラズマが発生する。
中心に生じた黒点はやがて縦2m横1mほどの長方形に姿を変えた。
プラズマが治まった後、ゆっくりと、向かって右側から長方形が手前へと“開いた”。
マーヤが先導し二人が異空間との接続点を越えてくる。
「こっちだ……」
「『どこ○もドア』かよ!」
「む。なぜそこで怒鳴る……」
理解不能の抗議に『不快』よりも『不思議』が優先している。
「あの大げさな演出は何なんだ! ドシュッ! ってゆーよーなあの光みたいなの!?」
「こちらのほうが位置が安定するんだ。文句を言うな」
にべもなくあしらう魔法使いに雄介は話すのを止めることにした。これ以上の問答は意味がなさそうだ。
“未来の秘密道具”から出てみると当然のことながら雄介の部屋だ。
ベッドにテレビに…散らばった雑誌類。昨夜お世話になった女性の裸がメインの雑誌まで記憶と同じ位置にある。
紛れもなく紀和雄介の部屋。その主人なのだから、そんなものは見ればわかる。
「はぁ……わけわかんねー」
だからといって納得できることでないことも事実だ。
「くそっ…」
ややこしいことはあとで考えることにした。
立て続けに理解不能の事態が起こったため、彼の頭脳では処理しきれない。
とりあえずどうしようか……。目下すべきことは……
(そうだな……)
復活してきたこの性欲の処理である。もっと重要な事があるかもしれないが、他は後回しにした。
雄介は傍らに立つ異界の住人を見る。
冷たそうな話し方をする割にはこうしてみると意外に幼顔のようだ。
そこから視線を下に移せば、転移前に拝見した深い胸の谷間があった。
…服の上からだが形も良さそうだと判断した。折れそうな細いウエスト。
ちゃんと飯食ってんのか? なんだか不思議なくらいだ。
女性特有の突き出した臀部。魔法士らしいといってよいのか、ローブのような衣装の下からまるでこちらを挑発するように育っている。
丸々とした実の下部に位置する魅惑の壷を想像し、雄介の下半身は早くも臨戦体制に移行していた。
「ヤるか……」
「うっ……」
ボソッとつぶやいた彼の言葉にマーヤは敏感に反応した。覚悟はしたつもりだが……やはり抵抗は拭いきれない。
目標のため自分で選んだことであるし、女性に性転換していることを悔やむつもりはない。
元々の魔力許容量にかなり制限が課せられている男性が性転換の魔法を習得することは並大抵では済まされない。
今の自分は過去のたゆまぬ努力の結果だといえる。そして今SEXを男から求められている自分も……。
「わ、わかってる……」
少し声が上ずってしまった。
「私の体を…好きにすればいい……」
(まさか男にこんな事を言うなんて…)
今度はマーヤが顔を赤らめることになった。
(耐えるんだ…)
落着け。そう、落着くんだ。
「それにしても、見れば見るほどお前の体はエッチだよなあ」
「な、何をいって…!」
なんという品のない、無遠慮な言葉だろう。堪らず顔を伏せてしまう。
「さっさと…しろ…」
伏せてから、自分の行動がまるで女性そのものであることに気づいてしまった。
(私は男だぞ!)
心まで屈するわけにはいかない。これは試練なのだから。
深呼吸してみる。1回では足らず3回ほどやってみた。無理矢理とはいえ少し楽になってきたかんじがする。
気を取り直しゆっくりと目を開く。何度も心で念じながら。
(そうだ。私はおと……)
しかし、うつむいた視界に最初に飛び込んできたのは豊満に盛り上がった自分の乳房だった。
足元が見えないほど大きなものに育っているのだから、“元”男として意識しないわけにはいかない。
(くっ…これでは…)
これほどまでにふっくらとした乳房は見たことがない。
胸から視線を外すことなく、いや、外せなくなりながら、おかしな話だが自分でもそう思う。
学園の正装の胸元を押し上げる2つの頂きは“女性としての魅力”を余す所なく振りまいていた。
(女だと思われても仕方がないではないか!)
重力に干渉される事なく突き出した弾頭に型崩れは一切存在しない。
「へへ。んじゃ、そのでかいオッパイから」
雄介の視線を感じる部分。この曲線が下着のせいではないことをマーヤは知っている。
なにしろ自分のものなのだから…。
(……やわらかそう)
実際に触り心地がそのとおりで、同時にえも言われぬ高揚をもたらしてくれることもマーヤは知っている。
しかし今改めて、そう、思った。
もう何度も見てきたものである。今さら興奮も何もない。ないはずだ。何度も見て…触って…感じて…。
それなのに自然と、初めて性転換に成功し自分の乳房に手をかけた時の記憶が蘇ってくる。
だが、もちろん盛りのついたオスがマーヤのそんな心など知るはずもない…。
「……うん…」
(しまった…!)
思わず肯定してしまった。反射的に頷いた自分が信じられない。
後悔するのは嫌いだが、もう少し考える時間がほしかった。
(でも……)
邪な男の手が自分の体に迫ってきた。
(“触られる”のは……)
……初めてだ。
なぜかマーヤは先刻よりも嫌悪を感じなくなっていた。
男は視床下部への刺激による催淫が強い。要は視覚からの興奮作用が大きいということらしい。
改めて強く“男”を意識してしまったせいで、あろうことか、自分の体にムラムラときてしまった。
雄介の手が乳房まで残り1センチまで近づく。久しぶりの女の体にオスの本能を露骨にむき出していた。
中身が男のマーヤも同様である。少しだけ制御できていた興奮がいまや頬を紅潮させて暴走直前だ。
雄介の手に一心に見入る。
目が…離せない。
そして…
指先がマーヤの巨乳へと触れる…。
「ふ……!」
(ああ!“触られて”る!)
雄介は正面からわしづかみにしてきた。指の間からあふれ出る柔肉の量がその大きさを表現する。
最初に充分に手に含まれると、次に2,3度軽く試すように揉みこまれた。
「ふぅ……あ…あ…!」
声が我慢できない。
(あぁ!“揉まれて”る!胸が……!)
自分以外のまったくの他人に自分の体を触られている。
乳房をもてあそばれている。
自らで制御できない感覚のリズムに戸惑いが隠せなかった。
同時にそこから生まれる不思議な高揚感にも迷いを覚えてしまう。
「ひぅ…あ…」
少し強めに握られた。
それだけなのになぜか声まで発してしまう。
掴まれた胸が揉みしだかれるたび、二つの柔肉への感覚が研ぎ澄まされ、かわりに頭がボヤけていく。
「おお!こりゃ想像以上だな、たまんねえや」
乳房に張り巡らされた鋭敏な神経は、あまりに素直に感想を述べる雄介の手のあらゆる動きをリアルに伝えてきた。
マーヤは必死で否定した。外界の空気。すべての感覚を。
「う……くぅ……んはっ」
しかし自らの胸は余すことなく刺激を受け止める。意思とは無関係に。
与えられる力をすべて柔らかく。彼の手の感触が指の一本一本にいたるまでの詳細を…。
雄介は黙ってマーヤの見事なふくらみをもみ続けた。単調にならないように角度をつけながら。
「あ……あ、くっ!……んん…」
下からすくいあげられるように揉みしだかれれば、そのまま自分のすべてが浮き上がるように感じる。
(ああ!……)
いくら外界からの感覚を必死で否定しても…この湧き上がる高揚は抑えることができなかった。
体の奥深くから生まれいずる理解不能の衝動だけはどうしようもない。
男の時には決して経験しなかったこの感覚…
(これは……胸を揉まれるというのは……)
それを理解する一歩手前までマーヤは押し上げられた。
(ああ……)
「気持ち……」
いい、と言いかけてあわてて正気に戻る。
自らをもてあそぶ雄介の手を力ずくで捕まえた。
すっかりムードができあがっていたと信じていた雄介は案の定怪訝な顔をする。
「ちょ…ちょっと待て…」
上気した顔を冷静に見えるようになんとか繕うことに成功した。
「身」だけでなく「心」まで女になりかけた瞬間に少なからず感じた恐怖も後押しした。
まるで自分が自分ではなくなってしまうような、言い知れぬ恐怖。
後には退けぬという覚悟……それはある。あるはずだ。
しかし、これは…
(…くそっ!)
これは自分が想定していたものとはかけ離れている。
苦しみを伴うものならば、どんなものであろうと心は揺るがない自信がある。
だが、自身は決して「苦」を感じることはなかった。この高揚はそれよりもむしろ……
「まだだ。まだ心の準備というものが…」
なんといいわけじみたことだろう。いまさら詭弁じみた発言などマーヤにあるまじき失態だった。
恥ずべき自分を呪いながら、なおも沈着に思考する。
そもそもなぜここまで感度が鋭いのだろうか。
胸だけでここまで高揚を得ることができるのはやはり女として喜ぶべきことなのか。
まぁ…不感症よりはいいだろう。
しかし、それは…
(そうか…。この言い知れぬ高揚感こそが…。女というものの…)
それは『女の悦び』を知るということなのだ。そしてそれは紛れもなく、自らの「女」を決定付ける。
「心」は屈するわけにはいかない。いかなる場合とて。
「なにをいまさら」
雄介がまた胸をまさぐりはじめた。そのままベッドにゆっくり押し倒そうとする。
「んん、あ!なにをっ!ちょっと待てって…」
たいした力もかけられていないのに抵抗できない。
無理に対抗しようとすると、愛撫される己の2ヶ所が意識を乱す。
(くっ!女の胸がこれ…ほどに…!!)
「ん、やめっ!胸やめ…んはぁ…ろ…って」
そんな願いが受け入れられようはずもなく、雄介の思うがままにベッドに身を預けてしまった。


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