「え……き、貴様……」
「な、なんだよ……。人の頭を勝手に覗くなよ……」
自分に非があるわけでもないが、雄介は反射的に目をそらした。
悶々とした精神の彼に肉欲の望みを無視することはできなかった。
元来男は女よりも性欲を生み出す分泌ホルモンが異常に多いのだ。
そんな事実があるとはいっても…やはり「男女の交わり」が最大の願望だと思われるのは蔑まれた気持ちがする。
お世辞にも清廉といえない思いが白日に下に晒されたのだ。若き男子が赤面しないはずもない。
雄介自身『交わり』の経験がないわけでもないが、
心を覗き見されるとなるとなんだかとてもイケナイことを考えてしまったように思える。
「くっ……なんてことだ……」
マーヤも突然流れ込んできたイメージに少しほほを朱に染める。
普段クールにふるまうマーヤにとっても、それはアクシデントといえる事態だった。
(ま、『交わり』だと……)
内心の焦りなど全く……いや、認めよう。マーヤの心理は決して安定的とは言えなかった。
しかし焦りはえてしてよい結果をもたらさないものだ。
そこは学園きっての才女。装いを素早く正すことに成功すれば、溢れる知性と美貌に揺るぎはしない。
ところで、マーヤには実のところSEXの経験はない。ただそういう行為自体はもちろん知っている。
具体的にどれをどうするのかも。
歴代の魔法士の中に性交をもって自らの魔力の源とするものもいたらしい。
いかにも俗物的信念が見え隠れするが、魔学的には理解できる行動といえるのだそうだ。
しかしそれはあくまで一つの『方法』である。他にいくらでも方法はある。要は選択肢を選ぶ本人次第だ……。
美しき魔法使いは雄介の前に現れたときと同じように言葉を続けた。
「なるほど。……わかった……」
マーヤを満たすのは明日の魔学の担い手としての威厳と誇りだ。
「なにがわかったんだよ!……って、まさか……」
ビシィッ!
そんな音が聴こえてきそうな勢いで異世界からの珍入者は雄介を指差す。
思わず雄介はたじろいだ。それこそ己の欲望を忘れさせるほどに。
「わかったからわかった、と言ったのだ。貴様、アホか」
マーヤには夢がある。それは母のような立派な魔法士になるということだ。
そしてそのために様々な苦難に挑戦し、また乗り越えてきた。
今回もまたその数々の試練の一つにすぎない。このマーヤにできないはずもない。
ましてや大事な学業の一環だ。やれるかどうかではない、やるしかないのだ。
「貴様の肉欲を満たしてやる、と言っているのだ」
言葉の後半部分ですでにマーヤは衣服を脱ぎかけていた。
決意をすればすぐ動く! これはマーヤの生き方の基本指針でもある。
だが、そんな行動派の性格が今回は悪いほうに傾いた。
雨の降り止まぬこの天候、人通りが見えないとはいえ、いつ彼と同じ意図でここを通りかかるものが現れるかわからない。
マーヤには何か行動する以前のTPOの判断が少しズレていた。もちろん本人は気づいていない。
慌てて雄介は止めようとする。尋常でないおかしな女にからまれた自分の運命にちょっと半泣きだ。
「ちょ……ちょっとまて!何勝手に決めてんだ!こんなところで服まで脱ぎやがって……」
「む!貴様、何をするのだ。願いをかなえてやるといっているのに」
服の上からは想像もしないほどの深い胸の谷間を覗かせてようやく静止する。美貌を向けて抗議の表情を訴えた。
(う……!)
止めにはいった雄介がその表情に硬直してしまう。
「……」
「……」
しばしのお見合い状態の後、女魔法士は全てに合点がいったような顔をする。
「ふむ、そうか……」
勝手に妙な空気に耐えていた雄介もようやく落着いた。
「はぁ…勘弁してくれよ(;´Д`)」
「場所が悪いということか」
「おい!(゜A゜;)」
「任せろ。その程度のこと心配無用だ」
乱れた衣服を正しもせず、無表情で自信を伝える。
小さく聞き取れない言葉を紡ぐとマーヤの周囲に蒼い光が生じ始めた。
輝く円陣は半径を拡大し瞬時に二人を包み込む。
「お前の部屋でいいな。」
「はぁ!?(((( ;゚Д゚)))」
光はやがて収束を始め、閃光のように空へと放たれていった。