その後いろいろありまして。

朝のHRがなんとか終了した。
啓吾の人生史上最も五月蝿いHRだったと。
HRが終わった後も質問責めで喧しさは留まるどころかさらに大きくなる一方だった。
「ホントに啓吾かよ!? 嘘だろ!?」
「ホント」
「うそ、めっさ可愛いじゃんっ…ハァハァ」
「お前近寄るな」
「やらないか」
「死にたいか」
「ウホッ!いいおん…おと…女…」
「………」
「とりあえずさー、その体で啓吾って変だろ。名前変えろよ、あと付き合ってください」
「呼び名だけでいいよ、あと丁重にお断りする」
「じゃなんて呼ぶんだよ」
「そーだな…夏樹とか」
「苗字のまんまジャン。どーせならもっとひねりのある、萌える名前に…」
「そーだ、ナッキなんてどうよ?」
「ニャッキじゃあるめーし…お前ネーミングセンスなさすぎ」
「じゃあナキ…も変か…じゃ、マキとか! あと胸触らせて下さい!」
「それは変化しすぎだろ。せめて啓吾からケイとか、メグミとか。あとチューしてくれ」
「だーっ、もう勝手にしろ!!」
「ということは、触らせてくれ…」
メコッ! バキッ! グチョ!

その後も啓吾は放課後まで延々と男子に追いかけられ続けたのだった。
そして彼(彼女)はまだ考えもしなかった。これからもっとタイヘンな目にあうことに。
大体予想はしてたみたいだけど。正確には考えたくなかっただけだけど。
「にしても、お前が女になるなんてな…」
「ま、俺も予想してなかったけど」
ようやく質問責めから開放された啓吾はどうせだからと教室に残っていた。
一緒につき合わされているのは親友で同じサッカー部員の山中玲二である。
「部活、どうすっかなぁ」
啓吾の学校には男子サッカー部と女子サッカー部がある。
啓吾は先生に今はまだ部活に出なくていいと言われている。
「俺としては、男子ので続けるつもりだけど」
「だけどよ、お前女じゃん。男ン中でやってたら目立つし、それについていけねーだろ」
「んなこたーねーよ。別に筋力がおちているわけでもあるまいし。よっ……!?」
未だ自分の力は健在だと示すために近くの机を持ち上げようとしたが、
いつもなら軽く持ち上げられるはずなのだが…その机は啓吾にとって重く感じるものだった。
「ほらな。それに大体お前のか体は女子なんだから、男子のでやるのはムリだと思うぞ」
「んなわけないっ!…こーなったら明日直訴してやる!」
「絶対無理だと思うけどな…」
「強行突破!」
「…危険思想」
結局啓吾は次の日、真っ先に直訴にいった。
結果からいってしまえば成功だった。
先生には公式試合には出られんだろうと言われたが、
いつか元に戻るんだから大丈夫だ!ってことで強制的に許可を得た。
だが、部員らの方が問題だった。

「俺は別にいいんだが…」
部長の中村が回りを見渡す。
部員の視線は一斉に啓吾に注がれている。
「お前ら、別にいいよな?…もともと部員だったんだし…な?」
中村は啓吾の中学からの友達で、さらにお人好しときている。
だからできる限り啓吾をそのまま男子サッカー部で続けさせたいと思っているのだが。
「ぜってーダメだ! いくら元啓吾だからといって運動能力おちてるんだろ!?」
「そーだ、大体お前女子なんだから男子んなかで試合に参加できるわけねーだろ!」
「ンなの男装すれば誤魔化せるんだよ!」
「いや、絶対バレるね!」
一見真剣に部のことを考えているように見える部員達の口調に、玲二は何かひっかかるものを感じていた。
(何か違うんだよな、前に廃部になりそうになって直訴したン時と比べると。やな予感がするぜ…)
その「やな予感」は次の部員のセリフで確実なものとなった。
「…まぁ、俺らと『賭け』して勝てたらいいぜ」
「よし、いいだろう!てめーらなんてチョチョイのチョイだ!」
やっぱり、と玲二は思った。キレてる啓吾と鈍い中村は気づかないだろうが、コイツらは確実に啓吾の体を狙っている。
「待て! 啓吾! 『お約束』だ、コレは!」
「ハァ? お約束?」
「話の展開から読めるだろ!大体こういう賭けをしてた時はお前の体目当てなんだよ!」
「でも大丈夫だろ。コイツら全員対オレでも勝てる自身はあるぜ」
その言葉通り、男だった時の啓吾は他サッカー部一部除く全員を抜く勝負でアッサリ勝ちを収めたことがある。
「何ゴチャゴチャ言ってるんだよ…勝負は、前にやった全員抜きでどうだ?」
「OKだ。テメーらなんていつでも抜けるぜ」
「だから待てって! 絶対アイツらセコいことしてくるに決まってンだろ!」
「大丈夫、大丈夫。オイお前ら、審判は先生に頼むぞ。いいな!?」
「…ああ、別に問題ないぜ」
「やめろ! よせ! 絶対何か裏があるっつーの!!」
「でもこうでもしなきゃオレサッカー部に戻れないし」
「他に方法があるだろ!!」
「いちいちうるせーな。オイ、勝負は明日だ!それでいいだろ!」
「…おう、賭けの内容は一日相手を好きにしていい…でどうだ?」
「ああ、いいぜ! テメーら一日奴隷にしてやるよ!」

(くそ…絶対こうなると思ってた…)
玲二は困惑した。
(でも、先生を審判にするって言うし…イザとなったらあまりに度の過ぎたコトなら止めてくれるとは思うけど…)
「玲二も別にいいだろ、もう」
「……あ、ああ………」
気乗りはしなかったがこうなった啓吾はもう止まらない。
玲二は奴らが「目的のためなら手段は選ばない奴ら」にならないことを祈った。

結果、啓吾の負けとなった。

「啓吾、いやケイちゃ〜ん?」
「何だよ…その気持ち悪い呼び方はやめろ」
「約束は守ってもらうぜ…お前は今日一日、俺達の奴隷だ…!」
「ケッ!あんな不平等な試合で何が約束だ!試合は取り消しだ!」
「ハハッ、負けたからってムキになんなよ……それにお前にはもう拒否権はない…」
直後、啓吾の頭に鈍い衝撃が走った。
それが何を意味するのか、啓吾が理解する前に意識は途絶えた。


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