夏。
それは夏カゼやら冷夏やら熱射病やら熱帯夜やら、何かと地球もしくは生き物がおかしくなる季節である。
そして、何の変哲もない学校に通う別にどこにでもいそうな少年にも、例外なく「おかしなこと」は起きていた。
…ただし、その「おかしなこと」が全くの例外であるのだが。
ついでに言えば夏も冬もなんら関係ないけど。
夏木啓吾は何か妙にでかい目覚まし時計の音で目が覚めた。
普通の音を「ぢりりりり」ってするなら今回のは「ヴィリ゛リ゛リ゛リ゛リ゛リ゛リ゛」
で感じなので相当寝坊したらしい。
(うえ、また寝坊かよ)
とりあえずぐい〜っと体を起こしてブンブンブンって首振って目をハッキリさせる。
そして寝巻きのまま半寝ぼけまなこで一階に降りてくる。
「おはよ、ケイゴ」
後を見向きもしないで姉が挨拶した。
ちなみに啓吾の両親はなんかすんごい忙しいゆえ、
朝日の前に家を出て〜、そのままずっと帰らない〜っていう半逆カメハメ妻状態である。
「んあ、おはy…」
ここで啓吾は異変に気づいた。
本来優良高校男児というものは、すんごいチビっ子のお豆ちゃんじゃなければ、
女の子のような可愛い声はでないはずである。
もちろん啓吾は身長175でチビっ子のお豆ちゃんではない。
なのに声が高いのはなんでだろ〜。
姉も異変に気づいたらしく、「え?」っていう表情でこちらを振り返ってさらにもンの凄い顔になった。
「ど、ど、ど、ど、ど、ど、ちら様!?」
壊れたラジオのごとくどもる姉。
「え!?」
姉の返事に驚愕する弟。
「あれ!?」
そして大声をだしてみて更に自分の声の異変に気づく啓吾。
「あ、あ、あ、あ、あ、んた…!!」
もはやラジオ姉の声なんて耳に入らない。
そのままそーっと服をひっぱって中を見て見た。
本来ならペッターンとあるべき男性の胸板はなく、
そこにはなかなか大きめの、触るとやわらかそうな、マシュマロみたいな物体。
「くぁwdrftgyふじこlp;@:!!!」
「…で……どうやら俺は女になっちまったらしい」
「でじゃないわよ…いつのまにアンタ性転換手術したの?」
「してないっつーの! 晩飯ン時は男だっただろーが!」
「夜中にこっそりと…」
「行くかー!!」
「…とりあえず、女物の下着だけはつけときなさい。私の貸してあげるから」
「なんでだよ!男がブ、ブ、ブ、ブラッ…ジャー…なんて!」
「だってアンタ『今は』女でしょーが。つけとかないと色々困るわよー」
あたしゃ関係ございません、やっかいごとに関わるのはゴメンだねって感じの口調で姉は去っていった。
「ありえねぇぇぇえぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!!」
啓吾は絶叫した。
さて、改めて鏡を見てみるとそこには髪の長い可愛い女の子がいた。
夢だろうと思って頬をひっぱってみると痛かった。
鏡の中の女の子も痛がってた。
泣く泣く下着をつけて啓吾は悩んだ。
「どーするんだよ、これから…ウチ、男子多いのに」
そう、啓吾の高校は男子生徒の割合がチョット多い。
そんな中に結構可愛い女の子が紛れ込んでしまったら…
「あんま深いことを考えるのはやめだ、こうなったらもう開き直ってやる!
…もしかしたら、上手く使えるかもしれんしな。この体」
──学校。
まず、最初に苦労したのは先生達への説明だ。
いくら顔が似てるからって女になっちゃいましたで信じて貰える方がおかしい。
とりあえず啓吾しか知らないハズのコトを言って、
指紋も一致して(前に生徒を騙る変なのが学校に侵入したからあるらしい)ようやく本人だと証明できた。
「…まぁ、とりあえずその名前で女はアレだから名前変えてみたらどうだ?
とりあえず、呼び名だけでも。あと女子用の制服は買っておけよ」
疲れた様な声に送られて、啓吾は解放された。