日々木は自慰の興奮からなんとか冷め、ショーツを穿きなおした。愛液は既に乾いていたので特に不快感はない。身体的には。
精神的には何故ゆえ自分がこういう事態になっているのだろうという困惑や、先ほどの行為に対する羞恥やらで全く落ち着きがない。
これからどう行動をとっていいかすらわからない。
そんな時、不意に、教室の戸がガラリと開いた。
「あ、起きました? お姫様」
入ってきたのは、日々木も良く見知った同級生の一人だった。ぽややんとした声、薄茶の天パ髪、あどけなさの残る顔。確か、名前は……。
「十法院……!?」
日々木がその存在に驚愕してその名を呼ぶと、十法院楽斗(じっぽういんらくと)は一瞬首をかしげて、「はい?」と答えた。
先ほどの言動や、この状態をみても慌てず騒がず超然とした態度をとり続けているところから見ても、
コイツが一枚かんでいることは明白なのだが……どう見てもそんな奴には見えない。
だが、何もいわぬことには話が進まないので、日々木は意を決して聞いてみた。
「な、なぁ、十法院。俺が誰だか……わかるか?」
まぁ、単刀直入に聞くのは苦手なので、結局この男は何も知らないだけなのかもしれないという希望に似た何かを抱いて、その質問をぶつけてみた。
「ええ、そりゃもう。かわいくなりましたねぇ。日々木さん。やっぱり僕の思ったとおりだ」
確定台詞をはきながら、楽斗は間食でも買いに行っていたのか、手に持ったコンビニの袋を手ごろな机の上にどさりと置き、
傍目から見ると無垢のニコニコ顔にしか見えぬ表情で、ゆらりと日々木に近づいてきた。
「やはり貴様の仕業かっんんっ!?」
先ほどのゆらりとした動きから、いきなり俊敏な動きに切り替わり、一瞬で日々木の懐に入り込んで、唇に、しゃぶりついた。
「んんんンっ!?」
とっさで、そしてあまりの出来事にかねてからオーバーワーク気味だった脳細胞が一瞬ショート。その隙を突かれて、いとも容易く舌の侵入を許してしまう。
瞬間、口の中に広がる甘い味、痺れるような感覚。日々木の肉体はその行為を確かに嫌がってはいなかった。
そして、彼女の精神はそのことにアラートを鳴らした。
「っぷはぁ!?」
なんとか体を仰け反らせ、腕で楽斗の顔を掴んで強引に引き離す。
淫らに糸を引く唾液の逆アーチを噛み切りつつバックステップで後退……したかったが、楽斗の両腕に腰がしっかりと捕らえられていてそれは叶わない。
しかし、何事か湧き上がる恐怖心から、どうしても目の前の顔をどけたかったので。
「ッ何なんだよお前はぁーッ!?」
と一喝し、ありったけの力と気を込めて、楽斗の顔を横殴りに殴りつけた。
「ふぁっ!?」
と叫び声を上げ、机を二、三個ガタガタと飛ばしながら床に転がる楽斗。しまった、やりすぎたか、とちろりと舌を出す日々木。
実際、日々木に超常的な能力があるかどうかと問われれば、この気の集中であると答えるに尽きる。
拳に闘気を集中させることにより、筋力と無関係に打撃力を向上させる。
コレがなければ十法院の顔位置を多少ずらすくらいの威力しか発さなかったに違いない。
「いったいなぁ。結構実践向きの能力持ってるんだね……」
ゆらりと立ち上がる楽斗。見た目の線の細さからは考えられないタフさだ。
それを見て、指差しながら日々木が言う。
「問おうじゃねぇか。俺がこういう事態になってるのは、てめぇの仕業なのか?」
当人は凄みを利かせて言っているつもりなのだが、実際響くのは可愛らしいくりくりボイスを無理矢理低くしたような声なのでどうにも決まらない。
「ええ、まったくもって僕の仕業です。僕がやりました」
にやりと小悪魔的な笑顔を見せて楽斗も言い返す。こいつこそ女みたいな顔して、と日々木は思う。
「なんで!? どうやって!?」
そして、すがるように聞く。
「なんで? と問われると、それは僕の趣味だからで、どうやって? と問われると、それは僕がそういう能力を持っているからです」
「趣味かよ!」
とツッコんでみる。何故自分をという問いはするだけ無駄だろう。
「チッ、付き合ってられん!」
言うと日々木は、くるりと踵を返した。
「おや、元に戻せとか、そういうのは無しですか?」
「あいにく、何とかしてくれそうな奴を一人知ってるんでね。第一お前に頼んでも絶対に請合ってくれんだろうが」
振り向き答えて、再び前を向き、驚愕する。
教室に通常戸が備えられているべき場所にそれはなく、一面のっぺりとした白壁が目の前には広がっている。
「それじゃ、逃げ道をふさぐだけです。この空間を外部から孤立させました。僕を倒さなきゃ出られません」
その声に日々木が振り向くと、楽斗が先ほどと同じように、飄々と立っていた。
「ったく、なんて野郎だ……」
ちょっと低めのソプラノヴォイスが響く。
「だったらもう一度、痛い目にあわせてやるッ!」
両腕両足に気を集中。一瞬で間を縮め、一気に楽斗の顔面にストレートをくれてやる。
何かしら妙なことをやるかと思っていたが、楽斗は素直にパンチをくらい、素直に壁に叩きつけられた。
日々木はあたりを見回してみたが、依然、変化なし。
楽斗をまだ仕留めきっていないということだ。再び、楽斗を飛ばした方向へ跳ぶ、瞬間に日々木は気づいた。
さっき飛ばした場所には既に、楽斗はいない。
あわてて踏みとどまったところに、後頭部が掴まれる感覚。
日々木はそのままコンクリの壁に、頭を突っ込まされた。
ゴガァッ!
「ふぐぁあっ!?」
後頭部を引かれて壁から頭が遠ざかる。
「思ったより威勢がよすぎますねぇ。一回くらい死ねば、ちょっとはおとなしくなりますかね?」
その言葉を聴いた瞬間、容赦なく、再び頭を壁に打ち付けられた。
何かがつぶれる音が聞こえるとともに、高梨日々木は再び意識を闇に落とした。
◇◆◇
「ふ……あッ!?」
体を妙なもので擦られるような感覚で、再び日々木が目を覚ましたとき、あたりはまだ暗かった。
「十……法院!? あ、やっ……なんで裸!?」
裸になっているのは十法院でなく日々木のほう。そして、先ほど体を擦られた妙な感覚とは、楽斗に乳首を舐められた感覚だった。
「はぅぅ……ッ」
今現在、机が脇にどけられた教室の中心に全裸の日々木が横たわっており、その乳房を楽斗が弄んでいるという状況。
「な、何すんだよっ!?」
あわてて抵抗にかかる日々木だが、それは楽斗の
「おとなしくしていてくださいよ」
の一声に完全に封殺される。
「あうぁ……なんで……?」
体がガクガクと震えて全く身動きが取れない。
「怖いでしょう? 一度あなたを殺した僕の声ですから」
「殺……した?」
驚愕に顔を戦慄かせながら、じっと楽斗の顔をおびえきった目で見つめる日々木。
「えぇ、壁が割れるほど頭をぶつけさせてもらいました。記憶としては覚えてないでしょうけど、本能に叩き込まさせていただきました」
にこにことなんでもないことのように、いつもの学校生活で見せるように笑いながら、楽斗は言う。
「なんで、俺は、生きて……?」
「生き返らせましたから。僕が」
やっぱりなんでもないことのように笑う。笑って言う。
この男に不可能という文字はないのだろうか?
「ありません。といっても、色々と制約がかかる上に、こういう能力専門の狩師なんてのもいますから、実際はかなり不可能ずくめなんですが」
と、今度は少し苦笑気味に笑いながら付け加える。
「能力って、もっと単純なものなんじゃないのか……? そんなに『なんでもできる』能力って、存在するのか?」
「僕の力は至極単純ですよ?」
楽斗は得意げに笑って。
「『事実を変更する』。ただそれだけの力です」
乳首を甘噛み。
「はぁうっ!」
日々木の口から声が漏れる。
「かわいいですね……」
ある種屈辱的な褒め言葉を口にしつつ、楽斗は今度は微笑ましそうに笑いながら、
「ちなみにですが、別にあなたを直に『男』から『女』に事実変更したわけじゃありません。
それだと運命調律がなされて、あなたが最初から女だったことになってしまいます。
それではまったくつまりもしませんし、調律によって歪みが大きくなるので、僕はたちどころに狩人に嗅ぎつけられて狩られてしまいますから」
言いながら再び日々木の唇に自分のそれをあてがう。
「んんんんぅ……」
日々木は悶え、身をよじりながら心ばかりの抵抗をする。
だが、とても甘く感じる楽斗の唾液に、あれから何も食べてない日々木は性欲だけでなく食欲にも精神が侵され、いつしか呆けた目で楽斗の舌を自分の舌に絡
ませていた。
「はうっ、うむぅ……ぅん……」
ぴちゃぴちゃと淫猥な音を立て、お互いがお互いの口内を味わいつくす。
あまり長くその状態を続かせず、楽斗は唇を離した。その唇からつむぎだされるのは先ほどの話の続き。
「そこで、チョークを一本、強力便利な性転換薬に変換して、それを使用したわけです。
これだと貴女への認識も男のままですし、その分歪みも少なくなって僕が狩られる可能性も低まります」
言い終わるや否や、楽斗は日々木の首筋に舌を這わせた。
「はぁふぅぅ……はぁん……」
切ない喘ぎが日々木の口から漏れ出る。その感触は異様なほどに気持ちがよかった。
「ふふ……気持ちいいようですね? あなたの体は女性としてはかなり理想的に仕上がっていますから……」
楽斗はあくまでいとおしそうに語りかけ、愛撫する。
日々木にとっては、好色そうな眼差しで見られ、下卑た言葉を使われ嬲られたほうがまだマシだったかもしれない。
それだったら嫌悪で一くくりに出来、蛮勇でもなんでも発揮して、かなわないまでもコイツに一太刀浴びせられたかもしれない。
それなのに、無茶苦茶やってるのにどうしようもなくコイツは優しくて、むしろ愛しささえ感じてしまう。それは屈辱だった。
「おれを……どうするつもり……だぁ…あぁん!」
やっとのことで言葉を紡いだ日々木だったが、その瞬間に愛撫箇所が首筋から乳房に変更された。
楽斗はアイスクリームでも舐めるように、丹念に乳房を舐めまわす。
「はぁう……あぁう……ぅん」
「まず、僕の手で女の喜びという奴を教えこまさせていただきます」
言うが早いか、楽斗は左胸の頂にそびえるピンク色の塔を、ぺろぺろと何度も舐めた。
「ああっ! はぁっ! うぅん……あひゃぁあっ!?」
嬌声を上げて悶える日々木。
「気持ちいいですか?」
さらにもう片方の胸を揉みしだきながら、悪戯のように問いかける。
「はふぁっ……あぅぅ……うふぁぁうん……あはっ……!」
日々木は熱に浮かされて悶えるばかりである。
「答えて下さいよ」
楽斗はちょっと声色に凄みをかけて威圧しつつ、乳首を思い切り捻った。
「ひゃあうううっ! きもちいい、気持ちいいですっ!!!」
日々木は、怯えと快楽に身を震わせて、力いっぱい『本音』で答えた。
「ふふふ、よく出来ました」
その答えを聞いて満足そうに微笑み、右手をにわかに日々木の秘部に持ってゆく。
「はぁああうううっ!?」
いきなり秘部を弄られて素っ頓狂な声をあげる日々木。ぐちょ、と言う音とともに、指が秘部から引き抜かれ、つう、と愛液がそれを伝う。
「こっちは準備完了といったところですか」
と、いきなり愛液で濡れた指を日々木の顔前に持ってゆく。
「とても感じてたんですね。こんなに濡れちゃいましたよ」
かぁ、と顔が赤くなるのが日々木自身感じられた。男としてそれは情けなさ過ぎる気がする。
日々木は口先ばかりの抵抗を試みた。
「か、感じてなんか……」
「ないっていうんですか?」
言いながら楽斗は、大腿で日々木の秘部をこすりあげる。
「うンああああっ!」
嬌声を発し、口を開けたところにすかさず先ほどの指を突っ込む。
「はむぅっ!?」
「どうですか? 自分の愛液の味は……」
小悪魔っぽく微笑む楽斗の顔でとろけてしまいそうだった。
日々木の頬を不意につうと涙が伝う。それでなおチュパチュパと指をしゃぶり続ける。
その、官能的な表情にぞくりときた楽斗は、しかし一つ案を思いつく。
「おいしそうに舐めますね……」
言って日々木の口から指を引き抜き、そして日々木の体から楽斗が離れていく。そして聞こえるのはカチャカチャとベルトの外れる音。
その音に日々木が身を起こすと、その瞬間、楽斗の、顔に似合わず大きな怒張が突きつけられた。
「あう……」
驚愕に目を見開いて、視線を上げると、ニヤと笑う楽斗の視線と交錯した。
「僕のもしゃぶってみて下さいよ」
言って、さらに怒張を押し付けてくる。
日々木は逃げるように少し後ずさった。
「い、いやだ……」
その瞳を彩るは恐怖。男としての尊厳を奪われ、従属させられることへの恐怖。
しかし、
「しゃぶってくれるとうれしいんだけどなぁ?」
その一言でその恐怖は矛先を変える。
「は、はい……」
この男に対する恐怖へと。
「はぁ……う……」
怯えと逡巡を見せながらも仕方なく、怒張の先に舌を這わせる。
「ふぇ?」
と一瞬、調子の外れた声をあげると、今度は躊躇なくペニスを頬張る。
「はふぁい……」
ペニスをくわえながらであるので聞き取りにくいが、彼女は『甘い』と言った。
「ふふ、すんなりとやれるよう、味覚をいじってみました。悪い配慮じゃないでしょう?」
上からの優しい声。
「さぁ、もっと舐めて……」
「ふぁい……」
楽斗の言葉に素直に従い、日々木は愛撫を開始した。
口の中で鈴口をぺろぺろと舐めまわし、次第に範囲を広げてゆく。
「ううっ……」
今まで笑みを絶やさなかった楽斗の顔が初めて快楽に歪む。
「ふぁ……あむ……」
味覚的嫌悪がないので、さらに目をつぶることによって視覚的嫌悪からも脱却する。
それによって自分が何を舐めているのかをぼやかし、その、日々木の自分への誤魔化しは舌の動きをスムーズにする。
ぴちゃぴちゃと音を立ててアイスキャンディを舐めるかのようにペニスを舐めまわす。
単調な攻めではあるが、楽斗は確実に高みへと上り詰めてゆく。
「はっはむぅ……」
「ほら、今度は吸ってみて?」
楽斗の言葉に従い、日々木は再び咥えなおして、チュウチュウとペニスを吸う。
「あぁ、とても気持ちいいよ……」
楽斗のその言葉を証明するかのようにペニスがぴくぴくと動き、それで日々木は幾分か現実に引き戻されたが、今更仕方がないと割り切って、ペニスへの攻め
を続ける。
そうしているうちに、にわかに日々木は、咥えているものが大きくなったのを感じた。
「ッ出るっ!」
楽斗は叫ぶと、じゅぽんと日々木の口からペニスを引き抜いた。
ドピュッ、ドピュルルルル……
ペニスの先端から白濁色の液が迸る。
「あぁあああああん……」
日々木はそれを、顔といわず胸といわず、体全体に受け止める。
白濁色に塗れ、てらてらと光る裸身を晒しながら、呆けた表情をして固まっている日々木を見て、楽斗はぞくりと自らの情欲が煽り立てられるのを感じた。