新しい生活を始めたある日、僕は不意に浮かんだ疑問を口にした。
「あのさあティア姉? ティア姉はどうしてエッチな事のやりかたを知ってたの?」
かちゃかちゃと器用に食器を片づけていたティア姉の触手が、ピンと張りつめて動きを止める。
『そ、そんなの、メフィラなら当たり前に知ってる事で……』
思念は震えているし、触手はぎこちなく固まったまま。ティア姉はすごく嘘が下手だ。
「でも、ティア姉がした時とその前の時じゃ、された事がぜんぜん違ってたよ?」
あくまで動物的だったメフィラとは違って、ティア姉の愛撫は人間の唇や指先をイメージさせるものだった。
僕は髪が肩まで伸びた頭を傾けて、ティア姉の触手の下にある本体をのぞき込む。
焦ったティア姉がぷしゅうと空気を漏らす。
触手がへなへなとしおれて桃色が薄くなったのは、何かやましい事がある証拠だ。
「白状してよ、ティア姉」
つんつんと突っついたら、不承不承の恥ずかしそうな思念が返ってきた。
『あのね、神学院は寄宿制で女の子ばかりでしょ……。女同士でそういう事になっちゃう子がたくさんいるの……』
「げっ、まさかティア姉も!?」
『そんなんじゃないけど、その、何度かは……』
衝撃の告白を受けた僕はぴしっと固まってしまった。ティア姉の触手が一斉におろおろわさわさと振り回される。
『そ、そんな目で見ないでよぉ。お風呂で襲われちゃうんだから仕方なかったのっ!
それに、普段はちゃんと逃げきれたから大丈夫なのっ!』
少しも大丈夫ではない気がする。どうやら神学院の寄宿舎はとんでもない所らしい。
僕の中で聖巫女の清純なイメージがガラガラと崩れていく。
「聞くんじゃなかった……」
『男の子は知らないだろうけど、女の子の集団って怖いのよ』
触手がぶるっと震えた。どうやらそこにはメフィラですら恐れる世界があるみたいだ。
でも、この姿でいる限り、僕にもそんな中に入っていかなければならない事があるかもしれない。
いやいや、そんな事態だけは何があっても避けよう。思いっきり逃げ出そう。
僕は震える心で、固くそう決心した。
了