たった3人の結婚式を終え今は街のレストランで少し遅めの昼食を取っていた。
目の前でカルボナーラのおいしそうな湯気が談笑する僕たちに早く食べてくれと急かす、
だが今はどんなおいしい料理もこうして笑いあえるこの時間が何よりも大事に思えた。
デザートのジェラートを食べ終えると不意に杉田さんの携帯電話が震えた。
「おっと・・・失礼」
メールらしく携帯電話の画面を覗き込むと再び口を開いた。
「すまない、研究所でトラブルがあったらしい。今日はもう戻れないかもしれないからすまないが夕食は2人で行ってくれ」
「そうですか、わかりました気をつけて・・・」
杉田さんはレジカウンターで会計を済ませると足早に駐車場へと向かっていった。
「ぷっ・・・無理しちゃって」
思わず笑いが口からこぼれる。理恵はそんな僕の顔を見て不思議そうな表情を見せた。
「ねぇ恵一、どうしたの?」
「ああ、ごめんごめん、杉田さんのこと、さっきメールが入ったでしょ、あれ多分自分で入れたんだよ。
普段メールなんか使いもしないのに、僕たちが2人きりになるように気を使ってくれたんだよ」
「ふーん、そうなんだ。私杉田さんのことちょっと誤解してたかも・・・良い人だね」
「そんなんじゃないよ。ただの親ばかだよ」
「そう、でも・・・・いい人だよ」
レストランを出て2人で並んで歩く、行き先は杉田家・・・今の僕の家だ。
唐突に作られた2人きりの時間に僕は理恵にどこに行きたいか訊ねた。
すると理恵から返ってきた答えは『2人きりで居たい』だった。
僕も首を縦に振り今2人で家への道を歩いている。
家に着き玄関に入るなり我慢できず理恵の身体を強く抱きしめた。
理恵は一瞬ビクッと身体を震わせ驚いたような表情をみせたがすぐに僕の身体を抱き返してきた。
理恵の鼓動が僕に伝わり、僕の鼓動が理恵に伝わって他の音はもう何も聞こえなかった。
「ん・・・あ・・ぅ・・ん・・・」
式のときのように背伸びをして口付けを交わす。
背伸びをしている無理な体勢のためか、上手くできないもどかしさはあったが半年振りに味わう唇同士が、
触れ合う柔らかな感触は僕の理性を溶かしきるのに十分なものだった。
「ん・・・あふぅ・・・・ん・・ねぇ・・・恵一、私・・・シャワー浴びたい」
理恵のブラウスに手を掛けようとした時、彼女は僕の手を握り返しそっと呟く、無理な姿勢で辛さも感じていた僕は理恵の提案に首を縦に振って応えた。
バスルームに2人で入る、まだ男だった頃何度も見た理恵の肢体は女性らしく丸みを帯び、
それでいて適度に引き締まり僕は堪らず理恵の身体に飛びついた・・・・・・・筈だった。
少なくとも玄関で抱き合っていた時はその気でいた。
だが玄関からバスルームに向かって歩くその僅かな道のりを歩くうち僕の心を支配したのは、
今の自分の身体を見られることへの気恥ずかしさ・・・いや、恐れだった。
男だった頃頭ひとつ小さかった理恵の身体、その小さかったはずの理恵の身体が今は背伸びをしないとキスもできないほどだ。
確かに僕と理恵はささやかながら結婚式を挙げた。今は心が繋がっていると自信を持って言える。
・・・だが肉体は繋がることができない・・・・そして心は肉体に従属する。
昔読んだ小説の言葉が頭の中で繰り返される。そしてその言葉は僕からさっきまでの勢いを奪っていった。
「ほら、恵一なにやっているのよ、今更恥ずかしがることも無いでしょ何度も見ているのに。1人だけ裸の私が恥ずかしいじゃないの」
脱衣所の隅でもじもじとしている僕に諭すように理恵が話し掛けてきた。
「ほーら、まさか中身まで女の子になったわけじゃないんだから恥ずかしがらないの」
「ちょ・・・ちょっと理恵・・・うわ!?」
理恵の言葉にあっけに取られている僕に今度は理恵の手が襲い掛かってきた。
"女"としてのキャリアが長い彼女の手によって、下着すら剥ぎ取られ一糸纏わぬ姿となった僕を彼女は抱きしめた。
「ちょ・・・理恵・・・・強引過ぎ・・・・」
「・・・・ばか・・・・こうなることを望んでたのは私も一緒だよ」
抗議の言葉を上げようとした・・・・がそれは理恵の小さな声によって永遠に封印された。
理恵の涙色の混じった声は先程まで感じていた恐れの鎖を引き千切り僕の心を再び"恵一"に引き戻した。
シャワーを浴びることも忘れそのまま脱衣所で唇を重ねる。
理恵の桜色の唇を舌先を割り入れ口内に侵入しその温かな感触を味わう。舌と舌が絡み合い唾液が淫靡な水音を奏でる。
「ん・・・んちゅ・・・あふぁ・・・んっ・・・ん・・」
「んふぅ・・・んぁ・・・ん・・あふぅ・・・・んん」
どちらからとも無くいつのまにか甘い声を口から漏らしていた。
理恵の身体を抱きしめていた手もいつのまにか彼女の胸に伸び、柔らかな双丘、そしてその頂にある果実をもみしだいた。
「んん・・・くふぁ・・・ん・・・・ああ・・もう・・・身体は変わっても恵一は恵一ね触り方が一緒だもの・・・
ねぇ・・・今度は恵一を気持ちよくしてあげる」
「え・・・ひぁ・・あっああ・・・や・・・理恵・・・」
いたずらっ子のような笑みを浮かべ今度は理恵が僕の胸に触ってきた。女になってから何度かは興味本位で自分の身体を触ったこともあった。
その時でさえ快楽の海に沈みそうになった。だが、それすら今与えられているものに比べれば嵐の波に流された小船のようなものに過ぎなかった。
「かわいい・・・恵一・・・気持ちいいの?もっと・・・してあげるね」
すでに固く膨らんだ桃色の先端を舌で転がされると、電気が走ったように僕は背中を仰け反らせながら濡れて甘えたような声を口から漏らした。
「あふぁ・・・ああ・・・あっ・・・や・・・・やだ・・・おかしくなる・・・あっああああ・・・はぁ・・・はぁ・・・んん・・・んふぁ・・・・・」
理恵が舌先を器用に動かすたび僕の心象風景のパズルは一枚・・・また一枚と真っ白なピースと差し替えられやがてそれは真っ白になった・・・・・・・
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・理恵も気持ちよく・・・」
湯船の淵に腰を降ろし身体を密着させた。乳房が押しつぶされて2人の間を埋める。
さっきまでの愛撫の余韻が残っている身体にはそれだけでイってしまいそうな刺激が身体に走る。
理恵の秘部に手を伸ばすとそこは既に大量の愛液が滴り指で軽くなぞるだけで彼女はビクッと身体を振るわせた。
「あっあああ・・・あっあっあっ・・・いい・・・いいよぉ・・・」
意識しないようにしていたが僕の女の部分も理恵の声を聞くうちに待ちきれないといったように太腿まで粘液を垂らしていた。
それを感じ取ったのか理恵も僕の秘唇にその細い指を伸ばしてきた。
他人に初めて触れられたソコは僅かな指の動きにも反応して抵抗できないほどの刺激を僕に与えた。
「・・・ひぐぅ!?・・・あああぁ・・・や・・・やだ・・・そこは」
理恵の指先が肉芽をはじくと僕は声にならない声を出し身体を仰け反らせた。
「あっあっあっああああ・・・・・やだやだやだ・・・ヘンに・・・・変になっちゃう」
「恵一・・・私ももう・・・もう・・・イク・・・一緒に・・・・ね・・・」
2人の喘ぐ声といやらしく響く水音がバスルームに響き僕の身体の奥から何かが来るような熱い感覚があった。
「や・・・・やだ・・・だめ・・だめだめぇ・・や・・ああああああああああ」
「イク・・・いっちゃう・・・・いっちゃう・・ああああああイクゥ・・・・・・」
ひときわ激しい声が木霊し2人お互いを支えるようにしながらその場にへたり込んだ。息はまだ荒く余韻を楽しむように抱き合っていた。
シャワーを浴び服を調えた後もリビングルームで身を寄せ合っていた。
「ねぇ、夕飯何が良い?」
「カルボナーラ」
「カルボナーラって昼にも食べなかった?」
「えっと・・・理恵の作ったカルボナーラが食べたいんだ。理恵の一番とくいな」
「ふふ・・・わかったちょっと待っててね」
そう言ってキッチンに向かう理恵を見送りながら僕はそっとお腹に手を当てた。まだ身体の奥がジンジンする。
形はどうあれ理恵と肌を重ねることができたことに僕は普段祈りもしない神に感謝を捧げた。