「そういうわけで、今日からは女の子として通うことになった海原祐樹だ」
教室に僕を呼び入れるなり、先生は皆にそう紹介した。
ざわざわざわざわ。
ほんの数日前まで、同じ教室で学んだ男子生徒が、
女の子(多少自惚れていいなら言うけど、かなり可愛い)として紹介されたのだから、誰だって面食らうだろう。
「当たり前のことだけど、教室中がざわついている。
「せ、せんせー、じゃ、じゃ、じゃあ、祐樹はオカマになっちまったってことですか?」
中ほどの席に座る男子生徒・陸田は、どもりながらも何とか質問を発した。
まあ、多分それが一番常識的な疑問だと思う。他の生徒も、同調するように頷いている。
質問を聞いた先生は、ニヤリと笑って僕を見ると、言った。
「海原。お前のクラスメートがそう聞いてるが、どうするんだ?」
さすがは、学校一意地が悪いことで嫌われるハゲデブエロオヤジ教師(陰称ハデエロ)・川村。
あくまでも、外面上は僕の自主性に任せようという魂胆か。
「あ……あの、オカマとかじゃなくて、ほ、本当に僕は女になったんです」
頬がかぁっと熱くなって、うつむきながら、僕は言った。
女の子になった自分をクラスメートたちにさらすのが、いまさらながらに恥ずかしい。
皆の視線が、突き刺さるように痛い。
「んっ!」
突然に、お尻のあたりに手の感触を感じた。川村が、教卓の死角を利用して僕のお知りを撫で回していた。
その手つきは、異様に上手い。こいつ、絶対に痴漢をし慣れてる。
「…ぁぅっ」
その手が、序所に敏感なとこを移動していく。頬の熱が、全身に移り始めた。体が、小刻みに震える。
「女になった、って言われても……手術なの?」
そんなことは露知らず、学級委員の空木が、もっともなことを言う。
けれども、僕はそれに答えるどころではなくなっていた。川村の手が、スカートの中にまで入り込んできていたからだ。
「ひっ……ん…ぁぁぁ…」
俯いて声を抑えるのに手一杯で、ほかのことを考える余裕はない。
「ほら、委員長が質問してるじゃないか。答えてやれよ」
だというのに、川村は僕の耳元でそうささやいてくる。その手は、僕の一番敏感なところを下着の上から撫で回す。
「ん……あ、しゅ、しゅじゅちゅとかじゃなくって、あ、っ……その………ゃぁっ!」
上手く回らない舌と、霞がかりはじめた頭で、何とか答えをつむぎだそうとした途端、
川村は僕の下着を下ろして直接触り始めた。
「もうこんなにびしょびしょだと意味ないだろ?
ほら、そんなことより、ちゃんとどんな風にお前が女の子になったのか教えてやれよ。皆に良く分かるようにな」
川村は、底意地悪く僕にささやく。
「そ、そんなこといったってっ……っ」
川村の指は、くちゅくちゅと、はっきりと音を立て始めた。僕の太ももを、いやらしい液体が伝っていく。
もう、足が震えて……っ。
「なんだ、もう立てなくなっちまったのか。しょうがねぇ。俺がはっきり見せてやろう。
海原が女の子になったって、確実な証拠を」
そう言うと、川村は僕の背後に回って……。
僕は、全身の力が抜けて、頭がぼうっとして、何も出来なかった。
ただ、川村が僕の体を抱きあげて、両足を広げてクラス中に見えるように……。
☆★☆
「おいコラ祐樹っ!!」
ごちん、と頭の中に星が飛び散った。
「ん……? あ、川村」
僕は机に突っ伏した姿勢から顔を上げて、ぼんやりと、目の前の親友を見やった。
何か変な夢を見ていたような気がする。全身に汗をかいている。シャツがなんだかべっとりとしていて気持ちが悪い。
それと……なんだか胸がドキドキする。まさか……恋?
……………それはないな、絶対。
僕は、目の前で怒鳴っている親友を改めて眺める。多少怒りっぽいところを除けば、イイヤツだ。
イイヤツだけど、別に僕にはイイヤツなら性別を超越して惚れるというような性癖はない。
「川村? じゃねぇ。もう放課後だろーが! いつからお前は眠り姫にジョブチェンジしたんだっ!!」
「……うーん。僕は男だから、『姫』にはなれないね」
ごちん!
「屁理屈言うなっ!」
訂正。無茶苦茶怒りっぽい。
「馬鹿言ってないで、帰るぞ」
「はいはいはいはい。川村が怒るからかーえろっと」
そういうわけで、僕は今普通に高校生活を送っているのだった。
まさか、またあの悪夢がよみがえろうとは思いもせずに……。