『さようなら』
ホームルームが終わると部活に向かう者や素早く帰ろうとする者、皆が教室を出る前に話し掛けて来る。
『じゃあ明日楽しみにしてるからな』『サービスよくしてね〜』『言葉使いなおせよ』。
勝手な事を言って笑顔で退出していく連中一人一人に『バカヤロー』と言い放つ。
『ったく、少しは人の心配でもしやがれ!!』
独り言を言っていると健吾が話し掛けてきた。
『あははっ、まあいいじゃねーの。誰だってこんな男だらけで授業受けるより、可愛い子と授業したほうがいいと思うだろ?』
『そ、そりゃそうだけどさ・・・』
するどい指摘に言い返すことができない。
『だろ、わかったとこで帰ろうぜ』
カバンを担ぎ廊下に向かおうとしたところを引き止めた。
『ま、待ってくれ。あのさ、わりーが、制服買いに行くの付き合ってくれ。さすがに一人はきついからさ』
『あん?ほんとに買いにいくつもりなのかよ?まさか・・・お前その手の趣味が・・・』
こちらを振り返り、軽蔑するような目でこちらを見てくる。
『ち、ちげーよ。ちゃんと訳があんだよ!!』
女なのに男の制服を着てる違和感、そして夕食抜きのことを説明した。
『はーん、なるほどね、確かにもっともだな。しかし飯抜きかよ、お前のおばさんも、てきびしいというか、のん気というか・・』
呆れつつも納得した健吾を連れて、校舎内にある文房具店に向かった。
ここは文房具のほかに制服や体操着など、学校指定の商品も置かれている。
『あの、女子の夏用の制服欲しいんですけど・・あとソックスも』
暇そうな顔をしている店員らしきおばさんに声をかけると、めんどくさそうにこちらを向いた。
『どっち?ブラウスとスカート、それともリボンだけ?』
『えっと一式全部下さい』
明らかにやる気の無さそうに置くの棚に向かう。
『サイズは?』
店員の質問に自分のサイズがわからないことに気づいた。
『やっべー、身長も縮んだからサイズわかんねーよ、健わかる?』
『なんだよ、お前が知らんのに俺が知るわけ無いだろ』
健吾に助けを求めたが、もっともな意見が返ってくる。二人で四苦八苦していると店員が待ちきれなくなったのか、声を出す。
『まあ、見た感じブラウスはこんなもんでしょ。今時の子だしスカートもこれくらいで。リボンとソックスもこれで』
勝手にサイズを選ぶとこちらに渡してくる、店員の目利きを信じ会計を済ませた。
『じゃあ、俺着替えてくるから先に校門に行っててくれ』
健吾と別れ、制服を持ってトイレの個室に入る。今度はちゃんと女子トイレだ。
『はぁ、まさかスカート穿くことになるとはな・・・』
ビニール袋から取り出したスカートを持ち上げしみじみと感傷に浸った。
自分の一生で無縁なものだと感じていた品をまさか穿くことになるとは思いもしなかった。
いくら女性の身体とはいえ抵抗を感じないわけではなかったが仕方が無く着用するのだと、自分に言い聞かせた。
我が高校の制服は一般的な形で、全体的にこげ茶色でヒダとよばれる縦すじが入り裾から10cm位の高さの所に横に白い線が走ったスカート、
平凡な白の半そでブラウス、それとネクタイのように首を巻きつけ胸元で縛る大き目のリボンが特徴の制服である。
ソックスは規定は無いが渡されたのは夏用の為か短めの黒であった。
今着ているYシャツとズボンを脱ぎ朝と同じく紙袋にしまう。
先程と同じくTシャツの上から女子用のブラウスに袖を通すと肩周りなどがピッタリで、店員を感心した。
しかしやはり、人並みサイズでは無い胸はぎゅうぎゅうで、なんとか第一ボタンまで閉めると、はちきれんばかりであった。
知らない人と出会ったら間違いなく最初の視線は高校生とは思えぬほど発達した胸の大きさに目がいくほど突出していた。
『胸でかい人が小さめの服着るとエロく感じるな・・・』
ガボガボだった男用のシャツの時と違い、きつきつのブラウスの明らかに目立つ胸を上から見上げる形で見て素直な感想を漏らした。
次にスカートを穿く。トランクスが落ちないようにスカートのウエストに合わせ、ブラウスの裾を中に入れ、一緒にベルトで押さえつけた。
なんだか短い気もしたが胸が邪魔でよく見えないので後で確認することにした。
最後に赤いリボンをシャツの首に通して胸元で縛り完成である。忘れずにソックスもはきかえた。
『ふぅ、やっぱ女だからかな・・・女子の制服着てたほうが落ち着く気がする』
制服を着るの否定しても、実際着ると似合ってしまい、
何故か心が和んでしまう自分の心情に不思議になりながら荷物をまとめ個室をでて、洗面台の鏡で自分の姿を確認をした。
『こ、これはスカート短くないか・・・』
胸が邪魔で下がよく見えなかったから、あまり気づかなかったが鏡を見てスカートの短さに驚いた。
ほんとに店員がいったように今時の茶ぱつの子が穿くような短さで、校則を守るような、優等生が穿く長さではなかった。
裾をつかみ下に引っ張るが、長さ的に股下10cmほどの丈である、後ろはお尻の大きさの性で前より少し上に裾が上がっている。
少しかがめば、ばっちり下着が見えてしまうだろう。
鏡の前でかがんだり足を上げてみて下着が見えないかチェックしたが、特に改善する手段もないので諦めてトイレをあとにした。
せめて下着が見えないようにとトランクスを上に引っ張り上げておいた。
校門まで歩く間、歩きに合わせてスカートがひらひらと揺れて下着が見えてしまうのではないかと不安になった。
ズボンと違い風が股を通り抜けスース−する。
『遅かったな・・・・』
遅くなったせいで校門辺りに生徒の姿は無く待ちくたびれてた健吾がこちらに気づくと声をかけてきた。
しかし悠のこぼれそうな胸、引き締まった腰、下着が見えそうなスカート、
すらりと伸びたやわらかそうなフトモモの姿をみるなり、唾を飲み込んだ。
『おい!何見とれてんだよ!!』
健吾の様子に気づき怒鳴りつける。
『あ、ああすまん。しかし、ちゃんとした格好して気づいたが、お前エロい身体つきしてるな〜〜』
胸と脚をジロジロと観察する。
『俺もそう思うよ・・・しかもこんなにスカート短いし・・・』
恥ずかしくて裾を下に引っ張る。
『いつまで見てんだよ、いいから帰るぞ』
『あ、まてよ』
ジロジロとみている健吾をおいて先に駅に向かい歩き出すと、それに気づきあわてて追いかけてきた。
少し歩いたとこで健吾の行動が気になった。
『おい、何で後ろ歩いてるんだよ』
立ち止まり、まざとらしく歩く速度を落し自分の後ろを歩く健吾に話し掛けた。
『いやーースカートの揺れを見てるだけで、なんとなくそそるものがあってね』
『・・・なんだそりゃ、好きにしてくれ』
頭をかきながら嬉しそうに話す健吾を放っておいてまた歩き出すと、こちらと速度をあわせて後ろをついてくる。
視線はしっかりとお尻にむけられている。
スカートは悠が歩くたびに、ふわりと少し浮いてはその反動でお尻に張り付くほど近づく、
そしてまた離れるといったように裾が、ひらんひらんと前後する。
下着が見えそうでみえない感じを楽しんでいるようだった。

『おい、スカート抑えないと色気の無い下着が見えてるぞ』
駅の階段を上っていると、後ろから健吾が注意をしてくれた。
『あ、すまねぇ』
頬を赤く染め健吾の言葉に反応し素早くカバンでお尻を抑える。どうやらトランクスが見えたらしい。
ズボンの時と違い、油断すると下着が見えてしまうので注意を怠らないようにしなくてはいけなかった。
停車中の電車に乗ると始発駅なので発車時間を待つ車内はガラガラであった。
座っていると、隣にいる健吾が腕を伸ばし急に胸を掴んだ。
『ひゃんっ!!』
驚いてつい大きな声が出てしまった。
『やわらけーー』
健吾が口を開いた瞬間、突き飛ばした。
『な、なにすんだよ!』
頬を赤く染めながら胸を押さえると、椅子から転げ落ちた健吾が腰を擦りながら立ち上がり椅子にすわる。
『いやーあんまり見事な胸だから偽物じゃないかと思ってね』
こちらに手を向けニギニギとにぎるそぶりをする。
『本物に決まってるだろ!なんでわざわざ胸を大きく見せなきゃいけないんだよ』
声を上げ言い放つと、奥の方に座っている客が、こちらを見てきたのでトーンを下げた。
『今度やったらただじゃおかねーからな!!』
握りこぶしを健吾の目の前にむける。苦い顔をしてこちらをなだめてくる。
『わかったわかった、いやー、しかし初めて悠から可愛い喘ぎ声も聞けたし。胸のやわらかさも知れたから今日は満足だよ』
『喘いでなんかいねーよ!あ、あれは、急に掴むから驚いてだしちまったんだよ。
それと絶対胸触ったことクラスの奴らに言うなよ。どうせ俺も触らせろとか言って来るんだから』
『はいよ、了解!・・秘密にしてたらまた、揉ましてくれるかな?』
手を胸に伸ばしてきたので叩き落としにらみつけた。さすがにやりすぎたと思い謝ってきた。

『明日はトランクスじゃなく、ちゃんとパンティ穿いて着てくれよな』
電車が動き途中の乗換駅で健吾に別れ際に耳打ちされた。
『バッ』
文句をいってやろうと思ったが素早く健吾に逃げられてしまった。
その後自宅に帰るまでに、電車、駅前、バスと男たちの視線が胸や脚など全身に浴びまくり、
家に着いたときには慣れない体験にへとへとになってしまった。

『はぁ、やっと帰ってこれたよ・・・』
くたくたの身体を前に進め自宅の玄関を開ける。
『たっだいま〜』
靴を脱いで食堂に入る。
『ただいま』
『おかえりなさい、あら似合うわね制服、可愛いわよ』
『誉めてもらっても嬉しくないって・・・』
母の第一声にあきれてしまった。
(何処の世界に男が女の制服似合うと言われ喜ぶんだよ・・・)
『あら、残念・・それにしても今気づいたけど、あんた胸大きいわね〜、母さんに似なかったのね』
さびしそうに語る母の意見にやはりどこか抜けてると感じられずにはいられなかった。
別に産んでもらったときから女ではなかったのだから、似るも似ないも無い気がした。
『じゃ、じゃあ着替えてくるからメシよろしく』
台所をでて、階段を登って行く。自室に戻ると荷物を置き制服を脱ぎハンガーで壁にかけた。
上は着ていたシャツを脱ぎ、もっと大きめなシャツを着た下にハーフパンツを穿いてすぐさま食堂に戻った。
大きいシャツをハーフパンツから出しているからガバガバで外目にはわかりにくいが、
ブラウスとシャツで押さえられていた胸が開放されたのを喜ぶように、階段を下りるたびにシャツの中でボヨンボヨン跳ねた。
階段を下りると台所の中からドタドタっと駆け足と共に弟の晋也が飛び出してきて、こちらをじーっと見つめてきた。
『な、なんだよ・・・』
『ほんとに悠兄ちゃんなの?』
晋也の発言に女になってからまだ一度も会ってないことを思い出した。
自分が女になったことは母親から聞いたのだろうが、こちらを疑り深そうに睨み、返答を待つ。
『あ、ああ、そうだよ。こんな姿だけどな』
自分の胸辺りまでしかない身長の頭をポンポンと叩いてやる。
『ほんとにほんと?』
『ああ、ほんとにほんとだ』
しつこく聞いてくるのでめんどくさくてやる気の無い声で返事をしてやる。するとどうやら信じたのかいつもの笑顔に戻る。
『すっげー悠兄ちゃん変身できるのか〜、あれ、でも女だから悠姉ちゃんかな?』
目を輝かせて喜んでいる、心の中で変身ヒーローの見すぎだと呟いた。
『別にどっちでもかまわねーよ。でも、いちおうややこしくなるから人前では姉ちゃんって呼べよ。
あと他の人に変身したとか絶対言うなよ。いいか?』
『わかったよ、男と男の秘密だね。あれ? 男と女かな?』
迷っている晋也を放って中に入り食事をした。


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