小さ目のTシャツ選んで着たのだが、肩周りや丈などが明らかに大きいのに、胸の部分だけはややきついといった感じがした。
左右に引っ張られる形になったせいか、胸にプリントされている絵柄が歪んだ形になっている。
その部分をみてるだけで涎がでてくる。
『えっちな身体だな・・・』
上から胸を覗きながら素直な感想をもらした。胸が大きいせいなのか元から細いウエストがより細く見受けられた。
次にずり落ちるトランクスを抑えながらGパンを穿いた。
こちらも小さめを選んだがウエストはがばがばであるのに、ヒップの部分はぴったりしていた。
ベルトと通して落ちるのだけは防いだ。裾は何度か巻いて長さを調節することにした。
シャツはズボンから出した状態にしておいた。
『まあ、こんなもんかな、特に不自然でもないし』
鏡でチェックを済ますと乱れていた髪を梳かし始めた。よくわからないので跳ねない程度に梳かして終わりにした。
『さて、次はカバンの中身をっと・・・午後は誰の授業だっけかな』
机に置いてある時間割表を確認しながら教科書類を詰め込んでいく。
『今日は午後ひとつしかなくて助かったぜ、しかも担任だから教室に一緒に行ってもらうかな・・・
さすがに急に女の子が入ってきたら連中驚くだろうな〜〜』
クラスの奴らが目を点にしている顔が脳裏に浮かべると自然に笑みがもれてくる。
母親からの遺伝なのか、だんだん女でもいいかなっ、どうせすぐに男に戻れるだろうという安楽思考になりつついた。

『いってきまーーーす』
荷物を持ちテーブルに置いてあった金を財布にいれ、誰もいない家に向かい声をかけて外に出た。
悠の自宅から駅までは意外と離れているのでいつもバスで向かう、バス停に着くと丁度よくバスが来ていたので飛び乗った。
平日の昼近くにもなると車内はガラガラだった。
駅に着きホームに行くまでに数人の人とすれ違ったが特に違和感は無いようだった。
(ふぅ、よかった。別に服装とかに問題は無いみたいだな)
心配も無くなり、すぐ来た電車に乗った。
扉寄りの席に座ると、いつもの電車に乗るときの習慣からか先程の自慰疲れからか次第に眠くなってきてしまった。
(駄目だ・・眠い、どうせ終点までだから寝ちまうかな)
手すりに肘を乗せ寄りかかるようにして眠りについた。

しばらくして目を覚ますと、いつのまにか車内は混みはじめていた。
ガラガラだった席も埋まり立ってる人もちらちら見受けられた。携帯を取り出して時間を確認する。
(けっこう寝たな、次が終点あたりかな。・・・しかしさすがに乗り換え駅通過すると混みだすな〜)
途中にある大き目の駅を通過したためにサラリーマンやら大学生らしき人が多数乗り込んでいた。
(ん?なんか見られてる気がする・・・)
男のときと違い敏感なのか正面や横に座った人、悠の周りに立っている人がチラチラとこちらを見ていることに気づいた。
明らかに視線の先が顔や胸に集中していることがわかった。
シャツを押し上げ一目でわかる巨乳がノーブラで固定されてないために電車の揺れにあわせて、ぷるぷると揺れる。
しかも顔も文句無しの美少女となれば視線を浴びないほうがおかしいくらいである。
隣のサラリーマンなど、新聞を見てるフリをしてるが、こちらを見ているのがバレバレでだらしなく口をひらいている。
悠は無意識のうちに胸を隠すように腕組みをする。
(視線が痛いなんて感じたの初めてだよ・・・自分でみるのはいいが人に見られるのはやだな・・・タオルでもきつく巻いてくればよかった・・・)
皆が自分の胸を見てると思うと微かに頬が赤くなり顔を下に向ける、不用意にノーブラで外にでるべきではなかったと後悔した。
駅に到着すると、逃げ出すように小走りで電車を後にした。
学校は駅から歩いて15分後位の位置にあり、少し回り道をした所にある公園のトイレで着替えることにした。
『ふぅ、本番はこれからだな!!』
トイレに歩きながら公園から微かに見える校舎をみて呟いた。そのまま入ろうとすると、お婆さんが声をかけてきた。
『お嬢さん、そちらは男子用だよ』
『え・・!?』
ふと入り口のプレートを見ると男子用のマークが目に付く、いつもの癖で男子トイレに足を向けていたのだ。
『あ、はは・・・すいません、ありがとうございます』
なんとか苦笑いをしながら、そそくさと女子トイレに入った。
(やっべーー女なんだから女子トイレ入らなきゃ)
当分意識しないと危ないなと思いながら個室に入ると紙袋から学校指定の夏物のYシャツを取り出しシャツの上から着た。
ズボンも脱ぎ制服のズボンに着替える。ズボンは先程と同じくベルトをして裾を捲り上げれば平気だった。
Yシャツは大き目のを普段から着ているせいか胸の部分にも余裕があった。
TシャツとYシャツをズボンにしまうと少しは固定され胸の揺れは減ったように感じられた。
見た目にもYシャツが大きくて胸が目につきにくくなった。
(早く替えを買わないとな・・・服だけでこんなに苦労するとは思わなかったぜ)
衣類の乱れを確認してそーっとトイレをでた。男子制服を着たまま女の姿で人に見られたくなかったからである。
お婆さんがいないのを確認して学校までの道のりを急いだ。

高校は共学といっても、校舎の東棟に男子、西棟に女子の教室と性別で二分されている為。
個々の教室風景は男子校、女子高とさほど変わらない。左右の棟の間に職員室や昇降口、食堂など共同に使うものが設置されている。
悠は人に見られぬように校門を抜けると職員室に移動した。
中に入ると外とは違いクーラーで冷やされた涼しい空気が身体をつつむ。
担任の机まで行くと、昼休みをのんびりと過ごしていた。
『あの・・・先生?』
『ん? えーっとどうしたの? 誰か探してるのかい?』
学年でも優しいと評判の担任の秋元先生は予想通り暖かみのある笑顔で答えてくれた。
『いや・・・その、えっとこんな姿ですけど橘なんです・・・』
なんて言えばいいのかわからずに口篭もりながら自分の名前を伝えると、予想通り驚きを隠せないようだった。
『え!? うちのクラスの橘か?』
コクりと頷くと、頭から足の先までポカーンと口を開けながら見てきた。
『はぁ・・校長から話は聞いてたが・・・完全に女の子だな・・・すごいな〜』
何を感心しているのか腕を組みながら頷いていると、それに気づいた先生方が寄って来た。
『秋元先生、その子ですか?今日職員会議で言われた子は』
『ええ、そうですよ。自分も驚いてるとこですよ』
どうやら校長が他の先生方にも説明してくれたらしく有名になってしまったらしい。
起きたら性転換してたなんて有名になってあたりまえではある。
『へぇ〜どう見ても普通の女の子だねえ』
『そうですよね、こんな長くて綺麗な髪も持ってるしスタイルもいいし・・』
どの先生も不思議そうに観察してくる。その当事者は先生方に囲まれて緊張してしまい下を向いてしまった。
しかし成績が高かったために、教師に信用されているのは幸いだったと心から思った。
『せ、先生・・それでクラスの皆に説明してほしいんですけど・・・・』
なんとか口を開き当初の目的を伝える。それに気づいたのか、
『あ、ああ、すまんすまん。わかった、午後の授業一緒に教室に向かおうな』
片手を上げ返事をしてくれた。
『ありがとうございます』
持つべきは優しい担任だな、神に感謝してペコリとお辞儀した。
『じゃあ、少しここで待っててくれ、ちょっと準備してくるから』
そう言うと職員室を出て行ってしまった。仕方なくまだ周りにいる教師を無視して、ちょこんと担任が座っていた椅子に腰掛けた。
(はぁ・・・疲れるな・・・)
これから、倍以上の人数のクラスの男たちから同じ目に合わなきゃいけないと思うと、どっと疲労が押し寄せてきた。

『待たせてすまないな、それじゃあ行こうか橘』
チャイムが流れると同時に秋元先生が戻ってきた。
先生の後ろをついていく、途中いつも見慣れた風景なのに今日は視線の高さも低い性か違って見える。
『じゃあ、ちょっと廊下で待っててな、呼んだら入ってきてくれ』
クラスの前まで来ると、立ち止まり自分も置いて先に教室に入る。先生が中に入ると号令の声が聞こえた。
その後先生が説明してる声がぼそぼそと聞こえる、まるで転校生のようにドキドキと心臓が鳴り自分の出番を待つ。
『入っていいぞ、橘!!』
掛け声とともに教室に入るとクラス中から驚きの声が飛び交う。
『完全に女じゃんか〜』『すっげぇ可愛い〜』『まじかよ、どうみても女だろ』
(はは、やっぱりな・・・・)
予想通りの反応に苦笑いしかできなかった。騒ぎが止まらない彼らを、先生がなだめる。
『まあ、見た目は変わっても中は橘なんだから、皆いつも通りに接してあげてくれな』
先生の言葉にクラスのそこらで返事が聞こえる。それを聞いて安心したのか頷くとこちらを向いて話し掛けてきた。
『よし、じゃあ授業するぞ。橘、自分の席に行きなさい』
『は、はい』
机の間を通り窓際の一番後ろの角にある自分の席に向かう、机に向かうまでに通り過ぎる。
生徒皆に不思議そうな顔でみられたのは当然である。
自分の席につくと、隣に座っている奴が話し掛けてきた。
『おい、ほんとに悠なのか?』
こいつは中村健吾。
クラスの連中とも仲はいいが、こいつとは1年の頃から一緒に行動していて、親友といってもおかしくない仲だ。
いつも俺は健と呼んでいる。
『ああ、健、おはよっす。そうだよ』
『うわっ、声まで女だな。そんな喋り方してなきゃ女にしか見えね−よ』
一つ一つのしぐさにも驚きを隠せないようだ。
『はぁ、俺だって好きでなったわけじゃないんだけどな』
ため息交じりで愚痴を漏らす。
『まあ、そう言うなよ。後でじっくり聞かしてもらうからさ』
楽しそうに笑うと授業を聞き始めた。
周りを見るとチラチラとこちらを見る連中をみて、この後も忙しそうだなと思い、授業を受けることにした。

授業の終わりを知らせるチャイムが鳴ると、
『よーし、じゃあここまでな。すぐホームルームするから黒板消しといてくれな』
てきぱきと片付け教室を出て行った。時間どおりに終わらせるのも先生の人気のひとつである。
担任がいなくなると、クラスの連中の大半が自分の周りに集まってきた。
『ほんとに橘なのかよ?』『この長い髪本物?』『女っぽく喋ってくれよ』
次から次へと質問をされ、その一つ一つに対応するのは大変だった。
『うるせーよ、お前らさっさと散れ・・・いたたっ髪引っ張るなよ!! おい、何胸触ろうとしてんだよ!』
手で追い払うがあまり効果は無い。そして誰かの発言に皆が注目する。
『女なのに、女の制服着ないのか?』
皆の視線が制服に集まる、するとまた、そこらじゅうから質問が飛び交う。
まるで記者会見のように皆がこちらの回答に耳を澄ます。
『女で男の制服着てるなんて変だぜ』『そうだよ、着替えないの?』
単に制服すがたが見たいだけのようで、皆いやらしそうな目で見てくる。
『お前らくだらねー事言ってないで席に戻れよ!』
怒鳴り付けるが所詮は数で押し負けてしまう。
『早く言えよ!』『質問の答えになってねーだろ』『女の子がそんな喋り方するなよ!』
次々と不満顔で反論して来る。もはや反論は無駄だと悟り諦めて回答することにした。
『い、いちおう今日制服買うつもりだけど・・・』
注目され恥ずかしくて下を向きながら、ぼそぼそと答える。それを聞いた瞬間皆待ってましたのごとく大喜びする。
『よっしゃーー!』『これで毎日制服見られる〜』『女子高生と授業受けられる』
(なんだか、こいつらにはめられた気もする・・まあ、着ないと夕飯抜きなんだけどね・・・)
連中の質問で言いように誘導されたのだと気付いた時には、もはや制服着用は決定づけられていた。
決定したところでタイミング良く先生が来てホームルームが始まった。


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