夜も更けた深夜。
 狭い浴室で汗と体液にまみれた体をシャワーで流していると、悠司が亜美にのしかかってきた。
 せっかくきれいにしたばかりなのに仕方がない人……と内心で思いつつも、
外に声が響かないように注意しながらマットに背を預け、ひっくり返されるような姿勢で彼を受け入れる。
 しばらくの後、ぬるま湯で股間を洗い流しながら亜美が言った。
「先生……さっきの、まんぐり返しって言うんですって?」
 悠司はすっかりぬるくなった湯に浸かり、天井の方を向いたまま黙っている。
だが、彼の気恥ずかしそうな表情は亜美の言葉を肯定していた。
自分に背中を見せて股間を洗っている少女の姿に、また新しい魅力を発見する。
 またもや押し倒したいという欲求を押さえるのに、悠司は苦労した。
湯の中で股間のものが天に向かって反り返っている。自分でも呆れるくらいの節操の無さだ。
彼の困惑の気配を察したのか、亜美は振り向き、微笑んで言った。
「先生……おくちでしてさしあげますけれど?」
 眼鏡を外した亜美の顔もまた新鮮だと思いつつ、悠司はこくりとうなずくと、湯から上がって浴槽に腰掛けた。
ワンルームのユニットバスではなく、狭くはあるがちゃんとした風呂だ。
 亜美はひざまずいたまま、悠司の肉棒をおしいただくように両手を添え、亀頭のくびれを舌でつぅ……となぞり始めた。
しっとりと濡れて肌に張りついた彼の陰毛さえ愛しい。
 思い起こせば、亜美になって初めてセックスしたのもこの浴室だった。
 その後、アパートの住人の部屋で、8人でセックスをした。だが、誰も彼女を満足させてくれなかった。
それぞれ最低4回は絞り取り、枯れ果てて気を失っている男達を残して、亜美は街をさ迷い歩いた。
 服は、アパートの住人の一人が持っていた女物の服を拝借した。どのような目的で持っていたかは不明だが……。
 男は簡単に捕まった。
セックスしか頭の無い軽薄な男より、日頃に欝憤をため込んでいるサラリーマンの方が激しく求めてくることを、
亜美は経験として知っていた。
 その後は、あのホテルで二十人あまりの男が入れ代わり立ち代わり亜美を犯した。
 だが、足りなかった。どんなに激しく貫かれても、複数の男から滴り落ちるほどの精液を浴びせられても、
飲み干しても、膣内射精されても、かえって渇きは増すようだった。
 けれど、今は違う。フェラチオをするだけでも満たされる。
いや、ただ彼が側にいればいい。最も近しい他人。自分であり、自分でない愛しい人。
 やがて口の中に放たれた精を飲み下す彼女は、微かに残る嫌悪感さえも快楽に変えてしまっていた。

 ***

「ちょっと息抜きしませんか」
 という亜美の言葉に背中を押されて、ふたりは外へ出た。
悠司はまたもや亜美にのしかかろうとしてなだめられ、少々御機嫌斜めだ。
だが、彼女の意図に気がつくと、うきうきとしながら亜美を追い出すように部屋を出た。
 時刻は夜中の1時を回っていた。
 亜美は悠司のTシャツとジーンズを着ている。
もちろんぶかぶかなのだが、彼女には匂いも肌触りも懐かしく、不思議と心が安らいだ。
ジーンズは裾で折り返し、ベルトでかろうじて腰に引っ掛かっているような状態だった。
 深夜だというのに空気にはねっとりとした熱気があり、体にまとわりつくようだった。
亜美は悠司の左手に胸を圧しつけるように体を絡め、肌に浮く汗にも構わず、べったりと張りついている。
 洗いざらしの髪が肌にくっついている様子が何とも色っぽい。
「亜美ちゃん、悪戯をしないでよ。人が来たら変態扱いされちゃうって」
「うふふっ。その時は私も一緒に変態になりますから大丈夫ですよ」
 トランクスを履かず、肌に直接ジーンズを履いた悠司のベルトの上から、臨戦態勢のペニスが半ば顔を出していた。
 亜美は何度か物陰で悠司が射精する寸前までフェラチオをしながらお預けをくらわせ、
コンビニが見えてくる路地の角で、無理矢理ジーンズの中に収めた。
上向きになった茎は上から亀頭が顔を覗かせていたので、悠司はTシャツを被せて誤魔化す。
「ねえ、亜美ちゃん。……ここでしてよ。こんなんじゃコンビニに入れないって」
「ダメです。先生だって、私に……」
 悠司の手をとって胸に持ってゆく。
「こんなことして。本当に先生って、えっちなんだから……」
 口を尖らせる彼女を抱きよせ、唇を奪う。
また高ぶってきた悠司がTシャツを脱がせようとするのを亜美は手で押し留めて、コンビニの入口へと彼を引っ張って行く。
「っしゃいせぇー」
 ドアが開くと、男の、やる気の欠けらもない声がかけられた。
 二人はそれぞれカゴを手に持って、思い思いの品物を中に入れ始めた。
 悠司の目が雑誌コーナーにちらちら行っているのが亜美にはよくわかるのだが、なんとか我慢しているようだ。
これでもし、エロ雑誌でも手にしようものなら、その場で下半身を剥き出しにして
外に向かって強制的に射精でもさせてやろうかと思っている。
「ええっと、替えの下着と、野菜と、袋麺と……」
 適当に日持ちしそうな物と、必要最小限の野菜を買い込んでいく。
 悠司はと言えば、菓子や缶詰とか真空パックのご飯やレトルト食品などを放り込んでいた。日頃の生活ぶりがうかがえる。
亜美が必要そうな物を一通り揃えてレジの前に並ぼうとした時も、まだおまけ入りのお菓子、
ちょっとマニアっぽく言うと食玩を前にして、どれを買おうかと悩んでいた。
「先生、ほら!」
 見ると、マニアックな食玩を手にし、カゴに入れたり出したりを繰り返している。
「いや。これ、どうしようか悩んでいるんだけど」
 亜美は悠司から箱を受取って見た。
「なんで子供向けのお菓子なのに、対象年齢が十五歳以上なんですか?」
「俺に聞かれても困るよ」
「どうせなら、全部買ってしまいましょう。すみません、これ、ここにあるので全部ですか?」
 振り返って店員に向かい、亜美は言った。
 店員は、亜美のお尻に見とれていて一瞬言葉を詰まらせたが、もう一箱在庫がありますと答え、
亜美はそれも一緒に買うと言った。
「先生、こういうの好きなんでしょう?」
「まあね」
 集めるという行為自体が快感であり、揃えてしまうと埃をかぶってしまうことがほとんどなのだが、
亜美も興味深げなのを見て、言った。
「じゃあ、それ、全部買います」
「はあ」
 店員は二人の間にある密接な関係を敏感に感じ取り、心の中で毒づいた。
(くそっ。どうしてこんなかわいい女の子が、こんな奴と一緒にいるんだ。しかも男物の服を着ているだと?
やっぱり犯(や)ったんだろうな。どんな体位でやったんだろう。バックか? 松葉崩しか?
あのデカい胸を揉みまくって、チンポをはさんで一杯出したんだろうな。
ああ、糞ったれ! 何で俺はこんな所でレジなんか打っているんだ。くそくそくそくそ糞っ!)

 倉庫から品物を持ってくる時も、ふてくされていた。実を言うとこの在庫は、彼が個人的に購入するつもりだった物だ。
しかし、答えてしまったからには出さざるをえない。
 そういえばさっきは、先生と言っていた。学校の先生には見えないから、教育実習か家庭教師で知り合った子だろうか。
あんな可愛い巨乳の子と知り合えるだなんて、羨ましすぎて男を蹴り倒したくなる。
 だが、彼が真実を知ったらどうだろう? 女になってしまうとわかっていても羨ましいと思うだろうか。
 店員はパッケージに包まれた食玩の箱をレジに置いて、亜美の胸が揺れ動くのをじっと目で追っていた。
あの揺れからすると、もしかしたらノーブラかもしれない。ズボンの下で雄の器官がむくりと頭をもたげ始めていた。
 だぶだぶのジーンズの上からでもわかる豊かなヒップとくびれたウエストが、さらに妄想をかきたてる。
 この娘だったらアナルセックスもいいかもしれない。でかい尻を叩きながら、ズンズンと突き入れて悲鳴を……。
 二人がそれぞれ一杯に品物が詰まったカゴをレジに持って行くと、
店員はやや腰を引くような体勢をとりながら宙を見つめていた。
「すみません」
 悠司がぶっきらぼうに声をかけると、店員は我に返り、慌ててバーコードを読み取る機械を手に取った。
「らっしゃいせー」
 いくらマニュアル通りとは言え、ここでいらっしゃいませとは、間抜けなだ。
 悠司の品物を一通りレジに通してから、店員は彼に尋ねた。
「お会計は御一緒になさいますか?」
「いえ、別……」
「一緒でお願いします」
 亜美が悠司の腕に抱きつき、胸を押し当てる様子を見て、店員の表情が固まった。
心なしか機械を持つ手が白くなっているような気もする。
 気を取り直してレジを打とうとした店員は、再び硬直した。
 亜美のカゴの中には、雑誌が何冊か入っていた。どれも風俗情報やAV紹介、過激なヌード満載のものばかりだ。
「亜美ちゃん、それはちょっと……」
 悠司が亜美の耳元で囁く。
「あら。先生、こういうのお好きなんでしょう? お部屋に一杯ありましたよね」
「そんなことないって」
「嘘つき……。
だって、こんなポーズでやってみたかったとか、デジカメって現像に出さなくてもいいから
どんなエッチな写真でも平気だねとか、ハメ撮りって難しいねとか言ってたじゃないですかぁ」
 店員は硬直した。
 悠司は息を飲んだ。
 亜美は微笑み、店員の手を軽くつついた。
彼は我に返り、それでもどこか夢を見るような呆然とした顔つきでレジを打っていった。
「えー、一万と六千六百十二円になります」
 店員がコンビニとしてはかなり高額な金額を告げると、悠司の手が一瞬止まった。つまり、金が足りないのだ。
 その間に亜美は自分のポケットから財布を取り出すと、中から二枚の一万円札を取り出してカウンターに置いた。
悠司が止める間もなく、会計は済んでしまった。亜美はお釣りを、悠司のポケットにねじ込んだ。
「ちょっと、つ……」
 名前を言いかけた悠司は、店員が耳をそばだてているのに気づいて口ごもった。
名前を言ってしまったら、もしかすると彼女に迷惑が降り懸かるのではないかと考えたのだ。
「じゃあ、後で精算してくださいね? 先生」
「あ、うん……」
 生返事を返し、大きなビニール袋4つにもなった買い物をカウンターから下ろす。
 悠司が両手で二つずつ袋を持ったのを見て、亜美は、豊かな胸を強調するようにして身を乗り出す。
そして、こちらを注視していたレジの男性の首筋を両腕で引き寄せ、唇を重ねた。
「んんぐぅっ!」
 思わぬ行動に、店員は目を白黒させている。
亜美は完全にカウンターの上に腰を乗せ、店員の首に手を回して本格的な口唇愛撫を始めた。
一瞬抵抗しようとした店員の力が、くたっと抜けた。
 亜美が一方的に顔を動かし、舌を動かして彼の口の中を凌辱する。店員の手をシャツの下に誘導し、胸を揉ませる。
一瞬驚いたようだが、彼の手は亜美の敏感な芽を中心に、豊かなボリュームを楽しむかのように大胆に彼女の胸を揉み始めた。
 やがて亜美の手が店員のズボンの前にゆっくりと動いてゆく。
 ズボンの上からでも気持ちがいい。二年ほどつきあっている女よりも、何倍も良かった。
ヘルスの手コキなんか、これに比べたらゴミ同然だ。滑らかな手がファスナーを下ろし、中をまさぐっている。
 彼は無意識に腰を動かし、亜美の手の動きを助ける。彼女はすぐに目的の物を引きずり出した。
「ああ……」
 声を上げたのは店員の方だった。
 直接触られている。
 汚い排泄器官を、最高の造形化の手によるフィギュアのような
きれいな指でいじられている……ただそれだけで射精してしまいそうだ。
 悠司は息を飲んで亜美の行為と、コンビニの入口の両方を忙しく見守っている。
 たるんだ皮を根元まで滑らせて、露になった先端を中指から先の三本の指と手の平で包み、人差し指と中指でくびれを握る。
呻き声と共に、黄色く濁った濃い粘液が少女の手の中にぶちまけられた。
 亜美はカウンターを乗り越えて内側へ降り、ため息をついた店員に向かって自分の手の平を見せつけ、舌を伸ばす。
 舐めた。
 自分が出した精液を、ボーイフレンドがいる目の前で赤い淫らなナメクジを這わせてすくい取る。
べとべとになるまで何度も舐め、何も無くなった手の平を、自分に指し示す。
 息づかいや体温さえ感じる至近距離で、女が恥ずかしそうに微笑んでいる。

(ああ……この女のアソコに、突っ込みたい!)

 男の妄想が、亜美には手に取るようにわかった。
 自分が今やった行為に嫌悪感を感じている"私"と、嫌悪を感じている自分に驚いている"私"がせめぎあい、心が揺れ動く。

(もともとの亜美がイヤラシイ娘(コ)だから、こんな風になっちゃうんだ……)

 いや、そうではない。
 嫌だからしている。一般常識に反しているから、このようなことをしようとしているのだ。
今までの自分だったら、全裸で抵抗無く店員を受け入れることさえできただろう。
 しかし、そこには背徳の快感は無い。
 悠司……恋人であり、自分自身であり、分身で、それでいながら他人である彼の注視の下に、
普通では考えられないような淫らな行為をするのは、息をするのさえ苦しくなるほど興奮する。
 肉欲に耐えかね、自分の意思とは違う行動をしてしまう……そんな自分が恥ずかしくてたまらないという表情が、
男の欲情を駆り立てる。
 大胆なふるまいは、時に男を萎えさせてしまう。
亜美は恥じらいを身につけ、より一層、男心をくすぐる存在へと変わっていたのだ。
 亜美は萎えたペニスを舌でつるり、と舐め上げた。
 ただそれだけで、男のものは瞬く間に硬さを取り戻し、亜美の鼻先に突きつける格好になった。
 酷く屈辱的な格好だ。
 名前も知らない(胸元についている名札を見ればわかるのだが)男の前にひざまずき、
そいつの排泄器官を目の前にして欲情している。
 そう。排泄器官――。
 男にとってペニスとは、尿と精液を排泄をするために都合よくできている肉体器官に過ぎない。
だが女性にとっては、それどころではない。男の精を受ければ子を孕み、体の変化を余儀なくされる。

(妊娠、しちゃう……かな)

 子宮が疼くような感覚に、亜美は酔いしれる。
 それは、男には絶対に味わえない感覚。
被虐的な、恐怖とないまぜになった甘美な思考が頭の中から、耳や目や、鼻や口からだらだらとこぼれ落ちて行くようだった。
 恥辱が快感になってゆく。
 心を素直に反映する敏感な肉体を、亜美は改めて味わっていた。
 すごい。凄すぎる。
 失われた股間の、張り詰めるような強ばりの感覚を軽く凌駕する粘膜同士が
こすり合わされる感触だけで、続けさまに達してしまう。
 見知らぬ男に股を開くことを頭の片隅で考えるだけで、頭が暖まったゼリーのようにとろとろと溶けてしまいそうだ。
 亜美は男のベルトを外し、ズボンと一緒にブリーフも引きずり降ろす。
 垢と汗と、アンモニア臭が嫌悪感を誘うが、亜美の体は自然に、男の股間に顔を埋めてしまう。
 臭い。
 火照った頬を袋にあて、顔を動かす。
そして竿の根元や袋を、たっぷりと唾液で濡らした舌で毛繕いをするかのように舐め始めた。
 男がうめいた。
 陰毛が体にべったりと張りつくほどべとべとに濡らしてから、手も愛撫に参加させる。
たちまち、男のものは限界を超えて張り詰めてしまった。
 自分が触られているわけでもないのに、どうしようもなく気持ちがいい。
悠司ほどではないが、男が感じている快感を、亜美もまた感じているのだ。
 亜美はすっ、と黙って立ち上がり、くるりと後ろを向いてカウンターに上半身を預けてお尻を突き出した。
彼女がお尻を左右に振る度に、ベルトの金具がかちゃかちゃと音を立てる。
 男は襲いかかるように亜美の尻に抱きつき、ベルトを引きちぎるようにして外し、
あっという間にゆで卵が並んだような白い双球を貪った。
「ん……あん! 早くぅ……下さい」
 ストレートな亜美の言葉に、男は無毛の股間から名残惜しげに顔を上げ、
カウンターに亜美の上半身を押しつけ、バックから突き始めた。
 再び男が快楽の呻きをあげる。
 初めての素人女性の生の女性器の感覚に、彼はただただ溺れた。
挿入する前は気になっていた連れの男も、たちまち彼の脳裏から消え去っていた。
 ペニスが削れてしまうのではないかと思えるほど気持ちがいい。
吸いつくようなすべすべの白い尻に手をあて、揉みながら腰をゆっくりと動かす。痛いくらいの快感が体と脳髄を痺れさせる。
 彼は亜美の体に、ずぶずぶと溺れていくのを感じながら、腰の動きを止めることができなかった。
 そして悠司もまた、亜美と店員のセックスを止められなかった。
 不健康に痩せた店員に亜美が犯されているというのに、それを見て悠司は興奮していたのだ。
 あんなに大胆に迫っておきながら、この子は嫌がる素振りをし、抗ってさえ見せた。
それでいながら、結局は男の望むままに行為を受け入れている。
 痛いくらいに勃起していた。
 ジーンズが先走りの汁で濡れてゆく。
 何時間も彼女の体をむさぼり、自分でも信じられないくらい射精したというのに、
熱いたぎりが腹の底で、噴火を今か今かと待ち構えていた。
 五分もたたないうちに、店員の腰の動きが激しくなり、オットセイの鳴き声とそっくりな声を上げて、亜美の体から離れた。
「うふっ……一杯出して下さったのね。ありがとうございます」
「え……あうぅっ……」
 店員は萎えた陰茎をだらしなく放り出したまま、惚けた様子で頭をがくがくと何度も縦に振った。
その拍子に、また精液が飛び出て亜美の脚を汚す。
 亜美は店員の方に向き直って、指で彼のペニスを軽く扱くように拭ってから、ズボンの中にしまってやった。
「それではお仕事、頑張ってくださいね」
 固まった状態から復帰した悠司の視線を背後に感じながら、亜美は店員に顔を寄せ、舌で頬をぺろりと舐めた。
「はうぅ……っ」
 店員はがくがくと体を震わせた。
 もう一度、今度はズボンの中にたっぷりと精液を漏らしてしまったのにも気づかず、
彼は店を出て行く二人の背中を、呆然と見送るしかなかった。

 ***

 店を出ると、すぐに悠司が亜美の肩を抱き寄せて耳元で言った。
「どうしてあんなことするんだ?」
「だって……」
 夜道の街灯でもはっきりとわかるほど、亜美は媚びを含んだ表情と声で悠司に体を擦りつける。
「かわいそうじゃありませんか? こんな夜に、一人で働いているなんて」
 悠司の声に嫉妬の響きを感じて、亜美はほくそ笑む。
「悠司さん……嫉妬して下さっているんですか?」
「嫉妬? さあ、どうだろうな」
 さっきまで感じていた下半身の熱は冷め、今度は胃のあたりがムカムカしているのがわかる。
胃の中の物を吐き出してしまいたくなっている。
「じゃあ、悠司さん。私のここから、あの人が私の中に出したのを全部……吸い出してくださいますか?」
 脚が、いや、体全体が興奮で小刻みに震えているのがわかる。
 男に奉仕させる喜びと、外で股間をあらわにし、
男に吸い付かれる嫌悪感がぐだぐだになったものが亜美の体を揺り動かしている。
震えは、そのせいだ。
「ああ。全部吸い出してあげるよ。亜美の中に出していいのは……俺だけだ」
「そうなの。私の中に出していいのは、悠司さんだけ。私を孕ませるのも、悠司さんだけなのぉ……」
 悠司の胸元に顔をこすりつけて、体臭を存分に味わう。
 尖りきった乳首が布地に擦れ、先から何かの汁が出ているような、不思議な感覚を覚える。
 亜美は悠司のなすがままにブロック塀に背中を預け、少しだけ腰を落す。
 締めつけた秘唇の力を緩め、赤ん坊をひり出すような要領で膣に軽く力を込めると、
どろりとした濃厚な液体が溢れ出してきた。
コンビニの店員の精液と、自分の愛液の混合物だ。
 あれから十分以上が経過している。精液はとろみを失い始め、ぱっくりと口を開いた淫唇から流れ落ち始めている。
 それ以上に魅惑的なのは、亜美のほころび具合だった。
 いつもは少女のように閉じたものが、興奮が高まると花のように開き始め、正に淫花と呼ぶにふさわしい形になる。
 悠司はたまらず、柔らかくふんわりと焼きあがったパイにクリームソースをかけたような股間にむしゃぶりついた。
 蒸し暑い夜気に入り交じって、亜美の分泌物の匂いが辺りに漂ってゆく。
「あぁん、悠司さぁん!」
 男に他人の精液を吸わせている。
 子宮が沸騰しそうなほど、興奮した。悠司の無精ヒゲが腿に押し当てられ、ざりざりとこすられる感触もたまらなくいい。
 今まで憶えていられないほどの男達にさせたことがある行為なのに、今日はいつになく興奮した。
 そう、フェラチオをさせている感覚だ。突き上げる器官は無いけれど、これはまさにフェラをさせている格好だ。
そして、快感はずっと深い。悠司の舌が子宮を突き通して、内臓まで舐めているような錯覚を感じるほどに。
 彼の頭に添えた手から、他人の精液への嫌悪を感じ取れる。
 当たり前だ。男が精液を飲むなんてことは、まず無いだろう。なのに、女にはそれを要求する。
 きっと、相手を征服したという臭い付けみたいなものなのかもしれない。
 今の亜美には、男と女の矛盾した考えのどちらにも共感できる。

(だって、あなたは私で、私はあなたなんですもの)

 こんなに共感できる存在は他にはない。
 どんな恥ずかしいことでもできる。させられる。
 だから、彼に疑似的なフェラチオをさせているのだ。失った物よりも大きな物を、亜美は今、手にしている。
 そうだ。思い出した。
 高校生の頃、後輩の女の子の頭を押さえつけるようにして、ペニスを喉奥まで突き込んだことがある。
イラマチオという言葉を聞いて、一度試してみたくなったからだ。
 強制口内性行……要するに、口の中に無理矢理ペニスを突っ込むというやつだ。
 しかし、気持ち良くはなかった。
 射精した後、喉の奥に精液を発射されてえずいている彼女を尻目に、ティッシュで自分を拭い、
逃げるようにその場を後にしたことを鮮明に思い出すことができる。
 このことがあってから、彼女――九条由阿里(ゆあり)との仲がぎくしゃくし始めたようだった。

(彼女は今、何をしているのかしら……)

 亜美は、子宮まで舌を届かせようとでもするような悠司の舌使いに目を細めながら、記憶をたどる。
これほど激しい愛撫を、自分はしたことがなかった。由阿里に舐めさせても、自分で彼女の性器を舐めたことは一度も無い。
 もったいないことだ。
 今だったら、間違いなく彼女を自分の舌で蕩けさせる自信がある。
 その後は……。
 そうだった。今の自分は女だし、瀬野木亜美という人物であって、都築悠司ではない。
 舌の動きが止んだのでうつむいて下を見ると、しゃがんだままチャックを下ろし、
勃起した陽根をしごいている悠司の姿が目に入った。
「うふっ……先生のこれ、とても美味しそうですね」
 亜美はしゃがんで、横に放り出したままのビニール袋からマヨネーズを取り出し、
すっかり元気を取り戻した陰柱のくびれにマヨネーズを絞り、指でカリの裏を撫で始めた。
 悠司は、ローションとは違う新鮮な感触に、獣のような呻き声をあげる。
「先生、立って下さいな」
 悠司が彼女の言葉のままに、今度は彼が壁に背中を預けて立ち上がると、亜美はアスファルトに膝をつき、
尖らせた舌で悠司の湯気が立ちそうな血が通うソーセージを味わい始めた。
「つ、亜美ちゃんってマヨラーだったんだ」
 上を向きながら変な台詞を吐く悠司。こうでもしないと、たちまち漏らしてしまいそうだったのだ。
拳を握り締めて夜空を仰ぐ。
マヨネーズの生ぬるく、ぬらぬらとした感触と亜美の舌が不思議な感覚を呼び起こし、悠司を戸惑わせる。
 亜美は悠司の喘ぎ声を聞きながら、うっとりと目を細める。

(私はあなたのことを何でも知っている。あなたがどんな妄想をしてきたか、どんな願いを持っているか、私にはわかる……)

 亜美であり、悠司でもある彼女にとって、目の前の存在は男と女の両方の目で冷静に観察することができる。
 まだ、彼とできることはたくさんある。
 彼となら……子供を作ってもいい。
 彼女は、子宮が疼くという感覚を今、本当に理解したように感じた。
 夢中になってペニスをしゃぶり続ける彼女の耳に、突然、女性の息を飲む小さな声と、何かが落ちる音が飛び込んできた。
 うかつだった。つい悠司との交わりに夢中になって、この路地にやってこようとする人の意識を逸らせることを忘れていた。
 亜美は軽く目をつぶって集中する。彼女の心の外側に触れ、記憶をそっといじってやる。
 視線を外しさえすれば、記憶はすぐに薄れて消えるだろう。
 でも、どうせならこの人も巻き込んで三人で楽しむのも一興かもしれない。
 亜美は、口の中に入っているペニスをわざとゆっくり引き抜き、彼女の視線をそこに集中させた。
 唇の拘束から逃れた陰柱は夜空を貫こうとでもするかのように、街灯の蛍光燈の下でそそり立っている。
「ああ……」
 悠司と女性の二人の口から、別々の感情を乗せた同じ声がこぼれる。
 亜美はゆっくりと彼女の方を見た。
 何かが、ひっかかる。
 どことなく見覚えがあるが、思い出せない。誰構わず呼び込んで乱交をした時にいた人だろうか。
「由阿里……」
 悠司が言った。
「悠司先輩……ど、どうして?」
 思い出した。

 彼女は高校時代の後輩であり、悠司の恋人でもあった、九条由阿里だった。


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