背伸びをしながら亜美は悠司に抱きついた。彼は戸惑いながらも、亜美の柔らかな胸の感触を楽しむ。
二人の服を通してさえ、下着の生地が感じられるほどだ。
(本当に、いいのかい?)
という言葉が悠司の喉元まで出かかって、止まった。亜美の潤んだ瞳が、レンズ越しに彼を見つめている。
ここまでくれば、言葉は不要だ。
顔を寄せると、亜美はすっと目を閉じた。顔を少し横に傾けて、艶やかな唇に口付ける。
すぐに唇を割って、亜美の舌が侵入してきたのに悠司は驚いた。
離れようとしても、亜美の手がしっかりと首筋にまわっているので、それもできない。
悠司の動きを察知して、亜美がまぶたを開いた。手の力を弱めて、唇を離す。
亜美は軽く眉をしかめて唇を尖らせ、怒ったような表情をしていた。
どこか親しみをおぼえる顔だった。
「ごめん」
悠司が軽く頭を下げると、亜美もまた同じ動作をする。
おでこ同士が軽くぶつかり、そこで止まった。
亜美は顔をずらして、悠司のあごに頬をこすりつける。
眼鏡のフレームがずれるのも構わずに、無精ひげの感触を味わうように何度も何度も、
飽きることなく子猫のように肌を触れ合わせた。
汗じみた脂っこい汚れが亜美の麗しい肌を汚してゆく。
汚れる事が快感だった。
肌を触れ合わせる事が屈辱的だった。
饐えた汗の体臭が亜美を酔わせる。
まるで互いの体に匂いを擦りつけ、犬の縄張りの匂いつけのように、
相手が自分の所有物であると主張したいのか、二人は飽きることなく顔を擦りつけあう。
悠司の手が亜美のふっくらとしたヒップを揉むのならば、亜美は悠司の背中に手を回し、広い背中を撫で回す。
手のひらで、相手の体を感じあう。
互いの鼻息さえ顔に感じる。まるで顔に当たる相手の息で撫で回されているようだった。
肌が、産毛が、犯される。鳥肌が立つほどの気持ちよさだ。
再びキスをする。
唾液が上になっている悠司の口から流し込まれた。
少し、スナック菓子の塩味がした。
亜美は自分の口の中で唾液を転がし、一度口を離して、悠司にわかるように顔を少し上げて喉を見せ、コクンと飲み込んだ。
今度は亜美が背伸びして、悠司に自分の唾液を含ませる。
悠司はすぐに飲み込んでしまった。亜美が軽く眉をしかめると、彼は次を催促するように舌で亜美の唇をつつく。
「ふ……んっ……」
軽く吐息を漏らし、二人はくちゅくちゅと唾液を交換しあった。
唾が顎を伝って胸まで滴り落ちるが気にしない。まるで舌と舌とセックスのようだった。
相手の舌苔(ぜったい)まで削ぎ取るように、絡ませあい、つつきあい、強弱をつけながら互いの口を犯す。
まるでペニスが絡みあっているようだと、亜美はぼんやりと考えた。
舌がペニスならば、唾液は精液だ。亜美は気持ち悪いほど股間が濡れているのを感じつつ、自分のペニスで男の口をなぶる。
薄暗く狭い六畳の和室は、獣の匂いに満ちていた。
ようやく二人の顔が離れた時には、まるで乳児のように口から胸にかけてよだれがまとわりつき、
服が亜美の肌に、ぺとりと張りついてしまっていた。
薄いブラウスの布地越しに、ブラジャーのレース生地が見える。
悠司は、ほうっと息を吐き、彼女の胸のあたりを見つめた。
「亜美ちゃんの服、涎でべとべとだよ」
「……だったら、先生が脱がしてください。早くしないと風邪をひいてしまいますから」
「う、うん。そうだよね。風邪をひくといけないから」
あれほど唾液が出たというのに、再び悠司の口の中に唾が湧き出てくる。
詰まりそうになりながら、それを一気に呑み込む。
亜美にまで、唾を呑み込む音が聞こえた。
「先生、緊張してます?」
「緊張? ……かもね」
「どうしてですか」
亜美は悠司の胸板に顔を寄せる。
「亜美ちゃんがかわいいから」
心臓が、とくんと大きく脈打つ。
「もっと……」
「もっと?」
とくん、とくん、とくん。
鼓動が遮断機の鐘の音のように早くなってゆく。心臓の動きだけで、なぜか乳首が固くなって膨らんでゆくのがわかる。
「もっと、私を見てください。私の全てを……全部、脱がして、見て、セックスしてください。先生と、セックスしたいんです」
震える手を背中に回し、ジッパーを下ろしてゆく。途中までやってから、悠司が後を引き継ぐ。
亜美はまるで、初めて女性の体を目にした童貞少年のように荒い鼻息をもらしながら、
悠司のじらすようなゆっくりとした動きを、うっとりとした視線で追っている。
衣擦れでさえも今の亜美には快感になってしまう。全身の神経が全て快楽を受け止めようと全力で蠢いているようだった。
服が亜美から離れまいと体を絡め、彼女に別れを惜しみつつ肌を舐め回すのだ。
ブラウスが床に落ちる静かな音が、亜美には雷鳴のように聞こえた。
悠司は二歩離れて、亜美の全身を上から下まで見つめた。
白の清楚なブラジャーにベージュのウエストニッパー、
そしてこれもベージュのストッキングに、ブラジャーとお揃いの純白のガーターベルトとショーツというフル装備だ。
レースをふんだんに使った豪奢なブラジャーは亜美の胸を整え、真ん中に大きな谷間を形作っていた。
男の基準からすると露出度の少ない部類に入るフルカップのブラジャーだが、
亜美くらい大きな胸ともなると、ハーフカップでは形良く整えるのが難しい。
彼女にとってはこれが必需品なのだ。
ウエストもニッパーで締め上げられてはいるが、決して体には喰い込んでいない。
食事だって、きちんと栄養を管理されたものを食べている。
テニス部の練習だけではなく、エアロビクスや軽いランニングなども日課になっている。
亜美の均整のとれたプロポーションは、このように地味な努力によって作られているのだ。
小さい頃から、亜美はそのように育てられてきた。
習い事も、勉強も、運動も、普通の家庭の子供から見れば異常なまでに厳しいカリキュラムだったが、
彼女にとってはそれが普通だった。空気を吸うように、食事をするように、全ての鍛練が苦にならなかった。
その努力の結晶が、悠司の目の前にある。
「脱がしてくださいますか?」
「あ……うん」
胸にかかる長い髪をたくしあげ、うしろへと流す。悠司が戸惑う様子を見て、亜美は手をつかみ、背中へと誘導する。
自然にすっぽりと悠司の深い懐につつまれ、亜美は彼の匂いに酔いしれた。
この磨きあげた体は、一生を添い遂げる男性のためにある。
母親にはそう教えられてきた。
何事も、全ては愛する夫のためだと。
姉もまた、そうだった。彼女はそうして、嫁いでいった。
もはやこの考えは、古い因習に過ぎないのだろう。
だが、今の亜美は目の前の男性がその運命の人間ではないかと思い始めていた。いや、信じたかった。
(彼は“自分”なのに?)
まだしこりのように残る疑問が、亜美を苦しめる。
だがそれも、悠司の愛撫によってほぐされ、徐々に洗い流されてしまうようだ。
耳の穴や、首筋の背骨に近い部分、肩甲骨あたりから脇腹への一帯を、彼の指が、舌が、そして手の平が這ってゆく。
唇を、舌を、指の先を、腹を、甲をとあらゆる部位を使った足が砕けてしまいそうになる執拗なまでの愛撫。
それも、乳房などの一般的な性感帯を避けながら、悠司の指は亜美を蕩かせてゆく。
(すごい。この人、私の弱い所を全部知ってる……)
無数の人々によって開発され尽くされた敏感な体は、
名ピアニスが奏でるピアノのように、甘美な快感のメロディーを奏でてゆく。
ショーツに熱い染みができてゆくのを感じながら、亜美は自分自身の意外なまでのテクニックに驚いていた。
「先生、慣れてますね」
亜美は自分の言葉に嫉妬の感情がこもっていることに驚いた。悠司は彼女の質問には答えず、亜美の胸にそっと手を置いた。
「おっきなおっぱいだ……」
「先生は、大きなおっぱいは嫌いですか?」
「いや、大好きだよ」
「良かった……」
きっと彼の手に心臓が高鳴っているのが伝わっているのだろう。
大きな男性の手でもつかみきれない豊かな膨らみを、
すべすべとした滑らかな手触りのブラジャー越しに楽しみながら、悠司は尋ねた。
「サイズはいくつ?」
「65の……F」
悠司の頭にクエスチョンマークが浮かんだのを見て、亜美は補足した。
「あの、88センチです」
「88のFカップ! すごい巨乳だなあ」
「その言い方、やめてください。それに私、この胸はあまり好きではないんです」
「どうして?」
亜美は顔を背けて、ぽつっと呟いた。
「重いんです。とっても」
「自分の体なのに?」
「私のはこう……胸の上の方にありますから、その、いつも肩が引っ張られるような感じになるんです」
見られているのが恥ずかしく、それがまた快感だった。
「夜寝る時も重いし、うつむきになって寝ることが多いんです。これ以上大きくなったら、息苦しくなっちゃいます」
「嘘だろ?」
「本当です」
拗ねた口調で亜美がすぐに言った。
バストがこれだけ重いのは、女でなければわからないことだ。
男にしてみれば大きな胸は憧れなのかもしれないが、実際にはいろいろと面倒でつらいことの方が多い。
まだ亜美はオートクチュールのランジェリーなので苦労は少ない方だが、
おしゃれの面でもバストの大きい女性は、ブラの種類が選べなかったりと悩みが多いのだ。
「それで、どこから外すの?」
「その前に、ウエストニッパーの方から脱がせてください」
またしても首をひねった悠司にはかまわず、亜美はくるりと半回転して悠司に背を向け、
手を背中に回して指でホックを指し示した。
悠司は亜美の言うままに、ホックを上から外してゆく。
「次は……きゃっ!」
悠司がいたずら心をおこして、亜美の背中を指ですっと撫でたのだ。
彼女が身をすくませている間に、悠司はブラジャーのホックも外してしまった。
亜美は肩越しに振り向き、悠司を非難めいた視線で睨んだが、ストラップを外されると慌てて胸を隠そうとした。
「なんで隠すの?」
「だって……」
抵抗が緩んだのを見計らって、ブラジャーのストラップに手をかけてブラジャーを奪った。
「先生のいじわる!」
「はい、こっちを向いて」
抗議も聞かず、悠司は彼女の肩をちょんちょんとつついて、前を向くようにと催促した。
亜美は小さく息を吐いて、ゆっくりと悠司の方に振り向いた。
無言で悠司の顔を見て、腕で隠そうとしても隠しきれないふくらみを彼の目の前に晒した。
「ほ……っ」
悠司は息を飲んで、続いて大きくため息をつく。
圧倒された。
太り過ぎでもなく、肋骨の線がでるほど痩せてもいない。
そのくせ、つまむとマシュマロのように柔らかな皮膚が指を跳ね返す。
腰は細くくびれて、腰骨の上にはやはり絶妙な加減の脂肪が乗っている。
将来、子を宿すことになるあたりは、早く使命を果たしたいと主張するように、ふっくらと膨らんでいる。
おへそを中心にした縦長のくぼみさえもが、実にチャーミングだ。
悠司は初めて、へそフェチの気持ちがわかったような気がしていた。
だが何よりも彼の目を引くのは、豊かなバストだった。
下着に包まれていた時に双球の間にあった、思わず目を奪われる胸の谷間こそないが、
決して外へだらしなく垂れ下がっていない、たわわに実った白い果実がそこにあった。
「なんか、むちゃくちゃにエロいおっぱいだね。エロゲー……」
エロゲーのヒロインみたいな、ぱっつんぱっつんの巨乳だと言いかけて、悠司は口をつぐんだ。
「エロゲーって?」
もちろん亜美は知っているが、わざと上目使いで悠司を見つめる。
眼鏡のフレームの上を越えて見える亜美の小悪魔めいた瞳に、悠司は大いに戸惑った。
「エッチなゲーム」
「そのエッチなゲームに、私みたいな胸の人がいるんですか」
「ノーコメント」
悠司はごまかすように、亜美の雪まんじゅうのような膨らみに手を伸ばした。
下から胸を持ち上げるようにしてバストの感触を味わう。ずっしりとした重みがある。
確かにこんなものがいつもぶら下がっていれば、重いと感じるのも無理もない。
そのまま、両手でゆっくりと柔らかいのに指を押し返す確かな感触を味わう。
亜美の呼吸が時々止まる。震えるような呼吸は、緊張のためだろうか。
悠司は乳牛の乳絞りをするように、亜美の乳輪のまわりに親指と人差し指で輪を作り、ぎゅっと絞り上げた。
「ああふぅぅっ!」
弓のように体をのけぞらせ、亜美が悲鳴を上げた。その拍子に手の拘束から逃れた胸が、たゆんと上下に揺れる。
まるで2本のペニスを一気につかまれたような感じだった。一瞬、亜美は乳首から射精をしてしまったように錯覚していた。
「へえ。敏感なんだね。巨乳の女の人は胸が鈍感だっていうけれど、乳首の周りを弄られただけでこんなに感じちゃうんだ」
「巨乳、巨乳って、そんなこと言わないでください」
亜美は胸を押さえながら言った。
だが、手の圧力で押し潰された胸が、余計に大きく見えているということに彼女は気がついていない。
乳首が隠された腕の下で疼く。
「ほら、手で隠さないで。俺にもっとよく見せてよ」
「もういじわるはなしですよ?」
「いじわるなんか、してないって」
悠司はそう言うと、亜美の両手首をつかんで胸から引き剥がし、顔を胸の真ん中に埋めた。
「ひゃあんっ!」
目に見えない無数のアリが、一瞬にして胸から脳髄まで走り抜ける。
下腹の方、そう、子宮から股間にかけてのあたりにピンク色の爆発が起こった。
腰が抜けてしまってへたり込みそうになった亜美を、悠司が危うい所で抱きしめた。
「おっと危ない。どうしたの、亜美ちゃん」
両わきに手を通し、密着する体勢になっていた。
再び亜美の全身が甘い痺れに包まれた。
抱擁される快感があった。服を着ていた時とはまた違う良さがある。
悠司はまだTシャツを着ているが、薄い生地越しに、女にはない逞しい胸筋を感じることができる。
亜美は、ほうっと息を吐いた。糖蜜のようなねっとりとした、甘い呼気だ。
「きもち、いい……」
固くしこった乳首が密着した悠司の胸に押し返され、亜美の体に跳ね返ってくるようだ。
「大丈夫?」
亜美の足がしっかりと体を支えているのを確認して、体を離し、彼女の顔を見た。
銅色のフレーム無しレンズ越しに見える、大きな黒い瞳が濡れていた。
「ちくび、きもちいいんです。ねえ、せんせ? おっぱい、もっときゅっきゅって、さわって?」
子供にかえってしまったような甘えた、少し舌っ足らずの声には、それでも確かに女の媚びと色気が込められていた。
悠司は亜美を軽くパソコンがある机の方に突き飛ばし、机で彼女のお尻が支えられるようにしてから、
亜美の乳首を親指で押し潰し、ゆっくりと乳房全体を円を描くように揉み始めた。
亜美はのけぞりながら、悠司の愛撫を受け入れてた。
「うわあ、すげぇ。ぷるんぷるんしてるよ。柔らかくて大きくて、最高だよ」
気持ちいい。胸がどろどろに溶け、クリームとなって流れ落ちてしまいそうだ。
悠司の手のしわさえも、今の亜美は感じ取れそうだった。
揉む手から、彼のエロチックな波動が直接注がれているような気分になっている。
悠司が舌を伸ばし、乳首をくるりと舐め回した時は、危うく再び床に崩れ落ちそうになる所だった。
悠司は亜美の背中に手を伸ばし、お尻のあたりに片手を置き、
自分の顔とサンドイッチをするようにして彼女の体を味わい始めた。
「いや! 先生、お尻、だめぇ!」
だが、熱心に乳首を吸い、舐め回すのに夢中の彼が亜美の要望などに耳を傾けるはずも無かった。
悠司の手は背筋からお尻の割れ目に至る領域を指でなぞり、下着の中に潜り始めていた。
奥に隠されているアヌスまでは届かないが、その上の溝を指で上下になぞり続ける。
この一方で悠司は、舐めたかと思えばあごを乳房や乳首に擦りつけ、無精ひげで亜美を刺激する。
ざらざらの剛毛は敏感になり過ぎた亜美にとっては短剣をつきつけられたようなもので、
快感に痺れたと思えば鋭い痛みで意識を引き戻され、これがまた快感へと変化してしまう自分の淫らさに恐れ、
おののいていた。
自分は、セックスが好きな淫乱女なのだろうか?
悠司に責められつつも、亜美は頭の芯の方で、ぼんやりと自分の欲深い肉体を分析していた。
こんなにも感じてしまう。男を求めてしまう。
やはり自分は、女なのだろう。それも、淫乱極まりない変態女だ。
自分はまだ男だと考えていた心がこの瞬間、大きく壊れた。
いつの間にか、悠司の愛撫が止んでいた。
胸はすっかり悠司の唾液にまみれ、開け放たれた窓から、ほんのりと涼しい風がただよい、乳房から気化熱を奪ってゆく。
夏の生ぬるい風さえも、冷たく、気持ちよく感じられる。
目を閉じて愛撫の余韻と心地好い風にうっとりとしている亜美に、悠司が言った。
「亜美ちゃんのおっぱいって、クリームパンみたいだね」
「え?」
唐突な言葉に戸惑う亜美。
「ふかふかしてて、中に美味しいクリームが詰まっていそうでさ。
ここをきゅってしぼったら、ミルクとかでてくるんじゃないかな?」
普段ならセクハラ紛いの言葉も、体を重ねあうときは睦言に変わる。
「ミルクなんか、出ません。だって……赤ちゃん、できていませんから」
「でもほら。なんかクリームとかミルクとか詰まっていそうだと思わない?」
「思いませんっ!」
ぷぅっとほっぺたを膨らませて亜美は横を向くが、悠司が乳首への攻撃を再開したことで、その虚勢もすぐに溶けてしまう。
「もう……先生ったら」
本当は自分でも、母乳が出そうな感じがしていた。
乳首が痛いくらいに尖り、乳房全体が腫れぼったいような、むずがゆいような疼きに包まれているからだ。
気持ちはいいが、物足りない。もっと体の奥まで快楽をねじこんで欲しい。
もちろん体の奥とは……。
悠司はまるで亜美の思考を読み取ったようなタイミングで、そっと囁いた。
「亜美ちゃん。パンティー、脱いで」
「パンツ……ですか」
「それともスキャンティー?」
「もう! ……私は普通に、パンツって言います」
「みんなそうなのかな?」
「私のお友達は……そうです」
亜美はきつく目を閉じたままで言う。心臓が破裂しそうだ。
「先生、お願い。脱がせてください……」
しかし悠司は一向に手を出そうとしない。
少し湿った部屋に、亜美の細く震える吐息の音だけが奇妙に響く。
外の音はほとんど聞こえてこない。
まるで別世界に、二人きりでいるようだ。
「先生?」
耐えかねて亜美は、まぶたを恐る恐る開いて悠司を見た。
彼は、突っ立ったまま腕組みをして言った。
「亜美ちゃんが自分で脱いでよ」
心臓を突き刺された気分だった。左の乳首が痛くなるほど痺れ、そこから全体に甘い疼きが広がってゆく。
見透かされている。
相手が求めるから仕方がないのだと思い込むことで自我を保とうとしている亜美を、悠司は突き放した。
自分からセックスを求めたというのに、亜美はまだ心のどこかに迷いを残していた。
吹っ切ったはずなのに、頑固に抵抗する部分がある。
そうだ。まだ間に合う。
服を着て、出て行けばいい。ついでに頬の一つでも張っていけば、気が少しは晴れるだろう。
この部屋を出れば二度と会うことも無い。
でも、それでいいのだろうか?
「亜美ちゃんが自分で脱ぐ所が見たいなあ」
悠司の声は、どこか嬉しそうだ。
この人は、本当に『自分自身』なんだろうか。ここまで自分は性格が悪かったのだろうか?
思考の迷路に迷いこんだ亜美は、もう一度目をつぶり、深呼吸をした。
湿った部屋の空気が亜美の肺を満たす。どこか懐かしい匂いが、彼女の心を落ち着かせた。
亜美は崩れ落ちそうになる足を少し開き、お尻を机から少し浮かせた。まずはうしろをずり下ろす。
山を越えるまでは抵抗があったが、するりと太腿まで滑り落ちる。前もだいぶ下にずり落ちている。
今度は前だ。
じくじくと股間が濡れ、疼きがいっそう強くなるのがわかる。
白い布が引き下ろされ、無毛の股間があらわになってゆく。
(ああ……恥かしい!)
義兄に剃られ、かおりに定期的に剃られ続けている股間は、まるで少女のような無垢の肌を露出していた。
もちろん亜美は目を閉じているから悠司がどこを見ているかわからないのだが、
下半身に集中しているだろうということは確かだ。彼の視線が突き刺さり、亜美に淫汁の分泌を促しているようだ。
亜美にとっては腿を滑るショーツの感触すらも、股間を直撃する快楽の攻撃になってしまう。
全身が性感帯になってしまったようだった。
尻を机に預け、まずは左足から、続けて右足を上げて下着を脱ぐ。
悠司の手が触れ、亜美は熱い物に触れたように慌てて手を自分の胸の上に戻した。
「すべすべしているんだね。これ、素材は何?」
悠司の言葉に亜美は、はっとなって目を開けた。
想像したとおり、悠司は彼女の下着を持って両手の平で挟んでいた。布切れに残った温もりを楽しんでいるようだ。
「やめて、触らないでください。は、恥かしいですから……」
「濡れているのが恥ずかしいから?」
「それよりも……温かいのが、恥かしい、です」
自分でも声が段々と小さくなってゆくのがわかる。
胸も股間も男性の目の前に晒しているのに、下着を触られたことよりも、濡れていることよりも
、下着に残った自分の温もりを相手に感じられるのが、不思議とどうしようもなく恥ずかしくてならない。
「返してください」
「帰さないよ。俺はもっと、亜美ちゃんを見ていたいんだ」
そっちの帰すではないのにと亜美は思ったが、悠司にじっくりと体を見られると、心が蕩けてゆく。
抵抗が、できない……。
少女の体は、ため息が出るような柔らかな曲線と豊かさを備えていた。
そして、白い。
静かに山に舞い降りる粉雪のような、なめらかな肌だ。まるで蝶が翅を広げているような趣のあるガーターが花を添えている。
股間の陰りに至る道筋を目でたどっても、薔薇色へ染まる程度で、荒淫の影はどこにも見当たらない。
陰唇は果実の切れ目からわずかに顔をのぞかせる程度で、彼女の股間だけを見る限り、
少女から女性へと変化してゆく瀬戸際の絶妙の美しさを、今も残しているようだ。
もはや彼女が身に着けているのは、ストッキングとガーター、そして眼鏡だけだった。
「うーん、マニアック」
悠司が思わず唸った。
「俺、ガードルなんて初めて見たよ。本当にエロい下着だなあ」
「ガードル? これ、ガーターですけど」
不意に訪れた無言の時間の後、二人は同時に吹き出した。
「よくわからないんだよ。ガーダー?」
「ガーターです」
「なんか外国のファッションモデルとか、そういうの着ていそうだよな。
あとメイドさんとか。スカートを自分でまくってみせたら、ガーターだけでパンティーははいてなくてさ。
それで、“御主人様、ご奉仕させていただきます”なんて言われたらたまらないよな」
目の前で裸の魅力的な女の子がいるというのに、別の人の話をする無神経さに亜美は少し腹を立てながら言った。
「私の家には本職のメイドがいますよ。なんなら制服を借りてきて、先生の前で着て見せましょうか?」
「いや。俺が好きなのは中身の方なの」
亜美の怒りも、悠司の軽いタッチだけで簡単に溶けさってしまう。
皮膚に触れるごつごつとした男性の指は、女同士の愛撫では決して味わえない感覚を亜美にもたらす。
悠司はガーターを外さず、そのまま抱きついて彼女の身体をすっぽりと自分のふところにおさめ、
背中とお尻を重点的に触ることに決めたようだ。
大体、体を動かすメイドにガーターは必要ない。
どちらかというとヒップと腿をすっぽりと覆うショートガードルを着ている人が多く、
下着も実用本位の地味でしっかりと体を包む物がほとんどだ。
なにしろ亜美はメイドのかおりと何度も寝ているから、そのあたりの事情はかなり詳しいと言えるだろう。
ちなみに現在、かおりはレース地のローレグショーツに、黒のガーターという亜美専用の装いを強いられている。
亜美にすっかり蕩かされてしまった彼女は、悠司が想像するエロメイドそのものと化しているのだが、
もちろん悠司はそんなことを想像もすることすらできない。
(そうね……今度はかおりさんと一緒にするのもいいかも。
私もメイドさんの格好をして迫ったら、先生は喜んでくれるかしら?)
三人でする淫らな遊戯を想像するだけで亜美の股間は熱くなり、
淫らな液体がストッキングに滴り落ちるほどにまでなっていた。