なにか信じられないものを見るように、令はしばらく固まったまま”それ”を凝視していた。
そんな令に、しばらくは見られるがままにしていたセネアだったが、さすがに何もしない令に痺れを切らしたのか、
その手を引いて体を起こさせベットの上に正座するような形で令をひざまずかせる。
「さわってみたら? 元々貴方のものだったんだから、恐がる必要もないでしょうに」
セネアが兆発するように腰を令の眼前に持ってくる。
そのペニスが自分の眼前に添えられ、令は自身の動悸が自分の耳にも聞えるぐらい激しくなっていくのを意識した。
−僕の……ペニス……?−
震える手を少しずつ前に進めるも、どうしても躊躇が生まれてしまう。
これまでの人生では感じた事もない葛藤が、令の意識をこれ以上ないぐらい混乱させていた。
そもそも”他人のペニスに触る”という行為自体が、まだ男の価値感を残している令にとって強烈な拒否衝動を生む。
しかしそれが元々自分のモノであったという事実、そして今はセネアのものであるという事実がそれを曖昧なものにする。
元々自分のものとはいえ、あえてそれを触りにいく……?
今はセネアのものであるとはいえ、自分からペニスに触れようとする……?
そんな葛藤が令の頭の中で堂々巡りし、その両手はあと少しという所で震えて止まったままであった。
が、そんな令の手を突然セネアがぱっと掴んだかと思うと、有無を言わせる間を与えず自身のペニスに添えさせてしまう。
「……あっ!」
一瞬反射的にびくんと手を跳ね除けようとする令だったが、
時すでに遅く、指でしっかりとペニスを包み込むように触れてしまっていた。
そしてゆっくりとセネアが手を離すが、令の指はペニスから離れる事はなかった。
「これが……僕の……」
結局触れてしまった途端、令の手の震えは止まってしまった。
令の中の葛藤が触れたという結果の前に全て無意味なものとして消えうせてしまったからだ。
そして久しぶりに触れた”それ”に、令の心が奇妙な感慨に捕らわれる。
「そう、令にとっては溜まった夜にベットで握り締めて何度もオナニーした時を思い出す、懐かしい触りごこちでしょう?」
「そ、そんな事……! ある……わけ……」
からかうようなセネアの言葉に反論しようとするも、そのまま声は小さくなってしまう。
令も当然相応の年齢だった訳だから自慰を経験していない訳もないし、
今感じている感慨に”感触”がないという訳でもなかったからだ。
そういう反応を経験がある相手には決して誤魔化せないのを、皮肉にも令はよく理解している。
結局は動悸が収まらぬまま、視線を再び自身の手に戻した。
−すごい……硬くて……びくびくふるえてる……−
改めて”それ”の感触を意識すると、自然に鼓動が高まってゆく。
かつて自分のものであったそのペニスが、今はセネアのものとして令の前にある。
実際には肉体を略奪されたに等しい光景。
だが令の心に空虚な気持ちが浮かぶ事はなく、それどころか奇妙な感情が動悸となって鼓動を高めてゆく。
−すごく……熱い……−
それは自分のものへの懐かしさ、セネアへの愛しさが混ざり合ったような奇妙な感情。
色々な感情が入り混じって、令の心が形容しがたい興奮につつまれる。
そして令は、静かに手を動かした。
「……っつ!」
セネアがかすかに身をよじる。それが合図のように、令はゆっくりと手を前後に動か始めた。
「ふあっ……れ、令ったら、そんなに……懐かしい?」
軽く息を切らせ、セネアが令にからかうような声をかける。
だが令は、その声にいつもの余裕がない事を無意識のうちに感じ取る。
これまで散々なぶられたが故だろうが、性的な興奮を与えられる側の立場の事は手に取るようにわかる。
ほんの少しの声と息が、これまでとまったく違うものであるのが令にはすぐ理解できた。
そう、間違いない……セネアはこの快楽を完全には制御できていない。
「そんなに……ふっ! は、激しくしなくても……いいのよ……んっ……」
強がってはいるが、セネアは明らかに今まではない艶が混じった息を吐いている。
だが令の手はその声を聞く度に何かにとり付かれたかのように勢いを増していく。
−もしかして僕が……僕がセネアさんを悦ばせてあげられる?−
よもやセネアがそのような鱗欠を見せるなどとは考えもしなかった。
だが、今セネアは間違いなく感じているのだ。令の心に最初は驚きが、そしてその後歓喜が沸き起こる。
その興奮が頂に達した頃、令は唐突にその手を掴まれ、それを止められてしまった。
「もう……いいわ。次は令を……」
笑みを浮かべながら、セネアは令を制止する。
しかし興奮していた令の意識は、”それ”を止めたくないという思いで溢れていた。
手を押えられている、しかしそれは手でなくては出来ないものでもない。
いや、それ以上の方法が……ある。
しかしそれは男としての拒否反応や羞恥心が邪魔をする。だが今を逃してはチャンスはない。
自分の怪我した指を舐めるようなものだ、まして相手は……そう、それはセネアのものなのだから。
そんな風に沸き上がった葛藤を興奮が全て肯定的なものに変えてしまう。
「……令?」
固まってしまった令にセネアは不思議そうに声をかける。
そんなセネアを軽く見上げた後、令はゆっくりと顔をセネアのペニスに近づけていった。
「れ、令!? ……はううぅッ!!」
令の舌が軽くセネアのペニスに触れた途端、セネアはびくんと体を震わせる。
そのまま令は多少の躊躇を見せながらも、ゆっくりとそれを口にふくんだ。
「そんな……れ、令! やめなさ……ふああっ!! や、やめ……ッ!!」
静かに抽挿を開始すると、セネアは今まで聞いた事もないような甘い声を出す。
それがまた令をどうしようもないぐらい興奮させていた。
−僕がセネアさんを……セネアさんを鳴かせている!!−
久しぶりに責める側の歓喜を体感した令は、そのままさらに責めを激しくする。
当然こんな事をやった経験なそ無いが、どうすればいいのかはわかっていた。
かつて自分が自慰の時に思い浮かべていた事、自分はどうして欲しかったのかを考えれば良いのだ。
裏スジ、カリと、令の舌が優しく舐め上げてゆく。自分の気持ち良かった場所を思い出しては責めてゆく。
一方のセネアは意外な事態に慌てていた。
こと、”性感”というものに関しては完全に制御が可能なぐらいの経験と能力を持っている自分が
何故か快楽を制御できないのだ。原因は簡単、このペニスである。
とはいえ、こういう淫術によるペニスの快楽に慣れてないという訳ではない。
過去にこのような性交を何度も行った事はあるし、当然その時にこのような事態はなかった。
だが今回は、一つだけ違う事があったのだ。
それが令のペニス……つまり童貞の持ち物であったという事。
いくら快楽制御の術を知っているセネアであっても、”童貞の快楽への脆さ”までは制御できなかった。
自然に腰が落ち、ベットに尻をつく。手で令の頭を押しのけようとするも力が入らない。
それどころかいつのまにか押し付けるような形になってしまう。
「やめなさい令……あくうぅッ、駄目、この……ままじゃ……ふあっ! やめ、やめて!!」
ついにセネアは令に懇願してしまう。
だが初めてみるセネアの脆い部分に令は興奮し、それを止めないどころか一気にペースを上げて、とどめとばかりに責めたてる。
そして限界があっさりと訪れた。
「ふあぁっ、そんな、私がこん……なこと…………くっ、ふあああああぁぁッ!!」
「……んふッッッツ!!」
セネアが悦びの声を上げた途端、腰とペニスがビクンと震え、令の口内に熱いものが注ぎ込まれる。
しばらく快楽の余韻に荒い息を吐いていたセネアだったが、射精が落ち付いてきたころに令の頭から静かに手を下ろした。
そして令は口内に注がれたセネアの精を自らの意思で飲み干し、静かに顔を上げる。
−自分の……じゃないよな。あくまでセネアさんの精だから……−
そんな事を考えながら、令は呆然としているセネアを見つめる。
しかし……セネアの顔に少しずつ表情が戻ってきた途端、
令は−もしかして自分はとんでもない事をやってしまったのでは?−と思い始めていた。嫌な予感が背筋を駆け巡る。
思わずこのまま逃げ出そうかと思って腰を浮かせた瞬間、セネアに勢いよく飛びかかられた。
「……やってくれたわね令。私にあんな声を上げさせるなんて……」
案の定、セネアは凄い形相で令を見下ろしていた。
”凄い”というのは、それをどう言っていいのかわからないからだ。
怒りと笑いを合成したような、そんな妖艶な感じと言えばいいのだろうか。
だが令はこんな顔を知らなくはない。
前に静奈の着替えを見てしまった時に彼女が事態を把握した後に浮かべたあの顔……あれと同じ顔だ。
もっともあの時は直後にモンキーレンチが飛んで来て、次の日の朝まで意識がなかったのだが。
つまり事態は決して令にとって良い方向ではないという事。そんな顔でセネアがゆっくりと口を開く。
「本来なら私に恥辱を与えた者など生かしておかないわ。だけど……」
セネアは意味ありげに言葉を切る。結局雰囲気に耐えられず令は口を開いた。
「だけど……?」
「貴方は当然殺さない……けど、もう許さない……今日はもう手加減なんかしてあげない!」
いつのまにか”楽しんでる”顔になって、セネアは令を見据えていた。
「気絶するぐらい感じちゃったら、さすがに止めてあげようと思ってたけど、もうダメよ。
今夜は日が昇るまで絶対に止めないわ。時間の続く限り鳴かせ続けてあげる!」
セネアは令のお尻に手をかけたかと思うと、そのままショーツを掴んで一気に引きぬき投げ捨てる。
さらにパジャマの上着も抜き取られるように脱がされたかと思うと、そのまま足を左右に広げられ、上に圧し掛かられた。
セネアの見事な手際で、令は一気に全てを晒す事となる。
それ自体は今更な事だと思った令だが、やはり内心恥かしいという気持ちを捨て切れないのか、
無意識に顔が火照るのを止める事が出来ない。
そんな赤く染まった令の顔に、セネアがゆっくり顔を近づける。
「さあ令、契るわよ。覚悟はいい?」
その言葉に、令は唐突に忘れていたこの行為の意味を思い出す。
そう、これが最後の一線。これを越えると多分もう戻れない。
それをあえて聞くのは、単なるセネアの気まぐれか?
もしかしたら、令が拒否すれば彼女は行為を止めてくれるかもしれない。
しかし……もう答えは決まっているのだ。令はゆっくりと口を開いた。
「……いいよ、セネアさん……きて……」
令はセネアに答えるように、微笑みながら静かに頷いた。