俺は、松田と約束をした。

「あのさ、協力……しない? あ、いやならいいんだけど」
 初めて体育で更衣室を使ったときのこと。二人きりになったことで、いつも以上に饒舌だった。
「協力?」
「あの、僕たち女の子になったじゃない。環境とかが変わっていろいろ大変だと思うんだ。だから……助け合えないかな、って」
 気の弱い松田が誰かに提案することなんて聞いたことがない。よく見ると膝が大笑いしていた。
今、松田は極度に緊張している。並大抵の勇気じゃないことがわかる。
ここでNOと答えてしまえば、以降話をすることもなくなるだろう。
 考える。
「そうだな。お互い何も知らなさ過ぎる」
 女になってしまって、それだけで済む話じゃない。俺は女の生活について何も知らない。知る必要があるが、情報源がない。そんな打算が働いた。
 YESの答えにぱあっと眩しいくらいに松田の顔が輝いた。これだけで男を落とせそうな極上の笑顔。
去年俺は松田と同じクラスだったが、ここまで明るかった姿を見た記憶がない。
 俺は松田にとって仲間だと思える人間なのだ。同じ境遇という理由で、俺に完全に心を開いている。ただし、自身の意思で開いたわけじゃない。
第三者の手によって開かされた──その結果の代償ある笑顔。
「じゃあ、これから、よろしく!」
「ああ」
 握手を交わす。松田の手は汗ばんでいたが、柔らかく暖かかった。……多分俺の手も相手にそう伝わっているはずだ。
松田は顔を赤らめていた。抱きついてやろうかとも思ったが、やめておいた。

 こうして俺と松田は約束した──お互い、助け合う、と。

  ◇◆◇

 今日は朝から隣のクラスの様子がおかしかった。ざわついている。あの事件以降学校は静かなものだったが、今日はなにかが違う。
 あの事件から俺は松田に会ってない。俺が避けているわけじゃない。今のところ俺から相談するようなことも用事もなく、会いに行く理由も口実もなかったか らだ。
何かあれば言ってくるのは松田のほうからだと俺は確信していた。
 “お誘い”もなく、軽口も雑談も少なくなり、自然と俺はクラスから浮いていた。
あれからこんな調子だ。何か隅で内緒話をしているようだが、俺のことを噂しているに違いなかった。

 昼休みになって、途端に隣のクラスからざわつきが消えた。
 嫌な予感がした。直感的なもので、何か根拠があるわけじゃない。だが、嫌な予感がする。
 昼食のパンも喉を通らず、ペットボトルのお茶も水以上がしなかった。
 いてもたってもいられなくなり、俺は教室を飛び出す。何かあてがあったわけじゃない。
この胸にわだかまった“何か”を晴らすには原因を突き止めて解明するしかない、それだけを考えて。

 学校中を巡って、そこだけが残った。その場所には近づきたくなかった。記憶を呼び起こしたくなかった。“事件”のことは。
「ん? お前も加わりにきてくれたのか?」
 踊り場に上がった俺の姿を見つけた男が野卑た言葉を投げかけてくる。そんなことより心を驚かせたのは──
「んッ、あッ、どうして、あん、ここに…」
 全裸で犯されている松田の姿だった。
「なんで、こんなことを──」
 しているのかわからない。
「だって、君がここでレイプされたって聞いて……でも、ぼくは何もできなくて……。
だったら……だったら、ぼくも、この場所で、初めてを終わらそうって……。約束……守れなかったから……」
 ──約束。
 あの約束は、お互いに助け合う。俺自身そんな大それたことはできないと思っていた。
これまで何をしたかといえば一緒に下着を買いに行ったくらいだ。俺にしてみればその程度の“助け”だった。
しかし、松田はこともあろうにレイプ事件すら約束の範囲内におさめてしまった。その罪悪感からこうして同じ場所で性行為している。
俺の許しを得るために。

 隅に脱ぎ捨てられた制服の上に、銀色のピルケースと、赤いカプセルが散らばっていた。
「……使ったのか、あれを」
「うんっ、これ、すごいよ……。さっき初めて入れられたときも、全然痛くなくて……
それどころか、すごく、気持ちいいの。おま○こだけじゃなくて、おっぱいもだよ」
 紅潮し汗ばんだ肌。熱い息を吐き、まるで女のように喘いでいる。
 松田は“要請”してしまったのだ。俺になんの相談もなく。朝からざわついていたのはそのせいだと思い至る。
宣言したのだろう、誰か自分とセックスしてくれと。
「ほんとう、は……、薬なんか使わなくて、しようと、思ったんだけどね……。
先っぽを入れられただけで、痛さで、どうにか、なりそう……だったから。これでも……許して、くれる?」
 途切れ途切れの告白と謝罪。あの事件のことで俺から松田に何か言う必要はないと思っていた。
レイプは誰の予想にもなかったことだ。だから俺にも松田にも責任は問えない。しかし、松田は責任を感じてしまった。
松田は俺が来るのを待っていたのだ。
そして俺が誤解をといてくれると思っていた。
 結果的に俺は会わなかった。松田は会わなかったことを自分が約束を守れず裏切ってしまったせいだと勝手に思い込んでしまった。
 この学校という狭い世界の中で、一人しかいない母体提供者という仲間を裏切り、独りになってしまったら──
 松田にとってそれは耐え難いことだったんだろう。だから“こんなこと”になっている。
 ポケットから銀色のピルケースを取り出す。開ける。
 約束も仲間も形だけだと思っていた。だが、俺の行動はそれを否定した。俺にとっても松田は唯一無二の仲間だったのだ。
 赤いカプセルを取り出す。飲み込む。
 だから、償いをしなければならない。俺には誤解をとかなかった非がある。
 階段の下にたむろしていたうちからクラスメイトというだけの基準で一人選ぶ。
「お願い、俺──私とセックスして」
 選ばれたそいつは信じられないものでも見たような顔をして呆けていた。
 これでいい。言葉遣いも変え、今は松田の目の前で同じように女として喘いでいればいい。俺にできることといえばそれくらいだ。
 制服を脱いで下着姿になる。薬が効いてきたのか、何もしないうちからブラジャーの下で乳首はピンと立ち、ショーツは秘部を中心に湿っていた。身体が、頭 が熱っぽい。
「好きにして、いいから」
 男のケモノを解放させる。
 男は胸にむしゃぶりついてきた。勢いが俺にたたらを踏ませる。ブラジャーの上からでもお構いなしに乳首を吸われ、もう片方は鷲掴みにされた。
痛みを感じるはずの行為を、俺の身体は快感と判断した。
 ブラジャーが取り外され、じかに攻められる。愛撫とはいえない激しさ。掴まれ、揉まれ、押し潰され──ありとあらゆる形に乳房が姿を変える。
乳首とその周りは特に敏感だった。付近の神経に電流でも流されているように痺れた。痺れの余波は秘部まで至り、触らなくてもショーツが濡れていることがわ かる。
 やがて男の指が秘部に到達する。

「すごい、濡れてる……」
 言われなくてもわかっている。
「脱がして……」
 早くそこに触れてほしくて、わざと煽るようなことを言った。足を持ち上げられ、見せつけられるようにショーツを脱がされる。
半透明の液体がショーツとの間に橋をかけた。
 男のペニスは何もしないうちから限界に近かった。先走りで先端はぬめり、少しの衝撃で射精してしまいそうなほど勃起していた。
 俺は自分から股を開く。俺も我慢できない。挿入れられたくてうずうずしている。
秘部はひくひくしている。挿入れられなければきっと発狂してしまう。
「はやく、来て──ん、は、ああああああああ!!!」
 だから、挿入れられたとき、それだけでイってしまった。それによる締め付けで男のほうもイったようだった。熱い液体が俺の中に注ぎ込まれている。
「ご、ごめん! あんまり気持ちよくて我慢できなかった……」
 それは俺も同じだ。気まずそうにペニスを引き抜こうとする男の腰を両足で挟み、逃げられなくする。
「お願い、もっと欲しいの……」
 勢いの失せた男のペニスが俺の膣内で硬さと大きさを取り戻すのがはっきり伝わってきた。さっきよりも強く腰を打ち付けられる。
一突きごとに軽くイく。快感が奔流となって俺の身体を蹂躙する。
 自分の中に別のものが入り込む感覚。中にあるだけで気持ちいい。さっきイったばかりだというのに、もう次を求めている。快感に果てがない。
「いいッ、いいよぉ! もっと激しく、あふッ、突いてぇ!」
 果てがないから、少しでも果てに近づこうとする。矛盾を抱えながら女のように喘いで。ケモノのように貪って。
「だめ、またッ、イっちゃう──やああああああああ!!」
 俺がイって、二度目の射精があっても、俺は逃さなかった。まだ足りない。
『イイッ! おま○こイイ! もっと深くぅ!』
 隣にもう一匹ケモノがいた。その声が俺をも高める。さっき感じたばかりの頂点が今は底辺になっていた。あふれんばかりの精液を身に受けて、まだ続きを求 める。
 後ろから抱きかかえられるように挿入れられる。ペニスが奥深くまで突き刺さり、俺は快感に悲鳴をあげる。
男の荒い息が首筋をくすぐる。それさえ身体を熱くする。
俺の二つの乳房を支えにして男が下から突き上げる。繋がっているところからぐちゅぐちゅ音がする。
 挿入と抽出。単純な繰り返しが、俺からセックス以外のことを考えられなくしてしまう。このままずっと繋がっていたい。このまま快感に身を委ねていたい。
「んはぁッ! あッ、あッ、あッ、あん 胸、もっと、いじってぇ……!」
 俺の要望に男は応えてくれる。デタラメに揉みしだく。ピストン運動のピッチが上がる。直後の3度目の射精。
「ふあああああああああああ!!!」
 イって真っ白になった視界の先で、ほぼ同時にイっていた松田の姿を見たような気がした。

  ◇◆◇

「本当に無茶するな。俺に相談なく勝手に始めるとか」
「ごめん。でも、あのときはああするしかないって思ってたから……」
 第一回目の“要請”直後の更衣室。精液、汗、愛液にまみれた俺たちはシャワーを浴び、身支度を整えていた。
「本当のことを言うとね、来てくれたとき、すごく嬉しかった。……心細かったから」
 うつむきながら微笑む。
「じゃあ改めて約束しようか。もうこんなことがないようにな」
「うん!」
 本当の約束を結ぶ。

 ──あらゆる意味で、お互いがお互いを助け合う、と。


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