奇妙な檻
からだがだるい…何かひどい二日酔いのように体中の細胞がざわめいているのがわかる… 分厚く湿った生暖かい空気の舌がわたしの身体を撫でていく…うつぶせに倒れた身体にビチャビチャに滑った床の感触が伝わってくる…何か肉のような感触の不思議な床・・身体を伸ばすと…手と、足の先が全く違った滑らかな冷たい壁にぶつかる。
「こ…ここは…?」
手をついて身体を引き上げようとする…とたんにグワンと手もとの地面が抜けるような感覚…
記憶がよみがえってくる…まだ、さっき塗られた変な薬の効果が残っているみたい。四つん這いになって頭を振る…徐々に身体のざわめきがおさまるのをまつ。上を見上げる…暗い真っ赤な部屋の中…まるで生き物の身体の中のようなぬめぬめした床と壁…でも、わたしの周りにはガラスのような透明の素材の筒が取り囲んでいる。その筒の壁に手をついて立ちあがる。
「監視カメラがあるあはず…」
部屋の中を見まわす…部屋の壁直径10センチほどの小さい穴がたくさんあいている。上を見上げると筒の高さは6メートルぐらいだ…
「でも、まずこの筒から抜けましょう…」
筒の中で両手をいっぱいに広げる。丁度両方の指の第二関節で触れるぐらいの距離に壁がある。わたしは両手を身体の前にかざして壁につんのめり気味によりかかる。そしてまず左足、そして右足を後ろの壁に押し付ける。そのままゆっくり足をずり上げ、全身でつっかえ棒をするような姿勢で筒を上り出した…
「う・・・ふう・・・」
やはり相当疲れがたまってる…イルンに打ち据えられた筋肉が音を上げて全身がびくびく震えている・・・でも、幸い、筒は上のほうにくるにしたがって狭まってきたのであまり身体を突っ張らなくても上れるようになってきた。そのかわり、筒が狭まったおかげで両膝をまげて足を開いた恥ずかしい四つん這いのような恰好を取らなくてはならなかった。(なんかすごい無防備な恰好…)でも、そんな事を考えている暇はない。もうすこし・・・ゆっくりだけど確実に何とか筒の上端に近づいていく。1センチづつ…確実に…ゆっくりと…
同僚
「ほう、さすがだな」
突然部屋の中が明るくなる。そして、目の前に・・・あいつが…
「もう少しがんばってみろ…この筒から出れたら逃がしてやろうか?」
チクショウ!わたしは恨みの視線をに向ける…
「首領、こりゃいい眺めですぜ!!」
後ろから軽薄な声が沸きあがる。わたしはガラス張りの筒の丁度中間あたりの高さで、(それは丁度地面から3メートルぐらいのところ)四つん這いのお尻を突き出した恰好で中に浮いたようになっている…さぞかし、この汚らわしい悪党どもにとっては「いい様」に見えるのだろう。
(どうしよう)取るべきオプションが見つからず動揺がはしる。
「俺もこう見えて律儀な方でな、そのまんま逃れる事が出来たら本当にここから出してやるよ。」
「何を…企んでるの?」
「なに、ちょっとしたゲームさ。俺の作ったこのわなから抜けられるかどうか」
「絶対…抜け出してあなたの心臓をこの指で掻き出して…やるわ!!」
壁から落ちないよう、全身に力を入れたまま啖呵を吐きつける…こんな裸で、無防備な状況でも焦ってるって思わせたら…駄目!
「ずいぶん威勢がいいな。でも、これで終わりじゃないぜ。」
男がガラスの筒を指でトンと叩く。旧に筒が柔らかくなり、中指の第一関節がジェル化したガラスに食い込む。こんな…こんなにグニャグニャじゃ登れない!
「ひ…卑怯よ!!」
「…and I did it My-Way!」
男はおどけて旧い地球の民謡を歌いながら指先をぱちんと鳴らす…途端にそいつの身体が浮き上がる。そして・・・・さわさわとした、何か葉っぱが擦れ合うような音が四方から響いてくる
「おまえはまだ『ザザ虫』を見たことがないだろう…?」
男は手元にある壷を持ち上げる。そして中から、しろい、ちょっとクモにも似た蟲を持ち上げる…ふさふさの毛の生えたいびつな形の胴体…刺のついた長い脚、太い牙、不揃いなサイズの多数の複眼。悪夢の中から出てきたような形の蟲をニャルトテップはもちあげる。気がつくと隣に立っているイルンの腕に乗せる…すると……!!その、蟲の脚が、ずぶずぶとイルンの腕の中に沈んでいく! そして、その厚みのある身体までも…やがて…蟲は完全にイルンの腕の中に沈んでいった…
「ふぅぐぁああああ・・・・・」
なんともだらしない声を上げ、イルンが首を後ろにそらせる。白目をむくほどに瞳を上向かせたその顔には恍惚としただらしない表情が浮かんでいる。、
「この星特有の寄生虫だ…この蟲はな、この星雲の連中のやつらはこの蟲をつかって、性的
快感を得るんだ、こいつらに身体の中に入り込ませる感覚を楽しむわけさ。こいつらの脚と身体ははかわっていてな、丁度うまくの細胞膜の間にを抜けていくのさ……このあたりの連中にとっては痛みはほとんどない。別に害も与えないしな。もともと細胞膜の間が開いているんだ…地球人に比べてな…」
さっきのさわさわした音はますます大きくなっていた。良く見るとチューブの外の床がざわついている。(ここを抜け出したら、こいつらの海って言うわけ?)
「ただな、地球人にはどうだかな? おまえらの細胞の間はこいつらよりあいだがぎっしり詰まってるはずだ。丸っきり何もかんじないというわけにはいかん。見てみろ」
そういうと男はどこからか楕円形の鏡のようなものを取り出す。何かのモニター。なかにはADDの制服を着た男性が映っている… 石の板のようなものに縛り付けられているその顔には見覚えがあった…
「ロジャ−…」
同僚のロジャー・バックス小佐だった。この数ヶ月行方不明になっている…わたしの2年先輩。 訓練生だった私の同期の女の子たちの憧れの的。…そして…ADD一のプレイボーイ。アカデミーのころ、私とかれはいくつかのドリルで一緒になり…そして…
『バックス小佐、ずいぶんとがっしりとしてるな。でも,おまえのその筋肉もこのザザ虫の侵入を阻めるかな?』
男の声が揶揄するように話し掛ける声が聞こえる・・・
そして・・・桶いっぱいの虫がバックスの身体に…ぶちまけられる…!!
次の瞬間! あの,屈強な小佐のものとは思えないおぞましい悲鳴が鳴り響く!!虫の山に覆われた彼の身体が痙攣し、飛び跳ね、岩にくくりつけ拘束用の皮紐が弾け切れる。
「・・・・・・ロジャー・・・」
わたしの目は画面の中のかつて閨をともにしたいとしい人の映像に注がれる・・・
小佐の身体はずっと痙攣を、そして嗚咽と絶叫を続けている・・・
「ザザ虫の脚はこいつの身体のいろいろなところを通ったさ・・・腹も、脚も、背中も、性器も、目も、顔も、そして脳みそもな! 地獄の苦しみだ! 普通は15分もすれば気が振れるが、こいつは40分耐えた。でも、最後はこうだ・・・」
闇の奥からごろごろと音を立てながら何か四角い物体が現れる・・・ 檻・・・そう・・・そして、中には・・・
「・・・ロジャー・・・!!」
中には変わり果てた姿のバックス小佐いた。第一礼服はそのまま・・ただ、白いズボンの前は黄色く汚れていた・・・たくましかった身体はやつれやせ細り、ふさふさだった髪はグレイに変色した上あちらこちら禿抜け、露出した頭皮は醜く膿んでいた。そして、なにより、目は生気を失い、どろりとだらしなくあけた口元よりよだれをたらしていた・・・
「・・・お・・・・おなだ・・・・お・・・・おんななだ・・・・おななだぁあああ!!!」
ロジャーが薄智っぽく声を上げる・・・もう、誰だかわからないに違いない・・・
「わ・・・わたしよ・・・わかる???」
「はだがだぁああああ!!」
そう言うとはしゃいだようになって檻の中からこっちに手を伸ばしてくる・・・
「残念だがコタニ中尉、君のボーイフレンドはもう君の事は忘れたらしいな。はははは!!!」
「なんてことを!!! なにをしたのよ!!!」
わたしは半べそになりながら怒鳴りつける!
「さっき見たとおりだ・・・・いいか、君がくる1週間前に“虫“の洗礼を受けてこれでもだいぶ回
復したんだぞ。もっとも、髪の毛は自分で引き抜いたらしいがね・・・」
「あ・・・悪魔!! 殺してやる!絶対!殺してやる!!!」
あああ、ゆるせない!! でも・・・強がりながらも、わたしは次に何が起こるかを絶望的に悟っていた・・・
「まあ、そう怒るな。仲良く出来るようにおなじ所に連れてってやるよ!見るがいい!!!」
男が洞窟の床を指差す・・・洞窟の床中には、もぞもぞうごめくザザ虫の影が・・・!!
「ひ・・・・卑怯よ!!!」
まずい・・・・にげられない!!!・・・やだ!!!絶対に・・・イヤダァ!!!!
「そのとうり・・・!!! これがたのしみでなぁ! それにおまえには狂うまでにゆっくり時間をかけてやる!!何日もな!! だからこの薬だ!!」
次の瞬間身体中に生暖かい液体が振りかかる・・・
「この液は昨日おまえに塗ってやった薬と似ていてな・・・」
もう・・・もう・・・かからだが・・・熱くなってくる・・・
「強烈な興奮剤さ・・・それとな、おまえの痛感神経を麻痺させる・・・少しだけな・・・ただ、ザザ虫の侵入は充分痛いはずだ、まぁ、この薬のせいで気が狂うまでの時間が延びるっていうことさ・・・そう、5日ぐらいな!!! つまり、充分痛いってことさ!!!」
わたしは、男の言葉を理解しようとする・・・でも、身体中が、そして・・あたまも・・・ぼうっとして・・・良く・・・わからない・・・い・・・五日間・・・そ・・・・そんなに攻められつづけたら・・・どう・・・なっちゃうの・・・???」
「まぁ、おまえもスペースガールといわれたコタニ中尉だろ?何とか逃げ出してみるんだな!そうそう、バックス小佐にも協力してもらうこととしよう!」
男がそういうと、わたしの入っている筒の下側が開いた。そして、檻の中に入っていたはずのロジャーの身体が、四つんばいのようなスタイルで身体を突っ張らせて入るわたしの 下に滑り込んできた。
「お・・・・おなだああああ!!」
「ロジャーやめて!」
バックス少佐はもともと長身だった。そして、今、彼はさらに石の台のようなものに乗せられていた。その上に立った少佐はかるがると両手を伸ばし、私の膝を掴む、わたしは、引き落とされまいと、両手両脚に更に力を入れる。と、やわらかくなっていた壁がぐにゃりとへこむ! わたしは、あわてて身体をまっすぐに伸ばし、何とか落下は防いだものの、20cmほど滑り落ちるのを防ぐことは出来なかった。
「ぐははははぁあああ! なめうずぉおおおおお!!!!」
最悪の体制だった。私はバックス少佐だった生き物の両肩に腿の全面を預け、裸の股間をばっちりさらす格好になってしまった。
後ろのほうから下品で、盛大な「ジュリュリュッ!」という音が聞こえるのと同時に、わたしはこの世ならぬよがり声をあげていた。
「う・・うわぁああああああああ!」
すごかった。薬で全身が燃え上がったところに、私の感じるところを知り尽くしたロジャーの太く、熱い、舌が・・・ああああ! クリトリスから、アヌスまでを一気になめ上げて・・・ふぁあああ! だめええ!!
わたしは、まるで恋人との逢瀬にもえる女がシーツを掴むかのように、知らぬ間に両掌でやわらかくなってしまった筒の壁を掴み、自分に引き寄せていた。
「おうおう、妬けるねええ! 楽しそうじゃないか・・」
「く・・・あああ・・・だめえ・・・ ロ・・ロジャー・・・だめよぉおお!!!」
しかし、狂ってしまった少佐にその言葉は通じない。
「ふがぁふぅ! ふはああ! ぶっふああああ!!」
ますます、狂ったように、舌を、まえと・・・あああ・・うしろに! 出鱈目に!
「いやぁあああああああ!!!!」
私、狂ったように頭を左右に振った。 たまらない・・・あああ・・いや、そんな・・・とこ・・・! だめえええええ!!
「ふふふ、 ヒトミ、楽しそうじゃねええか? 俺も楽しみたくなったぜ! おい、イルン!」
男が私の前でイルンの方へ手を伸ばした。そして、黒いグローブに包まれた手にさっきの蟲を一匹乗せ、それを私の目の前にちらつかせた。そして、それを、手品でもするかのようなもったいぶった手つきで上に投げ上げた。次の瞬間、私の右脇を何かがかすめて落下した。そして、その1秒後、
「ぐうぁあああああああ!!!」
この世のものとも思えないおぞましい叫び声が、私を取り囲む筒中にひびいた。 ロジャーだった。ロジャーは、膝をかかえ、床をのた打ち回っていた・・・
「ヒ・・・ヒトミ! た・・・助けてく・・・・あああああああああ!!」
ロジャーは正気に戻っていた。私はなにがなんだか分からず呆然とロジャーの様子を見ていた。
「ハハハ、ヒトミ、そいつはな、蟲に『入られる』と正気になるのさ、痛みに狂うまではな!」
「ぐああああああ! や・・・やめろおおおおお!!! やめてくれええええ!!!!」
まるで子供のように泣き叫ぶ、強い精神力を持つ、ロジャーの、それはあまりに惨めな姿だった。
「ひ・・・ひどい・・・・鬼・・・悪魔め!」
私は身体を強制的に与えられた官能に震るわせつつも、怒りに染まった言葉を筒の外の男に浴びせかけていた。
「なぁ、コタニ中尉、おまえ、彼氏を救いたくないか??」
「な・・・なにをたくらんでるの・・・?
私は、荒く息をはきながら、男に詰問した。
「今のお前なら、蟲を『入れても』痛みは感じない。ま、バックスほどはなぁ」
「・・・・・・・」
「蟲が入ればバックスは正気に戻れる、まだ直る見込みがあるってことだ、でも、これ以上蟲に脳みそを散歩されたらどうだろうな??『気も狂わんばかり』の痛みだからな・・・」
き・・・汚い! わたしは恨めしそうな目で男をにらみつけると、足の緊張を緩め、ロジャーがのたうっている台の上に飛び降りた。
「あああ・・・・ヒトミ!!!た・・・たす・・・けてく・・・あああああ!!!」
床でのたうっているロジャーが私のほうをみて、手をのばしてくる。
わたしは筒の外の男を見た。
「ど・・・どぅすれば・・・」
「簡単さ、こいつらは女のほうが好きなんだ。そいつと肌を合わせてみろ。」
わたしは、いうとおりにせざるをえなかった。苦しみ暴れるロジャーを引き寄せ、立たせて、前から抱きとめる。
「ひ・・・ひひひ・・・ひ・・・と・・み・・・た・・・・す・・・け・・・てぇえええ・」
ロジャーの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。そして、次の瞬間、私は右のすねの辺りにチクッと太い針が刺されていくような感覚を感じた。
(to be continued)
もどる