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トレーニングルームには仁王立ちのドゥイエ大佐が待ち構えていた。

1分遅刻だな。」

「すみません」私はうなだれた。

「明日からは遅れるな。今日から次の段階のトレーニングに入る。今日からの訓練はひときわ厳しい。我々の船は君が寝てる間に最後のスターゲートワープを終えた。今我々は既に警戒宙域にいる。もう後戻りはできない。最初の段階でギブアップしなかったことを後悔してくれ。」彼が直立不動で立っている私の周りをぐるぐると回りながらレクチャーを開始する。でも、彼が上目遣いで私のスーツをチェックしていたのを私は見逃してなかった。(まあ、こわい、フフフッ、)

「これまでは基礎のトレーニングだ。もう既に君は相応の耐久力と格闘術を身に付けている。しかしそれは決して実践的ではない。敵が複数のときもあれば、君の弱みに付け込んでくることもある…」私は目の端で彼の動きを追っている。彼の視線がぴっちりとしたタイツに包まれたわたしの身体をなめていく。その声が私の背後に長くとどまって前にまわってくる。私は心の中で勝利を叫んでいた。彼の視線は私の後姿に張り付いているはず。今日は普段つけるサポート用の下着無しにスーツを蒸着したのだった。薄いトレーニングスーツは身体にぴったり密着して体中のラインを必要以上にあらわにしているはず。

「コホン!…そして、捜査官は非常に悪い状況でも戦わなくてはいけないこともある。さらに…囮捜査を行った場合、それなりの危険もあるしそれに対しての準備もできていなくてはいけない・・・特に君みたいな・・・」

彼が言いよどむ。

わたしは超上級の微笑を口元にたたえ、目をみだらに輝かせ、せっつくように口を挟んだ。

「特に私みたいな・・・?」

と、とたんに彼は私のほうを向いて、指を鳴らした。

「自惚れ屋はだ!!」

次の瞬間、私の視界が大きく上下にぶれ、体の節々に強烈な引き裂かれるような痛みが走った。そして次の瞬間、背骨がきしみ、わたしの視線はさっきまで私が立っていたはずのフロアのあたりを見下ろしていた。

「これから、この船に乗っている間は、一切油断はするな。」

なにがおきたか理解するのに4秒ほど要しただろうか?わたしは繊維で編んだらしいロープに縛られ天井から吊り上げられていた。私の足首は頭のほうへ持ち上げられ、そして口にもロープがあってそれは後ろへ引っ張られ、空中でエビのように身体を反らせ、地面と平行にされていた。

「はい、大佐殿!」といおうとしたが、口にも猿轡のようにロープが噛まされてあり私の声はくぐもったうめきにしかならなかった。

「昨日までのおままごとはある面合理的だったろう?敵は理不尽だぞヒトミ・コタニ少尉。お前を強くしようとか、無理なく育てようなんてしない。そう、育てるんじゃない、敵はお前を破壊しようとするのさ!

身体をゆすってロープを緩ませようとする、でもギチギチに私を拘束するその荒い縄はかえってわたしの身体に食い込んでくる、手足だけでなくて、首や、胸、腹部、そして私の股間を割って柔肌に食い込んでくる縄の痛さに私は身悶えた。大佐の目つき、そして声は昨日のやさしい声とは一転して、残虐な変質者の声のようになっている・・・

「特に・・・特にお前は・・・ひっ、ひっ、ひっ!思い切りいたぶられるだろう・・・うまそうだからなぁ!!! ははははは!!」

ビシッ!ビシッ!ビシーッ!空を切るような鋭い音に続いて炸裂音をともなって焼けるような痛みが後方から襲ってきた。

「実践に近いのが訓練。そう、思わないカァア?」

大佐は私の髪の毛を引き上げ、顔を間近に寄せて言った。酒くさい息がもろに顔にかかる・・・その目はらんらんと輝き、私を見つめているはずなのに、何か焦点が合ってないような・・・いや、そんなことは・・・

「たとえばな、ヒトミ、拷問にかけるときやつらは手加減しない。どんなに痛いかなんてどうでもいいんだ。それどころじゃない、たとえば」

ドスンと鈍い爆発が私の体内で起こり、その反響が頭蓋骨に跳ね返って私の聴覚をゆるがした。そして、胸が開かれそこにからしを塗られたような痛み・・・・(あ、あばらが・・・折れたの?・・・・・)きな臭い匂いが鼻をつき、涙があふれ顔の中心を流れる。

「お前が怪我することも気にはならない。なかには…」

グハッ!!く、首が!!大佐が、鞭を首に巻きつけ、締めてくる!!!

「首をしめたり、ゆっくり切り開いたり・・・」

ハァーッ!! グホッ!ゲェッ!ハァッ!! 大佐が鞭をといて離れる、必死で大きく息を吸い込む。「足を切り取られたりするだろう」

大佐が言い終わらないうちに、薄いマテリアルでくるまれた私の脚に嵐のように電磁鞭の雨が降り注ぐ!わたしは高速のチェーンソーで脚を切り刻まれるような痛みに大声をあげようとする。でも、わたしの懇願はむなしく縄の猿轡の中に吸い込まれるだけ・・・

「お前の顔だって、ほって置いてはくれないさ・・・・」

(だめ、そ・・・それはいやぁ!!!!)

顔に容赦ない平手が張られる、ぼっぺたの中に爆竹を入れられたみたい。頭がボーっとしてくる、大佐は髪を引っ張り私の顔を眺める。私の顔はもう腫れ上がっているのだろうか・・・ そう思った瞬間、視界が急にふさがれ、衝撃とともに首が後ろにめり込み、強烈な疼痛が顔面を襲う・・・ 

(ひ・・・いいいいい!!!!)

鼻が痛い・・・お・・・折れた・・・私の・・・鼻・・・私の・・・顔が・・・

「これが実践だ、ヒトミ・コタニ。課題を与える。この縄から抜けるんだ。時間は2時間やろう。今、お前の右目ははれてふさがっている。鼻から出血が著しい、右の脇、性格には肋骨が折れ、肺からは内出血中だ。2時間以内にメディカルポッドにつけないともう全治しなくなるぞ。全治できなかったら、お前は基地勤務だ。いいな。縄を抜けてメディカルまで来い。そして自分で全部治療するんだ。」

(はじまったんだ)私は強烈ないたみと暗澹たる衝撃の中でさとっていた。

わたしは噂で聞いていた。ADDの特別諜報員の訓練課程中に行方不明になった訓練生の話。ある程度の金持ちの家庭に育った訓練生がADDに対し精神障害を起こさせたかどで訴えを起こしているという噂。

 

特別諜報員の訓練は激しい。常識を外れて。故意に身体を傷付けられたり、骨を折られたり、女性訓練生の中にはもっとひどいことも・・・。そんな話は冗談半分だと思っていた・・・でもあるのだ、その厳しい訓練が。そして今それが始まったのだ・・・ 

(ま・・・まけない・・・!!)

此処で負けるわけには行かない・・・み・・・見てらっしゃい・・・これぐらいの縄抜けならお手の物。幸い、手首を折り曲げると、縄の“留め”に指がかかった。

 

ドゥイエ大佐がタイムウオッチを押した。そしてそれを私の首にかけた。「2時間は始まった、あ、そうそう・・・」大佐がこっちへ向かって歩いてくる。私は既に縄目の説き方を理解すべく指先で留めを探り出していた。(わかった・・・簡単!)そう思った次の瞬間、

「ゴボギッ!」といういやな音ともに打ち砕かれるような痛みが右の大腿からわきあがる! 

「ぎゃぁあああああ!!!!」

私は生まれて初めての苦痛に心のそこから絶叫を上げた。(お・・・折れてる!!・・・わ・・・わたしの、あしがぁ!!!!)大腿骨の骨折面は天井から釣られている私の重みによってひしゃげたような角度に折り曲げられ、剥き出しになった神経がゴリゴリと擦れあう!

「あ・・・アゥァアアアアアア!・・・い・・・あゎぁあああ・・・」

痛かった、そして信じられないほどのショックだった・・・ 足を・・・折られるなんて・・・

「縄抜けだけじゃないぞ、抜けてからちゃんとメディカルまで歩いてこれるかだ。そうしないとお前の身体は元に戻らない。」

 

ももから腰にかけて冷たい感覚が広がっていく。脚の傷口から滴った血が白いトレーニングスーツをあかくそめている。私の下の床には既に血溜りができている。私は歯を食いしばり、目をぎゅっと強く閉じて深呼吸をしながら痛みに耐えていた。

「あと1時間50分だ!」スピーカーから声が響く。大佐はいつのまにか部屋から消えていた。

2年前、俺の言うことを信じない予備生がいた。そいつは2時間ただこの部屋で助けを呼んでいたのさ。いまごろその馬鹿女は車椅子だ。きれいな女だったのに、セックスも十分に楽しめないだろうて! はははははは!」

邪悪、そうとしかいえない笑い声だった。痛みが体中を引き裂き、悪寒が走った。(このままでは、本当に身体が不自由になってしまう。)わたしは朦朧とする意識の中で必死に脱出策を考えた。

              ***

白いパッドに全身を圧迫され、、全裸の私は荒い息を吐いていた。洗浄され復元された薄く白いボディースーツは潤滑用のゼリーと自分の汗にまみれわたしの肌にぴっちりと張り付いていた。

 

まだ全身が痛かった。メディカル・ポッドの中でやっと上半身を引き上げる。そして外を見ると、そこにもうドゥイエ大佐が立っていた。

「ほら、もたもたしている間は無いぞ!早くトレーニング室に戻れ!

私はそのとき、ひさしぶりに人間に対する憎悪を感じた。

 

どうやってあの縄から抜け出せたのかわからない。私は気がつくと床に倒れていた。落下の衝撃で肩を脱臼し、更なる激痛に叫び声をあげていた。船内の床を這うごとに体中の傷がうずき、折れた足がひしゃげられ、骨折した骨の断面がゴリゴリと音を立ててぶつかりあった。私は泣き声でドゥイエ大佐を呪いながら何とかメディカルポッドにたどり着いたのだ。そして、白い医務室を血で真っ赤に染めながら棺おけのようなポッドに何とか滑り込み、ボイスコマンドで自動診断と治療を済ませた。悔しかった。骨折したのも初めてだったし、顔を傷つけられるのも・・・アカデミーでもわたしの身体が“天然もの”であることが自慢だったのに・・・

 

「ほら起きろ!

いきなり髪の毛をつかまれた、私はそのままポッドから引き上げられる。そして床になげすてられた。組織再生手術を終えたばかりでまだ身体に力が入らない。

「大佐、もう少し・・・待ってください、いま・・・まだ、動けない!!

私は抗議の視線でドゥイエをにらみ返す。

「そんなこと敵が聞いてくれると思うか!

あっ!ドゥイエ大佐が歩み寄ってくる! この、狂人が・・・また・・・また私を傷つけるの??? 私は他の人間に対して生まれて初めての圧倒的な恐怖を感じていた。

ドゥイエ大佐の手が挙がる。(あ、またなぐられる)そう思いわたしは目を閉じ身構える。しかし、次の瞬間、喉笛を捕まれ、ギューっと上に引き上げられる。

 

私は大佐に背を向けた格好で喉をおさえられ、立たされていた。わたしの、特殊戦闘員と呼ぶにはあまりに華奢とも見れる裸身が医務室の壁に埋め込まれた鏡に映っている・・・

「今日から訓練は新たな段階だ。いいか、俺はお前みたいな生意気な女をいじめるのがすきでな!特にこんないやらしい身体をした奴はだ。」

ドゥイエ大佐が・・・!! 大佐が後ろから手を前に回し、私の小さめな、でも形のいい胸をもみしだいてくる!! 

「あ・・・く・・・く・・・き・・・いいいいい!!! や・・・や・・・め・・・きいいいい!!!」

喉を締められながら、必死に逃れようとする。でも、ドゥイエ大佐は私が組み手をしたことのあるどの男よりも強い力で・・・

「お前はいい女だHitomi。それはエージェントとしてプラスにもマイナスにもなる。それが何を意味するのか、みっちり教えてやるよ!

く・・・くるってる! ドゥイエ大佐の声は下品さを増して・・・ああ・・・一体、何が起きてるの?! こ、こんな宇宙の辺境じゃ助けを呼ぶにも呼べない!

わたしは両手で首に回っている大佐の手をつかみ引き剥がそうとした。その瞬間!

「ひ・・・ひゃぁぁぁぁああああああああ!!!」

私の後ろ・・・お尻から背筋にかけて焼け付くような痛みが! ああ、お尻・・お尻の穴に!なにかが無理やり押し込まれた!!

「油断するなといったはずだ。いいか、ヒトミ、いつでも無防備でいてはダメだぞ・・・はははは!!!」

大佐が高笑いを放つ、そして、それに連れ、お尻にねじ込まれた硬い棒のようなものがヒクヒク動いた・・・私は吐き出しそうな悪寒を抑え、喉の周りの大佐の指にかけた両手にいっそう力をこめていた。

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