023:憎悪 -1-
紙一重のその感情。早朝…丁度サンジが眼を覚ましたのと同時刻。
ウソップは、不穏な気配に眼を覚ました。
折角、久しぶりにいい夢を見ているところだったのだが。(巨大な竜を一撃でぶっ倒して囚われのオヒメサマにお礼のキッスを頂こうというまさにその瞬間のことだった。)
ベッドを転がり落ちながら、枕の下に隠してあった銃を握り、身を低く伏せる。
その間、僅か1秒。
1、2、3。
ウソップは心の中で秒を数える。
4、5、6。
何の物音もしない。
7、8、9…
ウソップはそろそろと顔を上げた。
室内は静まり返っている。もちろん、自分以外の気配もない。
「…なんだよ、気のせいか?」
ため息と共に立ち上がりながら、ウソップはふと気づいた。
室内は静まり返っている。もちろん、自分以外の気配もない。
…。
ルフィは?
「うぉぉぉおおおおおいっっ!?」
空中に向かって、凄まじい勢いで裏手パンチによるツッコミを入れる。
「何でいねぇんだよおおおおお!?」
――ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
――何だか分からねぇがとにかくヤバイ!
ウソップの記憶にある限り、ルフィが単独で行動して、ろくな結果になった事など一度たりとも無いのである。
ウソップは身支度もそこそこに部屋を飛び出した。
何としても、ナミにばれる前に連れ戻さなければ…色々とアブナイ。色々と。
ウソップは、大男の格好でこそこそと宿を抜け出そうとした。
が。
「何してんのよギルバート」
「うひょおおおおお!?」
――か、カミサマ、これはちょっとあんまりでは?
日ごろのホラ吹きぶりを棚に上げ、ウソップはがっくりと脱力した。
「も、もうダメだ…」
「? 何よ、どうしたの? ユーグは?」
「…ゆゆゆゆユーグなら今風呂に入って」
バタン!
ウソップの話など微塵も聞かず、ナミはウソップを押しのけ、男部屋の中をのぞいた。
誰もいない、男部屋の中を。
「……ウソップ?」
「ぅひょいっ!?!」
「ルフィどこ?」
「あの、ですから、今お手洗いにですね」
「どこ?」
「っていうか、今はあいつはユーグでおれはギル…」
「 ど こ っ て 訊 い て る の 」
「…分かりません」
「何やってたのよ!! ルフィが単独行動なんて……」
ナミは突然笑顔になった。
顔色は、蒼白である。
滑らかにきびすを返し、おむもろに走り出した。
ナミの記憶にある限り、ルフィが単独で行動して、ろくな結果になった事など一度たりとも無かったからである。
「お、おい!」
慌ててその後に続きながら、「怒髪天を突く」とはこういうことか、とウソップはいっそ感心していた。
そして。
2人の心配は、間もなく的中することになる。
「こうなったらヤだな」という、まさにその想像の通りに。
走る、奔る。
チョッパーに導かれるまま、ゾロは走った。
途中、再び鐘の音が鳴り響き、間一髪2人は耳栓を装着してやり過ごした。
チョッパーが言うところによると、鐘は朝と晩に鳴ることになっているのだという。
その鐘は都市の丁度中央――上下左右から――のフォルテューナ教会に据えられてて、歴史的価値もあるんだよ――というチョッパーの言葉は、ゾロの耳を右から左に走り抜けてどこかに行ってしまった。
「おい、チョッパー」
「何?」
「お前は何でセイを追いかけてるんだ」
「お、おれはその…確かめたい事があるから」
「俺もだ」
断続的に会話しながら、2人は都市の端へ出た。
過度の方向音痴のゾロも、その景色を見て、さすがにそこがどこだか思い当たった。
「この上は、あの庭…か」
「うん。セイさんの匂いは上からだよ」
2人、階段を駆け上がる。
都市の上空は、暗雲に覆われつつあった。
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