『prove my allegiance』




あんなのって・・・ないよ。

たとえ冗談でも、酷すぎるよ。

蛮ちゃん、ねぇ・・どうして?








    4月18日 11時56分

    あと少しで、俺の誕生日がやってくる。
    蛮ちゃんはきっと、誕生日を祝うなんてのはどうでもいいって思ってて、
    もしかしたら、
    数分後にやってくる4月19日が俺の誕生日だなんてことすら、
    忘れてるのかも知れないけど。
    でも、それでもいいんだ。

    俺の誕生日の一日の始まりに、蛮ちゃんが傍にいてくれて、
    それで今日一日、蛮ちゃんと目覚める朝が来て。
    いつもみたいに・・・こんなこと言ったら波児さんに怒られちゃうケド、
    ツケで食べるご飯。
    公園の前でビラ配り。
    お天気が良かったらそのままお昼寝とかしてvv
    もちろんお仕事もね、奪還率ほぼ100%。
    できれば、駐禁キップ切られたりするのはご遠慮なんですけど;;
    晩ごはんは・・さすがに1日に2回もツケは無理だから、
    賞味期限の切れたコンビニのお弁当探したり。
    テントウムシ停めた公園で、夜空見上げて散歩したり。
    その後は、蛮ちゃんのことだからきっと・・・・・シちゃったり///

    そんな風にね、
    いつもと同じ一日を、過ごすことができたなら、
    これからもずっと、蛮ちゃんと一緒に歩いていけるかな・・・って。
    俺だけの、秘密のおまじない。


    (どうか明日が、いつもと同じ一日でありますように)


    あと1分。

    公園の時計が12時になったら、
    『明日』を『今日』に言い換えて、もう一度お祈りしよう。



    あと10秒。

    5・・4・・3・・2・・・・・

    「・・銀次」

    「どっ・・・え? ・・あれ? ・・はい?」

    なっ、なっ・・何?
    せっかくの俺の大切な計画がっ・・じゃなくて、おまじな・・・
    って、そうじゃなくて。
    俺の大切な一日の始まりが〜〜っ;;
    なぁんでいきなり話しかけるんだよぉぉ!!

    ・・・・・ん?

    あれ?
    もしかしてこれって、
    俺の誕生日のいちばん最初に蛮ちゃんが俺の名前、呼んでくれたってこと?
    だって、全然関係ない言葉だった可能性も、フツーにある訳だもんね。
    「煙草買い行くぞ」とか「腹減ったな」とか。
    そんなのに比べたら、
    うわぁ・・・うわぁ・・
    もしかしてめっちゃくちゃ嬉しいかもvv
    大切な一日の始まり。
    「銀次」って俺の名前、誰よりも、どんな言葉よりも最初に呼んでくれた!!

    「・・・オイ」

    「んぁ?」

    「膨れっ面してみたり、ニヤけてみたり、忙しいヤツだな」

    気がつくと、俺は蛮ちゃんに右手を掴まれていて。
    ・・・そうでした。
    蛮ちゃん、何か言おうとしてたんだった。

    「・・・・・えっ、と、何?」

    「なに?じゃねぇよ、俺さまが呼んでるのに無視するたぁいい度胸だな」

    「う・・・違うよぉ〜ちょっと・・・考えごとを〜;;」

    「ほぉ〜、おめぇの足りねぇ脳ミソで考えごとねぇ〜」

    そう言いながら、
    蛮ちゃんが俺のほっぺを両手でびよ〜んとか引っぱるから、
    シリアスモードも何も、なんかもう、ぜんぶ吹っ飛んじゃって、
    俺はすっかりたれ銀モード。
    だってさぁ、ホント痛いんだよ?
    ノーマルモードの、ほっぺびよ〜ん。

    「んあぁ〜〜!!ごめん〜!ごめんってば、蛮ちゃ〜ん・・・・・んで?」

    「あ゛?」

    「俺のこと、呼んだでしょ? 何?」

    ちょっと伸びたほっぺを擦りながら俺が聞き返すと、
    蛮ちゃんは急に笑うのを止めて、
    ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ考えるような難しい顔をしてから、

    「いいわ、やっぱヤメ」

    それだけ言った。

    何か、どうでもいいような言い方なんだけど。
    でも、俺はすごく気になって。

    ・・・ホントはそれだけじゃなくて、
    蛮ちゃんが、俺におめでとうを言ってくれるのかも・・とか。
    そんな期待も少しはあったんだけど。

    でも、それよりも、もっと大切なことを。
    蛮ちゃんは言うつもりだったんじゃないかって、
    そう思ったら、やっぱり黙っていられなくて。

    「良くないよ!!」

    いつの間にか、そんなことを叫んでいた。





    沈黙が続く。

    表情を隠す紫のガラスが取り除かれる。

    真剣な、蛮ちゃんの瞳。

    視線は逸らさない。



    蛮ちゃんが話してくれないのは、
    俺のこと、頼りにしてくれてないからじゃないかって、
    そんなことは、
    認めたく、ない。



    逸らさない、瞳。

    呪われた瞳だって、
    蛮ちゃんの邪眼のこと知ってる人は皆、そんな風に言うけれど。

    俺の大好きな、深い深い藍の瞳。

    不意に、その瞳がふっ・・・と伏せられて、
    次の瞬間、俺の右手はまた蛮ちゃんに捕われていて、

    絡まる視線。

    重なる吐息。

    「herzliche Gluckwunsche zum Geburtstag...」

    唇を触れ合わせたままで、蛮ちゃんが囁いた言葉を、
    俺は初めて聞いたはずなのに、
    その言葉の意味を、俺は知っているから・・・

    何かとても大切な話があったのかも知れない、なんて、
    そう思ったのは、俺の思い過ごしだったんじゃないか・・・って。

    ゆっくりと倒されるシート。
    狭い車内、器用に移動してきた蛮ちゃんに抱き締められると、
    誰よりも近くで見上げた蛮ちゃんの瞳に、俺だけが映るから。
    急にアツクなってくる身体が、何だか恥かしくて、
    逸らす代わりに、ゆっくりと俺は目を閉じる。

    甘い唇。

    優しいキス。







    不意に風が吹き抜けた。



    ハッと目を開けた、見慣れない景色  音のない世界。
    空が高くて、 乾いた風、 強烈な太陽。
    緑が、眩しすぎて、俺は額に手を翳す。
    下界に広がる見知らぬ町と、青い空、蒼い海。
    けれども、俺が本当に欲しい色は、どこにも見つけられなくて。
    風に揺れる低い草木を、いつまでも眺めていた。
    丘の上、独りっきり。
    俺の座っている傍らには、クリーム色した人工石。
    強すぎる太陽の光から、視線を逸らすように凭れているその石を見れば、
    なんども触れたことが見てとれる、擦れた文字。


          
     †
            Ban Mido
          your side anytime



 

    あぁ、だから俺は、独りなんだな・・・って。
    ぼんやり、そんなことを考えながら、膝を抱えて目を閉じる。



両手に感じる、体温と重み。



ふっ、と意識を取り戻すように見た、俯いた先の光景。
俺の腕の中の蛮ちゃん。
優しい、綺麗な、瞳の藍。
蛮ちゃんを抱える俺の腕を伝って肘から滴った、紅。
俺は驚いて、叫ぶ  音のない世界。

いつもの、自信に満ちた微笑みを浮かべる蛮ちゃんの唇が、
火を点けたばかりの煙草を、吐き捨てて。

紡がれる言葉・・・

俺の髪をくしゃくしゃと混ぜる蛮ちゃんの腕。
喉を晒すように上体を伸び上がらせて、
触れる唇。
ひらりと舞い落ちる、腕。
スローモーションのように閉ざされる目蓋と、光を失う藍。
命の終わりの、吐息。


音のない、世界。

叫ぶ俺。

耳を塞いで、
狂ったようにかぶりを振って、悪夢の光景から目を塞ぐ。





衝撃が襲った。



時間の流れを感じられない空間を、俺の身体が舞う。
叩きつけられる、床の上。

慌てたように起き上がって見上げた、佇む人影。
振り返って、背後の俺に向けられる、藍の瞳。
安堵に綻ぶ唇。
見上げた俺の目に映る、背中。

見慣れたハズのそこに見た、不自然な異形の影。

誰よりも、愛する人の身体を貫く、凶器。

白いシャツに、拡がる紅。



崩れ落ちる・・・・・



「・・・もう、いいよ!! やめてよ!! 蛮ちゃん!!」



叫んだ俺の言葉は、今度こそ音を伴っていて。

消える世界。

真っ白な空間。

佇む蛮ちゃんの顔は、少しだけ驚いた様子で。



「・・・さすがだな」

困ったように、笑って言う。

「いつ落とされちゃったのか・・・は、解からなかったよ?
途中で気付いてからはね、抜け出すのに必死だった。
・・・・・気付くに決まってる、あんな悪夢・・・」

「・・・完全に抜け出すには、もうちっと修行が足りてねぇケドよ」

言われて、俺はぐるりと辺りを一瞥する。
どこまでも、ただ、白い空間。

「・・・そうみたいだね」



「ま、こんなモンだろ、 ・・・・・・・・・・ジャスト1分だ」



暗転する空間。

誰よりも近くで見る、瞳。
夜の闇の中で、それは深い深い海の底のような藍だったけれど。

今の俺の心は、嵐の海のように荒れていて。

邪眼の出口で辿り着いた空間では必死に耐えていたのに。
この身体で蛮ちゃんの体重を感じて、
蛮ちゃんの体温を感じて、
蛮ちゃんの瞳を見てしまったら。

涙が、止まらなくなった。

「・・・どうして?」

「・・・」

「おめでとう、って・・・言ってくれたんだよね?
なのに・・・俺の誕生日だってわかってて、どうして・・・
何で、こんな・・・酷いことするの?
・・・・・ねぇ!! 何か言ってよ!!」

蛮ちゃんのシャツを掴んで、
蛮ちゃんの胸をバシバシと両手で叩いて、
俺は、蛮ちゃんを問い詰める。

「・・・・・解かんねぇか?」

そう言った蛮ちゃんの顔が、悲しそうだから。

「・・・何だよ? 何なんだよ!! わかんないよ!!
蛮ちゃんがなに言ってんのか、全然わかんないよ!!
何でそんな顔するんだよ!! こんなことされて、悲しいのは俺の方・・・」

蛮ちゃんの下で怒鳴って、大暴れして、
蛮ちゃんが怯んだ隙に、そこから抜け出してドアを開けると、
転がるみたいにテントウムシを降りて走り出した。

悲しくて。

悲しくて。







「・・・・・気付けよ・・・・・銀次」









蛮ちゃんは・・・当然だけど、追いかけては来なかった。

階段を駆け上がって、
滝の横を通り過ぎて、
テントウムシが見えなくなるまで走り続けて、
辿り着いた、道端の木の下で泣いてた。

泣きたくなんか、ないのに。
涙が止まらなくって。


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