Bousou - Honey.
!!! R-18 !!!
アインとガエリオがはじめてを迎える話
『拡張』『無意識の調教』辺りがキーワードです
タイトルが童貞なのに処女側視線で進みます
脱童貞、までの長い道程
アイン・ダルトンとガエリオ・ボードウィン。二人は恋人同士であった。
元は、生まれも立場も何もかも異なる、宇宙でただ同じ相手を敵と認識しただけの上司と部下である。二人がそれぞれに抱く想いを自覚し、それを通じ合わせるまでには紆余曲折があったわけだが――とりあえず、この場では置いておこう。
とにかく二人は互いの想いを口に出して互いに伝え合い、相手を恋人と呼べる間柄になったのだった。人目を避けてはこっそりと手を繋ぎ、互いの部屋に戻る前にはひっそりと唇を触れ合わせる。秘めやかで幸せな恋だった。
二人でいることが幸せだった。二人の時間が。二人きりで過ごす、それだけでも十分だと思ってしまうほどに。
それでも二人は人間だ。それも恋人関係にある人間である。男同士であるとしても、隣にいるのは愛する人だった。だからもっと――、もっと、と。望んでしまうのは、何もおかしいことでは、ない。
「――アイン」
「特務さ、……ガエリオ、さま」
スレイプニルの俺の私室。その寝台の上に、俺たち二人はいる。
二人の間を阻むものは薄布一枚も許さないとばかりに、周囲には脱ぎ散らかされた衣服。付き合いの長いマクギリス辺りが見たら信じられないと言うだろう。俺はだらしないことが嫌いだから、普段であれば床に服を放るなんて考えられないからだ。しかも俺は裸の腕を伸ばして男を抱き寄せようとしているのだし。
俺たちにとって初めての夜だった。いつも通りに軽く酒を飲んで、楽しく話をして、ふと降りた静寂の中でそっとキスをして。その雰囲気が、いつもよりも甘かった。だから二人で寝台へと移動して、――服を脱がし合って。素肌のままでシーツに転がればもう後は欲のままに相手を求めるだけだ。
仰向けになった俺が呼ぶと、アインも俺の名を呼びながら覆いかぶさってきた。顎を突き出せば、勝手を得たりと唇を重ねてくれる。暖かくて、とても気持ちがいい。
「アインは本当にキスが好きだなあ」
照れ隠しを兼ねてそんな風に話しかけると、呆れたような表情が返ってきた。
「あなたがねだるからでしょうに」
「ねだった? 俺が? 俺は何も言っていないぞ?」
「ならば言い換えます。あなたが物欲しそうな顔をしてい……、んんっ!」
俺の目を見つめることに集中していたアインの背筋を撫で上げてやった。俺に隙を見せてくれるアインはとてもかわいい。だが、突然の行動に思わず漏れた声は吐息が漏れるような酷く色っぽいもので、逆にこちらまで煽られてしまう。背筋が痺れるような感覚は、快楽、なのだろう。
「特務三佐っ……」
咎めるような口調で、睨まれたって怖くない。潤んだ青い目はとても綺麗だ。しかし、もう一度口づけをくれようとするのは嬉しいのだがその呼び方はいただけない。俺は手のひらを差し出してその唇を拒む。
「そうじゃないだろう?」
「――ガエリオ様」
「ああ」
俺は名を呼ばれるのが好きなのだ。アインの声で呼ばれるのは、特に。だがアインはいつも俺を上官と呼びたがる。それが礼儀だと思っているのか、その方がアインが興奮するのかは分からないが。もし後者ならば申し訳ないと、少しだけ思う。
俺がやっと手のひらをどけて口を開いてやると、アインは喜々として舌を滑り込ませてきた。何だ、やはり奴もキスが好きなのだ。ざらりと触れ合う舌と舌。気持ちがいい。俺はうっとりと目を閉じる。
アインの手のひらがするすると俺の体の上を這っていく。俺もアインの背に腕を回して、浮き上がる肩甲骨や背中の筋肉をなぞって楽しんだ。肌と肌で触れ合うのはなんと心地がいいのだろう。足を絡め、胸板をすりあわせ、何度も口づけを交わしながら互いの体を探り合う。さらさらと撫でて撫でられて、心地よさ以上のもどかしさが湧き上がってきてしまう。
いつしか、どちらの腰も揺れていた。反応し始めた箇所を相手の体に押し付けて、少しでも快楽を拾おうとするのは男の本能だ。固くなったアインのものが太腿に当たるのを感じる。なんというみだらな動きだろう。だんだんと息も乱れ、部屋の温度と湿度が増していく。
「とく、……ガエリオさま、私は……っ」
「んー? なんだ、アイン」
余裕のないアインの声を笑ったつもりだった。笑みは、多分うまく作れたはずだ。だが、なんという声だろう。目を見開いたアインの反応でもわかる。俺の喉からこぼれたのは、なんともとろけた気色の悪い声だった。
だのに、俺の足に押し付けられるアインの股間は更に固くなるのだ。
地球の深い海のような色の、涙をたたえた瞳がまっすぐに俺を見て、深い口付けで交わした二人分の唾液に濡れた唇が開く。はあっ、と熱い息を一つ吐いて、アインは一言一言を噛みしめるように口にした。
「もう、私は……、あなたと、一つになりたい」
あなたと――つまりは俺と。
男同士だ。その行為は生命の繁栄のためではなく二人だけが満たされるための行為。それを望む言葉なのだ。酷く自分勝手で、だが何よりも愛しい相手の深いところまでを知るための。
火傷してしまいそうなほどのまっすぐな視線に耐えかねて、思わず目をそらしかけ――耐えた。逃げてはいけない、こんなにまっすぐに感情をぶつけてくれる相手から。しかも、それは恋人なのだ。
だから俺はアインの瞳を見つめ返し、ああ、と頷いた。
そして――――。
――一時間後。
俺たちはその先を諦めた。
(そりゃそうだよな……。そこはそんな用途に使う部位じゃない。女相手でもするまでに手間をかけるのだから、男が女役をするならもっと何か複雑な手順が必要に決まっている……)
うずくまって静かに泣くアインの背を撫でてやりつつ、無理に弄くられてじんじんする尻穴を気遣いながら、俺はぼんやりとそんなことを考えた。
「大丈夫か……?」
「わ……、わたしは……っ、自分の不甲斐なさに……っ! と、特務三佐に、申し訳なく……っ!」
えぐえぐとしゃくりあげながらアインが繰り返し口にするのは、自己を責める言葉と俺に対する謝罪の言葉だ。自分が不甲斐ない、貴方に申し訳ないと。
つまりところ、俺たちの初夜は失敗に終わったのだった。服を脱いで素肌を擦り寄せるまでは良い。男同士でつながる箇所の事もわかっている。だがその先の詳しいやり方の知識を、俺たちは揃って持っていなかったのであった。
乾いたそこはアインがいくら突付いても緩むことはなく、ムキになってねじ込もうとしても俺が痛みに悲鳴を上げるだけで一ミリとて受け入れることはできなかった。しつこく弄られた尻穴はまだじんじんしている。自分の体とは言え、なんと頑ななことか。
興奮から完全に勃起していたはずのアインのペニスは段々と自信を失くしていき、最終的にはかわいそうにもくたりと倒れて戦闘不能に陥ってしまったのであった。
実は、俺のほうが先に戦意喪失してはいたのだ。それでもアインがしたいならと耐えていたというのに、奴自身も最後には諦めざるを得なかったのである。責任感の強いアインのことだ、上官が許可を出しているというのに自身が戦闘続行不可に陥った時の絶望は如何ほどのことか。
「アイン、お前だけのせいではないから。ほら、顔を上げろ。な?」
この夜はどちらが誘ったというわけではないが、積極的にムードを作ったのは俺だった、と思う。俺の部屋にアインを引きずり込んだのだし、最初に寝台に上がったのも俺だ。正しい知識もないままにことに及ぼうとしたのは、だからアインだけが原因ということはないはずなのである。
だが、自分も悪かったからそう自身を責めるなと俺が何度繰り返しても、アインは、
「いえ……っ、わたしの、私の責任ですっ……!エスコートは男の役目でしょうに!」
「俺も男だがな……?」
「申し訳ございません、特務三佐……っ!」
――全く聞いちゃいない。
悲劇の登場人物を気取っているようで多少癇に障るが、責任感の強さを示す態度と言い換えることもできよう。いつもあまり表情を変えないアインだが、たまにこうして感情表現が激しくなることがある。未だにそのスイッチはわからない。
アインに聞こえないよう、小さくため息をつく。
「アイン」
黒い髪を撫でながら、アインの耳の近くに口を寄せた。
「最後までできなかったのは残念だが、お前とこうして触れ合えたのはとても楽しかった。互いに学んで、次の機会にはもっと深くまで触れ合おう。な?」
「つぎのきかいを、いただけるのですか……?」
ようやく、青の瞳がもう一度俺に向けられた。頬を伝っている涙を親指でぬぐってやり、優しい表情を作って頷く。
「当たり前だろう、アイン。俺たちは――恋人同士、なんだぞ」
「ガエリオ様……ッ!」
「わ」
突然体当たりしてきたアインを受け止め、俺は背からシーツに転がる。ぎゅうぎゅうと抱きついてくる肌は冷え切っていて、しかし俺も多分同じだ。温めてやりたくて、温めてほしい。腕を巻きつけて抱き返す。
「ああ。だから今日はもう眠ろう。明日も忙しいぞ」
「……このまま、ここで眠っても良いですか?」
「もちろんだろう。――ああ、だが俺からは降りてくれ。腹の上にいられると重さで嫌な夢を見そうだ」
「はい」
素直に頷いたアインは、すん、と一度だけ鼻をすすり、もそもそと俺の体から降りた。寄り添ってくるアインを抱え直して、二人の体を覆うように毛布を引き上げる。柔らかな暖かさが心地よくて小さく息をついた。
そう言えばもう夜中の一時を過ぎている頃だろう。いつもならばとっくに夢の中にいる時間だ。そう自覚してしまえば、眠気は怒涛のように押し寄せてきた。
「――おやすみ、アイン」
「おやすみなさい、特務三佐」
閉じかかる瞼をなんとかこらえて額にキスをしてやると、顎へと同じものを返された。優しい感触に、薄く開いていた瞼は陥落して閉じる。
愛する人の体を腕の中に抱き、素肌をすり寄せて目を閉じることができるなんて。なんて幸福なのだろう。尻穴の違和感も忘れて、俺は幸福の中で眠りに落ちていった。
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