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投稿小説

守護神の涙
制作者:festivalさん

後章

 数日後、タイガードは別の森の監視に向かった。チーテリアを一人残して。

 しかし、彼女は悲しそうではなかった。むしろキリッとした目をしている。

「兄さんがあたしに期待してるんだ!頑張らないと!」

 彼女は決意した。兄と離れるのは寂しいが、森の平和のため、そしてこれは兄のためでもあるのだから。

 彼女はいずれ一人立ちする事にした。

「今はそのための仕事!兄さんがいない間、あたしが森を守るんだ!」

 やる気満々の彼女。その時、遠くの方で何かが爆発する音がした。

 爆発は大きかった。木は吹き飛び、炎は激しく燃え盛り、大きな煙が立ち込めていた。それに彼女が気付かない訳がなかった。

「なっ、何、今のは!?」

 彼女は大慌てでその場へと向かっていった。爆発のあった場所は見るも無残だった。

 沢山の動物の死体が転がり、木々は焼き焦げていた。美しい新緑がドス黒い漆黒の色となっていた。ボーゼンとした表情で彼女は膝をついた。

「ひ・・酷い・・・。一体誰がこんな事を・・・。」

 死んだ動物達を抱きかかえて彼女は呟いた。

 今の彼女は、自分が付いていながら森を守る事の出来なかった自分への情けなさと、美しい森を無残な姿にした者への怒りで込上げていた。

 しかし、彼女は悲しんでいる場合ではなかった。まだ、生き残りの動物達がいる。これ以上犠牲を出さないために彼らを安全な場所に避難しなくては。

 彼女は怪我をしている動物達を方や腕に乗せ、まだ動ける動物達を誘導した。

 何回か往復を繰り返し、あと少しで皆無事に助かるはずだった。

「ふぅ、あと少しね。・・・!? 何、この音?」

 ギギギと、いう音が彼女の耳に届いた。彼女は辺りを見回したが誰もいなかった。

 その時、大きな大木が一匹のリスを抱えている彼女めがけて倒れてきた。

「!!!」

 彼女は突然の事で驚いた。このままでは下敷きにされる。急いで脱出しなくては。

 しかし、猛スピードで逃げようとしたが勢いあまって倒れてしまった。

 もう間に合わない。彼女はリスを投げ捨て、自分だけが下敷きなろうとした。

 そして、大木が彼女の体に直撃。リスは無事だった。

「・・・良かった・・。」

 さき程のショックで彼女の意識は朦朧としていた。

 彼女は力を振り絞ってそこから出ようとした。しかし、非力な融合型の彼女には大木から抜け出るほどの力はなかった。

 その時、何者かが彼女の目の前に現れた。

「誰・・・?。」

 現れた者とは、ナイトメアポリスのヴァジュリーラFFだった。

 彼女は意識がほとんどなかったためヴァジュリーラを見ることしか出来なかった。

「助・・けて・・・。」

 今の彼女には助けを求める事しか出来なかった。ヴァジュリーラはビームサーベルを取り出した。

 そして、なんと彼女の頭を貫いたのである。チーテリアは声を出すまもなく動かなくなってしまった。

 ヴァジュリーラは笑いながらこう呟いた。

「ふっ、第一任務終了といったとこか。」

 そして、彼はその場を離れた、彼女を置き去りにして。と同時に二度目の大爆発が起こった。

 おそらく、彼女はバラバラになってしまっただろう。

 数時間後、任務を終えてタイガードが帰ってきた。そして、変わり果てた森の姿に愕然とした。

「こ、こ、これは!? 俺のいない間に一体何が!?」

 森は黒く焼け爛れ、生き物は死に絶え、あちこちの地に大きなクレータが出来ていた。

 そして、彼はチーテリアがいない事に気付いた。

「チーテリア!? 何処だ、何処にいるんだ!?」

 彼は妹の名を呼んだ。しかし、返事は返ってこなかった。

 その時、焼け焦げた茂みの方から音が聞こえた。

「!! チーテリアか!?」

 出てきたのはボロボロの状態のヴァジュリーラだった。タイガードは腕を構えて戦闘体勢に入った。

「!? 誰だお前!!」

 ヴァジュリーラは震える声で言った。

「ま、待て。俺はお前の敵じゃない。これを・・・。」

 そう言って、ヴァジュリーラはある物をタイガードに手渡した。タイガードは自分の目を疑った。

 それは、切断されたレプリロイドの腕だった。しかもタイガードに見に覚えがある。

「こ・・・これは・・・まさか・・・。」

 ヴァジュリーラはコクッとうなずいた。

「チーテリアのものだ。すまない、彼女を救おうとしたが間に合わなかった。」

 タイガードは顔をしかめながら腕を抱きかかえた。

 森だけでなく最愛の妹さえも無残な姿になっている事に、彼は想像以上の悲しみを味わってしまったのだから。

 ヴァジュリーラはこう続けた。

「エックス、あいつがやったんだ。」

「・・・!!!」

「イレギュラー化したんだ。今人類抹殺計画を企てている。この森を攻撃したのはその計画の第一歩だそうだ。」

 タイガードは半端じゃなく驚いた。自分が一番信じていたイレギュラーハンターのエックスがイレギュラーと化し、我が妹を殺したのだから。

 タイガードは絶望した表情で歩き出した。帰らぬ者となった妹の腕を抱えて。

 タイガードがいなくなったのを見計らって、ヴァジュリーラは大笑いを始めた。

「ククク、ファーッハッハッハ!」

 全ては彼の仕組んだ罠だった。無論エックスがイレギュラー化したなど真っ赤な嘘である。

 しかし、時既に遅し。タイガードは絶望と怒りを使って復讐を誓うキラーマシンと化したのである。

 イレギュラーと化したエックスを葬るための。

 所変わってここはネオイレギュラーハンターベース。

 タイガードとヴァジュリーラが話し合っているうちに、ここでも事件がおきていた。

 マオーザジャイアントが街を襲っていたのである。しかしエックスとゼロによってイレギュラーは破壊された。

 そして、今新たな指令が入ったのである。

「森林が焼け爛れて無残な姿になっている。エックス、森林に行って原因を確かめてくるんだ!」

「分かりました!」

「第0部隊のホーネックが裏切ったようだ。ゼロ、ホーネックはお前に任せる!」

「了解!」

 エックスとゼロは指令を受けて直ちに出動した。

 エックスは森林に到着した。そして森の姿を見て悲しそうな表情になった。

「酷い・・・。一体誰がこんな事を・・・。」

 エックスはさらに奥へと進んでいった。火災の原因が見つかるかもしれない。

 エックスは歩き続けた。そしてある物が目に飛び込んできた。それは墓だった。

「お墓?でもどうしてこんな所に?それに一体誰のだろう?」

 エックスが墓を見ていた、その時だった。大きな獣の鳴く声が聞こえたのは。

 エックスは驚いて辺りを見回した。そして後から猛スピードで走ってくる者がいた。それは、

「あれは、タイガード!?」

 タイガードはビームクローを出した状態でひたすらエックスに向かっていった。

 そしてビームクローはエックスの胸部を斬り裂いた。エックスは打撃を受け、その場に膝をついた。

「タ、タイガード!いきなり何を!?」

 タイガードの目は獲物を狩る目以上に血走っていた。そしてその目で鋭くエックスを睨みつけた。

「ころす、コロス、殺す!!」

 再びタイガードは走り出してエックスに刃を向ける。

 しかし、二度も攻撃を受ける訳には行かない。エックスは瞬時に回避した。しかしさき程の攻撃のダメージは大きかった。

「待ってくれ、タイガード!俺はお前と戦うつもりはない!」

 しかし、タイガードはエックスの言葉を無視して再度突っ込んできた。

 何度言っても同じだろう、今の彼は復讐を誓う鬼そのものである。ましてや大切な者の命を奪った者の言葉など届くはずもなかった。

 タイガードは本気でエックスを殺さんばかりに攻撃を繰り返す。

 エックスは確信した。タイガードはイレギュラー化したのだろうと。それと同時にエックスの腕がバスターへと変化した。

「許せ、タイガード!」

 エックスのフルチャージバスターがタイガードに直撃した。ところが、タイガードはひるむどころか逆上してさらに襲い掛かってきた。

 襲い掛かってくるタイガードにエックスは少しずつダメージを受けていく。

 そしてそんな二人の戦いを気の上で観戦する者がいた。ヴァジュリーラである。

「ククク、そうだタイガードよ。殺すのだ、妹を殺した男を。しかし愚かなヤツめ、くだらん愛のために我を忘れて戦おうとはな!」

 タイガードの妹を思う気持ちを嘲笑うヴァジュリーラ。その間にも戦いは続いている。

 数時間が経ち、お互いボロボロの状態だった。しかし、わずかにエックスの方が優勢だった。

 そしてエックスはフルチャージを溜めてタイガードに向かって行った。それに合わせてタイガードもビームクローを構えてエックスに向かって行った。

 怠慢である。お互いがぶつかり合い同時に攻撃を放った。二人は同時に立ち止まった。

 そして、エックスの右腕は切断され大きく宙を舞っていた。エックスは腕を抱えてそのまま膝をついた。

 タイガードは腹部にダメージを受けた。その攻撃によりタイガードも膝をついた。攻撃は出来るが動作回路の一部を掃かされ、動く事が出来なかった。

 そしてエックスは力を振り絞って立ちあがった。タイガードに近づいて左手の方のバスターを向けた。

「はぁはぁ、タイガード、もう観念するんだ・・・。」

 しかしタイガードは諦めなかった。自分のビームクローをエックスの左腕のバスターを貫いたのだ。

 バスターの発射回路は破壊されなかった。そのため発射は可能だが、今バスターは栓をしているのと同じ状態である。

 つまりこの状態でバスターを放てば、エネルギーが暴発してエックスもバラバラになってしまう。

「まさか、道連れにする気か!?」

 エックスに対する復讐心は半端じゃなかった。そのためなら自らの命をも捨ててよかった。

「しまった!! 殺られる!!」

 と、その時だった。

「兄さん!駄目ー!!」

 突然タイガードの耳に妹の叫び声が聞こえた。それを聞いてタイガードは腕を止めた。

 エックスはタイガードの腕が突然止まったので不思議に思った。タイガードはそのままエックスを見つめた。

 エックスとタイガードはしばらく何もしないまま緊張が走った。しかし、ヴァジュリーラは二人の戦いに飽きてしまっていた。

「やれやれ、エックスに止めをさす事も出来んとは。もうよい、消えろ!」

 ヴァジュリーラは持っていたビームキャノンをタイガードめがけて放った。エックスは瞬時にそれに気付いた。

「危ない!!」

 エックスはタイガードのビームクローを抜き取った。そして急いでタイガードの背後に回った。

 ショットはエックスの腹部を貫いた。タイガードは無傷だった。そのエックスの姿を見て、タイガードは我に返った。

 エックスはうつぶせに倒れこんだ。タイガードはエックスの体を持ち上げる。

「エックス!なぜ俺を助けた!?」

 エックスはかすれる声で言った。

「平和を・・愛す・・る、気持ちは・・・同じだ・・から・・・。」

 その時タイガードは思い出した。

『平和を愛する気持ちは同じなのだからな!!』

 いつしか自らが言ったセリフを思い出したのである。そしてタイガードは完全に目を覚ましたのである。

 そして、ビームキャノンの飛んできた方に目をやった。そこには妹の腕を運んできた男が立っていた。

「まさかお前が!?」

「フッ、ちょっとは利用価値があったが、所詮は役立たずか。」

 笑いながらタイガードを利用していた事を語りだすヴァジュリーラ。

 その言葉を聞いてタイガードの中で止めようのない怒りが走った。

 エックスを倒すために自分を利用した敵、その敵に利用されていた自分に。そして、もう一つ分かった事があった。

「貴様がチーテリアを殺したのか!!」

「ククク、言い掛かりは止めてくれ。彼女は私の仕掛けた罠に、間抜けにも自分から入ってきたのだから。」

 実は、チーテリアを下敷きにした大木もヴァジュリーラの仕業だったのだ。

 タイガードは再び怒りの鬼と化し、ヴァジュリーラに向かって行った。。

「よ、寄せ・・・タイガード・・!」

 エックスは生きていた。瀕死の状態ではあるものの、胸部にある心臓(メイン)部分を破壊されなかったため、活動は停止しなかった。

 タイガードは現在動作回路を破壊されて動けないはずである。この怒りがそれを可能にしているのだろう。

 タイガードがヴァジュリラーとぶつかり合う。そして、ビームクローで切り裂こうとした時だった。

「笑止。」

 そう言って持っていたビームサーベルでタイガードの胸部を貫いたのだ。心臓部分も同時に貫いてしまっている。

「ぐっ、がはぁ!!」

「タイガード・・!」

 タイガードは意識が尽きかけていた。

「ククク、大人しくしていれば少しは長生きできたものを。安心しろ、すぐに妹に合わせてやる。」

 ヴァジュリーラはさらにサーベルを奥へと突き刺した。しかし、タイガードの目は死んでいなかった。

「俺はもうすぐ死ぬ・・・。だが、貴様も一緒だぁ!!」

 そう言ってタイガードはヴァジュリーラに向けてビームクローを振った。

 最後に敵を斬り裂いて道連れにしてやろうと考えていたのだ。

「フッ、無駄だ。」

 ヴァジュリーラは盾を構えた。しかし、タイガードの怒りの攻撃は盾をバラバラに斬り裂いた。

 それと同時にヴァジュリーラの腹部も斬り裂いた。

「な、何ぃ!?」

 ヴァジュリーラは驚いて、左手に持っていたバラバラの盾と、右手に持っていたタイガードを貫いたサーベルを落とした。

 タイガードはサーベルと共に地面に落下した。

「タイガード!!」

 エックスは急いでタイガードの元へ駆けつけた。ヴァジュリーラは腹部を押さえた。

「覚えておくがよい、このままではすまないという事を!」

 そう言い残してヴァジュリーラは去っていった。タイガードは息絶え絶えで、いつ死んでもおかしくなかった。

 エックスはタイガードを抱きかかえた。タイガードは最後の力を振り絞ってエックスに話しかけた。

「エックス・・すまなかった・・・。お前を・・疑って・・・。」

 タイガードから出た言葉はエックスに対する侘びの言葉だった。

「もういい、しゃべるな!急いでベースに行けば!」

「いや・・・俺はもう・・助からん・・・。」

 心臓部分を破壊された以上、助かる確率は万に一つとてないだろう。

 タイガードは最後の言葉を残そうとした。

「エックス・・・最後に頼みがある・・。俺の遺体を・・妹と・・同じ場所に・・・埋めてくれ・・・・。」

 妹と同じ場所。それはさき程の墓だった。

「分かったよ、君が望むなら・・・。」

 タイガードは必死に微笑んだ。

「ありがとう・・・エックス・・・。俺・・お前に逢えて・・・ホントに・・・よかった・・。」

 その時、タイガードの目から、何やら美しいものが零れ落ちた。なんとそれはタイガードの涙だった。

 本来涙を流せるレプリロイドはエックスだけとされていた。エックスもそれを見て少し驚いた。

「タイガード、君の目から・・・。」

 しかしタイガードは至って普通にこう答えた。

「さっきの攻撃で・・・オイルが・・オーバーフロー・・・したんだろう・・・・。」

 タイガードの涙は妹を思う気持ちが生み出した奇跡だった。タイガードはこう続けた。

「男の涙は・・・きっと・・勇気の証・・・なのかもな・・・。」

「タイガード・・・。」

 エックスもいつの間にか一筋の涙が零れ落ちていた。

「今度・・生まれ変わる時は・・・お前の様に・・・涙を流せる・・男になり・・た・・い・・・な・・・・・。」

「タイガード!!!」

 こうしてタイガードは微笑を崩さないまま、静かに眼を閉じ息を引き取った。

 エックスはタイガードの亡骸を強く抱きしめた。そして大声で泣き叫んだ。一晩中泣き叫んでもエックスの涙は止まることはなかった。

 大粒の冷たい涙がタイガードの涙と混ざり合った。同じ志を持つ者と別れる時だった。

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